第344星:夜宵と瑠河
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。『グリット』は、『想いを香りに添えて』で、エナジーを香りに変え、各効果による香りを吸った者の気分の抑揚や感情の起伏を操るもの。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
与那覇 ミナとナミの脱落に続き、仙波 盾子の脱落の文字を確認した時、瑠河の心境は複雑だった。
無事に勝利した朝陽達に歓喜し誇りに思いつつ、同時に何一つ戦況が好転せず、寧ろ劣勢に立たされつつある自分達に憤りを覚えていた。
「(二人はじきにここへ来てくれるだろう。だが、九州選抜を倒してくれた二人に、こちらの事まで任せてしまうのは忍びない…と言うよりも情けない)」
ギュッと目を瞑り、瑠河は大きく息を吐き出した。
「(せめて一人くらいは…何とかこの状況を打開したいが…出来るのか、今の私達二人で…)」
瑠河の言葉に聞く耳を持たず、再び前線へと足を運んだ夜宵の姿を、瑠河は眺めていることしか出来なかった。
既に、先程のような合図を出すような様子も見られない。
瑠河は完全に蚊帳の外となっていた。
「私は…一体どうしたら良い。何が出来ると言うのだ…」
そしてその前線では、夜宵が周囲に蔓延させた闇を操りながら、大河に攻撃を仕掛けていた。
「ハッハァ!!どうしたぁ!!随分と攻撃が単調だぜ!!」
全方位から繰り出される闇の攻撃に対し、大河はその全てを避けていた。
避けることが出来ているのは、これまでに培われて来た実践経験による賜物であるが、もう一つは大河の言う通り、夜宵の攻撃が単調となっていることが理由であった。
大河の拳によるダメージのせいか、はたまた安奈の『グリット』による焦りからか、夜宵はとにかく攻撃を当てることに躍起になっているようであった。
確かに夜宵の『グリット』ならば、大河の『硬化』を破ることが出来るため、そこに躍起になるのは仕方のない面もあるだろう。
対して大河は、自身の『硬化』を無効化する夜宵の闇の攻撃に対し、真正面から受けるようなことはせず、確実に避けた後に、側面から拳を振ることで、次々と夜宵の闇を打ち砕いていた。
どちらが優勢かは明らかで、大河の口的には笑みが浮かび、夜宵の表情からは余裕が無くなっていた。
「『引用率糸』!!」
その焦りからか生まれた隙を突かれる形で、夜宵の四肢にどこからともなく飛んできた糸が巻き付けられていく。
「ッ!?しま…!!」
「万遍のなさが仇になりましたね!!逆に薄みが出てきて隙だらけでしたよ!!」
大河に意識を割きすぎたためか、『闇の瘴気』の長所である効果範囲の広さを扱いきれず、隙が生じてしまっていた。
「大河!!」
「おうよ!!これで終わらせてやる!!」
動きを拘束された夜宵の元に、大河がトドメを刺そうと距離を詰める。
既に『硬化』した大河の攻撃を二発くらっている夜宵が、三度攻撃を受ければ、流石に再び立ち上がることは出来ないだろう。
現状でも立っているのがやっとな程。殴りつけられた箇所からは鋭い痛みが走り続けており、限界は近かった。
「こんな……糸ごとき!!」
夜宵は周囲に蔓延させていた闇とは別に、自身の身体から新たな闇を生み出し、糸を飲み込もうと試みる。
しかし、全身のダメージと、安奈の『焦燥の香』による焦りから、思うように効果を発揮する事が出来ずにいた。
「(ッ!!せめて、受けるダメージを…!!)」
糸からの解放を諦め、迫り来る拳に闇を向けて、夜宵はダメージを減らそうとするが、その判断は遅かった。
全てを飲み込むタイプの闇に切り替えたことで、展開力が遅いという欠点が表面化し、既に防御は間に合わない状況にまで陥っていた。
夜宵もそう判断したのか、覚悟を決め、全身に力を入れて瞼を力強く閉じた。
────ドッ!!
鈍い音は鳴り響いた。しかし、夜宵の身体に異変は起きなかった。
夜宵が目を開くと、身体をくの字に曲げ自分のすぐ真横から吹き飛ばされる人影を目にした。
「る……か……?」
それが、自分を庇って拳を受けた瑠河であったことに気付いたのは、数秒してからであった。
状況を理解したのは、そこから更に数秒経ってからのことであった。
「う、あ、あ、あああぁぁぁ!!!!」
そして、状況を理解した夜宵は、暴走を始めた。
●●●
「(あぁクソ。私は、判断を誤ったな…)」
大河の攻撃をモロに受け、身体を大きく後方に吹き飛ばされながら、瑠河は刹那の瞬間ながらゆっくりとした時間の中で、頭の中では冷静に考えていた。
「(糸を矢で射ってから夜宵とともに離脱をしていれば、余計なダメージは貰わなかったかもしれないのに…)」
しかし、瑠河は気付いていた。
例え糸を矢で射ったとしても、夜宵が自分の言葉に耳を傾けて、離脱することはなかったであろうと言うことに。
「(あぁ、気付いてしまった。どうしてこんなにも…私は苛立ってしまっていたのか)」
全身から力が抜けるとともに、冷静さを取り戻した瑠河は、ここまでの戦闘での心境を見つめ直していた。
「(仲間に…友に頼られないことが、こんなにも悔しいだなんて)」
夜宵が一人で戦うようになってから、瑠河は形容し難い怒りを覚えていた。
それは、夜宵が独りよがりな戦いをしたからだと思っていた。
しかし、例え自分がいたとして、どれだけ夜宵の力になれていただろうかと考える。
ゆっくりと刻まれる時の中で、瑠河の視界に映る大量の闇を吹き出す夜宵。
あの闇を見た時、瑠河は一瞬ではあるが恐れてしまった。そして夜宵は、そのことに気付いていた。
「(そんな私に、友を一瞬でも恐れてしまった私なんかに、どうして頼ろうなどと思えるというのか…)」
全ては自分が蒔いた種。
僅かに見て取れる視界の先では、大量の闇を噴き出しながら暴れ狂う夜宵の姿が見て取れた。
そしてそれは、全て不甲斐ない自分の責任だと、瑠河は諦めたように瞼を閉じ、吹き飛ばされた勢いに身を任せる。
このまま落下して脱落かた考えていた矢先、岩でも地面でも無い、優しく温かい何かに抱き止められた。
「瑠河さん!!」
攻撃を受けた衝撃で、意識が朦朧としており、瑠河にその声はハッキリとは届いていなかった。
しかし、思わず目に焼き付くほどの神々しい輝きに、瑠河は必死に声を絞り出し、縋るようにして思わず叫んでいた。
「頼む…!!夜宵を、救ってくれ!!」
●●●
遠方から瑠河が吹き飛ばされてきたことに状況が飲み込めず、受け止めた朝陽は一瞬戸惑いを見せる。
しかし、その瑠河から告げられた一言で、朝陽は一瞬で考えることを止め、覚悟を決めた。
その瞬間、朝陽達の隣に俊雅が現れる。
俊雅は瑠河に一度目を向けたあと、朝陽の方を見る。
言葉を交わさずともその意図を理解した朝陽は、辛そうな表情を浮かべながらも小さく頷いた。
そして、俊雅が客席に合図を送ると、円状の輪が通り抜けるように瑠河を通し、次の瞬間、瑠河の姿は朝陽の腕から居なくなっていた。
そしてそれと同時に、天井に吊るされたモニターに、矢武雨 瑠河の脱落が表示されていた。
「あうぅ…瑠夏さぁん…」
脱落する様子を見ていた真衣は、悲しげな表情と声で瑠河の名前をか細く呼んだ。
「真衣さん、悲しむのは早いです」
それよりも更に近く、瑠河を抱きしめ、目の前で言葉を託された朝陽は、真衣に背中を向けながらも強く応えた。
「私達が勝ち進めば、瑠河さんも決勝には出場できます。だから、今は悲しむ時じゃありません。瑠河さんのために、勝つことを考えるべきです」
朝陽の強い言葉に励まされたのか、真衣は潤んでいた瞳を拭い、コクンと頷いた。
「それに……」
朝陽はゆっくりと視線を更に奥へと向けた。
そこでは怒りに燃え、暴走しているかのように荒れ狂った夜宵の姿があった。
「瑠河さんに託されたんです。お姉ちゃんを頼むって!!」
どういった状況で、瑠河が脱落する状況に陥り、夜宵が怒り狂っているのかは朝陽には分からない。
それでも、朝陽には微塵も迷いは無かった。
戸惑いや不安など、瑠河の発した言葉の内容だけで払拭するのには十分であった。
それまで、上手く力が入らず震えていた足にも力が戻り、瞳にも再び力強い光が宿っていた。
「お姉ちゃん…待っててね。いま、私がいくから」
※後書きです
ども、琥珀です。
肯定的な言葉を投げかけても、例えば本人がその作業に満足していないと、それは返って反感を買うことがあるんですね。
私は例え上手く行かない点があっても、良いところがあれば先ずはそこを必ず褒めることをして、ダメなところは慣れていってくれれば良いと思ってました。
でも、初めから完璧を求める方には、あまり好ましく無いんですね…
何だか一つ学んだ気がしました…
社会勉強した一日でした。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




