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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
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第371星:侵入者

国舘 大和(24)

 千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。

 その女性は、織田 野々の『グリット』発動により盛り上がる観客席から人知れず抜け、そして人目の少ない廊下を早歩きで歩いていた。


 薄暗い廊下で、姿が見え辛くするためか、薄暗いローブを見に纏い、出口へと向かっていく。



「これで役割は果たした…あとはこれをお届けするだけ…」



 女性は小さく呟きながら、ようやく目に見えてきた出口に目を向ける。



「おや、お嬢さん。観客席の出入り口なら反対側ですよ?」



 それを目前にした時、目の前にひとりの男性が現れた。


 女性は驚きながらも冷静さを保ち、男性の身なりを見つめる。


 将校の服装を身に纏っていることから、男性はどうやら『軍』の関係者のようであった。


 呼び止められたことには動揺したが、女性はそれを表には出さず、()()()()()()()、将校の男性の言葉に答えた。



「ご親切にありがとうございます。でも私疲れてしまって。今日はもう帰ろうと思っているところなんです」



 ボロは出さず、自然な受け答えで答えると、男性も納得した様子を見せた。



「あぁそうでしたか。しかし、これからが最も盛り上がる場面なのに勿体ない。良ければ落ち着かれるまで休憩室までご案内しますよ?」



 女性は内身舌打ちをしていた。


 出口はあと50m程先。辿り着きたい目標は直ぐそこなのに、何の気のない将校の男性に邪魔され、苛立っていた。



「いえ、お構いなく。最後まで見れないのは残念ですが、見たいものはもう見れましたので」



 とにかく早く男性を退けたかった女性は、半ば強引に言葉を口にしながらその場を去ろうとした。



「見たいものは見れた、ですか。でも、彼女達の真価はこれから発揮されるかも知れませんよ?」



 その言葉を聞いた時、女性の足が男性の前でピタリと止まった。


 そして、直ぐそばに立つ男性の顔を横目で見る。


 男性は変わらず優しげな笑みを浮かべたままであり、同じく女性を見つめていた。



「それは……どういう……」

「どうもこうも、彼女達の真価は、『グリット』だけじゃ無いと言うことですよ」



 ピクリ、と女性の肩が揺れ、そして額からツー…と汗が一筋垂れた。



「お、面白いですね。まるで、私が何を見に来ていたかご存知かのようで…」

「『大輝戦』に出場する『グリッター』の『グリット』でしょ?先程の織田 野々の『グリット』で全員出揃いましたもんね」



 表情が固まる女性とは反対に、男性はやはり柔和な笑みを浮かべていた。



「え、えぇそうですね。私、『グリット』に興味がありましたので、全員の分が見れただけで十分ですから…」

「それはそれは…残念です。でもそれじゃあ、貴方のボスは満足しないんじゃ無いですか?」



 その言葉が皮切りとなった。


 女性は途端に鋭い目付きになり、男性目掛けて大量の針のようなものを()()()()()()()()


 男性はそれを受け、倒れ込むかのように後方へと崩れ落ちていった。


 女性はそれを見て駆け足で出口へと向かって駆け出そうとするが…



「気が早いな。まだ話してる途中だったと思うけど?」



 目の前に、再び同じ男性が姿を現した。


 驚いた女性が背後を振り返るが、そこには将校の被っていた帽子しか無く、男性が倒れた姿はどこにも無かった。



「やれやれ……大きな舞台である事に加えて、周囲の状況が状況だから、検閲は厳しくなってる筈なんだけどね。どうやって入り込んだのやら」



 男性の口振りから、自分の正体が完全にバレていることに気付いた女性は、一般的の()()を止めて問いただした。



「なんでバレた!!私の偽装は完璧だったはずだ!!」



 口調も先程までとは違う、どこか荒々しいもので、まさに正体を現した、といった感じで有った。



「何でと言われると困るけど…まぁ一般人のフリとかをしていても、絶対どこかに本来の癖っていうのは出るものだよ。君も御多分に洩れず、普通の人とは違う、戦闘員の癖が出てたんじゃ無いかな」



 男性の言葉に、女性は眉を寄せた。



「じゃ無いか…って、確証も無く私を止めたと言うのか!?」



 そう言うと男性は、少し困ったような表情を浮かべて答えた。



「あ〜まぁね。ただちょっとこれには訳があってね。ボクは普通の人よりそういうのに敏感なんだ。()()()()()()()



 その時一瞬、女性は悪寒を感じ、思わずその場から一歩立ち退いた。


 瞬間的に見せた男性の表情が、ただの男性とは思えないほど圧のこもったものであったからだ。


 しかし、直ぐに我に返り、女性は冷静さを取り戻す。



「(落ち着け…相手は『軍』人だが、()()()()()だ。男性の将校はクズで口先だけの雑魚ばっかだ。『グリッター』でもない。簡単に対処出来る)」



 次の動きを決めた女性は、タイミングを図る。



「さっきの針みたいなの、アレは『グリット』だよね。多分『軍』のデータベースには無かった能力なんだけど…君はどこの者かな?」

「それを……わざわざ口にするわけないだろ!!」



 男性との距離は5mも離れていない。女性は再び口から針を吐き出し、男性目掛けて放った。



「それもそうか」



 が、男性はその複数の針を最小限の動きでかわした。


 身体を動かしたのは一度のみ。それだけで、他の針が当たらない事を見切ったのだ。



「は……え?」



 当然、女性は呆然とする。


 女性の『グリット』、『出生針(ニードル・バース)』は、身体の一部、もしくは全身から針を生成し、放ったり防御に使用する能力である。


 その速度は決して遅くは無く、人が全力で球体を投げる程度の速度は出るだろう。


 それが細かく分散し放たれたにも関わらず、男性はそれを最も容易く回避した。


 ただの将校と思っていた女性からすれば、呆然としてしまうのも無理はないだろう。



「さて、となると君をこのまま返すわけには行かないな。これでも大事な仲間の『グリット(情報)』なんでね」

「今のをかわすって…アンタまさか『グリッター』なの!?」



 男性の言葉はもはや耳に届いていないのか、女性は困惑した様子で男性に尋ねた。


 男性は困った様子ながらも、素直にこれに答える。



「『グリッター』じゃないよ。ボクはとある根拠地のしがない司令官さ」



 そんな筈は無い、と女性は心の中で叫んだ。


 普通の人間が、あの距離での攻撃をかわせるはずが無い。それを目の前の将校は容易くやってのけた。


 それが『グリッター』でない筈がない。


 女性は最大限に警戒心を上げ、男性と対峙する。



「その若さであそこまで一般人に擬態する技術を身に付けたのは恐れ入ったよ。ボクも外部の相手への認識を改めないといけないね」



 警戒する女性とは対照的に、男性はどこまでも平然とした様子で、しかもあろうことかゆっくりと距離を詰めてきていた。



「ッ!?『出生針(ニードル・バース)』!!」



 それを恐れた女性は、今度は口からだけで無く、全身から針を出現させ、先程の何倍もの針を男性に向けて放った。


 一見すれば避ける隙間もないほどの大量の攻撃。


 そんな針の攻撃の嵐の中を、男性はまるで散歩するかのようにゆっくりと歩き、針を避けながら近付いていた。



「嘘…でしょ!?」



 次々と針を放つ女性は、近付いてくる男性に完全に萎縮していた。


 そして、二人の距離が1mほどになった時、男性は瞬間的に加速。


 そして、女性の側面に立つと、身体の僅かな隙間に空いた首部分に手刀を見舞った。



「なん……で……」



 女性はグラつきながら、男性の手刀により簡単に意識を手放した。



「悪いね。()()()()()()()()()()()()、ボクにとっては散歩道のように穴がポッカリ空いてたよ」



 男性は倒れ込んだ女性を抱き抱えると、ゆっくと背中へ背負い直した。



「さて、彼女は『レジスタンス』か『アウトロー』か…ボスって言葉に反応してたし、恐らく前者かな」



 侵入者の存在に気付き、見事に情報奪取を防いだ男性、大和は、ハァ…と息を吐いた。



「こういう時代だから仕方ないんだろうけどさ。女性に手を挙げるのは好きじゃないんだよね。早いとこ、本部の人達にこの子を預けよ…」



 大和は自分の行いを悔ながら、ゆっくりと本部の奥の方へと歩き始めた。

※本日の後書きはお休みさせていただきます






本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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