第406星:決着
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
決勝は関東選抜の勝利で終わった。
しかし、関東選抜の観客席に、それを祝う様子は見られなかった。
「大和、私は医務室に朝陽さんの容体を……」
「うん、直ぐに行ってあげてくれ。ボクも後から行くから」
余程朝陽の状態が心配なのだろう。咲夜は慌てた様子で大和に告げると、急いでその場を去っていった。
「さて…ボクも直ぐに朝陽君のところに行ってあげたいところだけど……」
対して大和は、深く帽子を被り直し、ゆっくりとその場を後にした。
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「うっひゃ〜!!まさに漁夫の利を得たって感じ!!静かな幕引きだったね〜!!」
決勝戦を見終え、中部地方総司令官の藤木咲 柚珠奈が驚いた様子でその光景を見ていた。
「ふん、確かにつまらん終わり方じゃったが、隙を見逃さなかった見事な勝利とも言える。選抜に選ばれただけはあるじゃろうて」
これに答えたのは、北海道地方総司令官の興梠 叉武郎。
僅かに生えた髭を触りながら、普段の冷淡な様子とは逆に、珍しく夜宵の成果を誉めていた。
「確かに、最後の攻撃は絶妙でした。唯我 天城君が気を抜いた瞬間を見逃さず、その一瞬の隙をついて攻撃。最後まで気を抜いていなかったからこそ掴んだ勝利ですね」
これに続いたのは、九州地方総司令官の鷹匠 悟。彼もまた、夜宵の最後の攻撃を褒めていた。
「……?護里さん、どちらへ?」
その時、ふと立ち上がった護里に、東北地方総司令官の工藤 あやめが気が付き、声をかける。
「えぇ、ちょっと失礼するわ。ちょっと用事がね…」
護里にしては珍しく言葉を濁しながら、ゆっくりとその場を離れていった。
その様子を不思議に思いながらも、残りの面々も決勝の舞台に各々コメントを残していった。
「それにしても、か〜情けない!あれ程肉体を鍛えろと言ったのにそれを無視するから肝心なところでおらんくなるんじゃ!!」
不機嫌そうに呟いたのは、近畿地方総司令官の武田沢 銀次。その対象となる人物は、恐らくカナエを指しているのだろう。
そして、最後の舞台まで残っていただけに、勝てなかったのが悔しかったのであろう様子が窺える。
「だが良いものを見せてもらったぞ武田沢の爺さん。黒田 カナエについては言うまでもなく、織田 野々の『グリット』も見事だった。決死の覚悟で相打ちを狙った真田 幸町にも痺れたし、最後にギリギリまで敵を追い詰めた射武屋 沙月も良かった。全体的に見れば褒められた内容なんじゃないか?」
これに異を唱え、寧ろ褒めたのは、四国地方総司令官の東條 龍一郎。
怪我の多い顔の傷を撫でながらも、ニッと笑みを浮かべながら、近畿選抜の面々を褒め称えた。
銀次も不満はありながらも同じ考えは持っていたのか、「フンッ」と唸りながらも否定はしなかった。
「それに比べると、東京選抜はどこか物足りなかったですねぇ〜。脱落も思っていたより早かったし、存外、東京本部所属の『グリッター』も、大したことないんですね〜」
中国地方総司令官、桂木 捻の発言に、一同の視線が集まり、捻は思わず身を縮こませる。
「東京選抜は実績よりも若手の経験を重視してたきらいが見られた。それを踏まえれば、敗北したのも少し納得出来る」
あやめがそう答えると、他の面々も同様に頷いた。
「まぁ実績が不十分かと言われれば実際はそうでもないがな。特にリーダー格の佐伯 遥は一等星にも並ぶ実力と知性を備えたプロファイルだった。他の二人、草壁 円香と片桐 葉子も若手とはいえ経験は積んでいた。『大輝戦』に選ばれても不思議ではない」
あやめの言葉を補足するように、龍一郎がこれに付け足していく。
「となると、不思議だったのが唯我 天城君の人選ですね。ここ最近伸びてきた若手とは聞いてますが、実戦経験はあまり無し。実績も殆どなし。本来なら選ばれることは無いような人物ですが……」
全員が気になっていた点を、悟が代弁して答える。
「まぁ彼奴は……と言うよりも東京選抜自体、恐らく護里さんの人選ではないんじゃろう。あの人ならもっと納得のいく選抜メンバーを選んでいた筈じゃ」
「同感だな。今回の人選はどこか不思議なメンツだった。恐らくは上から圧力をかけられて、強制的に選ばされた、といったところが妥当じゃろ」
銀次の言葉に賛同するようにして、叉武郎がこれに同意した。
「う〜ん、でもさ」
しかし、柚珠奈がこれに異を唱えた。
「護里さんより上の人となると、もう最高議会の人しか残らないよね。ここだけの話、最高議会の人達が、逆にあれだけバランスの取れたメンバーを揃えられるものなのかな?」
その発言は想定外の視点だったのか、全員が押し黙る。
「確かに……最高権力を持つ最高議会なら、護里さんを押し退けて人選をすることは可能です。けれど、彼等にあれだけバランスの取れた選抜メンバーを選定する能力があるかと言われると……」
「ま、十中八九無いわな」
この場の声が聞こえないのを知っている龍一郎が、悟が濁した言葉をハッキリと告げた。
「ですが、事実としてメンバーはある程度マシに選ばれています。護里さんにして不足している、というのならば、一体誰が…?」
あやめが全員に尋ねるも、答えられるものは誰一人としていなかった。
「ま、なんであれ優勝したのは関東選抜。私達はこれに賛辞を贈るのが今すべきことでしょう」
「この場に関東総司令官がいないのがまた面白いけどなぁ!!」
悟が戦い続けた関東選抜に拍手を送ると、龍一郎がそれにチャチャをいれながらもこれに続き、やがて各総司令官全員が多様な表情を浮かべながら拍手を贈った。
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「ケホッ!!ケホッ!!あぁッ!!」
医療班に運ばれながら、朝陽は尚も苦しそうな表情を浮かべていた。
「朝陽さん!!」
そこへ、ようやく追いついた咲夜が姿を現し、朝陽に声をかけた。
「いけません、彼女は今危険な状態です!!迂闊に近寄らないで下さい!!」
そこへ、医療班の医師と思われる人物が立ち塞がり、咲夜を止めようとする。
「彼女は私の弟子です!!彼女が苦しんでいる原因も予測できます!!私を同伴させてください!!」
咲夜の言葉に、当初は判断に迷っていた医師であったが、その後に聞こえてくる朝陽の呻き声に意思を決めたのか、咲夜の同伴を認めた。
「彼女の容体は!?」
「まだハッキリと検査をしていないので何とも言えませんが、全身の筋組織に異常が見られています。ですがこの痛みはそれだけで無さそうです…」
「やはり……」
朝陽の状態は咲夜が思ってた以上に悪く、いつも冷静な咲夜が焦った様子を見せていた。
「せ……先生……そこに、いるんですか?」
その時、先ほどまで苦しそうな呻き声しかあげられていなかった朝陽が、咲夜の存在に気付き名前を呼んだ。
咲夜は医師と目配せをした後、ゆっくりと朝陽に近寄り、優しく腕を握りしめた。
「はい、ここにいます」
「先生……」
朝陽は潤んだ瞳で顔だけ動かし、真っ直ぐと咲夜を見つめると、弱々しい声で呟いた。
「先生……約束を破って……ごめんなさい」
朝陽の言葉は弱々しく、今にも消えてしまいそうな程であった。
咲夜は言葉に詰まった。
師として、約束を破った弟子を叱りつけるべきか、指揮官として、その戦いぶりを讃えるべきか、悩んだのだ。
咲夜は僅かな葛藤の後、ゆっくりと口を開いた。
「……貴方は、私達と交わしたはずの約束を破りました。命を失うリスクがあったことも、叱責すべきことです。今の貴方の身体の状態は、その結果です」
「…ッ…はい」
咲夜の選択肢は、師としての叱咤を行うこと。そして…
「ですが貴方は、自分の譲れないものを貶され、それを取り戻すために全力を尽くして戦った。その事は、貴方は誇りに持って良いことです」
「ッ…先生…私は……!!」
涙をボロボロと流しながら、咲夜の手を握り締め返した。
「私との話はまた後です。まずはしっかりと身体を治しなさい。治る治らないのではなく、治すのです。良いですね」
無茶苦茶な理屈ではあったが、それこそ咲夜らしいと思い、この時初めて、朝陽は笑顔を見せた。
「お話はここまでで。とにかく治療に入ります。貴方はこの状態の原因が分かると仰いました。このまま一緒に来ていただけますね」
「勿論です。その為に私はここへ来たのですから」
そして咲夜は、救急担架に乗せられた朝陽と医師団の後を追って、医務室へと姿を消していった。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




