第343星:ゼーレ・レッグ
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。『グリット』は、『想いを香りに添えて』で、エナジーを香りに変え、各効果による香りを吸った者の気分の抑揚や感情の起伏を操るもの。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
モニターに映し出された文字を、盾子はただただ黙って見ていた。
「(全力を尽くした…護らねばと死力も尽くした…だが…彼女達の連携と攻撃力に、私一人では及ばなかった)」
よく見れば、モニターを見つめる彼女の方は小さく上下に揺れており、肩で息をしていた。
「(二度目は無いと、プライドもかなぐり捨てて、『守護神』ではなく、鹿児島根拠地の仙波 盾子として力を行使した)」
盾子のその結果は、モニターに映し出された通りだった。
「……最後まで、信頼に応えられなかったな、私は」
僅かに俯き、盾子は小さな声でつぶやいた。その表情は、垂れた髪に隠れて見ることは出来なかった。
「やりましたね朝陽さん!!あとは盾子さん一人ですよ!!」
「………」
ナミとミナの二人を倒したことで喜ぶ真衣であったが、朝陽の表情はどこか険しかった。
「朝陽さん?」
その表情に気が付き、真衣は朝陽の顔を覗き込むようにして顔を傾げる。
「まだ、気は抜けません真衣さん」
朝陽は槍を構え、立ち尽くす盾子に警戒心を抱いていた。
「た、確かに盾子さんは難敵ですけど、私達二人が力を合わせれば……」
「戦いに、絶対はありません、真衣さん」
勝利を確信している真衣を諭すように、朝陽は優しく、それでいて強く語りかけると、真衣の表情が一点して引き締まる。
「それに、これまで護るものがあった盾子さんに、いま初めて護るものが無くなった。本当の戦いは、ここからかも知れません」
朝陽の話を受け、真衣はゴクリと唾を飲み込んだ。
その朝陽の視線の先にいる盾子は、やはり項垂れたままだった。
しかし、その手がゆっくりと閉じていき、やがてギュッと音がするほど力強く握り締められていった。
「ふふ、ははは…ははははは!!」
次の瞬間、盾子は俯いていた状態から一転、顔を上げ大声で笑い出した。
怒りや狂気の笑みではなく、どこか嬉しそうな、それでいて悔しそうな声であった。
「あぁ、これが『大輝戦』か!!自らの足りないところを見せつけられる!!自分が如何に未熟かを突き付けられる!!これがこの舞台!!」
ギンッとその瞳が朝陽達に向けられる。
それは、およそ肩で息をするほど疲弊している人物とは思えないほどのプレッシャーを放っていた。
「だがまだ私は……九州選抜は負けていないぞ!!私がいる限り!!私が君達を倒しさえすれば、勝利を手にするのは九州選抜だ!!」
ビリビリと、プレッシャーだけでなく、言葉の節々から感じられる圧を、朝陽達は全身で感じ取っていた。
「護るべきものは全て失った!!ならば!!私は初めてこの力を護るのではなく、戦うために使おう!!」
そう言うと、盾子は朝陽達の方へと手をかざした。
盾が形成されたのは、朝陽達の足元。二人はこれをそれぞれ横に転がることでかわすが、それこそが盾子の狙いであった。
「『エスクード・タンデム』!!」
その直後、朝陽達を退かした盾が、そのまま縦列するようにして次々と形成されていき、二人を遮るようにして巨大な壁が形成されていった。
「(分断された!!でも目的地が一緒なら…!!)」
朝陽は一瞬戸惑いながらも、すべきことは変わらないと考え直し、飛翔して一直線に盾子の方へと向かっていった。
「『エスクード・インターポース』!!」
その朝陽に対して、盾子は壁を作った方とは逆側から挟み込むようにして、巨大な壁を平行に作り出した。
「(技の幅が広がってる!?護るためじゃなくて攻めるために能力を行使してるから!?)」
ここに来ての盾子の急激な変化に、流石の朝陽も驚きを隠せなかった。
「あぅ!!」
壁越しに聞こえてきたのは、苦しそうな声を上げる真衣の声。
恐らく朝陽と同じように盾子の方へと向かっていたが、反対側でも同じような状況になっているのだろう。
「『光の矢よ』!!」
朝陽は光の矢を放つが、当然一直線に放たれた矢は、盾子が形成した盾によって防がれる。
道は直線上にしかなく、左右は壁に挟まれている。
そして、反対側に作られた壁は、朝陽達を挟み込むようにして迫って来ていた。
一瞬にして立場は逆転。朝陽達は窮地に陥っていた。
離れた位置に見える盾子の表情には、鬼気迫るものがあった。
それはもう変化ではなく成長。
自身のプライドを切り裂かれ、自身のプライドをかなぐり捨ててまで挑んだ戦いにも敗れた、一人の戦士の成長であった。
悩んでいられる時間はもう少ない。
攻めるための手はもう殆ど残されていない。
九州メンバーを追い詰めた連携も詰まれた。
その極限の中で朝陽は────
「『閃光の輝脚』」
そう小さく呟いた。
次の瞬間────
「…ッ!?なっ!?」
およそ100m以上は離れていた筈の朝陽の姿が、一瞬にして目の前にまで迫っていた。
「エ、『エスクー』…!!」
そんな状況下で、咄嗟に朝陽を遮ろうと『グリット』を発動させようと判断出来る辺り、流石は選抜メンバーと言えるだろう。
それでも、盾子の動揺は大きく、完全に後手に回ってしまった盾子よりも、朝陽の攻撃の方が早いのは必然であった。
「『光衝撃』」
盾子の盾が形成されるよりも早く、朝陽の槍は盾子に向けられており、その先端には、光の光球が集約されていた。
「…ふふ…そうか。君とはもっと、ぶつかり合いたかったな…」
何かを悟った盾子は、小さく笑みを浮かべる。
そして次の瞬間、槍の先端に集約されていた光が弾け、その勢いに押し飛ばされ、盾子は場外へと落下していった。
「あぁ……もう少し…己の成長を感じていたかった」
その言葉を最後に、盾子はフィールドから姿を消し、代わりに天井に吊るされたモニターには、仙波 盾子の脱落の文字が表示された。
それと同時に、朝陽達を閉じ込めていた盾の壁も消滅し、朝陽と真衣は無事に合流を果たした。
「い、今の朝陽さんが盾子さんを倒したんですか!?あ、あの状況でどうやって……」
「アハハ…細かい理屈を話すと長くなるのでまたいつか。それよりもまだ戦いは終わって無いですよ真衣さん。急いでお姉ちゃん達の方へ向かいましょう!!」
「は、はいぃ!!」
決定打となった技については上手くはぐらかし、朝陽は『フリューゲル』に真衣を乗せ、夜宵達の方へと向かっていった。
真衣は気付かなかったが、この時、朝陽の足は痙攣のように小刻みに震えていた。
●●●
「アウトですね」
朝陽の戦いを見ていた咲夜は、勝利を収めたにも関わらず、淡々と言い放った。
「ハハ…あ、アウトって何が…かな?」
冷たい表情のままの咲夜に、大和は恐る恐る尋ねる。
「あの技をまた使用したことです。基本は使用を禁止としているにもかかわらず、再び使用しました。もう注意だけでは済みませんね」
「ま、まぁでも結果として、盾子君を倒すことは出来たんだし、最適な使用タイミングだったんじゃ…?」
「そう言う問題ではありません」
「すいません」
完全に立場が逆転していながら、思わず大和に対して強い口調を使ってしまったことに気付き、咲夜は一度深呼吸をしてから、先程よりは柔らかい口調で続けた。
「確かに、結果として盾子さんを脱落させる事には成功しました。状況的にも適切なタイミングであったのかも知れません」
咲夜は「ですが…」と続ける。
「寧花さんが原則使用を禁止したのはキチンと理由があってのことです。朝陽さんもそれはわかっている筈。それを理解した上で使用しているのですから、師として注意しなくてはならないのです」
咲夜の言うことは間違っていない。だから大和は「成る程…」と諦めたように納得した。
「いま使用した技はほんの一部とはいえ強力です。ですが、強力すぎる故に、扱いきれていない。大和もお気づきのはずです」
「朝陽君の、足の負担のことかな?」
当然のように見抜いていた大和の発言に、咲夜は深く頷いた。
「ほんの一部でさえ、目に見えて分かる負担量。それを二度も行使したのです。結果さえ良ければ良いという訳ではありません。それを分かってもらうために注意するのが、師である私の務めです」
咲夜は怒ってこそいたが、口から出る言葉は全て正しかった。
だからこそ大和はこの時何も言わなかったが、内心では朝陽のことを擁護していた。
「(確かに、寧花さんと交わした約束を反故にしたのは良くない。けれど、自分で必要だと、可能だと判断して、約束を反故することになると承知の上で使用したのなら、きっとそれは、『心』の成長なんだろう)」
咲夜とは対照的に、どこか穏やかな表情で、大和は朝陽を見ていた。
「(いろんな人の協力があったとはいえ、あの技を見出してモノにしたのは彼女の努力の賜物。だからボクは、必ずしも間違いだとは思わないかな)」
膝の上に肘を置き、手のひらの上に顎を乗せながら、大和は笑みを浮かべる。
「(まぁ咲夜からのお説教は止められないし、免れないと思うけどね…)」
最後は苦笑いを浮かべ、朝陽の身を案じた。
※本日も後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




