第349星:日輪の影
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。『グリット』は、『想いを香りに添えて』で、エナジーを香りに変え、各効果による香りを吸った者の気分の抑揚や感情の起伏を操るもの。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
「…どうやら暴走はしてねぇみたいだな」
「ですね。妹さんのお陰で正気に戻ったってところかな」
急に展開された夜宵の闇によって、一度距離を取ることを余儀なくされた中国メンバーは、先程までとは様子が違う、否、元に戻った夜宵の姿を確認する。
「とはいえあんだけ黒いのを大放出してたんだ。『エナジー』は大して残ってねぇだろ」
「そうですね。出来ても最初の頃の影を使ったサポートくらいかと思います」
カリナが夜宵の状態を推察すると、安奈もこれに同意する。
「まぁ私も正直そう思うんですが…それならわざわざ前に出てくる必要ないかなぁって。影を使ったサポートなら後方からだけで良いと思うんですよ」
駿河の言葉に、一同は同じ疑問を持ったのか、押し黙る。
「純粋に闇をアタシらに食らわせようと前に出たんじゃないのか?闇の形を変えた攻撃とは違って、さっきみたいな闇は展開力が遅いみたいだしな」
「その可能性もあるけど、でも彼女、このまま下がるような様子が無いんですよね…」
一同が夜宵の方を見ると、確かに夜宵が下がる様子は無かった。
「じゃあ何か企んでるってことか?あんな状態で?」
「その考え方は危険だよ。あれだけ弱っている状態で前に残るからには、相応の作戦と覚悟があるはず。寧ろさっきより警戒する必要はあると思う」
弱った状態の夜宵を見て警戒を緩めていたカリナを、駿河がしっかりと諭す。
「小難しいことはお前に任せんよ。アタシは、真っ向から挑んでくるアイツらとの戦いを、楽しませて貰うぜ」
そう言って、大河はゴキゴキッと首を鳴らし、不敵で無邪気な笑みを浮かべた。
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「お姉ちゃん、それ、本当?」
夜宵から話された作戦に、朝陽は思わず聞き返す。
「確証は無いわ。言ったでしょ?博打みたいな作戦だって」
一瞬不安そうな表情を浮かべる朝陽に対して、夜宵は「でも…」と続ける。
「あの時一瞬、力を感じたのは事実よ。だからもし、今言った作戦が成功すれば、一気に決着をつけられる」
そこで夜宵は、チラッと朝陽の方を見る。
「勿論、朝陽が信じてくれればだけど…」
「信じるよ」
朝陽の返答は即答だった。
「作戦云々に関しては正直不安もあるけど、お姉ちゃんの事は信じてる。だから、やろう」
朝陽の返答を嬉しく思いながらも、夜宵は胸の奥がズキンと痛んでいた。
「(私のことをこんなにも信用してくれているのに、私はどうしてあんな事を…きっと、瑠河だって…)」
自分でまたネガティブな思考に入りつつあることにハッと気付き、瑠河は首をブンブンと振った。
「(違う。違うでしょ夜宵。信じてくれているのだから、その信頼に応えてこそ意味があるんでしょ!)」
夜宵は迷いを振り切り、自らが立案した作戦に集中する。
「私の残りの『エナジー』を考慮して、持続出来るのは数分だと思う。大丈夫?」
「十分よ。私の考えてる通りなら、数十秒あれば終わるわ」
夜宵の言葉に朝陽は頷き、槍を構えた。
それと同時に、小さく嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「…?なに?」
「いつものお姉ちゃんに戻って、良かったって!」
「……ごめんね、ありがとう」
複雑な進境ではあったが、真っ直ぐな朝陽の言葉に、夜宵は謝った後、お礼を口にした。
二人が最後の作戦に出る前にかわした言葉はこれが最後。
朝陽は槍を頭上に向けて掲げ、そして叫んだ。
「『光の日輪』!!」
朝陽の槍の先に光が集まっていく。そこまでは何度も見てきた光景。
これまでと違うのは、その光が収束していない点。
形こそ球体の形状をしているが、小さく圧縮されることはなく、寧ろドンドンと肥大化していた。
「『解放』!!」
そして、槍の先端から留まっていた、直径3mはあろう球体が朝陽達の後方へと放たれた。
「おい、なんだありゃ……」
大河が駿河に尋ねるが、その答えはすぐに分かった。
朝陽の放った球体は、一定の高さまで到達すると、次の瞬間、カッ!!と眩く発光し出した。
その光は直視することなど出来ず、大河を始め、中国メンバーは手で顔を覆い隠していた。
「なん…だこりゃ!?ここから攻撃が始まんのか!?」
「後方に放ったので攻撃性能は無いように思えます!!でもこの発光度!!目眩しにして接近してくるかも知れません!みんな気を付けて!」
駿河のその言葉で警戒心を高めた一行は、大河を正面に配置するようにして、四方を固める。
どの方角からの攻撃に対しても対応できるようにするためである。
しかし、朝陽達の狙いは、鼻から接近することには無かった。
「お姉ちゃん!!」
「大丈夫、繋がってる!!」
朝陽の言葉に答えると、夜宵は両手を地面につける。
「『闇の影穴』!!」
その両腕からブワッと闇が噴き出るものの、朝陽達の周囲には何も起きない。
「え?」
代わりに異変が起きたのは安奈。
大河の直ぐ側で周囲を警戒していた安奈であったが、朝陽の光により目元を隠していたためか足元の警戒が薄くなっていた。
その安奈の足元に、突如として黒い空間が生み出される。
そして一瞬の浮遊感を感じた後、安奈はその黒い穴に吸い込まれるように落下していく。
「安奈さん!?」
咄嗟に異変に気付いた駿河が、即座に安奈に糸を伸ばし片腕に縛り付ける。
「んぎっ!?重ッ!?ひ、引っ張られる!!」
駿河の言う通り、安奈に括り付けた糸はピンッと張っており、駿河自身もドンドンと沈んでいく安奈に引っ張られるように引き摺られていった。
「ちっ!!」
警戒が薄くなるのも厭わず、大河が駿河の身体を抑えどうにか引っ張り上げようとするが、それでもどうにか支えているのが精一杯といった様子であった。
「こ、この闇の空間の中で、強い磁場が発生してるみたいです!それが引力になって引き寄せられているみたいです!!」
既に身体は闇の空間の中に沈んでいる安奈が、その空間の中身を必死に二人に説明していく。
「い、糸を辿って脱出は出来そうですか!?」
必死に糸を抑え、安奈を支えながら声をかけるが、返ってきた返答は暗いものであった。
「申し訳ありません…引き寄せられていると申し上げましたが、真下になのか、真横になのか、全くその方向性が分かりません。ですから……」
安奈はそこで一旦タメを作ってから、糸の先にいる大河と駿河の方を見て、
「糸を離して下さい!!」
覚悟を決めた声で、そう告げた。
「なにをバカな!!私の糸はそんな簡単に千切れたりはしませんよ!!あとは大河が引き上げてくれます!」
「応よ!!これくらいの小さい穴に負けてたまるか!!」
二人は安奈の言葉を拒否し、尚も引っ張り上げようと試みるが、その意思に反して、身体はドンドンと穴に引き摺り込まれようとしていた。
「お二人とも分かっているはずです!!このままではお二人まで脱落しています!!いくら何でもカリナさん一人では関東選抜には勝てません!!お二人の力が必要なんです!!」
「ッ!!でも!!目の前にいるのに!!救えるかもしれないのに!!」
安奈の言葉が正しい事は分かっていた。
安奈が飲み込まれた闇の穴から発せられる引力は凄まじく、ここに関東メンバーの攻撃を警戒しているカリナが加わっても、恐らく引き上げることは出来ないだろう。
それでも、目の前でギリギリのところで耐えている仲間を見捨てることは、駿河には出来なかった。
「駿河さん!!例えここで脱落しても、皆様が勝利してくだされば私はまた舞台に立てます!!ですがここでお二人まで巻き添えを食らって、中国選抜が敗北すれば、全てそこまでです!!いつもの貴方らしい冷静な判断を下して下さい!!」
息を切らし、頻拍した選択を迫られ、駿河の呼吸が乱れる。
「……駿河」
その時、背後で支える大河が、普段は出さないような優しい声色で、駿河の名前を呼ぶ。
駿河は振り返り、悲痛な面持ちで大河を見るが、大河もいっぱいいっぱいな状況で、首を横に振ることしか出来なかった。
「……から」
ゆっくり、もう一度安奈の方を振り返った駿河は、最初に小さな声で呟く。
「絶対勝ちますから!!だから!!信じて待っててください!!」
そして、覚悟を決めたかのように大声で叫び、その思いを安奈に届けた。
「信じてます。最初から、最後まで、ずっと」
安奈は最後まで笑みを崩さず、そして駿河は歯を食いしばり、ギュッと目を瞑ると、ソッと自身の指先から放出していた糸を切り離した。
次の瞬間、僅かな落下の後、安奈の姿は一瞬にして見えなくなる。
そして、天井のモニターには、安奈の脱落の文字が表示されていた。
※後書きです
ども、琥珀です。
皆さんスポーツは観戦されますか?
Twitterを見ていただいている読者の方はご存知かもしれませんが、私はあるサッカーチームを応援しています。
そのチームが、優勝目前でして、運命の日が月曜日なのです…
もう今から緊張して夢にさえ出てきます。
私の小説以外の数少ない夢と趣味。
ファンとして、優勝を願うばかりです…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




