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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
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第356星:真夜中の会議

黒田 カナエ

 兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信(テレパシー)』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。


射武屋 沙月

 奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢アタッチメント・アロー』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。

「こんな夜更けまで(なぁに)してんの?」



 時刻は深夜。


 夜もすっかりと更ける真夜中に、一人熱心にノートに書き込む人物の姿があった。


 近畿選抜のメンバー、黒田 カナエである。


 同じく近畿選抜メンバーである射武屋 沙月は、そのノートに埋め尽くされた文字の量に目を見開く。



「あなた、予選が終わってから姿が見えないと思ってたけど、ずっとそれを書き込んでたの?」

「いかにも。今日という戦いの日を忘れたくありませんし、何か明日の戦いに有効な手立てが見つかるかも知れませんからね。記録というのは大事なんですよ」



 それにしてもその量は常軌を逸していた。


 ノートは既に半分以上のページが捲られており、その汚れ具合から、どのページにおいても同じ量が書かれていることが予測される。


 狂気の沙汰とも呼べる行為であるが、しかし、沙月はそれとはまた違う想いを抱いていた。



「(彼女から繰り出される戦略は、天性のものだと思ってた。でも違ったんだ。努力…といって良いのかは分からないけど、こういう積み重ねのもと培われてきたものだったのね)」



 一種の畏敬の念を抱きながら、沙月はカナエに尋ねる。



「それで、明日の作戦は何か思い浮かびそう?」

「そうですね、ざっと10通りのパターンは考えてあります」



 沙月にとっては軽い気持ちで尋ねた内容であったため、予想を遥かに上回る解答に、思わず膝から崩れ落ちそうになる。



「じゅ、10!?決勝に進んだ相手に、10パターンも戦略を建てたの!?」



 ただただ驚くばかりの沙月であったが、カナエは残念そうに首を振った。



「10通り()()、ですよ沙月さん。これでも私、近代随一の知能を持ってる戦略家と呼ばれてますから、少なくとも毎回50近いパターンを考えついているんです。それが今回はたったの10通り。二つ名の名折れですよ」



 感心する沙月とは対照的に、カナエはがっかりした様子を見せていた。



「いや、それでも凄いと思うんだけどな…でも、貴方にそこまで言わせるからには、何か引っ掛かることとかがあるってことよね?」

「鋭いですね沙月さん。その通りです」



 カナエは座った姿勢のままカナエの方へと向き直り、ペンをクルクル回しながら答える。



「一番厄介なのが東京選抜。巧みな局面のコントロール力を見せつけた佐伯 遥さんを筆頭に、個々人の能力もべらぼうに高い。接近戦一つとっても幸町さんに匹敵するレベルです。これを崩すのは相当難しい」

「でも、貴方の考えるパターンの中には、それを崩すものも当然あるのよね?」



 再び沙月の鋭い切り返しに、カナエは回していたペンをピタリと止め、ニヤッと笑った。



「勿論です。東京選抜はその個々の能力の高さから、個人プレーに走りやすい。流石に第二部の時のような戦い方はしないでしょうが、好んで連携プレーをすることは殆ど無いでしょう。ここは突くべき弱点です」



 沙月も第二部の戦いを思い返し、確かに…と頷く。



「気にかかるのは、あれだけ局面をコントロール出来る程の人物である佐伯 遥さんが、なぜあのような個人プレーを許しているか、になるわけですが、ざっくらと言えば二つの可能性が考えられます」



 カナエは指を一本立て、説明を始める。



「一つは、局面のコントロール技術はあっても、人を纏めるだけのカリスマ性は備えていない。いわば縁の下の力持ちタイプの可能性ですね」



 沙月はカナエの説明に頷きながら、二つ目を促す。



「二つ目は、故意に自由にやらせているパターン。個々人の力が強く、自尊心が強い人物が多いと聞く東京選抜故に、無理に纏めるようなことはせず、敢えてサポート役に回ってメンバーを活かしている。ま、大雑把に言えばこの二つになりますかね」



 カナエの二つのパターンを聞いた上で、沙月はカナエに尋ねた。



「カナエ可能性が高いと思う方は?」



 カナエはヒュルンと一度だけペンを回し、沙月の方へと先端を向けた。



「ま、後者でしょうな。試合の出だしで先制攻撃を仕掛けたり、ある程度勝利の法則が見えてきたところで自らの意志で動いたところを見ると、彼女がリーダー格として振る舞っているのは間違いなさそうです」



 カナエから聞かされていた二つのパターンを聞いて、同じ結論に至っていた沙月も、この答えに頷く。



「そうなると、具体的にどう困るの?」

「まぁぶっちゃけ何もかもが厄介なことになりますが、一番めんどくさいのは、攻撃が読み辛くなることですね」



 イスにつけられた腰掛けに背中を預けながら、カナエは大きく伸びをする。



「ただ裏方にたってお膳立てするタイプであれば、敢えてその型にハマったフリをして誘い込めば良い。けれど彼女の場合、東北地方の策略を破ったように、慧眼も良くて頭のキレも良い。そういう手合いに対して、具体的な戦術を練り上げておくのは、なかなか難しいのですよ。私が東京選抜相手に詰まっている部分はそこですね」



 沙月は「なるほどね」と納得した後、最後の言葉が引っ掛かり、改めて問い詰める。



「東京選抜に、ということは、関東選抜にも引っ掛かることがあるってこと?」



 カナエは意外そうな表情浮かべながら、ゆっくりと頷いた。



「無論ありますとも。逆に沙月さんはあまり関東選抜を警戒してなかったのですか?」

「いや、そういうわけじゃ無いけど…でも、東京選抜に比べたらまだ攻略方法は思い浮かびそうだなと思ったんだけど…」



 カナエは腰掛けから体を起こし、「フム」と考える素振りを見せる。



「確かに、沙月さんの言う通り、私が考えたパターンの7つ程は関東選抜の対応方法並びに対処方法です。そう言った意味で沙月さんの発言は間違っていません…が!」



 カナエはピッと再びペン先を沙月の方へと向ける。



「未知数な面で言えば関東選抜の方が遥かに上。特に闇と光を操る、特異系の『グリッター』を扱う夜宵さんと朝陽さんは未知数な点が多いですよ」

「斑鳩姉妹ね…まぁ確かに未知数な『能力』ではあるけど、対処する方法ならあるんでしょ?」



 沙月の問いに、カナエは「ま、一応は」と珍しく歯切れが悪く答えた。



「道祖土 真衣さんや矢武雨 瑠河さんに関してはいくらでも対処方法は思いつきますよ。沙月さんがライバル視している瑠河さんについては、沙月さんの方が十分ご存知かも知れませんがね」

「そこまでライバル視してるつもりはないんだけどね。てわもまぁ、同じ弓使いとして負けられないとは思ってるわよ」



 その情熱を見てカナエは、「良いですね良いですね〜」と笑みを浮かべて頷く。



「夜宵さんの万物を飲み込む闇の性質や、闇を物質化して攻撃する新しい能力など、ちょっと未知数な点が多いのでこれをどうしたもんかと悩んでいるんですよ。うちは物理攻撃多めですから、それだと闇に飲み込まれてお終いですからね」

「あ〜それは確かに…」



 戦略担当であるカナエを抜いても、弓矢の沙月、双槍の幸町、そして()()()()()の織田 野々のメンツを考えると、ある意味最大の天敵とも呼べる能力であるのは確かだった。



「が、これに関しては一応プランは立ててありますから、まぁお任せください。何とかして見せます」



 沙月が考え込もうとした矢先に、カナエは頼もしい言葉でそれを遮った。



「問題なのは妹さんの方ですよ。佐伯 遥さんに負けない火力に、『荒破鬼』に匹敵する近接能力。そして、『守護神』相手に見せた、()()()()()()



 カナエが言っているのは、九州選抜の与那覇ナミとミナの二人が奇襲を仕掛けた時、そして仙波 盾子の計略により窮地に陥ったときに見せた朝陽の瞬間移動のことを差していた。



「正直、あれの原理が全く分からないんですよね。東京選抜の唯我 天城さんみたいに、能力そのものが高速移動とかなら分かるんですけど、彼女の能力は『光を操る力』。あんな目で追えないほどの動きが出来る能力じゃないと思うんですが…」

「そもそも瞬間移動なのか、高速移動なのかも分からなかったわよね…北海道選抜の、三雲 冴子さんみたいな『ワープ』出来る能力ってわけでも無さそうだし…」



 二人して腕を組み、「う〜ん」と唸り込む。



「ただまぁ、あれだけの技がありながら、多用していないところを見ると、まだ完全にものにしていないものと見ています。なので、必要以上に警戒する必要は無いと思います。彼女の厄介なところは、あくまであの万能性だと思うので、それをもとに解決策を考えてみますよ」



 そう言うとカナエは、再びノートの方へと体を向ける、時折唸りながらメモを取り始めた。


 これ以上は邪魔になると思った沙月はゆっくりと出口の方へと向かっていった。



「あんまり夜遅くまでやり込んじゃダメよ。明日に響くからね」

「はーいお母さん」



 そんなふざけたやりとりをしながら、沙月はドアノブに手を伸ばす。


 そして、最後に、振り返らずにカナエに一言告げた。



「明日、絶対に勝つわよ」

「当然」



 即答で返ってきた答えに満足した沙月は、今度こそ部屋を後にした。


 部屋の中には、カナエのペンを走らせ続ける音と、同室で既に寝入っている野々の寝息だけが響いていた。

※後書きです






ども、琥珀です。


私は自分に自信が持てません(唐突)。


なので例えば仕事一つに対しても、ヤレこれがちゃんと出来ているか、ヤレ間違えていないかなど、不安になってしまいます。


休みの日であっても、何か失敗を起こしていないかと不安になり、心が休まる時間がありません。


病気的な程に心配症で、自分に自信が持てないのです。


そんな私の心が休まる瞬間は、寝ている時と小説を書いている時。


せめてこの時の時間だけは、犯されないことを願うばかりです…


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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