第366星:足止め
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。
「よし、それじゃあ天城君の言う通り、幸町君の足止めをするかな」
左手から無数の球体を生み出し、遥は遠目に映る幸町に目を向ける。
「(あの速度じゃ通常弾はもちろん、誘導弾でも当たらないな。動きを利用して『操作弾』で追い詰めても良いけど、向こうのほうが早い以上、足止めとしては不十分かな)」
遥は下に向けていた手をひっくり返し、弾丸に性質を込めていく。
「(ここはやっぱり『分裂弾』が一番効果的だろう)」
遥が手を払うような仕草を見せると、周囲を漂っていた球弾が宙へと放たれていく。
弧を描くような軌道で次第に落下していくなかで、遥の放った弾丸は細かく分裂していき、高速移動を続ける幸町に襲い掛かった。
「むむっ…!!」
幸町は、狙いが自分であることを直ぐに悟るが、その広範囲且つ数の多い攻撃に、思わず後退して回避する。
「次は後方からだよ」
遥は再び球弾を展開し発射。
後方へ下がった幸町の背後から襲い掛かるような軌道で、再び輝弾が降り注いだ。
「なんの…!!」
幸町はただ回避するだけで無く、高速移動をしている状態の中で、降り注ぐ弾丸の雨を避けるような細かな動きでかわしていく。
がしかし、それこそ遥の狙い通りの動きであった。直ぐに『グリット』を発動させた遥は、前の弾丸が止む前に次弾を放った。
「うぬっ!?」
誘い込むようにして放たれる散弾に、何とか回避を続ける幸町の表情が歪む。
「やっぱり当たりまではしないか。まぁあの速度だもんね。でも十分に行動は制限出来てるでしょ」
自分の役割は全うしていると判断してか、遥の表情には余裕があった。
しかし、その時ふとあることに気が付く。
「…おや?空中線側の攻撃が止まった…?」
遥の言う通り、先程まで撃ち合いを続けていた沙月と瑠河からの攻撃がピタリと止んでいた。
幸町への攻撃は止めず、遥は視線を沙月達の方へと向ける。
そこでは、再び弓を構える二人の姿があった。しかし、その矛先は自分では無く、別のところへ向けられていた。
「…!制空権の奪い合いを放棄して、天城君に狙いを定めたか!」
直ぐにその意図を察した遥は、しかし、全く慌てた様子を見せなかった。
「円香ちゃんの予測通りだね」
そう、その動きは円香の『計算予知』によって予測されていた動きであった。
円香は予め、両者の攻撃が塞がれたら、遥との直接対決を避け、別の人物に対して攻撃を仕掛ける可能性が高いことを予測していた。
そして、その対象が恐らく天城になるであろうことも予測しており、その事も遥に伝えていた。
「(流石、十分に動きを観察しただけあって、予測は正確だね円香ちゃん)」
葉子の援護に向かった、この場にはいない円香に賛辞を送りながら、遥は両手で輝弾を浮かび上がらせた。
「さて、私を狙わないというのなら、私も空いた手で全力で攻撃に移ろうか」
先に動いたのは瑠河。
動きを封じられた幸町の代わりに、矢を放って天城を牽制。
『放発射抜』により、矢は無数に分裂していき、確実に天城の動きを鈍らせていた。
「その分、こっちに手が回らなくなってるけどね」
瑠河が抜けた分の隙を突くようにして、遥が輝弾を放とうとした時だった。
「…!」
────ピュン…!
という風を切る音ともに、ずらした遥の顔の直ぐ横を一本の矢が通過して行った。
「自分はもう狙われないと思った?私達が貴方から逃げるとでも?冗談じゃないわ。片手間で相手されておめおめと引けるわけ無いでしょ」
その言葉は遥には届かなかったが、その意志は伝わっており、遥は小さく笑みを浮かべた。
「成る程ね。狙いを変えて私をフリーにさせるんじゃ無くて、鼻っから四対二の状況をご所望だったわけか」
沙月達の思惑は、狙いを遥から天城に変えたのではなく、これまで地上と空中で分けていた戦場を一つに纏めることが狙いであった。
円香による予測で、通常の攻撃では当たらないことを悟った沙月達は、数で勝っている利点を活かし、天城をこの戦場に巻き込むことを選択。
これにより、地上の幸町と真衣を援護することが可能になる上、天城を攻撃することも可能。
加えて、倍の数(実際はカナエを入れて五人だが、戦闘能力がないため除く)がいるため、遥の攻撃にも対応可能な状況を作り出していた。
「なるほど…これは少し円香ちゃんの推測とは違うね。流石にすんなりと予測通りにはいかないか。ま、そりゃそうだよね、相手も人間だもの
円香の『グリット』が簡易的にではあるが破られたことにぬるものの、遥の顔から余裕の表情が消えることは無かった。
「ならここからはサポート力勝負だ。天城君の相手をしながら、全力の私を相手にできるか、勝負といこうじゃないか」
そして、遥は再び両手から無数の輝球を作り出し、交戦体制に入って行った。
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「向こうも交戦態勢に入ったわね。これで良いのよねカナエ」
遥の意識を向けるために、敢えてすんでの所へ矢を放った沙月が、後ろで控えるカナエに尋ねる。
「えぇ、完璧です。恐らく円香さんの予測では、私達は完全に遥さんから狙いを外す予定だったと思います。先ずはその予測から外れた行動を見せないといけません」
「その結果が戦場規模の拡大か。思い切ったことをする」
天城に向かって矢を放った瑠河は、その大胆な戦略に関心と呆れを交えた表情を浮かべていた。
「それくらい思い切った作戦練らないと智将なんてやってられませんよ。それより気は抜かないで下さいね。数で勝っているとは言え、相手の能力が規格外なのは変わりありませんから」
「分かってるわ。遥さんはこれで両手がフリーになったし、私と瑠河の二人で上手く入れ替わりながら対処していく」
「うむ。天城の方も相当数分裂させたが、巧妙にかわされてしまった。私単体の攻撃では当たらないだろう。こちらも沙月殿と連携して牽制を続けていくよ」
二人の言葉を聞いて頷いたカナエは、再び思考にふけりだした。
「(これで戦局に変化は加えられたはず。ただ攻め切るにはまだ物足りない。夜宵さんが真衣さんのサポートをしてるとは言え、接近されれば防ぎ切るのは難しいはず。接近されるのだけは避けたい)」
手癖なのか、考えるときの習慣なのか、カナエは再び地面に今の状況を纏めるようにして指で描いていく。
「(天城さんの加速は厄介だけど、加速できるのは一瞬。連続して発動は可能だけれども、そこには数秒のラグがある。付け入るならそこ…それが一番可能なのは幸町さんなのは間違いない)」
ガリガリと、およそ本人以外が見ても分からないような文字の羅列と図を描きながら、カナエは考え続ける。
「(その為には遥さんの攻撃を鈍らせて、幸町さんをフリーにする必要がある。それは今のところ上手くいっているけれど、恐らくここから本領を発揮してくるはず)」
ピタリと指を止めるのと同時に、カナエは複数の行動パターンを計算していく。
「(沙月さんと瑠河さんは同じ弓術使いにあって同じに非ず。遥さんの次の行動に合わせてこちらも動くのがベスト)」
そこまで結論を出しておきながら、カナエの表情はどこか冴えなかった。
「(ベストではありますが、これでは完全に後の手。私らしくない。相手の土俵で戦わされるのは気分が良くないですね)」
親指の爪をガリッと齧りながら、カナエは再び思考を張り巡らせていく。
「(予測を上回るだけじゃダメだ。予測を裏切るような何かが必要…)」
そう考え込んでいた最中、カナエ達が戦う戦場とは違う、もう一つの戦地から衝突音が鳴り響く。
そこには、葉子・円香のペアと戦う、朝陽・野々の姿があった。
そして、その姿を見た時、カナエはニヤリ…と笑みを浮かべた。
「どれどれ…ちょいと関東選抜の新星さんに骨を折ってもらいましょうかね」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は明日を予定しておりますので宜しくお願いします。




