第369星:一矢報いる
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。
「(妙だな…戦い方を変えてきた割には動きが少ない…何かを狙っているのか…?)」
攻撃の準備を整えながら、遥は動きをほとんど見せない関東・近畿選抜の行動に違和感を覚えていた。
「(こっちには円香ちゃんの予測がある。何か異変があれば対応出来るはず…と、普段なら言えるんだが…)」
遥はチラッと視線をずらし、黙々と地面に図を描いていたカナエの方を見た。
「(あっちには黒田 カナエがいる。彼女の戦略家としての才能は、東京本部の一等星さえ及ばない。無論、私であっても。彼女がこのままの展開を望む筈もないし…何を狙っている?)」
遥が思い切って攻撃に出ることが出来ないのは、カナエの存在があるからである。
戦局のコントロールだけならば遥も引けを取らないが、戦局を見極め、且つ的確な戦略を練るとまでなると、カナエはレベルが違う。
遥でさえ一目置くその存在に、遥は慎重にならざるを得なかった。
「(とはいえ、私が攻撃しなくちゃ天城くんは格好の的だ。数的にも不利だし、攻めないわけにはいかない……成る程、上手く選択肢を減らされたわけか)」
普段にこやかな遥にしては珍しく、無機質な表情でカナエを見つめた。
「…誘い込まれているような気がしてならないが…やらないわけにもいかないか」
遥は両手の輝弾を輝せ、その弾丸に性質を込めていく。
「『分裂弾』×『分裂弾』=『分裂炸裂弾』」
二つの輝弾が重なり、一つの性質を持った輝弾が作り上げられると、遥はそれをカナエ達に向かって放つ。
「数ならば沙月ちゃんは対処しきれないし、『分裂炸裂弾』レベルまで分裂数を上げれば、瑠河ちゃんの『グリット』でも対応しきれないでしょ。さぁ、どうする黒田 カナエ」
輝弾は弧を描くようにして上空へと放たれると、空中で数えきれないほどの数の弾丸に分裂。
そして、もはや回避は不可能な弾丸の雨となってカナエ達へと降り注いでいった。
それに真っ先に反応したのは、朝陽だった。
「両手撃ち…!!今だ!!」
瞬間、朝陽は円香から距離をとり、カナエ達の方へと槍を向けた。
「!?なに…を!?」
完全な予測外の行動に、円香が戸惑っていると、朝陽は既に行動に移っていた。
「『無限輝矢』!!」
槍だけでなく、『六枚刃』も呼び寄せると、『フリューゲル』が弓の形を取り、そこから光の弦が繋がる。
その弦を力強く引き、手放すと、そこから『フリューゲル』も含めた大量の光の矢が一斉に放たれた。
「!?」
朝陽からの攻撃が自分の方へ放たれたことに遥も気付くが、光の矢は遥の方へ迫ってきてはいなかった。
標的は遥の放った輝弾。
降り注ぐ無数の輝弾に対し、同じく無数の矢が交錯し、朝陽の『光の矢』が持つ『誘導効果』こ効力も相まって、次々と遥の輝弾を撃ち落としていった。
「(私が『分裂炸裂弾』を放つのを見越してカナエちゃんの指示で放たせたのか!?いや、そこまで読んでいるのなら、もっと早くに回避行動に出ることも出来たはずだ。それをしなかったと言うことは狙いは別に……!!)」
その時、遥はハッとした表情を浮かべ、次々と撃墜される輝弾から目を離し、カナエ達の方を振り返った。
────ストンッ
遥が振り返ったのと、自身の肩口に弓矢が刺さったのは、ほぼ同時のことだった。
「一弓入輝・『衝撃輝波の矢』。やっと隙を見せてくれたわね」
────パァン!!
その矢は、肩に突き刺さったのと同時に、強い衝撃波を放ち、遥の身体を後方へと吹き飛ばしていった。
「!?遥さん!!」
その姿を見た円香が一度戦線を離脱し、朝陽のもとを離れる。
「…チッ」
円香の離脱で不利になると判断した葉子も、ここで一度野々から離れていく。
「フハッ!文字通り一矢報いてやった、というやつか!!やはりやるな、黒田 カナエ」
全てはカナエの戦略通りであることを悟り、野々は密かにカナエに賛辞を送る。
そして、遥の身を案じて集まった円香と葉子の姿を見て、野々の表情がスッと変わる。
「さて…ではいよいよ我の出番だな」
●●●
「(やられた…!!彼女達の狙いは最初から遥さんの両手撃ちだったんだ…!!それをまさか、私達の戦場を巻き込んで、朝陽さんに強力させるなんて…!?)」
急いで遥かのもとへ走る円香は、自分の予測不足を悔しむ。
「遥さんの合成弾は強力。だけどその分、撃った後にほんの僅かな隙が出来る。黒田 カナエはそれを見抜いた上で、その隙をついてきた、ってわけね」
隣に並び並走する葉子も、円香と同じ結論に至っていた。
そして、遥のもとまで辿り着くと、そこには滅多に見られないであろう地べたに倒れ込む遥の姿があった。
「遥さん!!」
円香が急いで抱き起こす。
幸いにして衝撃系の攻撃であったためか、外傷は肩に刺さった矢の傷以外は無く、吹き飛ばされた衝撃で意識が混濁しているだけのようであった。
「二つの戦場をまとめるだけじゃなく、私達の方の戦場まで巻き込むなんて、大胆なことするわね。さすが黒田 カナエ」
同じく遥の様子を伺いにきていた葉子が、周囲を警戒しながら、カナエの戦略を讃える。
「私が迂闊だった…相手の情報を読み切ったと思って、戦局を簡単に広げすぎてしまった」
「それが円香の判断だったのなら信じるでしょ。実際、私の方に来てくれなかったらヤバかったし」
滅多に人を慮る言葉を口にすることのない葉子が、旧知の仲である円香を慰めるが、円香は悔しそうに首を横に振った。
「これが本当の実戦ならそんな事言ってられない。遥さんは命を落としていたかも知れない。それは決して許されないこと」
円香は自分を厳しく叱咤するが、それが同時に事実であることも理解していた葉子も、それ以上円香をフォローすることはしなかった。
「結果として、私が黒田 カナエを……いえ、両選抜を甘く見ていたのが原因…二度と失態は許されない」
「それが分かってるなら上々でしょ。『大輝戦』とはいえ、所詮は模擬戦。学習の場よ。それを次に活かしなさいよ」
普段とは立場が逆。葉子が円香を励ましているような状況であった。
「う……」
その時、円香の腕に横たわっていた遥の目の焦点が合いだし、真っ直ぐ円香の方を見る。
「円香ちゃん……かな?私は……」
「衝撃波を浴びて、意識が混濁していたんです。今の状況、分かりますか?」
遥は周囲の状況を見渡しながら、ズキンッと痛む肩口の傷を見て、ゆっくりと状況を把握していった。
「そうか…私のフルアタックの弱点を突かれて矢の攻撃を……」
痛みが却って頭の回転を戻させたのか、遥は先程よりも状況の理解を深めていく。
その時、葉子は周囲を警戒しながら一つの違和感を覚えていた。
「(どうして追撃が来ないの…?遥さんが倒れている今こそ最大の好機のはずでしょ)」
自分達がいま、窮地に陥っていることを自覚していた葉子であったが、その予想に反して、両選抜からの攻撃がないことに違和感を感じていた。
「(……考えてみれば、遥さんに当てた矢も、衝撃波じゃなくてもっと攻撃的なものだったら、脱落とまではいかなくてももっと追い込むことは出来たはず…それをしなかった理由は何…?)」
その時、遥が円香の腕の中から、葉子が直ぐそばに立っているのを見て、表情を一変させた。
それまでボーッとしていた様子の表情が一瞬にして険しくなり、無理やり身体を起こした。
「遥さん!まだ身体が…!」
「そんなこと言ってる場合じゃない!みんなすぐにここを離れるんだ!」
身体の痛みをおしながら、身体を起こした遥は、円香達に離れるように声を荒げて叫ぶ。
「離れるって…どうして…」
「円香!!君ほどの者がいて分からないのか、この危険な状況に!!」
円香の意識はここまでの失態と遥に対する心配で、完全に思考が停止していた。
それに気付いた遥が、同じく自分の失態がこの状況を作り出してしまったことを悟り、悔しげな表情を浮かべる。
「とにかくここを離れるんだ!!急がないと来るぞ!!アレが!!」
遥がそう呟いたのが最後だった。
次の瞬間、自分達から少し離れたところで大きな発光。
そして突如、巨大な鎧武者が姿を現した。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は明日、水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




