第346星:叱咤激励
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。『グリット』は、『想いを香りに添えて』で、エナジーを香りに変え、各効果による香りを吸った者の気分の抑揚や感情の起伏を操るもの。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
朝陽に抱きつかれ、夜宵は大きく見開いた。
そして、見開かれた瞳から赤い光が消え去り、同時に暴走していた際に溢れ出ていた闇が、夜宵の中に吸い込まれるようにして消えていった。
「あさ…ひ…?」
その口からは、まだ虚げながらゆっくりと朝陽の名を呼び、その声はどこか困惑しているようであった。
やがて、ゆっくりと頭が状況を理解し出し始め、夜宵はサッと顔を青く染めた。
「あ、朝陽!!貴方、無事で……る、瑠河、瑠河は!?」
一気に頭の中に情報がなだれ込んで来たのだろう、夜宵は混乱した様子で朝陽を問い詰めた。
そんな夜宵に対して朝陽は────パンッ!!
夜宵の両頬を、挟むようにして叩いた。
「詳しい事情や状況は私も分からない。でもさっきの戦いの最中で、お姉ちゃんは暴走して、瑠河さんは中国メンバーの一人からのお姉ちゃんを守るために身代わりになって脱落した。これをしっかり理解して受け止めて」
優しく諭すのではなく、厳しい口調で夜宵に現実的な言葉を投げかけた。
夜宵の瞳は小刻みに震え、そして朝陽の言葉から朧げに残る記憶から、自分の行いを理解する。
そして、力無くその場に崩れ落ちそうになるが、そんな夜宵の身体を朝陽の両手がガッと掴み、それを許さなかった。
「お姉ちゃん、前に私に言ったよね。『一人で突っ込み、味方も巻き込みかねない攻撃を続けた。それじゃあ千葉根拠地の一員として失格だ』って」
それは、【オリジン】との戦いの時、朝陽が焦りから暴走し、一人で挑んでしまった時のことであった。
「『手も足も出ない状況下であっても、みんなで力を合わせて戦ってる』、『私達は一人じゃ勝てない!!支え合って、協力しあって、ようやく強大な敵に立ち向かえる』、『犠牲を無駄にするようなことは絶対に許せない。あの二人のことを思うのなら、力を合わせて戦うんだ』。そう言ってくれたよね」
夜宵もその時のことは鮮明に覚えているのだろう、力無く朝陽にもたれかかるよう状態で、ゆっくりと視線を動かし、朝陽の方を見た。
「今のお姉ちゃんはあの時の私と同じ。だけど、あの時のお姉ちゃん自身でもある。それなら、今の言葉の意味だって、しっかりと伝わってるよね」
帰ってきた朝陽の目は、力強く、眩しく、そしてどこまでも真っ直ぐであった。
「瑠河さんはお姉ちゃんを庇って脱落した。だけど、だからこそ、ここで倒れて込んで、お姉ちゃんが何もしないでどうするの?」
朝陽は、夜宵が自力で立っているのを確認したあと、手を夜宵の両肩に置き換えて、強く、言葉を投げかけた。
「力を合わせて戦おう、お姉ちゃん。私達はまだ負けてない。私だけじゃ無い、真衣さんだっている。お姉ちゃんがまた道に迷ったら、私が連れ戻すから。だから……立って、お姉ちゃん!!」
朝陽の言葉に、夜宵の心は強く奮わされた。それと同時に、悔しさを強く感じていた。
本来ならそれは、姉である自分が朝陽に投げかけなくてはならない言葉。
それを妹である朝陽に有無を言わせず伝えられたことで、どこか屈辱にも似た感覚を、夜宵は感じていた。
暴走の一つの要因となった、朝陽の急激なまでの成長が、皮肉にもその感覚をより助長させていた。
しかし今はそれよりも、自分の行いの非を認め、そして、そんな自分なんかのために脱落させてしまった瑠河に報いなくてはならない、という想いが勝っていた。
「…えぇ、そうね。謝ることならあとでいくらでも出来る…今はもう一度、目の前の相手に目を向けて、倒すことに集中するわ」
心に沸き立つ負の感情を抑え込み、夜宵は大きく深呼吸をして、再び中国メンバーへと目を向けた。
「……ありがとう、朝陽」
本心からその言葉を言えたかはわからない。
しかしそれでも、この言葉だけは伝えなくてはならないと、夜宵のなかで区切りをつけていた。
「お礼は、この戦いに勝ってからだよ、お姉ちゃん」
朝陽はその言葉を受け止めつつも、まだ受け入れず、ソッと槍を構えた。
九州選抜との戦いを終え、朝陽達第三部の戦いは、遂に佳境を迎えていた。
●●●
「攻撃、しなくて良かったんですか?絶好のチャンスだったのに」
夜宵の闇が引き上げられた時、大河達中国メンバーはいつでも攻撃を仕掛けることができた。
しかし、大河がそれを制止し、結局奇襲をかけることはせずにいた。
「下手にこっちが手を出して、また暴走でもされたら面倒だからな」
その理由を、大河は一同に説明し、「それに…」と続ける。
「アイツは……斑鳩 朝陽は一度正面から挑んできた経緯があるからな。借りとはまでは言わないが、そん時の行動に報いておきたかったんだよ」
戦いの場において似つかわしくない内容ではあったが、大河の発言に異を唱えるものは誰一人としていなかった。
「まぁ真正面から戦うのは私達にとっても不利じゃ無いですし?寧ろ好都合ってやつですね〜」
「あの荒れ狂った闇の波には困ってたのは事実だ。仕切り直しにはちょうど良いだろ」
駿河が大河の言葉に賛同し、カリナもこれに続いた。
その中で、安奈だけが申し訳なさそうな表情で呟く。
「あの…私もこの状況については反対では無いのですが…先程の夜宵さんの闇の攻撃で、私の『魅惑の香り』はほとんど掻き消されてしまいました。朝陽さんの合流で夜宵さんも落ち着かれてしまった様子ですし、二度目はあまり効果が無いかも知れません…」
安奈の出す香りも『グリット』によるものであるため、夜宵の闇によって掻き消すことは可能である。
そして、その本領を発揮する、謂わば情緒の不安定さも失われてしまった今、その真価を発揮する場面は殆ど失われてしまっていた。
言ってしまえば、『グリット』を使用した戦闘においては、事実上の戦力外と言えるだろう。
しかし、大河達一行は、安奈の言葉に責めるような反応を見せることは無かった。
「いえいえ、安奈さんにはもう十分な働きをして貰いましたよ〜。一人脱落させることも出来ましたし、夜宵さんの『エナジー』も大分削ることが出来たはず。文句なし!です」
「だなぁ。戦果としては十分過ぎるくらいだ。ぶっちゃけ私の方が何の役にも立ってねぇからな。そろそろ名誉挽回してぇな」
駿河が安奈に向かってサムズアップすると、カリナもそれに乗っかるようにして擁護する。
「妹の方も、九州メンバーとの戦いで疲労は溜まってんだろ。二人で一つの選抜地域を倒しちまったってのは正直驚きだが、人数も余力もこっちの方が上だ。恐れる必要はなんもねぇ」
大河は首をコキコキ鳴らしながら、ゆっくりと、しかし分かりやすく交戦体制に入っていった。
「最初の礼儀にはもう十分報いただろ!!こっからは私得意の!!真っ向勝負だ!!」
●●●
「ひとまず、落ち着いたみたいだね」
観客席で夜宵の様子を見ていた大和は、ホッと息を吐く。
「もう大丈夫そうだ。だから君も座りなよ、咲夜」
その隣では、直ぐにでも飛び出す用意をして立っていた咲夜の姿があった。
周囲には悟られない程度の闘気を発していた咲夜は、大和の言葉を受け、ゆっくりと席に座り直した。
「…私が彼女の暴走をこの目で見るのは、二度目です」
「確か、『メナス』との戦闘で傷付いた彼女が復帰して、最初の君との訓練で暴走したんだっけ?」
大和の言葉に、咲夜はゆっくりと頷いた。
「あの時もそうでしたが、その時の夜宵さんの雰囲気は、普段の彼女とは別人のようでした。闇を纏い、負の感情を漂わせた、全くの別人…」
咲夜はどこか恐るような瞳で、遠方の夜宵の方を見つめる。
「…君から聞いた話だと、朝陽君も似たような事があったそうだけど?」
「えぇ、どうやらそのようです。ただ、私は朝陽さんについては直接見たことがないのと、あくまで彼女から聞いた話ですので、夜宵さんと同じ症例なのかは分かりません」
その隣に位置する朝陽のことを見ながら、咲夜は大和の問いに答える。
「他のメンバーに聞いた話では、朝陽君とはまるで別人のようだったけど、敵意はなく、寧ろ身を案じてくれたと聞いてる。ここから推測するに、二人のもう一つの人格は別人だと思うけど…」
大和は厳しい表情で考え込む。
「これまで、大きな影響が無かったためにそこまで問題視してきませんでしたが…彼女達の力が増すほど、その影響も色を濃くしているように思えます。最早、放っておける事では無いように思えますが…」
咲夜の問いに、大和はすぐには答えなかった。
膝に肘を乗せ、しばらく考え込んだ末に、ゆっくりと口を開く。
「確かに、二人のことについては、もう少し詳しく調べる必要はあるかも知れないね」
そう呟いたあと、大和は「でも…」と続ける。
「夜宵君は朝陽君の言葉で目を覚ました。なら、この『大輝戦』のうちは様子を見よう。ボクらが不安な表情をしていたら、彼女達は全力を出せなくなってしまう。これだけの大きい舞台なんだ。皆には思いっきり戦ってほしい。咲夜もそう思うだろう?」
「それは……はい、そうですね」
一瞬、なにかを言おうとするも、直ぐに大和の言う通りだと思い直し頷く。
「見届けよう咲夜、二人の戦いを。ボク達が動くのは、彼女達がボク達の支えを必要とした時だ。だから、その時までは…」
最後は自分に言い聞かせるようにしながら、大和は小さく呟いた。
※後書きです
ども、琥珀です。
最近インドアの趣味がドンドン減りつつあって、代わりにアウトドアの趣味が増えてきました。
最近だとゴルフを始めましたね。
といってもまだ毛が生えた程度の素人遊びなのですが…
でも、外に出ることで、私の小説に好い影響が出ると良いな、と思っております。
と、いう後書きでした。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




