第40星:出向
国舘 大和(24)
新司令官として正式に根拠地に着任した温和な青年。右腕でもある咲夜とともに改革にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。そして全員の信頼を得ることに成功し、『小隊編成』という新たな戦術を組み込んだ。
咲夜(24?)
常に大和についている女性。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。大人しそうな風貌からは想像できない身体能力を誇り、『グリッター』並びに司令官である大和を補佐する。現在は指揮官として彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。大和の言葉により、『天照す日輪』を覚醒させ、初の実戦で仲間の命を救った。大和に指名され、新戦術の小隊長に任命された。
曲山 奏(20)
朝陽小隊のメンバー。明るく元気で爽やかな性格。サッパリとした人物でありながら、物事の核心をつく慧眼の持ち主。趣味はツーリング。
「は…?本部へ出向…ですか?」
ある昼下がり。業務を行なっていた咲夜に、大和がそう告げた。
「そうなんだ。ボクが提出したメナスの『知性』に対して、最高議会の人が興味を持ったみたいで、実際に現場を見た人と話をしたいらしくてね」
「現場を…ということは出向対象は私や大和ではないということですか?」
作業を止めて答えた咲夜の発言に、大和は首を振る。
「残念ながら監督する立場としてボクも行かないと行けないんだ」
「まぁ…それでしたら私が代わりに参りましょうか?私も監督する立場ですし…」
「いや、今回は最高司令官からもボクを名指しで指名しているからね。ボクが行かないとダメなんだ」
大和は執務室の外に広がる景色を、僅かに険しい目つきで見つめ、「それに…」と続ける。
「まだ、君の正体に気付かれる事態は減らしておきたいんだ」
その言葉に、咲夜は僅かに沈んだ表情を見せた後、直ぐに凛々しい顔つきへと戻した。
「分かりました。それではその間、この根拠地のことはお任せください」
「うん。任せた」
互いの信頼関係を見せたところで、咲夜はふと気がつく。
「それで、現場を見た人物…と言うのはどなたをお連れになるおつもりで?」
●●●
「え!?わ、私が最高本部にですか!?」
突如大和に呼び出された朝陽は、告げられた内容に更に驚かされる。
「そうだ。君に、ボクと一緒に本部へ来てもらいたいんだ」
いきなりの申し出に、朝陽は少し困惑した様子だった。
「司令官の命令とあれば、勿論喜んでお受けしますが…何故私なんでしょうか?」
「今回最高本部から出された人員要求は、現場を知る人物だ。君は実際にその現場にいて、更にその複数体のメナスを相手に間近で戦闘を行なってきた。だから君が良いと思ったんだ」
朝陽は納得したように頷くが、直ぐにふと気がついた様子を見せる。
「それなら、三咲さんが私以上に適任なのではないでしょうか?私以上に戦場にいた時間は長いでし、三咲さんは『グリット』で全体を見ることも出来ていたわけですし…」
「ボクも当初はそのつもりだったんだけどね。実を言うと、最高議会の一人が君を指名してきたんだ」
大和の言葉に、朝陽は今日一番の驚きの表情を浮かべた。
「ぐ、『軍』最高権力者の議会が…私を!?ど、どうしましょう!?わ、私何かしでかしてしまったんでしょうか!?」
驚きは困惑から不安に代わり、朝陽はオロオロと落ち着きがなくなる。大和はそんな朝陽を苦笑いの表情を浮かべながら宥める。
「や、そんな心配しなくて大丈夫だよ。さっきも言った通り今回の出向内容はメナスの『知性』に関する情報収集だ。それに…」
大和は机の上に手を置き、その上に顔を乗せ、優しい笑みを浮かべながらこう続けた。
「万が一君を責めるようなことがあれば、ボクが君を全力で守るからさ」
ボッ、っと、朝陽は自分の顔が熱くなっていくのを感じていた。それに何故か大和を直視できない。思わず朝陽は目を下に逸らし俯いてしまう。
「あ、あの、えと…はい、宜しくお願いします…」
「…ん?どうしたんだい?下を向いて」
「…大和はもう少し自覚を持った方が宜しいと思います」
「…?」
何故か怒った様子の咲夜に首を傾げながら、大和は改めて朝陽に内容を伝える。
「ともかく出発は明後日。朝に出発して夜には戻ってくる。状況に応じては一泊もあり得るがその辺は臨機応変に。どうかな、受けてもらえるかな?」
大和に言われたことで、朝陽は謎の気恥ずかしさよりも、頼られたことの嬉しさが勝り、笑顔で了承の意を伝えた。
●●●
「ねぇ、ところで咲夜何か怒ってる?」
「怒ってません!!どうぞ二人で東京への旅を楽しんできて下さい!!」
どうみても怒っているのだが、それよりも大和は咲夜が勘違いしていることに気が付いた。
「二人?何言ってるんだ咲夜」
「え?」
●●●
翌日。大和、朝陽、そして奏を加えた三人が根拠地に停められていた船に乗り、最高本部へと移動していた。
「やー!!最高の船出日和ですね!!太陽の光を反射させている海の水が出てとても美しいです!!」
手で目元に影を作りながら、奏は気持ちよさそうに潮風を浴びている。
奏を選出したのは、大和の判断だ。
朝陽に指名はあったものの、当然それだけでは情報は十分では無い。とは言え三咲を連れて行った場合、新しく編成した小隊の隊長が二人居なくなってしまうことになる。
それでは小隊にした意味がないと判断し、当時最後まで戦場にいた人物、奏を選出したのである。
と説明したのだが、咲夜は結局「両手に花ですね!!」と怒鳴っており、大和にはその理由が分からず終いだった。
「それにしても司令官殿!!わざわざ私を選んだ理由はなんなのでしょうか!?他の小隊長を呼ばないのは分かりましたが、それならそれで他にも候補はいたのでは!?」
相も変わらず聞きづらいことを大きな声でハキハキと尋ねる奏に、大和はいつも通りの笑みを浮かべて答えた。
「そうだね。候補だけで言えば他にもいた。その中で君を選んだ理由の一つは、君が朝陽君の小隊メンバーだからだ」
「成る程!!」
「…分かってないよね?」
「すいません!!分かっていません!!」
分からないとハッキリ告げる奏に流石に苦笑いを浮かべるも、大和は続ける。
「小隊長の朝陽君が召集に応じた時点で、朝陽君が戻るまでは小隊の面々は基本的に出動しない。だからその小隊のメンバーを呼ぶのが一番良いんだよ」
「ふむ…でしたら梓月さんを呼んだ方が宜しかったのではないでしょうか!?知っての通り私はあまり口上手ではありませんので!!」
「自覚はあるんだね…でもそれで良いのさ」
大和の返しに、奏は首を傾げる。
「梓月君は得てして遠慮した発言をしてしまうことがあるんだ。今回の最高議会の人達はそういったところから揚げ足をとる事が上手いからね。いっそのことハッキリ言ってしまった方が都合が良いんだよ」
「成る程!!つまり私は都合の良い女と言うことですね!!」
「いや言い方よ…結果的にはそうかもしれないんだけどね?」
純粋な朝陽は大和を悲しい面持ちで見ていたが、直ぐに冗談であることを伝え頰を赤らめた。
「まぁでも意図は了解しました!!ハッキリ言うことでしたらお任せください!!」
と言うものの、奏は別に何でもかんでも単刀直入に言うわけではない。
キチンとしたモラルは持っているし、相手を傷付けるような発言はしない。言うべきことは言うタイプの人柄なのである。
大和はその辺りを評価して奏を連れてきた。
発言に間違いの無さを求めるならば梓月や華でも良かったが、丁寧かつ物腰の良さが逆に疑いを呼ぶ可能性もあった。
その点、奏は物怖じなくハッキリと芯をもって伝えられる強さがあった。今回のような重鎮を相手にするにはもってこいの人物と言えるだろう。
「(しかし…今回朝陽を指名した最高議員…他の議員とは少し雰囲気が違ったな)」
大和は今回の出向に一つの懸念を抱いていた。
「(最高議員の議員でありながらまだ三十代…他の議員が六十代を越していることを考えれば異例の出世だ。調べても何も出てこないし、何者なんだ…)」
まだ二〇代前半の大和が司令官についている時点で他人のことを言えはしないが、それ以上に異例の話なのである。
その人物が朝陽を指名し、話を聞きたいという…懸念を抱かないわけがなかった。
「(《知性》に関して疑いを持っているわけではなさそうだったが、何かそれ以外の目的もあるようだったな…その目的が何なのかも気になるが、もしそれで朝陽達に危害を及ぼすのなら…)」
「あの…司令官?」
ハッ、と大和は我に帰る。直ぐ横では朝陽が心配そうな表情を浮かべてこちらの様子を伺っていた。
「あぁいやすまない。少し考え事をね。大したことじゃないよ」
「なら良いんですけど…何かお力になれることがあったら言ってくださいね!!この旅路では私達は司令官専属の『グリッター』ですから!!ねっ!奏さ…」
「わ!!見てくださいお二人とも!!カモメですよカモメ!!たくさん飛んでます!!可愛いですね!!」
「…大丈夫。頼りにしてるよ…」
「は、はい…あの…すいません…」
こうして、三人の東京、『軍』最高本部への旅路が始まった。
※ここから先は筆者の後書きになります!!別段珍しいことも書いてないので、興味のない方はどうぞ読み飛ばして下さい!!
ども、琥珀でございます!
台風ですか!!台風ですね!!
昔はヒャッハー!!とテンション上がったもんですが、社会人となった身となっては嫌なものでしかないですよね…
それとは別として皆様の方にも被害がないことをお祈りします。
それでは、私は今から外に行ってきます…ヒャッハー!!
本日もお読みくださりありがとうございました!!
次回の更新は月曜日になります!!




