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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第414星:奇跡を

国舘 大和(24)

 千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。


市原 沙雪(28) 女医

 千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、精神科にも通じている。適当に見えるが、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術も高く、一定範囲の味方を治癒する『グリット』を有する。

 応接室を出てから数分後、大和は再び医務室へと訪れていた。


 その中に咲夜達の姿はなく、そこから更に少し進んだ処置室の前に、一同は座り込んでいた。



「朝陽君は…まだ処置中か」

「あ、大和…」



 ここまで近付くまで大和に気付かないほど、咲夜達は処置室に意識を向けていたのか、声をかけられて驚いた様子を浮かべていた。



「護進さんとのお話はもう終わったのですか?その内容は……」

「その話は後にした方が良いだろう。今は朝陽君のこともあるしね」



 大和は設置された長椅子の咲夜の横に腰掛け、フー…と大きく息を吐いた。



「(朝陽君のことに加えて、『レジスタンス』の元リーダーが訪来か…一大イベントの『大輝戦』が終わりを告げたのに、なかなかどうして、事が終わらないね)」



 護進にははっきりと告げたものの、大和自身、自分が下した決断が正しいかどうかは自信が無かった。


 それでも大和は、アンナの話を聞いた時、いま彼女に必要なのは時間と環境であると感じたのである。



「(『レジスタンス』であった彼女が、『軍』の根拠地にいて気持ちがどう変化するかは未知数だ。それでも、根拠地の皆と話を重ねていけば、彼女の心を奮わせる何かに繋がると思ったのも事実だ。我ながら他人任せなのはいただけないが…)」



 大和のどこか気重そうな表情に気が付いた咲夜が、大和の顔を覗き込むようにして話し掛ける。



「大和…?やはり先程の話で何かあったのですか?」

「いや……うん、そうだね。少しね」



 誤魔化そうとも思ったが、遅かれ早かれ知られる話ではあるため、大和は素直に答えた。



「大丈夫。隠したりはしないよ。キチンと話はするよ。でも今は、朝陽君の経過報告を待とう。それからでも遅くない話だから」



 しっかりと本音を伝え、咲夜達にもそれが伝わったのか、一先ずその場は収まった。


 そしてしばらくの間、処置室から沙雪が出てくるまで沈黙が続いていった。






●●●






 沙雪が処置室から出てきたのは、それから30分程が経ってからであった。



「何よ、ずっとそこで待ってたの?」



 咲夜達の心配など他所に、沙雪はあっさりとした表情で現れた。



「先生!朝陽の状態は?無事なんですか!?」



 真っ先に沙雪に駆け寄ったのは夜宵。


 処置前の時と同じようにその手を取り、朝陽の安否を尋ねる。


 対する沙雪は、顔を逸らしながら頭を掻き、小さく息を吐いた後答えた。



「そうね…とりあえず痛んでいた内部の傷は、私の『グリット』でほとんど完治した筈だわ。診察に間違いが無ければ、日常生活にも、『グリッター』としても問題のない生活は送れるはずよ」



 その言葉に、夜宵は安堵からかその場に崩れ落ちる。


 咲夜達も同じく安堵の笑みを浮かべるが、沙雪の表情は優れなかった。



「傷は癒えた…だが負ったダメージは残ってる。問題はそこだ」

「というと?」



 沙雪の発言に、大和が聞き返す。



「ダメージってのは外傷だけじゃない。精神的にもダメージが届く。朝陽の場合、無茶な『グリット』の行使で、むしろそっちの方がダメージは大きいと思う」

「精神的ダメージ…?つまりはどういう意味なのです?」



 上手く要領をつかめない沙雪の言い回しに、咲夜が直球で尋ねた。



「まぁつまり、だ…朝陽のやつはこのまま目が覚めない可能性があるってことだ」



 沙雪がわざわざ言葉を濁していた理由。それはこの結論を伝える言葉が出てこなかったからだろう。


 そして案の定、その言葉を聞いた夜宵は大きく目を見開き、咲夜は沈痛な面持ちを浮かべた。



「目が覚めないって……植物状態ってことですか……?」



 夜宵が恐る恐る尋ねると、沙雪は一瞬顔を歪めたあと、ゆっくりと頷いた。



「そんな……そんな!!何か…何か手は無いんですか!?」



 夜宵は藁にもすがるような思いで沙雪の手に掴みかかる。


 沙雪はその手を振り払いこそしなかったが、その目と表情は、医師としてのそれであった。



「残念だけど、私が打てる手は尽くした。あとは…奇跡を信じるしか無いわね。仲間同士での声掛けとか…ね」



 沙雪の発言は医師として現実を告げる言葉であった。


 それを受け止めきれない夜宵は、ずるずると沙雪の腕から手がこぼれ落ち、その場にへたり込んだ。


 『大輝戦』関東選抜優勝。その代償はあまりにも大きなものであった。






●●●






「沙雪さん」



 処置室の中に入って行く咲夜達と一旦別れ、大和はその場から去っていった沙雪を追いかけた。



「なに?まだ何か用?」



 沙雪は立ち止まりこそしたものの、振り返ることはしなかった。



「…ボクは医者じゃありませんから、朝陽君の状態がどれ程悪いかは分かりません」

「……何?私の腕が悪いって言いたいの?」

「そうじゃない」



 沙雪の自己批判ともとれる発言を、大和は即座に否定した。



「貴方は全力で朝陽君の処置に当たってくれた。貴方を責める人は誰もいない。だから自分を卑下にするのはやめて下さい」

「私には救えなかったのに?」



 大和の慰めの言葉を、今度は沙雪が遮るようにして声を張り上げる。



「…私は、医者としての意思を取り戻した。それは、同じトラウマを抱えた奴が、トラウマを乗り越えて戦列に復帰したからよ。私も負けられないってね」



 それが護進のことを指していることは、大和も直ぐに理解出来ていた。



「だから今回の処置も手は抜かなかった。彼女の身体の隅々まで治療して、ケアしたつもりだった。けれど、私の力じゃ及ばないことが分かってしまった…結果があのザマよ…」



 いま沙雪が思い出しているのは、横たわっている朝陽の姿か、それとも崩れ落ちた夜宵の姿か、どちらかは分からない。



「結局私は、医者になんか戻れやしないのよ。ヒト一人さえ救うことが出来ない人間が、医者を語るなんて…」

「簡単に諦めるなよ!!」



 自分の無力さを嘆き続ける沙雪に、大和はこれまでとは違う口調で強く語りかけた。



「確かに沙雪さんは治療に全力を尽くした。でもそれはたった一回で全てが決まるようなことなのか?朝陽君が意識を取り戻すためのアプローチなら、まだあるんじゃ無いのか?」

「大和…アンタ…」



 大和の豹変ぶりに、沙雪はようやく顔を振り向かせ、こちらを向いた。



「貴方が言ったんじゃ無いか。仲間同士の声掛けなら意識を取り戻せるかもしれないって…」

「それは…奇跡を起こすようなもので…」

「奇跡を信じて何が悪い!!」



 尚も弱気な発言が続く沙雪に喝を入れるように、大和は声を張り上げる。



()達は何度も奇跡を起こしてきた。『悪厄災(マリス・ディザスター)』に勝利して、最強の【オリジン】をも退けた!!いや、そもそも俺達が出会ったこと自体が奇跡とも言える!!」



 大和は真っ直ぐ沙雪を見据え、力強い眼差しのまま続ける。



「医療だって奇跡と努力で培われてきたものの一つのはずだ!!『グリット』だって、人を想う気持ちが生み出した奇跡の力のはずだ!!貴方の『グリット』が治癒系なのだってそうだ!!」

「奇跡の…力…」



 大和の言葉に、沙雪は自分の手をじっと見つめた。



「夜宵君も、咲夜も、誰一人朝陽君の回復を信じない者はいない!!俺もそうだ!!なのに、医者である貴方が真っ先に諦めてどうするんだ!!」

「………」



 続け様に発せられる言葉に、沙雪は黙って耳を傾ける。



「奇跡でしか治らないのなら、奇跡を起こせば良い!!俺達には…貴方にだってそれはできるはずだ!!だから、一度救えなかったからといって、直ぐに諦めるなよ!!」



 怒涛に言葉を吐き続けたからか、大和は息を荒くさせていた。


 沙雪はそんな大和の様子を見て、フッと笑みを浮かべた。



「…その口調、その圧…まるで()()()()()を見てるみたいだわ」



 そして沙雪は、開いていた手をグッと握りしめ、再び力強い瞳を大和に向けた。



「なかなか生意気なことを言ってくれるじゃ無いの、医療のことを何も知らないガキンチョが」



 その表情と口調には、先程までの弱気な様子の沙雪の面影はどこにも無かった。



「やってやろうじゃないの。奇跡を起こすって偉業を。医療は技術だけじゃ無いってところを見せてやるわ」



 そして沙雪は、大和の答えを聞かずにその場から去りだした。



「先ずは文献から漁ってみるか…場合によってはショック療法を試してみるのも…」



 と小さくぶつぶつ呟きながら、今度こそ大和の前から姿を消していった。



「沙雪さん……諦めませんよ、ボクも。朝陽君はきっと返ってくる。そんな確信があるんです」



 大和は去って行く沙雪を追わず、振り返って今度こそ自身も処置したの中へと入っていった。


 その二人のやり取りの様子を、一人物陰から見ていた人物がいた。



「ハッ…!ちょっとダメだっただけで落ち込む癖は相変わらずだが、一度スイッチが入るととことん尽くす性格も相変わらずだな」



 それは、本部で過去に一緒であった、護進であった。


 大和同様、沙雪の異変に気が付いていた護進は、その後を追いかけていたのであった。



「ようやくらしくなってきたな沙雪。その方がお前らしいよ。お前が、私にそう言ってくれたようにな」



 沙雪が去ったのを見届けて、護進も処置室の方へと向かって行く。



「起こしてやろうぜ、奇跡ってやつをよ」



 それだけ最後に言い残し、護進もまた処置室の中へと姿を消していった。

※後書きです






ども、琥珀です。


肘が治って間もないのですが、最近首の痛みが続いてます。


先日明らかにおかしなゴキっ!という音がしてからは特に…


十一月も半ばに入りましたし、年があければ厄も晴れるんじゃないかなと思ってるんですが、私の身体はそれまで持つのでしょうか…


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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