第401星:脱力
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
護里達が見る観客席よりも更に上の特等席。
そこには、『軍』の最高幹部である、最高議会の面々が揃って『大輝戦』を見ていた。
「ふぅむ、今回の『大輝戦』、いきなりのルール変更には驚いたが…」
「うむ、なかなかどうして、楽しい娯楽を見せてくれるじゃないか」
手にはグラスワインが握られており、そこでいかに優雅な空間が広げられていたのかが見てとれた。
「それもこれも、この舞台を用意してくれた天星君に感謝だな」
「…恐縮です」
テーブルを囲う一角には、他の最高議会の面々に比べて一際若い青年が腰掛けていた。
しかし、その青年、月影 天星だけは、フィールドで繰り広げられている戦いを、ただの娯楽として捉えていなかった。
「(まさか天城の攻撃を捌ける者が出るとはな…しかも彼女は、以前最高本部に出向してもらった少女だ。『グリット』に覚醒して間もない彼女が『大輝戦』に出場していること自体驚きだが、それ以上に天城の『グリット』を凌ぐとは…)」
天星は、己の弟子である天城にではなく、朝陽のことを興味深そうに見つめていた。
「(バックに余程才能のある師に恵まれたか?だが千葉根拠地に配属された司令官、国舘 大和は『グリッター』ではない。何かしらのノウハウは教えられても、それがここまで実戦で活かすことは難しいはずだ)」
注がれたワイングラスの中身を飲み干し、天星は一つのことに気が付く。
「(確か司令官の付く根拠地には、同時に指揮官が配属される決まりがあったな。そしてそのどちらかが『グリッター』である確率が高い…となると、師はその指揮官か…?)」
グラスをテーブルの上に置き、天星はフッと考え込む。
「(指揮官は誰だ……それ程優秀な指揮官ならば私が見落とすことは無いはずだが…)」
頭の中に記憶してあるプロファイルを思い出していくが、やはりそれらしい人物は該当しなかった。
「(……誰かが意図的に目に留まらないように工作したのか…?そんなことが出来るのはごく少数の限られた者だけだが…)」
天星は思い出すのを一度止め、再びフィールドに目を向ける。
「(まぁ良い。必要があれば呼び出して話を聞けば良いだけのこと。今は我が弟子の勇姿を見届けてやろうではないか)」
天星は、注ぎ直されたワイングラスを手に取り、そこに映すようにして天城をグラス越しに見つめた。
「(さぁ、得意の『グリット』は通用しないぞ。どうする、唯我 天城)」
弟子が窮地に立たされている状況でも冷静に、寧ろそれを楽しんでいるかのような笑みを浮かべ、天星はグラスの中身を飲み干した。
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「(ふっざけんな…ふざけんなふざけんなふざけんな!!)」
天城はその場に立ち尽くし、そんな事はあり得ないと自分に言い聞かせた。
「(俺の動きが見えてるだと!?そんな事があってたまるか!!)」
その怒りのままに朝陽を睨みつけるが、朝陽は微塵も動揺する素振りを見せず、ただ悠然と槍を構えていた。
天城はギリギリと音がする程歯を食いしばりながら、再び『グリット』の発動態勢に入った。
「テメェが俺の動きを読めてようが関係ねぇ!!力押しでぶっ潰してやるだけだ!!」
そして加速。天城の姿は一瞬で見えなくなった。
「ハッ!!」
そんな天城を、朝陽はしっかり視界に捉え真正面からの攻め込んできた攻撃を流すようにして封じ込めた。
「ッ!!この!!」
「見えてるって、言いましたよね」
槍の柄越しに互いに睨み合いながら、両者の力は拮抗していた。
「なら、ここからもう一段階加速して…!!」
「『フリューゲル』!!」
天城が加速態勢に入る前に、朝陽は『フリューゲル』を展開。
そして、天城が二段階目の加速を行う前に攻撃を仕掛けた。
「『光の刃翼』!!」
『フリューゲル』に光が纏わり、それが刃となって天城に襲い掛かる。
「チッ…!!」
流石の天城も超至近距離での複数攻撃はかわしきれないと判断し、三度身を引く選択肢を取らされていた。
「クソがぁ…!!」
天城の表情はどんどんと怒りに満ちていき、全身を震わせていた。
無論天城は、考えなしに朝陽に突っ込んでいったわけではない。
夜宵に食らわせたように、敢えて真正面から突っ込むことで、『ソニックブーム』を食らわせようとしていた。
しかし、朝陽はそれさえも読んでいたようで、攻撃は真正面から受け止められるのではなく、水流のように受けて流されたのである。
「(クソが…クソがクソがクソが!!!!俺の『グリット』が通用しないだと!?そんな奴がいてたまるか!!)」
予想外の展開に、天城はますますヒートアップしていく。
────君は事が上手く運ばないと熱くなる癖があるようだ。
その時、天城の脳裏にある人物の声が蘇る。
────その全てが悪いこととは言わない。だが、そう言う時こそ一度全身から力を抜いて見るのも良い事だ。
その人物の声が頭の中で反芻した時、歯がギリギリと音を立てるほどに噛み締めていた天城はそこでストン…と全身から力を抜いた。
「(焦んな……こう言う時こそ一度脱力…だよな)」
その人物の言葉で、冷静さを取り戻した天城は、ソッと怒りの鍋に蓋をして、頭の中を整理した。
「(クソッタレが…認めてやるよ。今のままじゃ俺の『グリット』が通用しないってことをな)」
そして、今の戦況を見つめ直し、自分が不利な状況に置かれていることを認めた。
「(…?攻めてこなくなった?というか、さっきまでの荒々しさが消えた……)」
その異変を、目の前に立つ朝陽も気付いていた。
「(まずは状況整理だ。俺の『グリット』はアイツに通用してねぇ。何故か。アイツ曰く見えてるから…らしい)」
突然の変化に困惑して攻めてこない朝陽を利用して、天城はゆっくりと頭の中の整理を進めていく。
「(だが…あの人が言う通りなら、基本的にそれはあり得ない。『グリッター』がどれだけ身体能力が強化されても、音速…ましてや光速に反応出来ることはないって話だ…)」
考えるのが苦手な天城は、考えるのではなく復習をしていた。
「(そういやあの人が俺の『グリット』について何か言ってたな。確か……)」
────君の『グリット』は無敵だ。誰も追いつく事が出来ず、威力も絶大。相性の悪い相手は居るだろうが、十分強力な効果を持っている。
「(違う、ここじゃない。このもう少しあと…)」
────実力はついた。だがまだ完璧じゃない。君は『グリット』の能力に甘え、攻撃が派手だ。だから私の用意した部下のような手練れになると、動きを読まれる。
「────!!」
そこまで思い出したところで、天城は一つの推測を導き出した。
「(…アイツは俺の動きが見えてると言った…恐らくそれは嘘じゃない。だが、見えてるのが動き全てじゃないとすれば…?)」
推測は一つの結論に導かれていき、天城は考えをまとめていく。
「(例えば……俺の加速前の仕草を見られているとしたら……?)」
そして天城は、自らの思考でその結論に辿り着いた。
「(アイツがそういった仕草を見抜く事が出来るとすれば、俺の動きを読んで反応出来るのも理解できる。納得はいかねぇが…)」
僅かに意地が出るが、天城はそれを一旦拭い捨てる。
「(問題はそれをどう攻略するかだ。俺の『グリット』発動前の動作を見られてるとして、それをどう誤魔化す。わざと分かりやすく動いて見せてフェイクを見せるか…?)」
そこまで考えて、天城は首を横に振った。
「(俺の機微な動きを読み取って反応してくるような奴だ。そんな子供騙しに引っ掛かる訳がねぇ…)」
結論には至ったものの解決策までには至らず、天城は再び苛立ちを募らせ始める。
「(チッ…あ〜めんどくせぇ…!やっぱり正面から強引に突破してやるか…!?)」
とその時、ふと天城の頭の中で一つの考えが思い浮かび上がる。
「(待てよ……正面から……?)」
天城はここまでの朝陽との戦闘でのやり取りを思い返し、そして一つの仮説をたてた。
「(もし、俺の予想通りなら……)」
元々考えるのが得意ではない天城は、自分の出した結論に自信が持てずにいた。
しかし、次の瞬間、両の手で頬を叩き、迷いを払拭した。
「(まずはやってみろ!!やる前からビビってたら前には進めねぇ!!)」
天城は覚悟を決め、『グリット』の発動態勢に入った。
※後書きです
ども、琥珀です。
私事で恐縮ですが、以前応募しておりましたある賞におきまして、一次選考通過致しました!
これまでも何度か本作は応募を続けて来ていたのですが、初となる実績です!
素直に嬉しいです…小さな一歩かも知れませんが、これを糧に今後も頑張って行こうと思います!
読者の皆様、引き続き本作を宜しくお願いします!
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




