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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
388/481

第354星:お説教

早乙女 咲夜(24?)

 常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。


斑鳩 朝陽(18)

 千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪イノセント・サンシャイン』。


斑鳩夜宵(22)

千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪ダークネス・エクリプセ』。


矢武雨(やぶさめ) 瑠河(るか) (24)

 栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜(ハンドレット・ヒット)』。


道祖土(さいど) 真衣 (22)

 埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球(アクセルスロー)』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具(バトルマシナリー)』、『硬歪翼球ウルツァイト・ウィングレット』を所有している。

 第三部で見事勝利を収めた朝陽達は、その日の夜、咲夜に呼び出され、その部屋へと訪れていた。


 勝利の労いの言葉でもかけられるのかと思っていた四人は、部屋に入った瞬間その考えを捨てる。


 何故ならば部屋に入ると、そこには怒気を纏いながら仁王立ちする咲夜の姿があったからだ。






●●●






 関東メンバーのうち、千葉根拠地の面子である朝陽と夜宵の二人は、咲夜の目の前で正座をさせられていた。


 途中離脱の瑠河は貢献としては十分だとして正座を免れ、真衣はあまりの怒気()に充てられ気絶していた。



「…………………………………」

「「…………………………………」」



 かれこれこの気まずい沈黙が五分ほど続き、その間ずっと圧に充てられ続けている朝陽と夜宵の額からは、大量の冷や汗が垂れていた。



「夜宵さん」

「は、はい!!」



 名前を呼ばれただけにも関わらず、夜宵は思わず姿勢を正し、咲夜の方を見た。



「わざわざ口に出して言うことでは無いかと思いますが、今回の勝利は奇跡に近いです。朝陽さんと真衣さんが九州・沖縄選抜を二人で倒してくれたからこそ勝ち得たものです。理由はお分かりですね?」

「……私の独断と独りよがりな行動が、事態を悪化させてしまったからです…」

「その通りです」



 夜宵の言葉に、咲夜は一切の躊躇なくバッサリと言い放った。



「瑠河さんとのコンビネーションで、途中までは良い勝負をしていた筈です。何故、自ら窮地に陥るような行動に走ったのですか?」

「そ、それは……朝陽を助けないと、と思って…」

「朝陽さんは、毎回貴方に助けを求めないと戦えないほど弱い存在なのですか?」



 咲夜のどこまでも核心を突く正論に、夜宵は黙り込んでしまう。


 しかし、やがて小さく首を横に振った。


 咲夜は小さくため息をこぼすと、一先ずその点は頭では理解していると判断し、次の話題に移った。



「そこまで理解されていることは分かりました。しかし、問題となるのはその後です。夜宵さん、瑠河さんが脱落した後のことを覚えていますか?」



 咲夜の言葉に、夜宵だけでなく瑠河も小さく肩を揺らし反応を見せる。


 目の前で、夜宵がどんどんと別人になっていくような様子を見ていたからだ。



「……あまり、ハッキリとは覚えていません。ただ、()()()()()()()()()()()()、という衝動に駆られて…」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 夜宵の言葉に、咲夜は間髪入れずに問い返す。しかし、夜宵は首を横に振るだけであった。



「分かりません…初めは朝陽を救うためにと力を解放していきました。でもそこからの記憶が朧げで、気付けば瑠河がやられていて、そこで完全に意識が…」



 それは夜宵を良く知る咲夜が、傍目から見ても分かるほどの状態であった。


 荒れ狂うような姿で、闇を放出しまくる夜宵の姿には、狂気すら感じていた。



「(彼女の力の暴走は、これが初めてではありません。私との組手、初の【オリジン】との邂逅、そして【オリジン】との対峙…これまで何度も夜宵さんの『グリット』は暴走してきました)」



 これまでの過去のことを思い出しながら、咲夜は考え込む。



「(ですが元来、『グリット』が暴走するなどと言うケースは聞いたことがありません。力の配分を誤っての暴発や、扱い方を間違えたの自滅ならありますが、まるで意志を持ったような暴走は初めてのケースです)」



 そこで咲夜は、足が痺れ出してモゾモゾとしている朝陽の方を見る。



「(以前、朝陽さんに、自分とは異なる人格が内に潜んでいるという話を聞いたことがあります。【オリジン】と対峙した時に、朝陽さんはその人格に身を預けたと聞いていますが、もしや、彼女も…?)」



 咲夜は夜宵の暴走が、単なる力の暴走では無いのでは無いかと考えだす。


 しかし、結論を出すことは出来ず、また本人にとっても深刻な悩みでもある様子のため、この場でこれ以上問い詰めることはしなかった。



「夜宵さん、今回の自分のしでかしたこと、それをしっかりと理解されているのであれば、いま私から言うことはありません。もっと仲間を信じて、もっと仲間を頼りにしてあげて下さい。これは選ばれた者しか出場できない『大輝戦』なのですから」

「…はい」



 夜宵は言い返すことは無く、素直にその言葉を受け入れ頷いた。


 そして咲夜の視線は朝陽に向けられ、朝陽はビクッと肩を揺らす。



「……その様子だと、貴方も何故このような状態なのか理解されているようですね」



 咲夜はため息を溢しながら、朝陽に尋ね、朝陽は口にこそしなかったが、その言葉に頷いた。



「『大輝戦』という舞台、相手はその名を轟かせる『守護神』と『荒破鬼』。生半可な覚悟で挑める相手では無いことは重々承知です。ですが、私と寧花さんと約束しませんでしたか?」

「……しました…」



 嘘はつかず、朝陽は素直に頷いた。



「では何故使用したのか、は聞きません。不必要なタイミングでの使用ではありませんでしたし、やむを得ない状況ではありました」



 咲夜の言葉に、朝陽はパッと顔を上げるが、そこにはまだ鬼の形相の咲夜が立っていた。



「ですがそもそも、そのような状況に陥ることが問題です。立ち振る舞いや動き方に注意を払っていたら、もっと簡単に回避することが出来たはずです」

「あぅ…」

「そもそも約束を反故にしたのも事実です。これについては私だけで無く、寧花さんにもしっかりと話をつけていただきますので」

「あぅあぅ……」



 冷や汗を超えて、もはや涙目になっている朝陽に、瑠河は同情の感情を覚えていた。


 そして、その空気に耐えきれなくなったのか、二人に助け舟を差し出す。



「あの、差し出がましいことかも知れませんが咲夜指揮官。過程は確かに良く無かったかも知れませんが、結果として二人の…いえ、真衣も含めて最後はしっかりと勝利を収めてくれました。お咎めの言葉はごもっともですが、折角の勝利です。力になれなかった私が言うのもなんですが、少しだけでも労いのお言葉をお掛けになられては…?」



 その発言に、咲夜の視線が瑠河に向けられ、瑠河は思わず肩を揺らしてしまう。


 咲夜は瑠河の方を見ながら、しばらく考え込んでいた様子であったが、やがて小さく息を吐き、ゆっくりと応えた。



「真正面からの戦闘行動、単独での暴走、制限された技の使用、注意すべき点は多々あります」



 続けられる訓戒の言葉に、二人は再び萎縮しかけるが、その後に咲夜が「ですが…」と続けた。



「それらは全て、貴方達にとっての伸び代になるはずです。そしてそれは、次の舞台で直ぐに活かすことができるはずです」



 続けられた咲夜の言葉に、二人はゆっくりと顔を上げた。



「失敗を積み重ねるほど、人は成長し、そして強くなっていきます。大切なのは、同じ過ちを繰り返さないこと。次の舞台では、それが出来ますね?」

「「……!!はい!!」」

「ひぃえぇ!?」



 咲夜からの問いに、二人はしっかりとした返事を力強く返す。


 ついでにその声で、気絶していた真衣が目覚める。


 咲夜はその返答に満足そうに頷くと、最後には優しい瞳で四人に祝福の言葉を述べた。



「決勝進出、おめでとうございます。次こそ、四人の力を合わせて、そして優勝を目指しましょう!!」

「「「はいっ!!!!」」」

「は、はいぃ!!」



 真衣だけは場の空気についていけていない様子であったが、一先ず咲夜の言葉を聞いて返事を返した。


 そして、咲夜が部屋を後にしようとした時、その場で一度振り返る。



「朝陽さん、このあと、私の部屋に一度来るように」



 それだけ言い残し、咲夜は部屋を後にした。






●●●






「足に違和感は?」



 咲夜に言われた通り、その後咲夜の部屋を訪れていた朝陽は、咲夜から簡単な触診と問診を受けていた。



「今は全然……ただ使用直後は少し足に力が入らない感覚がありました」



 足をマッサージするかのように揉みながら、咲夜はジッと観察する。



「目立った異変は無さそうですし、今回は大丈夫でしょう。ですが次使用した時にどうなるかは分かりません。それは貴方が一番わかっていますね?」

「……はい」



 咲夜に真正面からの警告され、朝陽は俯きながらも頷いた。


 その辛そうな表情に、咲夜も僅かに悲しげな面持ちで朝陽に寄り添う。



「焦る気持ちは分かります。でも今のままでも貴方は十分な力を有してる。現に『守護神』と『荒破鬼』という二人の強者を倒しているのです。もっと、今の貴方自身に自信を持ちなさい」

「それは……そうなんですが……」



 どこか煮え切らない様子の朝陽に対し、咲夜は次の朝陽の言葉を待った。



「でももし、また【オリジン】が現れたら、今の私でもまだ敵いません。そしてもし、また仲間が窮地に陥ったら、私は躊躇なく()()()()使うと思います」



 その言葉には強い想いが秘められており咲夜がどんな言葉をかけても曲げないであろう意志が込められていた。


 咲夜は目を瞑り、小さく息を吐くと、しっかりと強い瞳で朝陽を見つめ返した。



「その志は大切なことです。ですがここは『大輝戦』の舞台。そして相手は『オリジン』ではなく、同じ『グリッター』です。それを履き違えないで下さいね」

「……はい」



 それは小さな返事ではあったが、しっかりとした返答でもあった。


 一抹の不安を抱えながらも、咲夜はゆっくりと休むよう朝陽に伝え、自室へと送り返した。


 そして、用意されたベッドに座り込み、小さく呟いた。



「朝陽さんの覚悟…あれはまるで、【オリジン】との最終決戦に挑んだ時の私と同じ…そんな彼女の覚悟を、私は……」



 自室で小さく呟かれたその言葉は、誰に伝わるでもなく、室内で消え去っていった。

※後書きです






ども、琥珀です。


本日で連続更新は終了になります。

第三部も上手く終了して、ちょうど良い区切りになったのでは無いでしょうか。


ストックはまた無くなりましたが、また一生懸命書き続けて、『大輝戦』をしっかりと書き上げていきたいと思います。


どうぞお付き合い下さい!


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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