第379星:三分
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。『グリット』は『他化自在天降臨』で、自身の背面に5〜15mのエナジー体を顕現させ、高い防御力と攻撃で相手を圧倒する能力。
「発放必中、『横雨の矢』」
瑠河達は、天城達と距離を取りながらも、的確に嫌がる対応を続けていた。
瑠河の増殖する矢を広範囲に放ち、天城達の移動を制限する。
天城達もこれを避けざるを得ず、各々回避を選択する。
そこへ、幸町が特攻を仕掛けることで、天城の『グリット』を封じる。
円香もこの攻防に加わり、どうにか天城に『グリット』を発動させるタイミングを作り出そうと奮闘するが、瑠河の矢により天城との距離感を開けられ、対応することが出来ずにいた。
瑠河の矢だけであるのならば、天城は『グリット』を発動することは可能だが、それを阻むようにして加わっているのが真衣の硬球。
幸町の速度だけでなく、真衣の投げた『硬歪翼球』も、既にその速度は300km/hを超えており、天城の行動を阻んでいた。
そして、周囲を旋回していた硬球が、瑠河の矢が到達するまでの間を埋めるようにして、天城に襲い掛かっていく。
これをどうにか回避するが、続け様に瑠河の矢が降り注ぎ、天城達は回避行動に移るしか無かった。
「チッ…いい加減うざってぇな。おい円香。三つのうち二つは対応出来るんじゃ無かったのか!?」
苛立ちをぶつけるようにして、天城が円香に問い詰める。
「ウソは言ってない。けど、ちょっと状況が変わった」
円香はようやく取り戻した冷静さで、天城の問いに答える。
「一つ、関東選抜の矢武雨 瑠河の攻撃が、単発から広範囲に切り替わった。貴方の身の回り分を防ぐことは出来るけど、その分処理に余力を費やす必要がある」
次いで円香は、再び周囲を旋回している硬球に目を向けた。
「二つ、周囲を回ってる硬球の速度が想定よりも速い。防ぐ手立てがあると言ったけど、実際は少し違う。だからそれについてはもう少し時間が欲しい」
天城もそれは感じ取っていたのか、鼻で「フンッ」と息をしながらも認めていた。
「…んで、肝心の幸町の奴の対処は?」
「そっちはいつでも大丈夫。早くても軌道は単調。いつでも対応出来る」
唯一の朗報に、しかし天城は「そーかよ」と対して感想を持たず答えた。
「結果として必要なのは時間ってことか。だがこのまま時間をかけて追い詰められるのは俺らだ。どのくらい必要なんだ」
「五分…いや、三分あればここから逆転出来る」
先程までの絶望的な感情はそこにはなく、円香は力強く宣言した。
「三分か。上等じゃねぇか。そんくらいなら凌いでやるぜ」
天城もそれに応えるようにして、ニヤリと笑みを浮かべた。
その不吉な感覚は、遠方にいた瑠河達も感じ取っていた。
「何か狙っているな…どちらにせよ、草壁 円香がいる限り、時間が経てば経つほどこちらの動きを見極められる。倒すなら早いに越したことはない」
「どうする?『グリット』の相性もあるし、私が前に出て戦おうか?」
その言葉を聞いて、瑠河は迷う様子を見せていた。
「…彼女達を前衛に置いて仕掛けるのがベストだと思うが、これ以上時間を掛けられないのも事実。夜宵を前に出すのもやむを得ないか…しかし…」
幸町が一度攻撃を受けてしまった時点で、夜宵を前衛に出すプランは瑠河も考えていた。
夜宵の『グリット』ならば、例え天城が『グリット』を使用して突っ込んできても、却って勝利になる可能性が高かったからである。
無論、予知にも近い予測を可能としつつ、その戦闘の主体は接近戦である円香に対して、でもある。
しかし、瑠河が懸念していたのは、それとは別のことであった。
「(夜宵を前衛に出すのならば、まだ本格的な動きを見せていない今が好機だ。だが…)」
「瑠河」
そんな迷いを見透かしたように、夜宵は瑠河に声をかけた。
「瑠河が何を心配してるのかは分かってるわ。昨日の時」と同じ、暴走のことでしょ?」
夜宵本人にそう問われ、瑠河はピクっと肩を揺らし、頬から一筋汗を垂らした。
「心配するなって方が無理よね。誰よりも貴方が一番そばで私の暴走を見てて、それに巻き込まれちゃったんだから」
対して夜宵の口調は重苦しいものではなく、しっかりと現実を受け入れているようなものであった。
「暴走した本人が言っても説得力無いだろうけどさ、多分、今は大丈夫」
「夜宵…」
夜宵はハッキリと告げた。
それでも瑠河は、やはりどこか不安そうな様子で夜宵を見ていた。
「この決勝の直前で教えられたんだ。私が最後に自分で戦えたのは、私の仲間達がまた貴方を呼び戻してくれたからだって。私もそう思う。実際そうだった」
それも見透かして、夜宵は瑠河に続けて語りかける。
「暴走するつもりなんて毛頭ない。暴走なんてしない。けど万が一暴走してしまっても、私を呼び戻してくれる仲間がここにはいる。だから、私の心はいま、とっても平穏」
確かに、第三部の時とは違い、夜宵には大分余裕があるように見えた。
自分から動くのではなく、周りの意見を聞きながら動く。そんな冷静さが感じられた。
「だから、大丈夫だよ瑠河。私は自分のまま、戦える」
夜宵は瑠河の顔を真っ直ぐと見据え、自分の意思と言葉を口にした。
瑠河は僅かな逡巡していたが、夜宵の真っ直ぐな瞳に後押しされるようにして頷いた。
「…分かった。夜宵を前衛に置いて、一気に勝負を仕掛けよう。東京選抜を脱落させて、近畿選抜との一騎打ちに持ち込もう」
「分かったわ!」
「わ、分かりました!」
夜宵に続き、真衣もこれに頷き同意する。
「じゃあ、行ってくるわね」
そう言って夜宵は前に出て、瑠河達のもとを去っていった。
「や、夜宵さん、大丈夫…ですよね?また暴走したりなんて…」
瑠河とは違い、遠巻きからしか見ていなかった真衣ではあるが、それでも夜宵の暴走は真衣も不安に思っていた。
しかし、先程までとは対照的に、瑠河の表情はどこか明るいものであった。
「心配いらないさ。夜宵の目を見た時に、今度は大丈夫だと、そう感じたからな」
夜宵が前に進んでいく背中を見届けながら、瑠河はうっすら笑みを浮かべた。
「さぁ、彼女のサポートだ。そして、夜宵が何かあった時のための、呼び戻しの準備もしておこうじゃないか」
そう言って瑠河は、ゆっくりと矢を構えた。
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「(夜宵さんが動いた。カナエの予想通りだ。だとすればこの次の狙いは東京選抜を倒すことのはず。一先ず私達はその流れに乗る形でいれば良い。だよね、カナエ)」
カナエの『グリット』でイメージをある程度受け取っていた沙月が次の動きのための行動に移る。
「幸町さん、やる事は同じで良いので、夜宵さんをカバーするようにして天城さんを攻撃してください。幸町さんのカバーは、関東選抜と私でします」
「成る程!!了解しました!!」
幸町は沙月の発言を微塵も疑わず、天城に攻撃を仕掛けにいった。
「たはは…あの真っ直ぐさ、ちょっと見習わないといけないかもね」
再び天城に猪突猛進を仕掛けた幸町を見届けながら、沙月は場所を移動し、矢の狙いをつけられる位置へと移った。
「(カナエの指示も東京選抜を狙うものだった。だから行動自体は間違ってないはず。順当に行けば、もうあの二人に打つ手はないはず…なのに…)」
弓を構え、目標を定める沙月の目は、どこか不安を感じていた。
「(なんだろう…何か危険な…嫌な予感がする。何かを見逃してるような……)」
モヤモヤと広がる不安を、沙月は首を強引に振る形で振り払い、改めて天城達に狙いを定めた。
「(私が難しく考えたって仕方ない。カナエがたてた作戦以上のものを、私が考えつくはずがないんだから。私はカナエの言葉と考えを信じれば良いだけ)」
迷いを拭い捨て、沙月はキュッと矢の弦を引き、放つ体勢に入っていった。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




