第405星:勝敗
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
光速と音速の衝突は、先程までの派手なぶつかり合いとは対称的に、静かな衝突に終わった。
起こったのは僅かな土煙のみ。
そしてそれが晴れた時、朝陽と天城は互いに身体を交錯させたのか、距離が離れていた。
両者一歩も動かず、観客の全員が固唾を飲んで見守る。
そして……
「ゲフッ…!!」
先に動き、そして倒れ込んだのは朝陽だった。
外傷こそ見られなかったものの、朝陽はその場で悶えるように苦しんでいた。
「カハッ……アアアァァァ!!!!」
「ハッ…!ハッ…!ハッ…!」
倒れ込み苦しむ朝陽を見ながら、天城は息を荒げていた。
「(俺の攻撃は…当たってない!!そもそもアイツの動きを全く目で追えなかった!!)」
収まらない心臓の動悸を必死に抑えながら、天城は滴る汗を拭った。
「(だが交錯する直前、アイツの光が消えてその姿が見えた。だから俺はかわすことが出来た。この苦悶の表情は、それと関係してんのか?)」
「ウッ……ア…アアアァァァ!!」
朝陽は今も激痛に苛まれているのだろうか、ゴロゴロと苦しみの表情を浮かべ、何度も転がっていた。
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「いけない!!無理に使用した反動で、全身に拒絶反応が起きています!!処置しなくては!!」
咲夜は我慢の限界を迎えたのか、観客席から飛び出そうとしていた。
それを、大和は肩を掴んで押さえ込んだ。
「大和!?何を…!?」
「もう少し待つんだ咲夜。戦いはまだ、終わってない」
大和は険しい表情を浮かべながらも、力強く咲夜を制止した。
その理由は…
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「は、ハハハ!!なんであれ俺の勝ちだ!!いくら詭弁を言おうともな、最後に勝った奴が正しいんだよ!!」
天城が勝利を確信し、笑い声を上げた時だった。
「えぇ、その通りよ」
「ハハハ!!…は?」
次の瞬間、天城はガクンと足場が崩れ、自分の身体が浮遊しているような感覚を覚えた。
否、実際に天城の身体は浮いていた。
何故ならば…
「なっ!?これ…は!?」
天城の足元には、巨大な闇の穴が出現していた。
それは、第三部でも見られた、中国選抜を追い詰め、脱落させた技であった。
「『闇の影穴』」
天城は夜宵の作り出した闇の穴に飲み込まれ、徐々に沈み込んでいた。
「くっ!こんなもの!!俺の『グリット』で…!!」
天城は『グリット』を発動するものの、再度加速することは出来なかった。
「無駄よ。貴方はもう私の闇の中。音速だろうが何だろうが、闇に捉われれば関係ない」
夜宵の言葉に、天城は僅かに絶望の表情を見せ、それでももがこうと必死になっていた。
「ふ、ふざけんな!!こんな…こんな闇ごときで俺が…!!」
「そう、貴方はそんな闇ごときに敗れるのよ」
その時天城はようやく気が付いた。夜宵の言葉にも強い怒気が含まれて居ることに。
「射武屋 沙月さん、彼女の言葉を借りるなら、貴方の敗因はただ一つ」
夜宵は闇を操る手を伸ばし、天城を睨みつけながら最後の言葉を告げた。
「関東選抜を……いいえ、千葉根拠地を舐め腐ったからよ」
そして天城の身体は、夜宵の闇に飲まれていった。
「クッッッソォォォォォォォ!!!!!!」
その叫びを最後に、天城は闇の中に消え、そしてその直前に、移魅によって転送させられた。
モニターには天城の脱落の文字が表示され、そして、関東選抜の勝利の文字が表示された。
記念すべき『大輝戦』、その決勝の舞台は、斑鳩 夜宵の最後の攻撃により、幕を閉じたのであった。
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「なんと……東京選抜が敗られるとは…」
「月影殿…どうやらこれは予想外の展開のようですな」
フィールドの最上階の観客席の中では、僅かにザワつきが見られていた。
その中でただ一人、月影 天星は普段通りの薄い笑みを浮かべていた。
「いやいや、そんなことはありませんよ。東京選抜といっても彼女達は比較的経験の若い子達だ。時に敗北することだってあるし、そういった経験も必要でしょう。そう言った意味で、収穫はあったのではないでしょうか?」
「ふむ、まぁ確かにそうかもしれんな」
「これを糧に成長してくれれば、我々もより安泰ですな」
その言葉を皮切りに、周囲からは「ハハハハハ」と笑い声が響き渡る。
「(バカな肥やしどもが。せいぜいそうやって笑って私のための土壌を使っていろ)」
表の表情とは裏腹に、その裏では他の最高議会を貶していた天星は、彼等から意識を離し、今回の『大輝戦』を振り返り始めていた。
「(私の人選で選んだ選抜メンバーだが、正直優勝は十分に狙える人選をしたつもりだった。他の選抜メンバーも確認したが、それでも不可能では無い、と)」
机の上に肘を突き、その上に手を置きながら、天星は推察を続ける。
「(今回の戦いで収穫があったことと言えば、黒田 カナエという人物の持つ先見の明の力、織田 野々の噂通りの強力無比な『グリット』か。この二人の人選と活躍が無ければ、東京選抜の優勝は難しく無かった筈だ。早いうちに等星を与えて、手中に収めておくべきか)」
ただ東京選抜を贔屓目に見ることも無く、天星は『大輝戦』全体を見通していた。
その上で、天星でさえもこの両名の活躍は認めざるを得なかった。
「(そして、見過ごせないのが、斑鳩 朝陽だ)」
その二人を差し置いて評価されたのは、朝陽であった。
「(初めて見た時は何の変哲もない、一介の『グリッター』としか見ていなかったが…)」
天星は机の上に備わっていた機器を取り出し、それを操る。
すると投影されれような形で、朝陽の情報が次々と出されていく。
「(……過去の記録を見ても、やはり特筆すべき点は存在しない。だが、今回の『大輝戦』での活躍は、見過ごすことは出来ない)」
投影された映像をスワイプするようにして、天星は朝陽の情報を見ていく。
「(光を操る能力、『天照らす日輪』…良くある能力の一つだと特段強く見ていなかったが、あれ程の汎用性を誇るとは…)」
更にスワイプを続けていき、つい先程の、朝陽の全身が眩く輝いていたシーンを再生する。
「(己の体を媒介にし、己自身が光の化身と化す……一体どのような訓練を積んだらそのような発想に至るのか……非常に興味がそそるな)」
モニターを見つめながら、天星はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「(だがあの力は脅威だ。正直に言えば私の弟子がこういう形で敗れることは想定していなかった。未完の器とは言え、あの『グリット』を駆使すれば負けることはないと考えていたが……いささか私の認識が甘すぎたか)」
トン、トン…と机を指で叩きながら、天星はモニターの映像を見返し続ける。
「(無論相性の差はある。織田 野々を崩すには単独では不可能であったろうし、単独という意味では黒田 カナエに挑めば簡単に策略に落ちていただろう。だからそれに対抗できるメンバーを選出したつもりだった…近畿選抜の面々に三人も倒されたことは可能性として予想はしていたが想定外であったことは素直に認めよう)」
自分の落ち度を認めつつ、天星は再び朝陽に視点を戻す。
「(だが、斑鳩 朝陽は完全にイレギュラーだ。あれ程の実力に加え、器も備わっている。もし、あれ程の成長をもっと早くに見せていれば、唯我 天城ではなく、斑鳩 朝陽を選んでいたかもしれないな)」
天星はモニターをスワイプさせ、その根拠地の司令官に目を移した。
「(国舘 大和…根拠地の司令官を名乗ってはいるが、その実は関東総司令官…人望も厚く、人柄を見抜く慧眼もある。斑鳩 朝陽の急激な成長はこの男の手腕か…?)」
ジッと大和の情報を見続けるが、天星は眉を顰めるだけであった。
「(分からんな。過去の経歴は至って普通。この男にそれだけの成長を促せるほどの実力があるとは思えないが…)」
しかしその後、天星は自分より僅かに下の席に座る、最高司令官である早乙女 護里を見下ろした。
「(いや、それこそ分からんな。この男を推薦したのは護里だ。あの女ならば何かしらの手を打って、情報を故意に隠蔽している可能性がある。この男が引き金である可能性は排除できない)」
しばらく映像を見た後、天星はソッと投影された映像を閉じた。
「ククク……思い通りにならんというのは腹立たしいが、これが人類の進歩とでもいうべきか。どちらが暗躍し切れるか、見ものだな」
そう告げた後、天星はソッとその部屋を後にした。
※後書きです
ども、琥珀です。
『大輝戦』編、あと少しだけ続きますが、戦闘回は全て終わりました…
書いているとあっという間なのですが、章単位で見ると半年以上かかってるんですね…
『大輝戦』は新キャラが多く出てる分、戦闘回も多くて、書いていて楽しい章でした。
この後の伏線も含まれているので、うまく繋げられれば良いなと思ってます。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




