第387星:防戦一方
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
「ちっ…つまらねぇ小細工しやがって…」
そう言う天城のズボンの一部は、焼けたかのように焦げ、小さな煙が出ていた。
「(効果が電気の性質だった分、俺の『グリット』でもかわしきれなかったか)」
これは沙月の狙い通りで、マッハを超える移動速度を誇る天城には、それに対抗出来る性質を持つ効果を付与する必要があると判断していた。
幸町が脱落し、関東選抜の真衣も脱落した今、速さという点において天城と渡り合える人物はこの場に誰も居ないだろう。
だからこそ、自身のスピードでの勝負ではなく、光に迫る雷の性質によるスピードの勝負に、沙月は撃って出たのである。
「(攻撃の性質は見切った。攻め込んだ時に矢が一本弾けたのも確認した。攻略法はいくらでもある…が…)」
天城はジッとこちらを見据え、万全の体勢で待ち構えている沙月の姿を確認する。
「(これだけじゃ俺の対抗策にはならねぇことはあの女も分かってる筈だ。それを分かった上で待ち構えてやがる。無闇矢鱈に突っ込むのは得策じゃねぇ…)」
次いで天城は、視線をフイッと横にずらす。
そこには、全身を闇で覆った関東選抜の二人が立っていた。
「(向こうも向こうで俺の攻撃対策はされてる。突っ込めないという点では向こうの方が厄介だが、あれはあれで打つ手はある…さて、どっちから仕掛けるか)」
僅かな逡巡の末、天城は再び沙月の方へと目を向けた。
「やっぱりやるなら、お手軽な方からだよなぁ!!」
悪どい笑みを浮かべ、天城は再び『グリット』の発動体勢に入った。
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「(来る…!!やはり狙いは私か!!)」
予想はしていたが、改めて自身に敵意を向けられ、沙月の手に僅かに緊張が走る。
「(いや、ここまで来たのよ、腹を括りなさい私。勝機は十分にあるわ)」
そう言うと沙月は弓を構え、ギュッと弓の弦を引いた。
「構えてからが遅ぇよ!」
その瞬間、天城が再び沙月の前に姿を現す。
しかし沙月の目に驚きはなく、間も無くして、足元に仕掛けていた矢の電撃罠が作動する。
矢が弾けるのと同時に天城は目の前から姿を消し、再び離れた位置に移動した。
「シッ!!」
沙月は離れたのを見計らって再び天城目掛けて矢を放つ。
が、距離も離れた状況で沙月の矢が当たるはずもなく、天城には悠々とかわされてしまう。
「無駄な抵抗だなオイ。諦めて脱落したらどうだ。今なら楽に落としてやるぜ?」
単調で無策な攻撃に、天城は煽るような口調で沙月に語りかける。
「自分から脱落?冗談でしょ。私はまだ負けてないわ」
沙月の言葉に嘘は無く、その目に敗北の色は無かった。
「チッ…めんどうだ……ッ!!」
瞬間、天城は異変を感じ取って『グリット』を発動。超高速移動でその場から離れた。
その直後、先程まで天城が立っていた箇所に、黒い渦状の穴が開いた。
その光景を目にした後、天城は苛立った様子で夜宵達の方に目を向けた。
「チッ…外したわ」
その視線の先では、夜宵が地面に手をつき、地面伝いに闇を広げていたのが見てとれた。
「今のは行けるタイミングだと思ったのに。ホントに厄介ね、あの『グリット』」
「散々目にしてきたが、目で追うことさえ困難というのがまた難題だな。ハッキリ言って私個人では全く歯が立たん」
夜宵が攻撃を仕掛け、瑠河がそれを分析する形での連携であったが、その成果は芳しく無かった。
沙月の攻撃もまともに当たらないところを見ると、この状況で最も効果的なのは、夜宵の『グリット』ということになるだろう。
しかし、その夜宵の『グリット』も、物理的な意味では非常に相性が悪い。
そもそも夜宵の弱点の一つに、闇の展開力の遅さがある。
夜宵がいかに不意打ちを仕掛けようとも、超高速の能力を持つ天城には通用しないだろう。
闇の展開力を上げた物理攻撃による攻撃手段もあるものの、その速度も沙月や瑠河の矢と変わらないものである。
ハッキリ言ってまえば、攻撃的な面では夜宵の『グリット』を持ってしても効果は無いも当然であった。
「ここは、連戦になってしまうが、朝陽との合流を待つのが賢明か…」
瑠河の提案に対し、夜宵は何とか知恵を振り絞ろうとするが、やがて諦めたように頷いた。
「そうね……接近戦で高速戦闘を得意としてるのなら、朝陽ならもしかしたら………?」
その時、夜宵はある事に気が付いた。
自分達から少し離れた位置に立つ沙月が、こちらに目配せしていたのだ。
「瑠河、近畿選抜の彼女が何か…」
夜宵に言われ、瑠河もその視線に気が付く。
「…なんだ?何を伝えたい…?あの視線は夜宵に、というより…」
「瑠河に対して、よね?瑠河にしか出来ないことがあるってこと?」
二人がその目配せの意図について考えている隙に、再び天城が沙月の側まで急接近する。
それと同時に矢が弾け、無数のスパークが弾けるが、その時には既に天城の姿は沙月の前から消えていた。
「ハハハ!!打つ手無しでこのまま終わりか!?勇んでた割にはあっけない幕切だな!!」
「うるっさい!!」
天城の言葉に憤るようにして、沙月は再び矢を放つ。
当然、天城はこれを悠々とかわした。
「仕掛けを見るに、俺の攻撃を凌げるのはあと二回、ってところか?そこからどうするのか見ものだなぁ!!」
天城は自分の実質的な勝利を確信していた。
だからこそ、余裕のある笑みと、わざと時間を長引かざるような会話をしていた。
「……?」
その直後、再び沙月から瑠河に向けて目配せがあった。
沙月は直接攻撃を受けている分、余裕のある表情では無かったが、何かを必死に伝えようとしているのは明白だった。
「(なんだ……彼女は何を私に伝えたいんだ…?何故私なんだ…?)」
瑠河が悩んでいる隙に、天城の猛攻が再び沙月に襲い掛かった。
「ッ!!」
激しいスパークと共に矢が一本弾け、消えていく。その頃には、天城の姿もやはりなくなっていた。
「これで残るはあと一回…だな。いよいよ年貢の納め時か?」
最初のトラップの時の火傷を除けば、天城はそれ以降、沙月の罠で傷はおろか火傷ひとつ負っていない。
罠が効果的に作用しているのは明白であったが、具体的な対策になっていないのもまた明白であった。
「シッ!!」
天城が離れ、姿を現すと、沙月は再び矢を放った。
沙月の放った鋭い矢は、しかし天城に悠々とかわされてしまう。
しかし、繰り返される行為に腹が立ったのか、天城は苛立った表情で沙月に叫びかける。
「分からねぇ奴だなお前も!!お前の攻撃なんざ俺には止まって見えるんだよ!!その電撃ならまだしもな!!」
「……!!」
その言葉を聞いた時、瑠河がハッと表情を変えた。
そして、振り返るように沙月に目を向けると、沙月は瑠河が察してくれたことへの安堵か、小さく笑みを浮かべていた。
「…そうか。だからこんな単調な攻撃を…それに私ならそれを補えるからと…」
沙月の意図を察した瑠河は、夜宵の肩に手を置いて、小声で囁いた。
「夜宵、私から闇を除いてくれ」
突然の言葉に、夜宵は目を見開く。
「何を言ってるの瑠河!!そんなことしたら貴方が…!!」
「分かっている。だが遠目には私が闇から抜け出したことは簡単には見えやしない。それに……」
瑠河はギュッと弓を握りしめ、改めて夜宵の方を見つめた。
「彼を倒すためには、私の力が必要なんだ。それには、私が夜宵の闇から抜け出す必要がある。夜宵の闇が私の弓まで飲み込んでしまうからな」
瑠河の言い分は夜宵も理解できた。それが必要な状況である事も察した。
だから夜宵は、瑠河に最後の確認をした。
「それが、唯我 天城を倒す唯一の作戦になるのね?」
「…あぁ、現存の戦力を考えれば、まず間違いなく」
その答えを聞いて、夜宵は一瞬目を閉じて考えた末に、ゆっくりと分からないように瑠河を闇から解放した。
「分かったわ。私は貴方の作戦を信じる。任せたわ」
「あぁ、成功させてみせる」
瑠河は弓を握りしめながら、力強く答える。
「もっとも…」
そしてその視線を、沙月の方へと向けた。
「この作戦は、私の立案では無いがな」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




