第41星:望生
国舘 大和(24)
新司令官として正式に根拠地に着任した温和な青年。右腕でもある咲夜とともに改革にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。そして全員の信頼を得ることに成功し、『小隊編成』という新たな戦術を組み込んだ。
咲夜(24?)
常に大和についている女性。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。大人しそうな風貌からは想像できない身体能力を誇り、『グリッター』並びに司令官である大和を補佐する。現在は指揮官として彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。大和の言葉により、『天照す日輪』を覚醒させ、初の実戦で仲間の命を救った。大和に指名され、新戦術の小隊長に任命された。
曲山 奏(20)
朝陽小隊のメンバー。明るく元気で爽やかな性格。サッパリとした人物でありながら、物事の核心をつく慧眼の持ち主。趣味はツーリング。
望生(16)
大和達の前に現れたメイド服姿の美少女。無表情ながら礼儀正しく、三人を最高本部へと案内する。その素性は謎に包まれている。
「あ、見てください司令官!!陸が見えてきましたよ!!」
「やっとですか!!短いようで長い船旅でしたね!!」
「何言ってるか分からないし読み辛いからさっさとその口の中のものを飲み込みなさい」
もっちゃもっちゃと船で売られていたフードを咀嚼する奏に苦笑いの笑みを向けながら、大和は二人を見る。
船での旅路は初めてと言う朝陽は、年頃の少女のように船旅を楽しんでいた。
とは言っても、千葉の木更津から東京港までは船で1時間程。その間にできたことといったら景観を楽しむか船の中を散策するくらいだ。
「(なんて…そういう理屈だけじゃないんだよな、こういう旅路の楽しみっていうのは)」
大和はデッキの席につきながら、キャキャと騒いで楽しんでいる二人を微笑ましく見つめる。
実際、奏の存在は大きかっただろう。朝陽一人では大和に遠慮して、楽しいという感情を押し留めてしまっていたかもしれない。
対して奏はそういった感情を隠したりはしない。寧ろハッキリと意思表示するタイプだ。
無意識に感情を押し留めてしまっていた朝陽を見ていてか、それとも純粋に自分が楽しみたかっただけなのか。
兎も角その率直さが、朝陽の純粋な心を押し出すことに成功していた。
「(とは言え前提として、こういう旅路で楽しめない状況になってしまうのはなんともな…早く普通の女の子ように船旅とかを楽しめる世に戻さないとな…)」
そんなことを考えているうちに、船は既に停泊状態に入っていた。
「さぁ一先ず港に到着だ。降りようか」
●●●
「船を降りましたけど…ここが最高本部、という訳では無いですよね?」
既に同じ船に同乗していた人々は居なくなり、港に残っているのは大和達三人だけになっていた。
「勿論、ここじゃないさ。ここは東京港と呼ばれていたところで、昔の首都…東京都と呼ばれていた場所だよ。まだ新名も決まっていないから旧名で呼んでいくけど、ここから最高本部のある大田区まで移動するんだ」
「大田区…私、根拠地とかでしか地名を知らないんですけど、昔は沢山の地名があったんですね…」
メナスにより地上を支配・破壊されていた間に、これまで存在していた都市等はあらかた破壊され、場所によっては地形が変わってしまったところも存在する。
特に人口が密集していた東京はその被害が多く、かつて存在していたと言われる『東京23区』は跡形もなく消滅した。
しかし、人類が地上を取り戻してからは、その拠点となる場所が必要とされ、その場所として選ばれたのがこの東京である。
そこから関東を中心に、人類はかつての地域・都市を取り戻し、かつての生活を送れるまでになったのである。
「今は『東京本部』という名前で統一されているから分かりやすいけどね。これから先、人類が平和を勝ち取ったら、また細かく地区分けされていくかもしれないね」
平和を取り戻したら…朝陽はその言葉に、期待と決意を秘めた覚悟の目を瞳に宿していた。その平和は、自分が勝ち取るのだという、光を灯して。
「それで司令官殿!!ここから最高本部まではどのようにして向かわれるので!?『戦闘補具』でひとっ飛びですか!?それとも徒歩ですか!?」
「バトル・マシナリーじゃボクは飛べないだろ…」
「ご心配ご無用!!私が抱えて飛びます!」
「そう言う問題じゃな…こら、その抱え方はダメだ。それだとこう…まるでボクが…」
奏の持ち方から想像するに、その抱え方は人を横にして抱き上げるやり方…即ちお姫様抱っこというやつで、大和はそれを断固として拒否した。
「それではやはり徒歩ですか?それとも公共交通機関を利用するんですか?」
言い方から察するに、朝陽も抱えることは考えていたのだろう。大和は帽子を深く被り、ため息を一つ吐いてから、改めて二人に説明を始める。
「公共交通機関は基本的に使わない。というより使えないんだ」
「え、なんでですか?」
「通常の交通機関じゃ入れない場所だからだよ。指定されたルートと、認定された乗用車じゃなきゃ入れない。万が一のメナス侵入を防ぐために取られた対策なんだそうだよ」
二人は大和の説明に納得したように頷く。
「でも…そんな対策あまり意味ないですよね。人間ならまだしも、メナスに侵入だなんて技術あるとは思えないですし」
朝陽の発言に、奏は「いえいえ!!」と返す。
「そうとも言えないですよ朝陽さん!!何せ今回我々が呼び出された理由は、『メナス』が『知性』を持っているかどうかの話を聞くためですから!!」
奏の話に、大和も頷いて肯定する。
「その通りだ。正直ボクも無意味な防御手段だと思っていたんだけど、今回の件もあって考えを改めた。ほんの僅かでも可能性があるのなら対策をすべきだ。この必要な対策と言えるだろう」
朝陽もその通りだと考え直したのか、「確かに…」と呟きながら数度頷いた。
「…と、そんな話をしていたら迎えが来たな」
大和が向けた視線の方向を二人も見ると、その先から黒い自動車が寄ってきていた。車は大和達の前で停車すると、運転席側のドアが開かれた。
中から出てきたのは、まだ外見に幼さを残す少女だった。
光を浴びて適度な艶やかさを醸し出す茶の髪を、弄ることなく肩まで伸ばし、髪と同じ色をした茶の瞳は、真っ直ぐ大和達を見つめている。
次に目が行くのはその身なりだろう。
『グリッター』に支給される『軍』服ではなく、黒のワンピースにフリルがたくさんついた白いエプロンの組み合わせがなされた服を着こなしていた。
頭には同じくフリルのついたカチューシャのようなものがつけられている。
地上が支配されていた1世紀以上も前に存在していたもので、かつて『メイド服』と呼ばれていた服装である。
少女は大和達の前まで歩みを進め、礼儀正しい所作でゆっくりと頭を下げた。
「長い船旅、ご苦労様でございました。ここから最高本部までは、私がご案内させていただきます」
所作だけでなく、口調も礼儀正しく、そして丁寧だった。その仕草に思わず奏は黙り、朝陽は頭を下げ返していた。
その中で唯一大和だけがいつも通り…いや、いつも以上の優しい笑みを浮かべ、少女に近づいて行った。
「お迎えご苦労様、望生。わざわざ出向いてもらってすまなかったね」
大和にそう言われ、望生と呼ばれた少女は、これまで変えることのなかった表情を笑顔で崩した。
「とんでもございません、ご主人様。こうしてご主人様に頼られることこそが私の喜びです。…お会いしとうございました」
ソッ、と、望生は大和の手を取り、その温もりを感じていた。大和もそれを拒否することなく、優しく握り返した。
「あ、あの司令官…そちらの方はお知り合いですか?」
こうなると置いてけぼり状態の二人は、当然大和に説明を求める。
「あぁ、ごめんよ。そう、この子は望生。最高本部で『グリッター』兼秘書として働いていてね」
大和の説明の途中で、望生は手を離し、改めて二人に挨拶の言葉を述べた。
「私のご紹介が遅れて申し訳ありません。望生と申します。現在は『グリッター』と最高本部で秘書を務めております。司令官には多大なご恩がございまして、その恩を少しでも返すべく、本日馳せ参じた所存でございます」
先程大和に向けていた表情とは一変して無表情のまま、望生は二人に自己紹介をする。
しかし、大和について話しているためか、その声はやや高揚しているようにも思えた。
「恩とか感じなくて良いって言ってるのに…望生は望生のしたいように生きていけば良いんだよ」
そう言われた望生は、クルッと振り返り、再び大和に笑みを向けた。
「はい、ですから望生はそのように生きております。ご主人様のために働き、ご主人様に頼られることが生き甲斐なのです。そしていつかは、ご主人様様の元で再び戦える日を迎えること…それが望生の今の夢でございますから」
心の底から願うような口調に、流石の大和も言葉を返すことは出来なかった。
代わりに、嬉しそうな笑みを浮かべ、望生に返した。
※ここから先は筆者のどうでも良い後書きになります!!興味のない方はどうぞ読み飛ばして下さい!!
ども、琥珀でございます!!
皆さまお盆休みは満喫されましたか?台風の影響もあって予想外の出費も…なんてこともありましたかね笑
私ですか?私はお仕事です。
え?お盆も仕事だったのかですか?
はい、七連勤でございます…
皆さま…連休はお楽しみにお使いください…泣
本日もお読みいただきありがとうございました!!
次の更新は金曜日を予定しております!!




