第412星:神宮院 アンナ②
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 護進(28)
『大輝戦』で大和達の代わりとして千葉根拠地にやってきた非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であり、現在は再び現役を続行している。
神宮院 アンナ(32)
レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。従来の『レジスタンス』そのもののリーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北した。穏健派だけあり、平和的な思考を持ち主。言葉で人の心を動かすタイプで、心から『グリッター』と人の平等な世界を願っている。イクサに敗北したことで行方をくらませていたが…?
「貴方が、『軍』の元『グリッター』だった…?」
続け様に驚く内容の告白に、流石の大和も頭の整理が追いつかなくなってきていた。
「はい。もう15年程前の話にはなりますが、私は『軍』の一員として『グリッター』として戦っていました」
「そんなことが……いや、でも…そうか…」
そんなことがあり得るのか、そう考えた大和であったが、すぐにその考えを改めた。
「(状況は違うが、渚君も元々は『軍』の根拠地の『グリッター』だった。そういうケースは考えられるのか…)」
大和は今も地下牢にいる門脇 渚のことを思い出し、ひとまず自分を納得させる。
「……15年前ともなると、うちのババァもまだ最高司令官じゃなく、関東総司令官だった時だ。それでもアンタの年齢を考慮すると、流石に身分に差はあったと思うんだが?」
護進はつまり、それだけの身分の差がありながら、どうやって護里と関係を持つことが出来たのかを問い詰めたいのだろう。
「確かに…15年も前なら、貴方は一介の『グリッター』であったはず。護進さんの言う通り、当時の護里さんが関東総司令官であったのなら、コンタクトを取るのは簡単では無かったはず…」
大和も同意見で、より内容を具体にして尋ねた。
「…あの方にとって、肩書きは文字でしかありません。無論、最高司令官となった今は自重されていますが、それより以前の護里さんは、自由奔放な方でした。例えば、突如根拠地に現れたりすることなど、しょっちゅうでしたよ」
その時アンナは、どこか昔を懐かしむような表情をしていた。
その表情に、何故か大和は彼女に昔の面影を見たような気がした。
「あ〜…確かにそんな話は聞いてたな。やれ会議にはいない、やれ集会には集まらない…いつまで経ってもヤンチャな司令官がいるって」
実母のことだからだろうか、護進の顔も、どこか呆れながらも照れたような表情であった。
「そうか。それでその時、護里さんと…」
「はい。出会ったこと自体は奇跡でしたが、今にしてお前ば、運命の巡り合わせだったと思います」
フッと笑みを浮かべながら、アンナは話を続けた。
「頻度は多くありませんでしたが、私は護里さんとお話をさせていただく機会が何度かありました。そこで徐々に交友を深めていくことが出来たのです。最も、あのお方はどなたに対しても平等で、対等に話されていましたが」
護里のその姿を想像するのは難くなかった。何故なら、護里は今でもそうだからだ。
「……私の根拠地は、貴方のように聡明な司令官がいたわけではありませんでしたが、それでも、護里さんのような方がいるのならば戦える、そう考えていました…」
アンナは「ですが…」と沈んだ表情で続けた。
「私のその考えが変わったのは、今から10年程前の、大規模な戦闘の時です」
その言葉を聞いた時、護進の目付きが大きく変わった。
大和はその理由を理解していたが、今は深入りする時では無いと考え、反応しなかった。
「…それは、『アイドス・キュエネ』討伐戦のことですね?」
大和の言葉に、アンナは深くゆっくりと頷いた。
「そうです。と言っても、私は参戦していなかったのですが…」
どうりで、と大和は思う。
『アイドス・キュエネ』討伐戦に参加していれば、護進が知らないわけがない。
その護進と認識が無いのだから、アンナは本当に討伐戦には参加していないのは本当のことだろう。
「…参戦していないのなら、何故それがきっかけに…?」
「それは……あれだけの命を賭した戦いがあったと言うのに、人々の私達を見る目が変わらなかった……いえ、より恐れるようになったからです」
大和、そして護進は、悲観した目でその発言を聞いていた。
「私は分からなくなりました。我々がどれだけ人々のために戦っても、彼らは私達を恐れ、畏怖する。そして私は考えるようになりました」
「…なにを?」
「どうすれば、人々と繋がりを持つことが出来るかを、です」
アンナは強い瞳と意志を持って、大和達に語りかけた。
「ただ戦い続けているだけでは、永遠に人々からの理解を得ることは出来ません。しかし、『軍』の『グリッター』は、人々を守る使命があります。この二つの相反する考え方に、私の思考は袋小路に入り込んでいきました」
「それで、悩み抜いた末の結論が…」
「はい。『軍』を抜け、『レジスタンス』の一員となることでした」
アンナの導き出した答えに、大和は反論しなかった。しかし、護進は気にかかったようで、アンナに問い詰めた。
「分からねぇな。人々からの理解を得たいなら『軍』でも活動は出来たんじゃねぇか?」
投げかけられた問いに、アンナはゆっくりと視線を護進へと向けていった。
「…私は貴方を知っています。貴方は最高本部所属の専属指揮官、でしたね」
「…?あぁ、そうだな」
「でしたらご存じないでしょう。当時からの根拠地が、どれほど惨憺たる状況であったかなど」
その口調は徐々に強くなり、やがて拳を握りしめるほど怒気のこもったものへと変わっていった。
「『軍』の根拠地において、私達『グリッター』の自由は無いに等しいものでした。何故ならば、一日のほぼ全てを、根拠地の指揮官が管理していたからです。『グリッター』を、道具扱いにする指揮官が、です」
その言葉に、護進が言葉に詰まる。
無論、護進とてその状況を全く知らなかったわけでは無いだろう。
しかし、最高本部は根拠地に比べると『グリッター』自身の等星が高く権限を有しており、見下す傾向が少ない。
『軍』としての殆どの時間を最高本部で過ごしてきた護進からすれば、根拠地の酷さはどこか他人事のように感じてしまうのも、無理のない話ではある。
「根拠地が……いえ、最高本部の上層部が差別を煽っている組織の中で、一体何が変えられるというのでしょうか。あの護里さんでさえ、何十年かけても変えられないというのに、一介の『グリッター』である私に、何が出来るというのでしょうか」
「……それで、『軍』を抜けて、『レジスタンス』となる道を選んだと」
大和の言葉に、アンナは深く頷いた。
「…その事は、護里に事前にお話を?」
「無論話しました。私が唯一信頼の置ける方でしたから。当然一度は引き止められました。ですが、私の意思が固い事を理解なさって下さると、寧ろ後押しをして下さったのです。『貴方は、貴方なりのやり方で世界を正しなさい』、と」
護里らしい、と大和は思った。
知られれば当然、護里には罰が与えられるような内容ではあったが、時に『軍』から離れる事を自ら勧められる人物など、護里を除いて他にいないだろう。
「それから間も無くして、私は『軍』を抜けました。幸いなことに、『レジスタンス』はこんな私を拒絶する事なく受け入れて下さいました。それは、似たような境遇の方が多くいらっしゃったからです」
「…もともと『レジスタンス』は、創設初期のメンバー自体が『軍』を抜け出して創り出した組織ですからね。想像はつきます」
これは咲夜から聞いた話でもあるため、大和はすんなりと受け入れることが出来た。
「そして私が『レジスタンス』に加入してから数十年が経ち、私の思想に賛同してくれる者が多く集いました。そして気付けば私を筆頭にして出来たのが、穏健派と呼ばれる組織、『ジェネラス』です」
これで彼女の過去は大まかに聞くことが出来た。
そしてその動機も、不純なものではなく、寧ろ大和も共感できるような崇高なものであることが認識できた。
しかし、大和はどうしてももう一つ確認したいことがあった。
「貴方の過去と、ここに至るまでの動機については理解できました。ですが、まだ分からないことがあります」
「…なんでしょう」
アンナは表情を崩すことはなかったが、何を尋ねられるかは理解しているようであった。
「皇 イクサとの衝突…何故、『レジスタンス』の二代派閥の頭領が、ぶつかり合うことになったのか。何故、力に訴えないはずの貴方が、皇 イクサと交戦することになったのこをお聞きしたいのです」
アンナは、この時初めて僅かに沈黙した。
それは、大和の言葉を無視したわけではなく、口にするための覚悟を決めるための時間であるように思われた。
「そうですね…それを話すのには、私の『レジスタンス』での過去を語る必要があるでしょう」
覚悟を決めたのか、アンナはゆっくりとその過去を語り出した。
「私とイクサは、『レジスタンス』における、同期だったのです」
※後書きです
ども、琥珀です。
二ヶ月ぶりの更新でしたが、休載前と変わらない同量のアクセス数があり、とても嬉しかったです。
今後も出来るだけ更新を滞らせることなく、更新し続けられるよう頑張ります。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




