第409星:『大輝戦』閉幕
「ご主人様、船のご用意が出来ました。急いで用意したものなので、良質な船では御座いませんが…」
咲夜が望生と合流してから15分。信じられない程の速さで二人は船を用意してくれていた。
「いや、これだけの早さで用意してくれただけで感謝しきれないよ。ありがとう、望生。君がいてくれて本当に良かった」
大和は望生の頭を撫でると、望生はそれを嬉しそうに受け入れていた。
『いやいやいや、褒めるなら私も褒めてくれない!?超特急で手配したのは私なんだけど!!』
その瞬間、大和の耳元にキーンと鳴り響くほどの大声で叫ぶ声が聞こえて来る。
その声の正体は、関東副総司令官を務める、佐々波 桐恵の声であった。
『緊急の案件だっていうから何かと思えば、何の説明もなくいきなり船を用意しろだなんてさ!!どんだけ私が苦労したと思ってるの!?』
ガチギレの桐恵に対して、大和にだけ聞こえる通信に片耳を抑えながら小声で答える。
「桐恵…!感謝してるに決まってるだろ!でも桐恵に頼るまでに望生が奔走してくれたのも事実なんだから、少しだけ先に褒めたって良いだろ?」
『えーえーそうでしょーとも!!どうせ私は二番目の女ですよ!!奔走した望生ちゃんの後!!根拠地の咲夜ちゃんの後!!永遠の二番手ですよ!!』
キレを超えて拗ねに入り出した桐恵に、大和は困った様子で必死に機嫌を取る。
「桐恵!いつも言ってるだろ?お前が居なきゃ関東本部は回ってないんだ!俺がそばに居ないのは、逆に信頼の証なんだよ!」
『……ふーん?それはアレ?私が居ないとダメ…的な意味?』
ここでようやく雰囲気が変わり、桐恵の口調が柔らかくなる。
「当たり前だろ?桐恵が居るからボクは安心して関東本部を空けられるんだ。何よりもの信頼の証だろ?」
『ふーん……そっか……それならまぁ……いっか』
何とか理解してくれたのか、桐恵はまだどこか渋々ながらも納得してくれた様子だった。
と、丁度そのタイミングで、朝陽が救急の寝台に乗せられてやってきた。
そのまま朝陽は船へと乗せられていったが、その場に訪れたのは朝陽だけではなかった。
「君達は…」
そこには、十人を超えるメンバーが揃っていた。
「近畿選抜、中国選抜、それに九州・沖縄選抜のメンバーのみんな…」
それは、朝陽達が『大輝戦』で死闘を尽くして戦ってきた三つの地域のメンバー達であった。
「聞けば、斑鳩 朝陽が危険な状態だと耳に挟みまして。せめて見送りだけでもと馳せ参じた次第です」
朝陽と最高の攻防を繰り広げた仙波 盾子が、まず最初に大和に声を掛ける。
「やは〜…朝陽ちゃん、元気ないさ〜?」
「なは〜…朝陽ちゃん、早く元気になると良いさ〜」
「大丈夫…きっと良くなる」
その後に、九州・沖縄選抜の面々がこれに続いた。
「せっかく私達に勝ったんだ!!ライバルとして握手くらいはして別れたかったぜ!!」
「まぁまぁ。彼女は私達との約束通り、優勝してくれたんですから、手打ちにしましょうよ」
その後に声をかけたのは、中国選抜の百目鬼 大河と、安鬼 駿河の二人。
「どうかご無事で。一早い回復をお祈りしてますわ」
「ケッ!優勝したのに寝たきりなんて情けねーから、とっとと治して出直してきな」
その後に、安奈とカリナの二人も続く。
そして、最後に残ったのは…
「よもや、あれほどの隠し玉を残しているとはな。我と戦った時の動きは、それを垣間見せただけであったか」
近畿選抜の面々。
決勝の舞台で時に共闘することもあったこの地方とは、特に仲を深めたようであった。
「斑鳩 朝陽の本気を引き出せなかったのは痛恨の極みだが、今はそれで良かったと思おう。此度の戦いは我の完敗だ。いずれまた、戦いの場が設けられん事を願いつつ、頼もしい仲間として戻って来る事を願っているよ」
朝陽と激しい戦いを繰り広げた野々が、もうこの場にはいない朝陽に対して、最大限の敬意を払った言葉を述べた。
「いやぁ…無理を言ってしまった私からすれば申し訳ないというか…とにかく無事と回復を祈ってます。そして今度は、あの無限の可能性を感じさせる力を、私の知略をもって活かさせて下さい、とお伝え願えますか」
朝陽と『テレパシー』でやり取りをしていたカナエは、申し訳なさそうにしながらも、今度は共に戦える事を楽しみにしているようであった。
「我々は刃を交えることはありませんでしたが、自分の誇りを守るために死力を尽くしたお姿見事でした!この真田 幸町、朝陽さんの勇姿、しかと目に焼き付けました!!」
「最後の良いところは取られちゃったけど、あの超高速男に真正面から立ち向かっていく姿は痺れたわ。私からも、彼女の全快を祈らせていただきます」
これに幸町、沙月の二人も続き、全員がそれぞれ朝陽に一言ずつ述べていった。
「みんな、『大輝戦』の傷も癒えていないだろうに、彼女のために集まってくれてありがとう。君達の戦いも本当に見事だった」
司令官に対しては良いイメージを抱いていない面々であったが、大和に関してはそれとは別人である事を知っており、そして返ってきた言葉からそれが事実と理解し、一同は素直に頷いた。
「君達の言葉は、朝陽君にもしっかりと伝えておくよ。そしてボクからも、いつか君達と共に戦える日を待ち侘びてる。どうか今の向上心を忘れずに、これからも切磋琢磨してくれ」
大和が敬礼のポーズを見せると、各選抜メンバー全員が姿勢を正し、敬礼のポーズを返した。
そして、船の出発の音が鳴り渡り、大和達は船に乗り込んだ。
「望生、短い時間でしたがかけがえのないひと時でした。身体には気を付けて、これからも頑張って下さいね」
別れを惜しむのは、各選抜メンバーだけでは無かった。
少し離れた位置では、咲夜と望生が側により、互いに感謝の言葉を掛け合っていた。
「私こそ、咲夜様に会えて本当に嬉しかったです。今度は改めて、私と飛鳥に会いに来てくださいませ。心から歓迎致します」
そう言うと二人はギュッと抱き合い、もう間も無く訪れる別れを惜しんだ。
次いで望生は、大和にも目を向けた。
「ご主人様、ご覧の通り、望生は今をしっかりと生きております。ご主人様から頂いた命と時間を無駄にしないよう、毎日に感謝して生きております」
「あぁ、前回の出向の時と、今回の『大輝戦』で、しっかりとそれを見届けさせて貰ったよ。本当に立派になった」
既に船に乗り込んでいた大和と抱き合うことは叶わなかったが、両者は手を伸ばし合い、力強く握手をかわした。
「望生はこれからもここで精一杯生きて参ります。ですがもし、望生の力が必要な際はいつでもお呼びください。必ずやご主人様のもとへ駆けつけます」
「ハハハ、そうだな。それが望生の望む事なら、本当に頼りにしてる。でもそれとは関係なしに、いつかまた、家族水入らずで過ごす時間を作ろう」
船はゆっくりと動き出し、二人を繋いでいた手はスルスルと離れていった。
「望生、飛鳥のことを頼むな。飛鳥も立派になったけど、やっぱりまだ子どもだから。だからいっぱい仲良くして、互いに支え合ってくれ」
「はい、無論飛鳥とも仲良くさせていただきます。そして、ご主人様の願いでもある、家族水入らずの時間も、必ずお作りしましょう。望生はその時を心待ちにしております」
それが最後の言葉となり、船はついに陸を離れた。
手を振る一同に、大和達は答えながら、ゆっくりとその姿は遠ざがっていった。
決して簡単なものではなく、その代償は小さくないものでもあった。
しかし、波瀾万丈の続いた『大輝戦』は、関東選抜の優勝で幕を降ろしたのであった。
※後書きです
ども、琥珀です。
8月ももう終わりですか…歳をとると月日が経つのが早く感じます…
何か毎月言ってる気がしますね。
でも、楽しいと感じる時間はあっという間に過ぎるんですね…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




