第381星:形勢逆転
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
瞬間、対面する夜宵、そして周囲を高速移動していた幸町は、ゾッとした悪寒を感じ取っていた。
本能が危険を察知した両者は、しかし引くのではなく攻勢を強めた。
攻撃に転じさせてはいけない、そう判断したからだ。
「幸町の動線は私が、目の前の夜宵は勢いで飛ばして良い」
しかし、東京選抜の草壁 円香は、それに怯む様子は一切なく、淡々と天城に告げた。
「分かった」
天城もそれに身を任せ、『グリット』の発動態勢に入っていた。
「させません!!」
幸町がそれを察して加速。発動するまでのほんの数秒の間に攻撃を仕掛けようとするが…
「分かってるわ。ここでしょ」
その攻撃の動線上に、円香の拳が置かれていた。
「うっ!!」
攻撃の軌道を読まれた幸町は急旋回でこれを回避する。
「彼女の『直進邁進猛進』は確かに勢いがつくと厄介。だけど、加速すればするほど、彼女自身も急な方向転換が難しくなる」
掲げていた拳を下ろし、円香は呟く。
「それなら対応は簡単。攻撃の動線に、カウンターとなる攻撃を置いておけば良いだけ」
横髪を掻き上げ、円香は不敵に笑った。
「『未光粒操作』」
そして、稼がれた時間で天城は『グリット』を発動させる。
「『光速操作』」
そして、天城は再び黙示することすら困難な速度に到達。夜宵に襲い掛かった。
「(ま、ずい!!闇を全面に展開させて…!!)」
夜宵が思うよりも早く、天城は目の前に迫っていた。
「『硬歪翼球』!!」
夜宵を狙っていたのを見透かしていたのか、天城が夜宵に直撃する寸前、真衣が操っていた『硬歪翼球』が天城の真横に迫っていた。
「予測通りね」
しかし、その硬球は天城に直撃しなかった。
天城は夜宵に直撃する寸前に動きをピタリと止めたのである。
硬球は、そのままなら天城に直撃していたであろう場所で縦に弧を描いて再び加速した。
「(まだ!ここから!)」
一度かわされただけでは真衣は諦めなかった。
再び『硬歪翼球』を操作し、加速した勢いをそのままに、弧を描くようにして天城に襲い掛からせていた。
しかし…
「え…!?」
真衣が二度目の攻撃を仕掛けた時、天城は既に地面に伏せ、回避の態勢に入っていた。
それは、完全に真衣の攻撃の軌道を完全に読んでいたことを意味する。
「道祖土 真衣の硬球のコントロールは一流。だからこそ読みやすい。なら事前に軌道を読み取った軌道を伝えておけば良い」
後方で円香が呟くと、天城は二度目の真衣の硬球をかわし、再び『グリット』の発動態勢に入っていた。
しかし、その間に作られた時間で、夜宵は自身の周囲に闇を纏うことが出来ていた。
「(これならどれだけ加速した状態でも飲み込んでやるわ。さぁ、きなさい!!)」
天城は『グリット』を発動。そして、夜宵の真横を通り過ぎていった。
「なん…ッ!?」
夜宵は驚いて振り返ると、その移動先には、瑠河と真衣の二人が立っていた。
「二人とも!!逃げて!!」
夜宵の声が届くよりも先に、天城は二人の間にたどり着いていた。
「ッ!!発放必中……!!」
「『硬歪…!!」
「おせぇよ」
二人は素早い反応で天城に武器を向けるが、天城の速度はもはや反応できるものでは無かった。
天城は反復横跳びをするようにして両者に衝撃を与え、吹き飛ばす。
「先に倒すのは……鬱陶しい方からだ!!」
天城は攻撃の手を止めず、再び『グリット』を発動。衝撃で身体をくの字に曲げた状態の真衣に、追撃を加えた。
「ゲッホ…!!」
「真衣!!」
夜宵が声を張り上げるが、連続攻撃を食らった真衣は、勢いよく後方へ吹き飛び、そしてフィールドの外の壁に衝突した。
「夜宵さ……ごめんなさ……」
真衣の言葉は最後まで紡がれることなく、そのまま落下していった真衣は、フィールドの外で姿を消した。
その直後、フィールドの天井に張り付けられたモニターに、道祖土 真衣の脱落が表示された。
「う…あああああぁぁぁぁぁ!!!!」
目の前で真衣を脱落させてしまったことへの憤りから、瑠河が強引に弦を引き、矢を放った。
『その距離なら矢の分裂数は大したことない。真横に避けて、追い討ちを掛ければ良い』
「分かった」
通信機越しに聞こえてきた円香の指示に従い、天城は『グリット』を発動。
ほんの僅かに真横へ避けると、再び『グリット』を発動させ、瑠河へ接近。
攻撃を何発も直撃させ、強力な衝撃を与えた。
「ガッハッ…!!」
天城の攻撃の勢いに押され、瑠河もそのままフィールドの外へと吹き飛ばされていく。
「瑠河!!」
そのまま脱落しようかと言うところで、夜宵が吹き飛ばされた瑠河をキャッチし、どうにか脱落だけは免れる。
しかし、瑠河の受けたダメージは小さくなかった。
外見上は外傷は少ないように見えるが、衣服は衝撃によりところどころ破け、マッハに近い衝撃をその身に受けた身体は、ビクッビクッと痙攣を起こしていた。
「瑠河!!しっかりして!!」
「ゲホッ…!!だ、大丈……ゲホッ!!」
瑠河は弓を杖にしてどうにか立ちあがろうとするものの、その場に膝から崩れ落ちてしまう。
夜宵もその身を通して、天城の攻撃の一発の重さを受け止めているため、それを連続して浴びた瑠河の痛みは想像に難く無かった。
「(このダメージじゃ、下手をしたらジャッジの判断で脱落扱いにさせられる。瑠河にはまだ残っていて欲しいけど…)」
口元からの吐血だけでなく、衝撃により、額や身体の部分部分から出血もあり、瑠河は決して軽傷ではなかった。
「(あそこまで追い詰めたのに、一瞬で戦局を跳ね返された…!!これが東京選抜……)」
瑠河の介抱をしながら、夜宵は悠然と立つ天城と円香の二人を交互に見つめていた。
そしてその光景を、沙月も額に汗を垂らしながら見ていた。
「(ほんの数分時間を与えてしまっただけで戦局がひっくり返された。カナエのイメージの中にその事もあったのに、仕留めきれなかった。このままじゃ不味い…)」
カナエのプランでは、夜宵が前衛に出た事で、それをサポートする形で一気に仕留めることになっていた。
その予想を上回ってきたのが、円香の予測能力。
再三に渡る幸町の攻撃の妨害。そして、矢の軌道を読み切り、更にはこれまで連携して天城を封じ込めてきた真衣の『硬歪翼球』の軌道さえも読み切ってしまった点である。
これらは全て、いずれ読み切られるとカナエも予測していた。
そして、それに所要する時間は5分が目処だと考えられていた。
この点で、円香はカナエを上回った。
カナエが5分と予測していたラーニングに、円香は3分で完遂してしまったのである。
これが、カナエのプランを狂わしてしまっていた。
「(カナエ本人が入れば、途中で計画の変更も出来たはず。やっぱり私じゃカナエの代わりは果たせない…)」
カナエが脱落間際に残したイメージを活かすことが出来ず、沙月は自身への憤りを隠せずにいた。
と、そこへ、加速した状態で戻ってきた幸町が話しかけてくる。
「沙月さん!これは恐らくプランとは違いますよね!?」
真っ直ぐな問いかけに、沙月は僅かに口を開いた後、悔しそうに頷いた。
「もはやカナエさんが沙月さんに残してくださったプランは殆ど実行に移せないと思います!!ですから、我々もカナエさんのプランを超えていきましょう!!」
「カナエのプランを越えるって…どうやって…」
困惑する沙月に対し、幸町はこれまでとは違う、どこか憂いを帯びた笑みを浮かべた。
「簡単です。今の自分の限界を越えるんです」
その言葉を聞いて、幸町が何をしようとしているのかを理解した沙月は、幸町の肩を掴んで首を振った。
「ダメよ!貴方、だって…それは!」
その手を、幸町はソッと下ろし、再び笑みを浮かべた。
「やるしかないんです。我々が勝利を収めるためには、彼らを超えなくちゃいけない。そうでなきゃ、勝つことなんて出来やしない」
幸町は沙月から目を離し、天城達にキッと睨むようにして「だから…」と続けた。
「私は今ここで、自分の限界を越えます」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




