第365星:落弾注意
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ (22)
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月 (24)
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町 (24)
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々 (24)
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。
小規模ながら煌びやかな戦闘を繰り広げていた朝陽達とは対照的に、幸町・真衣のコンビは、観客席を湧かすような派手な攻防を繰り広げていた。
既に150km/hは超えたであろう幸町による高速戦闘と、同じく加速を続けながら、不意に迫る真衣の球、そしてそれを瞬間的な加速で上回る天城達の攻防は、確かに魅力的にであった。
最高速度と到達速度では他の追随を許さない天城ではあるが、幸町の攻撃に気を配りつつ、真衣の球の不意打ちにも警戒しなくてはならない状況では、思うような戦闘が出来ずにいた。
「(クソッタレ…『未光粒操作』を使えば目の前の奴だけなら直ぐに倒せるが、俺の『グリット』は一瞬しか使えない上に、使用中は視界が著しく狭まる。そこへあの球をぶつけられたら、流石にヤベェ…)」
第二部での戦いで不必要な甘さを捨てていた天城は、幸町達に対し全力で迎え撃とうと試みるが、この状況を打開できず、ストレスを抱えていた。
「(うざってぇな…こうなったら一撃入れて後退のヒット&アウェイでもやるか…?だがアイツの速度はドンドン上がってる上に常時動き回ってる。上手く当てられない可能性もある…失敗すれば加速を止めた瞬間を狙われる…やり辛ぇな)」
フラストレーションを溜めながらも、出来る限り戦闘を運び続ける天城であったが、二人の牽制と攻撃による連携に挟まれ、手詰まり状態にあった。
その天城の手には、小型の爆弾を放つ『機槍』が握られている。
『グリッター』用に改造された『機槍』の爆弾ならば、幸町に十分なダメージを与えることは可能だろう。
しかし…
「(あたらねぇよな、あの速度じゃ。どれだけ直前に、ギリギリのカウンターで放っても、あそこまで加速されたらかわされる)」
既に手持ちの『機槍』では打開できないことを、天城は察していた。
「(それに、もう一人の女は球を操ってるだけで、距離は近くねぇ…射程範囲内ではあるが、流石に離れすぎた。かわされんのが普通だろうな)」
様々な作戦を立てていた天城ではあるが、やはり最初に幸町との真っ向勝負を挑もうとしたのが大元の問題となり、次の一手が出せない状況に陥っていた。
「(何か一つ、この局面を動かす何かが欲しいな…)」
『は〜い、落弾注意だよ〜』
その時、耳元の通信機から、戦場には似つかわないような能天気な声が届く。
間も無くして、何かに気が付いた幸町が加速の勢いをそのままに後方へ撤退。
その直後、無数の小型の輝弾の雨が天城の目の前に降り注いだ。
「これは…遥さんの…」
直ぐにその攻撃の正体が、遥の分裂弾によるものだと、天城は気がつく。
『余計なお世話だったかな?』
第二部での自身の発言を気にしての言葉かけだろう。天城は頭を乱雑に掻きながら、大きなため息と諦めとともに答えた。
「いえ、正直手詰まりでした。援護、ありがとうございます」
『うんうん、そうやって過去の失敗を認めて素直になれるのは良いことだ。成長を見れてお姉さんも嬉しいよ』
本当にそう思っているかは別として、遥は浮足だった声で答える。
「でも大丈夫なんすか?俺の方に気を配ってしまって」
天城の心配も無理はなく、遥はつい先ほどまで、瑠河と沙月の二人を相手に撃ち合いを続けていた筈であり、地上にまで意識を向ける余裕は無かった。
しかし、今の攻撃は流れ弾などではなく、正確に幸達を狙って撃ったものである。
そのことに関して疑問を抱いていると、遥からすぐに答えが返ってきた。
『あぁ撃ち合いのことを心配してるのかな?それなら問題ないよ。今も続けてる』
その言葉の直後、再び天城の頭上で球と槍が衝突し合う音が鳴り響いた。
遥の言う通り、両陣営における制空権の取り合いは続いてる最中であった。
「いや、それは問題あるんじゃ…」
『いや、問題ないよ。円香ちゃんから彼女達の攻撃パターンの情報を貰っていてね。文字通り片手間で対処出来るようになったんだよ』
その言葉に、思わず天城は振り返り、遥の方を見る。
そこでは確かに、視線を天城に向けながら、片手で瑠河と沙月の二人の攻撃の対応をしている遥の姿があった。
遥の『輝弾射手』は、左右の手一つずつに効果を持たせて放つことが出来る。
その両手の性質を合わせたものが『合成弾』であり、一つの特性を持たせて放つだけならば、片手でも可能である。
「(だからって…いくら情報を得たって言っても、二対一の状況の中で片手で全部撃ち落とすのかよ)」
その巧みな技術と、圧倒的な強さに、味方である天城でさえも、一筋の汗を垂らしていた。
『まぁそんなわけで、片手分ではあるが天城君の手伝いが出来る状況だ。さて、どうして欲しい?』
その言葉を聞いた時、天城は自分が試されていることを直観していた。
これまでの遥ならば、『どうするか』ではなく、『こうする』という明確な指示や指摘をしてきただろう。
そこで敢えて『どうして欲しいか』を尋ねている点で、遥は今の天城の力量を図ろうとしているのだろう。
そして、遥の弾幕により距離を取ることが出来たとはいえ、考える時間はそう長くない。
天城は慣れない頭を動かし、今の状況で最善となる遥の支援方法を考えた。
「……真田 幸町の動きを弾幕で制限してください」
そして、直ぐに答えを導き出した。
『おや。直接攻撃を仕掛けたり、周りを飛んでる球を撃ち落としたりする、じゃなくて良いのかい?』
「幸町の加速度と、あの球の速度は遥さんの輝弾の速度を超えてます。万全の状態ならともかく、片手しか使えない状態でそれは難しいでしょう」
天城の返答に、遥の姿は見えなかったが、『ほほ〜う』という声から感心しているのが伝わってくる。
「この状況で厄介なのは、高速移動する物体が二つあること。なら、その内の一つを無くせば一気に戦況は覆る」
『成る程成る程、良い考えだ。確かに天城君の言う通り、今の私では幸町ちゃんに攻撃を当てるのは難しいし、より小さく素早い球に当てるのはもっと不可能だろう。的確な判断だよ』
遥に褒められ、天城は「フッ」と笑みを浮かべた。
『それじゃあつまり…』
「あぁ…狙いはあの後ろにいる女だ!!」
ギロリ、と天城は後方で球を操っている真衣を睨み付けた。
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「こんにゃろ…!?私達相手に手を抜いてるわね!?」
矢を放ち続けながら、沙月は苛立った表情を見せる。
「…確かに、露骨に攻撃の手数が少なくなった。その分の余裕を下に回してるようだしな」
同じく矢を放ち続ける瑠河は対照的に、冷静な表情を保っていた。
しかし、その腹の中では確かな怒りを感じていた。
「こうなりゃこっちも『エナジー』を込めて多彩な攻撃を…」
「いや、それは待つんだ」
意外にも、沙月の行動を止めたのは、同じく憤りを感じているはずの瑠河だった。
「なんでよ〜。このまま舐め腐られたままなんて嫌よ私」
「それは私もだ。こんな相手のされかたをして気分が良いはずがない。だが…」
そこで瑠河は、チラッと視線を別方向に向けた。
沙月もそれに釣られるようにして視線を向けると、そこには指を咥えながらブツブツと小声で何かを呟くカナエの姿があった。
「あ〜…そう言うこと…」
その姿を見ただけで、瑠河の言わんとしていることを理解した沙月は、一先ずソッと怒りに蓋をした。
「…私の選抜チームなのに、先に貴方に見抜かれちゃうなんて、ちょっと悔しいわね」
「ハハハ。私は第三部の関東選抜で唯一脱落したからな。出来るだけ同じ轍は踏みたくないんだよ」
自虐的とも捉えられる発言に、沙月は困ったような苦笑いを返す。
その間にもカナエはブツブツと呟き、状況を分析し続けていた。
「この状況のキーは間違いなく円香さん情報収集を終えたことで味方にそれを伝えて動きを予測だからその分余裕ができてこちらが劣勢を強いられる状況になっている」
息継ぎを感じさせないほどの言葉数に、瑠河も沙月もカナエに声を掛けられずにいる状況が続いていた。
しかし、その沈黙を破ったのは、当の本人であるカナエであった。
「よし……こうしましょう」
それは今までの明るい口調ではなく、物静かながら知性を感じさせる、まさに智将と呼ぶにふさわしい声色だった?
「沙月さん、瑠河さん、今から私の言う通りに動いてください。この局面をもう一度動かします」
真っ直ぐ二人を見つめるカナエに対し、瑠河と沙月の二人が尋ねたいことは一つだった。
「このまま舐められたままじゃ終わらないわよね?」
「ギャフンと言わせんと気が済まんぞ」
二人の負けず嫌いな言葉を聞いて、カナエはニヤリと笑みを浮かべた。
「勿論ですよ。私もそれなりに名の通った智将であると自負していますが、ここまで露骨に無視されたのは腹立たしいですからね」
カナエは二つの戦地の方を振り返りながら、険しい目つきでつぶやいた。
「向こうが予測で来るのなら、私がその予測を超えて見せますよ。『近畿の平穏にカナエ有り』ってところ、見せてやります」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は明日を予定しておりますので宜しくお願いします。




