第416星:特例臨時派遣メンバー
大和達が根拠地に戻ってきてから、数日が経った。
最高本部に帰還した護進は想像以上に軍務を果たしてくれており、一部機能についてはバージョンアップしているようにさえ思えた。
「ハハハ…護進さん、本当に帰ってきたんですね」
そこには、かつて酒に明け暮れ埋没した司令官としての影はなく、かつての、大和の戦術の師をしていた頃の面影が残されていた。
情報官である夕に尋ねてもその働きぶりは凄まじかったらしく、大和の不在を感じさせないほどであったという。
自分の師であるからこれくらいは当然。そうは思いつつも、大和は自分の戦術の師の帰りを、心の中で喜んでいた。
しかし、喜びに浸っている暇は無かった。
朝陽の件だけでなく、大和には解決しなくてはならない問題がまだあったからだ。
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「という訳で、しばらく特例臨時派遣メンバーとして滞在することになった、神宮 アンさんだ。基本的に視察が目的になるから戦闘には参加されないが、特別な階級を持つわけでも無い。みんなあまり緊張せずに接してくれ」
ある日の朝礼で、大和は神宮院 アンナを紹介した。
しばらくの間、この根拠地に滞在するとなれば、いつまでもその存在を秘匿することは出来ないと考えた為である。
但し、『レジスタンス』のメンバー、それも二大頭領の一人であると明かせば混乱は避けられない。
そこで大和が適当に作り上げた職と偽名で誤魔化しに出たのである。
「あの…特例臨時派遣メンバーという制度は初めて聞いたのですが…神宮さんは本部のメンバーの方なのですか?」
この辺りで鋭い発言を繰り出すのは、やはりというか三咲であった。
疑っているわけではないだろうが、メガネをたくしあげながら、アンのことについて尋ねた。
「だからこその『特例』だよ。ボクが最初にこの根拠地を訪れたのも、『特級』という、臨時の階級が与えられた時だったからね。それと同じようなものだと思って貰えば良い」
「成る程…しかし視察が目的というのは?我々が何か問題を起こしていないかどうかの観察…という捉え方で宜しいのでしょうか?」
本部にではないが、根拠地に訪れる上官というのは基本的に碌でもない人物である。
大和達のおかげでその陰は大分薄れたとはいえ、根拠地の『グリッター』にはやはりその感覚が強く根付いている。
簡単に払拭することは出来ないだろう。
だからこそ大和は、敢えてその役割を明るいものとした。
「いや、その逆だ。直近のボク達の活躍に目をつけて下さり、その貢献と日々の活動を視察したいという希望に沿っての『視察』だよ」
大和の説明に、根拠地の一同は納得したように頷いた。
「…ふふ、根拠地を抜け出した私が、視察のために訪れたというのはまた、滑稽なお話ですね」
アンナは小声でそう皮肉ったが、大和は聞かなかったことにして話を続けた。
「彼女には基本的にこの根拠地で自由に過ごしていただく。但し、軍務や訓練、技術部の秘密情報など、日常に支障が出る場合はボクに相談してくれ。その時はボクから彼女に話を通しておく」
「『視察』なのに、出入り禁止にすることが可能なのですか?」
梓月のもっともな質問に、大和は予め考えておいた答えで応える。
「あくまで本人の希望による『視察』だからね。本部からの指示で配置されたわけでは無いから可能なんだよ」
「なるほど…光栄なことではありますが…」
僅かに疑問は感じているようであったが、一先ず梓月は納得したようであった。
「そういうわけだから皆はこれまでと同じように軍務にあたって欲しい。もちろん、朝陽君のことは心配ではあるが、根拠地を疎かにすることを、彼女は望んではいないはずだ。だからこそボク達は、これまで通りに責務を果たすべきだ。良いね」
「「「はいっ!!」」」
朝陽を心配するものは当然いるだろう。
しかし、大和の言葉は全員の気を引き締め直すことに成功したのか、その返事は力強いものであった。
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「梓月君、奏君、華君」
朝礼を終え、一同が各々の軍務に戻っていく中、大和は三人を呼び止めた。
呼び止められた三人は大和の前に集まる。
「分かっているとは思うが、朝陽君の件で一番問題になるのが、君達の小隊だ」
大和の言葉に、三人全員が頷いた。
「分かってます!小隊長である朝陽さんが離脱してしまった今、指揮系統に問題が生じてしまいますからね!」
奏は勢い良く答えるが、梓月がそれだけでは無いことを理解しており、続ける。
「朝陽さんは遥かに強くなりました。私達がサポートをすることで成り立っていた初期の頃とは違って、朝陽さん単独でも戦闘が成り立つところに、私達が私達のサポートが加わって、小隊の形が出来上がっていました」
「だねぇ。朝陽ちゃんに前面的な戦闘は任せちゃってた側面が強かったからぁ、その朝陽ちゃんが居ない現状、必然的に私達の戦力はダウンしてぇ、実用性が無くなっちゃうよねぇ」
梓月の言葉に続くようにして、華もこれに同意しながら答えた。
「君達に実力が無いとは言わないし、思ってもいない。けれど、ボクが作り上げた四つの小隊は、それぞれ個々人の強みを発揮して活きるように組み込んでいた。朝陽君の急成長は少し予想外だったとは言え、結果としてそれは君達の小隊の成長を促す契機にも繋がった。けれど、今回はそれが裏目に出てしまった形だ」
「分かっています。今の私達の小隊は、朝陽さん無しでは成り立たない。つまり、実質戦闘においては戦力外…であるという事ですね」
大和の言いづらかった部分を、梓月はしっかりと理解し受け止めた上で、自ら答えた。
その言葉を、部下から言わせてしまったことに胸を痛ませながら、大和も話を続ける。
「小隊の再編成のプランも考えた。たださっきも言ったように、どの小隊も個性をチームとして活かせるように編成したこともあって、なかなか思うようにいかないんだ」
「私達の『グリット』がサポート向きなのもありますよねぇ。元々この根拠地にはぁ、サポート向きの『グリッター』が多いですしぃ、そこに更にサポーターを配置するのも難しい話ですもんねぇ」
両者共に理解が早く、話はどんどんと進んでいった。
「部隊に再編成するかどうかは追って伝える。ただしばらくは、三人には根拠地周辺の防衛任務にあたって貰うことになると思う。ボクの力が及ばず、君達に迷惑をかけて本当に済まない」
大和は頭を深々と下げるが、直ぐに梓月達によって上げさせられる。
「頭を下げないで下さい司令官。司令官だって散々悩まれた上での判断であることは重々承知です。私達は今出来ることを精一杯こなすだけです。そうですよね、司令官」
梓月の方がよっぽど現実を受け止めており、そして自分達が為すべきことを理解していた。
大和は部下に教えられた気持ちでそれを受け止め、頭を上げ頷いた。
「小隊は今は機能不全ではあるが、君達個々人には出来ることがある。だから、朝陽君が目が覚めるまで、各自で『軍務』に当たってほしい。細かい指示があれば、ボクの方からまた伝達する」
「「「了解!!」」」
三人は大和に敬礼をすると、今度こそその場から去っていった。
しばらくその三人の背中を見届けていると、自分の横にアンナが立っていることに気がつく。
「上が変われば下も変わる…という話でしょうか。これ程真っ直ぐで、各々が考える『軍』の根拠地があるとは思いませんでした」
それは、元『軍』の一員であったからこそ分かる内実であった。
「…貴方は私に自由を与えましたが、その朝陽という人物が意識を取り戻すまで、私を代理にたてても良かったのではないですか?どうせ行き場のない浮浪者ですし」
アンナの言葉に、大和は首を横に振った。
「それじゃダメなんです。貴方には…千葉根拠地を見ていてほしい。小隊という一つの器に収まらず、全体を見てほしい。だからその案を受け入れることはあり得ません」
そう答えた大和の言葉に、アンナは訝しげな表情を浮かべ、大和を見つめた。
「…貴方は一体、私に何を求めているのです?本来ならば『軍』の本部に突き出すはずの身をここに留めさせて、一体何をさせたいのです?」
「それはもう皆にも伝えたでしょう。ここの『視察』をして欲しいんですよ。個人でも、『レジスタンス』の元リーダーとしてもどちらでも良い。ただこの根拠地を、見て欲しいんです」
続け様の大和の言葉に、アンナは益々分からないといった表情を浮かべていた。
「分からない…貴方という人が…」
最後には大和から目を逸らし、バラバラに散っていく根拠地の面々を、アンナは見届けていた。
※後書きです
ども、琥珀です。
最近食事を摂ると、直ぐにお腹を下すようになってしまいました…
元々朝食をとるとお腹を下しやすい質ではあったのですが、最近は昼、夕も関係なしにお腹を下すように…
一体どうしてしまったのか、私の身体…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




