第355星:夜の遭遇
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
咲夜からの叱咤激励を受けた後、夜宵は何となく時間を持て余し、周囲を散策していた。
時刻は夜のため、就床の準備に入っても良かったのだが、直ぐに寝付ける気がせず、思わず外に足が運んでいたのだ。
「あ……」
「やぁ、夜宵もか」
そこでたまたま遭遇したのは、同じく周囲の散策をしていたのであろう瑠河であった。
昨日の今日までとはまるで別、どこか居心地の悪さを感じながら、夜宵は瑠河の言葉に頷いた。
ただ立ち去るのも後味が悪いと思い、二人は一緒になって夜の道を散策した。
「調子はどうだ?随分と張り切ってしまったようだが?」
瑠河の言葉に悪意はなく、純粋に夜宵の状態を尋ねているようであった。
「そうね…このまましっかり休養をとっても、明日はマックス八割弱、ってとこかしら」
夜宵は自らの暴走により、今日の戦いで大量の『エナジー』を消費していた。
通常ならば一晩ならばほとんど回復するが、今回の夜宵が使用した『エナジー』量は限界ギリギリまでであったため、明日は万全とはいかないだろう。
「ごめんなさい……」
「謝ることなんかない。勝利のために全力を尽くした結果だ。責める者なんて居やしないさ」
「そうじゃなくて…いえ、それもそうなんだけど…」
瑠河の言葉に、夜宵は沈んだ表情で首を振る。
「今日の戦いで……私は貴方を蔑ろにしてしまったわ。貴方は私を守るために身を挺してくれて脱落。言い訳のしようがないくらい愚かだったわ。本当にごめんなさい…」
夜宵からその話が振られて来ることは予想していたのか、瑠河は「フゥ…」と小さく息を吐き、頰を掻いた。
「まぁ……確かに途中からの展開に驚かされはしたよ。私達で力を合わせれば、もっとやれると思っていたからな」
瑠河は夜宵の言葉を否定せず、事実として受け止め、夜宵にもそう答えた。
「……うん、私も、そう思う。本当に……」
夜宵も相当に気にしていたのだろう。更に顔を俯かせ、目を瞑りながら頷いた。
「あの時のこと、詳しいことは聞いても良いのか?」
「貴方が望むなら。でも、あの場で指揮官に話したこと以上のことに話せることは無いわ。本当に、意識を半分失っていたようなものだったから」
夜宵から返ってきた答えに、瑠河は「そうか…」とだけ答える。
二人の間にはしばらく沈黙が続き、両者はしばらく言葉を交わさずただただ歩き続ける。
しばらくして、沈黙を破ったのは瑠河の方だった。
「しかし、これはチャンスとも言えるな」
「…え?」
予想外の言葉に、夜宵は思わず聞き返す。
「本来今日の場で見せるはずだった夜宵との他の連携技を、東京選抜と近畿選抜に見せずに済んだ。これはもしかしたら大きいことかも知れないぞ?」
指を一本立てて話す瑠河は、自信げに笑みを浮かべる。
「まぁ近畿の黒田 カナエは予め推測を立てているかも知れないし、東京選抜の佐伯 遥氏は見てから対応して来るかも知れないが、それでも未知数なことには変わりないはずだ。これはラッキーだな」
ニッと笑みを浮かべる瑠河に対し、夜宵は呆然とした表情を浮かべていた。
「どうした、そんな顔して。何か変なことでも言ったか?」
「い、いや、そうじゃないけれど…瑠河、貴方、私を責めないの?」
「責めて欲しいのか?」
夜宵の言葉に、瑠河は鋭く返し、夜宵は思わず息を呑む。
「だって…でも、貴方が脱落してしまったのは私のせいで、貴方には私を責める権利があるわ。私が望む望まない関係なしに」
グッと胸の奥の痛みを堪えながら、夜宵は瑠夏の言葉に返す。
「私が君を責めることで夜宵が楽になるのならそうしよう。だが私個人の考えとしては、それは適切でないと思っている」
夜宵の言葉を理解しつつ、瑠河は瑠河で個人としての考えを持っていた。
「確かに、私の脱落の要因は夜宵にあるかも知れない。だが私は夜宵を責めるつもりは鼻から無い」
「どう……して?」
「一つは結果として勝利を収めたからだ。勝利さえすれば、私には明日の決勝の舞台でもう一度やり直すチャンスがある。ならば、溝をつくるよりもより仲を深める方が得策だろう?」
直ぐに返ってきた解答に、夜宵は申し訳なさそうにしながらも頷いた。
「そしてもう一つは、夜宵の最後の戦いを見ていたからだ」
「私の……最後の戦い?」
続いて出された言葉に、夜宵は首をかしげる。
「私が脱落したあと、夜宵がそのショックで腑抜けた戦いをしていたら、私はこの場で君を責めていただろう。だが君は、気落ちしながらもみんなと連携して、最後には決定打となる攻撃に貢献した。それはつまり、君にはまだ戦う意志があるということだ。違うかな?」
瑠河から問われた言葉に、夜宵は真っ直ぐに頷いた。
「なら、私が今ここで夜宵を責めるのはお門違いというやつだ。寧ろ、最後まで戦い続け、決勝の舞台で名誉挽回のチャンスを与えてくれた仲間に感謝しなくてはな」
そう言って瑠河は、ニコッと華やかな笑みを浮かべた。
その姿に、夜宵は胸の奥から感情が溢れ出し、それが雫となって眼から溢れ出していった。
「こらこら泣くな夜宵。まだ戦いは始まっていないし、何も終わっていない。ここで泣くのは間違っているぞ?」
「うん…う゛ん……ごめん……」
瑠河はしょうがない、といった様子でため息をこぼすと、ソッと夜宵を抱き寄せた。
「明日は…、いや、明日も、共に戦おう。そして、『大輝戦』という舞台で、私達が輝いて見せようじゃないか、夜宵」
「う゛ん…!!」
夜宵の泣き声は、誰に聞かれることもなく、静かな夜に鳴り響いた。
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咲夜の触診を受けた朝陽は、自室に戻り、改めて自分の状態を確認していた。
「(肉体的には問題ない…と思う。『エナジー』は…マックスまでは回復出来ないかも知れないかな)」
咲夜との訓練で身についた、主観的な自己診断を続けながら、今度は明日の戦いについてシミュレーションを行う。
「(明日の相手のキーマンは、近畿選抜の黒田 カナエさんと、東京選抜の佐伯 遥さん。でも、どっちの地域も全体的な力量が高いから、警戒は全員に必要)」
予め予習しておいた情報をもとに、今日の第一部と第二部の実際の戦いと照らし合わせて、朝陽はシミュレーションを続けていく。
「(やらないといけないことは沢山あるけど、多分私の一番の役割は、遥さんの弾丸に対応すること。お姉ちゃんの『グリット』で飲み込むことも出来るけど、それだと防御一辺倒になっちゃう。反撃を見込むなら、私が対応しながら迎撃するのが理想)」
朝陽のなかで、東京選抜の戦い方はあまり好ましくなかったものの、それでも佐伯 遥という人物の強さは強く印象に残っていた。
自身の能力を最大限に活かし、戦局を巧みにコントロールする。
それはまさに、大和や咲夜が求める、小隊長のあるべき姿だと思ったからだ。
「(今の私に、あそこまでのことは出来ない。でも、純粋な戦闘力なら私も負けてない。でも…)」
朝陽はもう一人、気にかけている人物がいた。
「(唯我 天城君…彼の『グリット』を使用した時の速さは…)」
朝陽の目には、超高速移動を繰り出す天城の姿が目に焼き付いていた。
「(あの移動速度…確か未光粒子操作って言ったよね。あの『グリット』、どこか私の力に…いや、私の技に似てる気がする)」
目に焼き付いていたのはこれが理由。朝陽は天城の『グリット』から、何かを得ようとしていた。
「(何かは分からない…けど、彼の『グリット』は、私の技を完成させるピースになる気がする…)」
しばらく考え込んだ末、朝陽は首を横に振った。
「ダメダメ。先生とあの技は使用しないって約束したばかりじゃない。使うことを前提に考えるよりも、別の作戦で対応する方法を考えなきゃ」
そう口にしつつも、朝陽の頭の片隅では、天城の『グリット』を使用した時の動きが常に過っていた。
頭の中でのシミュレーションと、天城の『グリット』発動時の動きのことを考えていると、朝陽は気付かないうちに、深い眠りに落ちていた。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




