第388星:アンタの敗因
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
「さぁ……最後の砦の破壊だ!!」
天城はそう叫び、『グリット』を発動させた。
対する沙月は、無論高速移動に対応することが出来ず、目の前に迫る天城をただ感じ取ることしか出来なかった。
バチッという音ともに、残り二本となっていた矢の一本が弾け飛びスパークを発する。
それを見る前に天城は再びその場から撤退。何度も繰り返された光景ではあったが、それも最後になる。
「これで残り一本。帯電は出来ないから防御の手段は無くなったなぁ」
沙月が防御のための策として地面に突き立てた『雷護の矢』は、複数の矢同士で電気の性質を帯びさせて、対象が触れた瞬間に矢が弾け、それと同時にスパークを発する『付加効果』である。
それが残り一本となった時、即ちいま、沙月の前に刺さっている一本の矢だけでは、その護りは発動しないことを意味する。
そしてそれは、天城もここまでのやり取りの中で見抜いていたことであった。
「さぁ、悪あがきももう終わりだ。とっととテメェを倒して、次のターゲットに移らせて貰うぜ」
標的はもう完全に沙月。そして沙月にはもう、天城の攻撃を防ぐ手立ては無かった。
その状況のなかで沙月は…
「ハァ……」
とため息を溢した。
「なんだ?遂に諦めがついたか?」
それを見て、天城が悪態を付くが…
「違うわよ。安心したの。アンタが単純な奴で良かったってね」
「……あ?」
予想していなかった沙月の発言に、天城が固まっていると、舞台を動かしたのは別の人物であった。
「放発必中・『無限拡散』!!」
動かしたのは瑠河。
矢を天井に向けて放ち、天城の周囲に降り注ぐようにして無限に拡散して落下させていった。
「チッ…今になってこんな悪あがきを…!!」
無論、マッハに迫る速度を繰り出せる『未光粒操作』を操る天城からすれば、ただ降り注ぐだけの矢をかわすことなど造作もないことであった。
当然のように全ての矢をかわした天城は、睨むようにして瑠河を見た後、再び沙月に目を向けた。
「これが起死回生の作戦だったか!?こんなもんあのめんどくせぇ加速組さえいなきゃなんてことないんだよ!!今更こんな攻撃が当たるとでも思ったか!?」
天城は笑みを浮かべ沙月に向かって叫ぶ。
しかし当の本人である沙月は、瑠河の攻撃をかわされても平静だった。
寧ろ、その口元には笑みさえ浮かべていて…
「良かったわ、貴方が単調なお馬鹿さんで」
「……あ?」
沙月がそう呟くのと同時に、天城の直ぐ足元に沙月の矢が放たれた。
天城がかわすまでもない場所に放たれた矢。
その矢には、電気の性質が帯びていた。
「これが…なんだっていうんだ……」
次の瞬間、それと共鳴するようにして、突如電気の線が複数繋ぎ合わさっていった。
「なん…だっ!?」
電気の線は次々と繋がっていき、まるで天城の逃げ場を無くすようにして囲い覆っていった。
見ればその電線は、これまで沙月が放っていた矢に繋がっていた。
「なん……これは!?」
「気付かなかったでしょ?今までの布石が無駄にならなくて良かったわ」
ビビビビッと次々に繋がっていく電線を、天城は目で追い続けた。
「アンタが後退する度に私が射ってきた矢には、全て電気の性質を帯びさせておいた。アンタを罠に嵌めるためにね」
「あん……だと?」
沙月の淡々とした説明に、天城は睨みつけながら返す。
「アンタの超高速の移動に対抗するには、それに追いつける性質を持つ効果を付与する必要があった。私の矢に『付与効果』出来る最高速度の矢は『雷貫の矢』。でも、ただ射るだけじゃ、アンタには当たらないと考えたわ」
弓には動作がある。
矢をセットし、引いて、放つ、という三つの動作だ。
沙月の技である『雷貫の矢』は、天城の『グリット』に迫る速度を出せる最高峰の技である。
しかし、先程のように三つの動作が加わることで、天城に回避の隙を与えてしまうことになる。
それでは矢と『エナジー』の無駄遣いに終わると判断した沙月は、考えを張り巡らせた。
その結果、辿り着いたのがこの電磁網作戦である。
「それでもこの作戦をやるに当たって、どうしても確認しないといけないことがあった」
「確認…?何をだ」
「私が出せる最高速度の技、『雷貫の矢』が、アンタの速度とほぼ同等の速度を出せることを確認したかった」
「……!」
天城はチラッと、自身のズボンの僅かに焦げた箇所に目を向ける。
「結果は大成功。いくらアンタでも、電気の速度にまでは到達してないのが確認できた。だから私はそれを確実に当てるための布石を打ち続けた」
「それがこの電気の網ってか?これくらいなら俺は……」
「かわせるっていうんでしょ?だから私はもう一つ準備をした。確実に、アンタを逃がさないための準備を」
次の瞬間、天城の周囲に散らばっていた瑠河の矢が、沙月の矢に呼応するようにして帯電し始めた。
「ッ!?」
「そう、これがもう一つの準備。瑠河の矢を利用させてもらった。アンタの逃避行為が絶対に間に合わないように、逃げ場のない電磁網を作ったのよ」
瑠河の矢にも帯電し始めた電気は次第に強まっていき、そしてバチバチと音を立て始めた。
「ッ!!」
天城は直ぐに『グリット』を発動させるが、一回の加速で逃げ切れる範囲では無いのは明白であった。
「アンタの敗因はただ一つ」
沙月はビッと指を刺し、ニヤッと笑みを浮かべて勝利の宣言をした。
「私達を舐め腐ったからよ」
次の瞬間、カッ!!という発光のあとに、フィールド一帯を覆うようにして、バチバチバチッ!!と一斉に放電した。
バチバチと飛び交うスパークは派手に輝き、観客達がどよめくほどであった。
スパークはやがて落ち着き、その場に天城の姿はどこにもなかった。
「これで私の……いえ、今回ばかりは、私達の勝ちよ」
天城との戦いで勝利を確信した沙月は、ゆっくりと弓を下ろした。
そしてゆっくりと、その視線を瑠河達に向けた。
「ありがとね。今回ばかりは、貴方達の手助けが無かったら、私の敗北は確定してた。気付いてくれてありがとう」
それは、沙月が何度も瑠河にしていたアイコンタクトのことを指していたのだろう。
瑠河は苦笑いを浮かべながら、沙月のお礼の言葉に答えた。
「全くだ。共闘を解除しておきながら、その節都合の良いところで再び共闘を持ちかける。全くまんまと利用されてしまったよ」
「ごめんね。でも、それだけアイツは厄介だった。ここで倒しておかないと、勝ちの目は無いと思った。だから私も脇目を振る余裕がなかったのよ。実際、紙一重だったしね」
チラッと沙月は、先程まで天城が立っていた箇所を見る。
その周囲一体は黒く焦げ、天城の姿はどこにも無かった。
「だから…うん、感謝してる。私の勝利に貢献してくれてありがとう」
「…ほう?その言い分だと、我々には勝てるとでも言いたげなようだが?」
それまでの穏やかな雰囲気は去り、途端にピリピリと殺気だった圧がぶつかり合う。
「当たり前でしょ。ここまで来たら狙うは優勝。絶対に勝ってみせるわ。同じ弓使いとしてもね」
沙月は背中の弓包から弓を取り出し、ソッと弦にセットした。
「面白い。その勝負、受けてたとう」
それに呼応するように、瑠河も弓包から矢を取り出し、同じく弦にセットした。
「瑠河……」
「すまない夜宵。我が儘なのは分かってる。だが、ここは私に任せてくれないか。彼女は、ずっと私との一騎打ちを望んでいた節があるんだ」
それは共闘していた時に沙月が溢した言葉。その言葉を、瑠河はずっと覚えていた。
夜宵は瑠河をジッと見つめた後、フッと笑みを浮かべた。
「第三部では私の我儘に付き合わせちゃったからね。今度は貴方の我が儘に付き合うわ、瑠河」
「…感謝する、夜宵」
夜宵の承諾を得た瑠河は、スッと弓を沙月の方へと向けた。
沙月もそれに応えるように、矢の先を瑠河に向ける。
「やっとこの時が来た。同じ弓使いとして、ずっと競いたいと思ってた。さぁ、いざ尋常に……」
「勝負できると思ったか?」
※後書きです
ども、琥珀です。
ストイックな方は本当にすごいと思います。
私はどんな事も中途半端で、全力でやり切る事が出来ません。
この小説も、努力はしていますが、きっと全力ではないのでしょう。
必要だと思ったら全力で、どこまでも。
そんな人が身近にいるだけに、憧れと劣等感を抱く琥珀です…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




