第357星:決勝当日
◆関東地方
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆東京本部選抜
唯我 天城 (17)
東京本部に所属する『グリッター』。当時見習いの立場にありながら一羽に認められ、正式な『軍』の『グリッター』へ昇格した。任務を経て一つの殻を破ったが、その後、月影 天星に抜擢されたことで、力を追い求めるようになる。『グリット』は『未光粒操作』で、新時代により現認された光速を超えるタキオン粒子を操る力。未だ未熟な力ではあるが、光速に近い速度と衝撃を出せるようになっている。
佐伯 遥 (24)
東京本部エリート。フレンドリーで明るく、堅物で自尊心の高い東京本部では珍しい友好的な人物。一歩間違えれば仲違いしかねない選抜メンバーをまとめ上げる。『グリット』は『輝弾射手』で、『エナジー』を攻撃用の『エネルギー』に変質して放つ能力。シンプルが故に強く、弾にも誘導や炸裂、起動変化など様々な効果を与える事が出来る。
草壁 円香 (21)
東京本部エリート。クールで鋭い目つきが特徴。分析力が鋭く、敵の能力から戦闘面を予測する能力に長けている。指揮力も高いが、エリートが故に能力を過信してしまうことも。『グリット』は『計算予知』で、相手の動きを計測し、経過と共に予知のように読み解くもの。また、実戦で活用できるようそれに見合った高い戦闘能力を有する。
片桐 葉子 (21)
東京本部エリート。移り気かつ気分屋な性格だが天才肌で、一度こなした事は大抵モノにする。その分精神面ではやや幼く、小さな煽りに対して過敏に反応する事がある。『グリット』は『輝伝衝波』で、手首から指までに沿うようにして複数の光の帯が出現し、この状態で壁や地面を叩き付ける事で物体の表面に光の筋を伝播させ、攻撃対象の近くに『エナジー』による攻撃を行う事が出来る。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。『戦神』と化した剣美の攻撃を受け、脱落した。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器を持っている。
それぞれの想いが交錯しながら、夜はついに明け、『大輝戦』決勝戦の日がやってきた。
一般開放された席には大勢の観客がおり、各地方の総司令官達も揃っていた。
そして、メンバー達の控え室でもある各地方の観客席、その関東選抜の場所では、咲夜が朝陽達に言葉をかけていた。
「分かっているかもしれませんが、下馬評では私たちが最も低いです」
開口一番。咲夜の口から出たのは自分達の現在位置であった。
「個々の実力の高い東京選抜を最高峰に、まだ手の内を明かしきっていない近畿選抜。対して我々は昨日の戦いで全てを出し切ったと言っても過言ではありません。妥当な評価でしょう」
全員言葉に詰まりながらも、実際その通りであることを理解していたために、誰もそれに反論しなかった。
「…が、下馬評なんてものは覆すためにあるようなものです。最強と呼ばれる東京選抜も、最高と呼ばれる智将を抱える近畿選抜も、最下位というレッテルごとひっくり返してしまいなさい」
一度落とし、そして上げる。咲夜の激励の常套手段である。
そして、その効果は的面であった。
「貴方達ならば勝利を手にすることが出来ることを、私は知っています。貴方達は強い。貴方達は勝ち抜いた。その事実を信じて、この最高の舞台を戦い抜いてきなさい。」
「はいっ!!」
不安も緊張も、そして咲夜の言う劣等感によるレッテルも全て拭い去られた。
朝陽達の目には自信と熱意だけがその瞳に映っていた。
「夜宵さん」
他の面々が互いに意気込み声を掛け合っている最中、一歩引いていた夜宵に、咲夜が声をかけた。
「不安ですか?」
夜宵はその内心を見透かしたような言葉にドキッとした。
咲夜の発言は、まさに夜宵の心境を射ていたからだ。
「正直、無理のない話だとは思います。私も今の貴方に伝えるべき的確な言葉が見つかりません」
昨日の瑠河とのやり取りで、瑠河とのわだかまりからは解かれた夜宵であったが、自分自身の暴走という懸念からは解放されていなかった。
今の自分が戦力になるのか、そもそも戦うことが出来るのか。
戦えたとして、自分が朝陽達の力に慣れるのか。また暴走してしまうのではないか。
そんな不安までは拭い去ることが出来ずにいた。そして、そんな夜宵の心境を、咲夜も見抜いていた。
「指揮官…私は、この舞台に出て良いのでしょうか…私はまた、仲間を蔑ろにして、自分を見失ってしまうのではないかと不安で仕方ありません…」
溜め込んでいても意味がないと思った夜宵は、素直な想いを咲夜に伝えた。
咲夜はその言葉を受け、表情を変えないまま、真っ直ぐに夜宵を見つめた。
「そうですね。確かに不安ではあります。ですが心配はしていません」
「…え?」
その予想外の言葉に、夜宵は思わず咲夜の方を向く。
「昨日の試合、最後に勝利を掴んだあの瞬間は、貴方でした。暴走も、自我も失っていない、貴方自身の力でです」
「でもそれは、私を戻してくれた仲間がいたから…」
「その通りです」
夜宵の迷いのある言葉に、咲夜は即座に答えた。
「貴方を呼び戻したのは、他でもない貴方の仲間と、そして貴方の家族です。その事を忘れないでください」
ニコッと笑みを浮かべた咲夜は、ソッと視線を夜宵の後ろへと向ける。
「今回の戦いでも、その仲間と家族は一緒です。不安を抱えていても、仮にまた暴走しかけてしまっても、貴方の仲間達がまた貴方を呼び戻してくれる。だから、私は心配していません」
「あ……」
夜宵もつられて視線を送ると、そこには昨日のことなど微塵も気に掛けておらず、互いに意気込む朝陽達の姿があった。
「不安ならば、今はその不安を抱えて挑みなさい。そして、どうしても対処しきれなくなりそうな時は、仲間を頼りなさい。大和からも、何度もそう教わってきた筈ですよ?」
最後に大和の名前を出すことで、咲夜は夜宵により安心感を与えた。
夜宵は大きく息を吸い、そして吐き出すと、先程よりも明るくなった瞳で、「はい」と力強く返事を返した。
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「ふわぁ……あぁ…」
大きなあくびを見せたのはカナエ。
眠そうな様子で瞳を擦っていると、沙月が呆れた様子でカナエを見ていた。
「バカね。あの後もずっと作戦を練り続けたたんでしょ。それで頭が働かないとか言い訳しないでよね?」
「しません、しませんともそんなこと。私にとっては日常の一つなのでね」
カナエは心配無用と言わんばかりに答える。
「まぁ戦略だけで名を轟かせてきた奴だ。沙月の言うような失態はせんだろ。しっかりと働けよ?」
「勿論ですよ。じゃなきゃ睡眠時間削ってまで考え続けた戦略の意味がないですからね」
野々がこれに続くも、カナエはこれにも力強く答える。
「睡眠時間を削られた!?ダメですよカナエさん!!睡眠は大切です!!良い睡眠の先に頭は働きかけるのですよ!!」
「それはまぁ……う〜む、まさか幸町さんに一本取られるとは…」
寝不足気味のカナエとは対照的に、元気いっぱいな様子の幸町の勢いに押され、カナエは初めて弱った様子を見せる。
「まぁとにかく心配はいりませんよ。伊達に智将名乗ってないですから。今回もしっかりと働かせていただきますよ」
と、不敵に笑うカナエの横で、野々はジッとカナエの様子を伺っていた。
「(第一部でも戦略は練っていたが、ここまで追い込んで練り込んでいる様子は無かった。つまり、この決勝戦は、カナエがそこまで追い込まれるほどの猛者揃いということか)」
チラッと野々はフィールドを見渡す。
まだ岩陰に隠れ、格選抜メンバーの姿は見えなかったが、遠くから感じるプレッシャーは確かなものだった。
「(第一部の相手が弱かったなどとは思わん。だが、東京選抜も関東選抜も、予選を勝ち抜いただけあって相応の強さを秘めているのは事実だ。我が負けることなどあり得んが、気を引き締める必要はありそうだな)」
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。
自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない野々ではあるが、だからこそ、真剣な戦いにおいては常に本気である。
密かに闘志を燃やす野々を筆頭に、近畿選抜の面々も、決勝の開始の合図を今かいまかと待ち続けていた。
●●●
「さて、分かってるね諸君。予選だろうが決勝だろうが、私達のすべき事は変わらない。圧倒的な強さを見せつけて勝利を収める。それが私達が選ばれた理由だよ」
三つ目の場所では、遥が中心となって東京選抜の面々に声をかけていた。
一体感は無く、全員がバラバラな様子を見せながらも、確かに遥の言葉に耳を傾けていた。
「当然。やるからには勝つわ。めんどくさいけどね」
座り込んだ姿勢で、膝の上に肘を乗せ、顔を手に置きながら葉子が答える。
「唯一にして至上の命題。敗北は許されない」
横髪をサラッと流しながら、円香がこれに続く。
「フツーにやってれば俺が負けることはねぇよ。足だけは引っ張んなよな」
「あぁん!?アンタそれ誰に言ってんのよ!?」
相も変わらず喧嘩腰の言葉に、葉子が食ってかかるが、「まぁまぁ」と遥が間に入って仲裁する。
「発言の内容はともかく、全員キチンと理解しているようで何より。けど気をつける様に。第二部の相手だって決して油断できる相手じゃ無かった。今回の相手は、それと同等のレベルの相手に勝ってきたメンバー達だ。下手に慢心して、万が一にも遅れを取らないようにね。天城君は特にね?」
一瞬天城は反論しようとするが、相手が遥であることと、第二部の戦いで身に覚えがあったため、「チッ」と舌打ちをしながら、渋々と頷いた。
「さて、暗い話し方をしてしまったけど大丈夫。君達は強いし賢い。これまで乗り越えてきた訓練と戦いの日々に比べれば、今日の戦いは命を掛けない遊びのようなものだ」
遥は「だから…」と呟いたあと、ニッコリと笑みを浮かべながら、全員に告げた。
「信頼してるよ、君達」
その笑みと信頼の裏に、強い圧のようなものを感じ取り、その場にいた東京選抜のメンバー全員に悪寒が走った。
それと同時に、決勝戦が始まる合図がフィールドに鳴り響いた。
※後書きです
ども、琥珀です。
気付けばもう六月ですね。
暑いな、暑いなとか思いながらも、まだ四月だし、まだ五月だし…なんて思ってたのが束の間でした。
歳を取れば取るほど、月日が流れるのが早く感じるようになりますね…
歳はとりたくないものです…
まぁ、私、今月誕生日なんですけどね!←
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




