第338星:『硬歪翼球』
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。専用の『戦闘補具』、『硬歪翼球』を所有している。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
迫る硬球に、盾子は一切動揺する様子を見せず盾を形成した。
────ギュイィン!!
その衝突音の異変に気付いたのは、幾多の攻撃を防いできた盾子だけであった。
「(なん…だ、今の音は?)」
それはほんの僅かな動揺。しかし次の瞬間、その動揺は一層強くなる。
何故なら、盾子が跳ね返した硬球を、真衣が朝陽の『フリューゲル』を使って跳ね返したからだ。
「なにっ!?」
予想外の展開に、流石の盾子も声を上げてしまう。
再び迫り来る硬球を、盾子は異変を感じながらも再び盾で防ぎ、跳ね返す。
────ギュイィン!!
「(やはり!何かおかしい!先程とは何かが違う!!)」
跳ね返りの重みの違いに気付き、盾子のなかで違和感は異変へと明確になっていく。
真っ直ぐ跳ね返された硬球は、再び真衣が操る『フリューゲル』によって跳ね返される。
但し、今度は真正面ではなく、角度がつけられていた。
盾子達の居る方向とはまるで違う方角。盾子はそれを訝しげに見つめていたが、やがて直ぐに一つの結論に至りすぐに全意識をそちらへと向ける。
真衣が跳ね返した方角には、既に別で操っていた『フリューゲル』が待ち構えていたのだ。
待ち構えていた『フリューゲル』が再び角度を調整し、盾子達の方へと跳ね返す。
既に五回跳ね返された球の速度はかなりのものとなっており、盾子であっても意識を向けていなかったら万が一の可能性もある程であった。
────ギュギィイィン!!
「ぐっ!!」
盾の形成には間に合ったものの、ぶつかった時の衝撃はもはやただの硬球から放たれるものではなかった。
「(先程よりも速いのか!?いや、加速度自体は変わっていない…ならば何が違う!?)」
ただならぬ威圧感の正体には盾子でも直ぐには把握できず、ただこの異変が非常に危険なものであることは理解していた。
「(これ以上跳ね返すのは危険だ…!!その前にもう一度封じ込めねば!!)」
防ぐ事が出来ても反応できない速度まで加速されれば如何に盾子と言えど対応のしようがない。
その危険性があると判断した盾子は、自分の前に立つナミとミナの二人に声をかけた。
「ナミ、ミナ!もう一度『陸津波』を使えるか!?あの硬球を飲み込むんだ!!」
盾子の言葉に、ナミとミナの二人は目を見合わせ、困ったような表情を浮かべていた。
「り、『陸津波』を起こすのは簡単さ〜。でも盾子さん、それはあまりおすすめしないさ〜」
「アレは『液状化』を発動させてから『硬化』でバランスをとってる技さ〜。だからそれを今使うと…」
「……朝陽君を解放させてしまう可能性が高い…ということか…」
球に気を取られ、盾子にしては珍しく思考の視野が狭くなっていたようであり、その事に気付かなかった事を悔しそうにしていた。
「(落ち着け、ならば次の手を考えるまでだ)」
大きく深呼吸を一つ行い、冷静さを取り戻した盾子は、再びナミとミナに声をかけた。
「よし、ならさっきと同じ手を使おう。まず私が盾で受け止める!ナミとミナは私の盾を利用して……」
その時、盾子は先程から真衣の硬球が全く飛んでこない事に気が付いた。
代わりに聞こえてくるのは、少し離れた位置から鳴り響く金属のような音。
そこへ視線を向けると、そこでは真衣の操る『フリューゲル』が周囲を囲い、その中で何度も跳ね返される、『硬歪翼球』の姿があった。
「自分で…加速させる領域を…!!」
先程の異変、そして目の前の光景に、盾子はこれまで以上の脅威を感じ取っていた。
「まずい!!」
もう何度の跳ね返りになるか分からない程加速した硬球が、いつ自分達に向かってきてもおかしくない状況に、盾子は先んじて盾を形成した。
そして、もはや目視すら困難なほどに加速した硬球は、真っ直ぐに盾子の盾へと向かっていき…
────ギュン!!
真下へと落下していった。
「なん……!?」
直前になり角度が変わった事に驚く盾子。
その落差は、いくらコントロールを極めたからといって出来る芸当では無かった。
しかし、ほんの僅かに目に映る硬球を目にして、その正体を理解した。
真衣の投げた『硬歪翼球』には、素材としての性能の他に、もう一つ秘密がある。
それは、球体から展開される翼である。
翼といっても、鳥のような形をしているわけではない。
どちらかといえば、効果としてはロケットやジェット機などに見られる小翼に近い。
球体の全方位から、任意のタイミングで任意の場所に翼を展開することが出来る性能を持ち、これにより、通常では不可能な角度の変化をつける事を可能にしている。
加えて、真衣は『フリューゲル』で弾く際に、強いトップスピンを掛けており、盾子の盾の前で落差が出るように調整していた。
これに、『硬歪翼球』の小翼の効果が重なり、直角に落ちる球へと変化したのである。
「なんだ…?どこを狙って……」
「盾子さん!!」
「あそこはまずいさ!!」
真衣の狙いに真っ先に気付いたのは、その仕掛けを行った本人達であった。
遅れてアズサが、そしてそれに続いて盾子が気付いた。
「狙いは、斑鳩 朝陽の救出かッ!!」
球の進行方向は、朝陽を飲み込んだ『陸津波』の固まりがある場所であった。
「ッ!!させるか!!」
盾子はその行く手を阻もうと、幾多の盾を行く先に形成するが、真衣の『硬歪翼球』の速度は、盾子の盾の形成速度を持ってしても間に合わないほどになっていた。
そして、遂に球はナミとミナの『陸津波』に直撃。
強い衝撃が加われば硬化する性質を持つはずの『ダイラタンシー』の硬化を上回り、真衣の『硬歪翼球』は、止まる様子を一切見せず、『陸津波』を貫いた。
────…ビシッ!!
小さな音とともに、『陸津波』に小さなヒビが入る。
そして、そのヒビは徐々に拡がり、眩い閃光を放ちながら崩壊していった。
「『閃光の』…」
「…!!盾子さん、攻撃が来る!!」
「舐めるな!!正面からならばどんな攻撃でも受け止めてみせる!!」
崩壊とともに、朝陽の攻撃が来ると理解した盾子は、既に盾の形成体勢に入っていた。
が、しかし……
「違う!!上から来る!!」
「『矢よ』!!」
次の瞬間、先程まで真衣が操っていた『フリューゲル』から光速の光の矢が、盾子達の場所へと降り注いだ。
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「…!あの光は…!」
その閃光に真っ先に気がついたのは、夜宵の指示で離れていた瑠河であった。
それが朝陽の放った光である事を理解すると、瑠河はフッと小さく微笑んだ。
「波に飲み込まれた時はどうしたものかと私も動揺したが…どうやらいらぬ心配だったようだ」
その光を見て、朝陽が無事である事を悟った瑠河は、ソッと意識をそちらから切り離した。
朝陽の心配が要らないと分かった今、より心配なのは夜宵の方であるからだ。
「(今の光に気付いていないのか夜宵。先程まであれほど取り乱していた妹が無事だったんだぞ。それなのに何故…)」
瑠河は気づいていた。
夜宵の意識が、一切朝陽達の方へは向けられていない事に。
「(何故、お前はそんな好戦的な表情を浮かべているんだ)」
夜宵の表情は、もはや別人に近かった。
どちらかと言えば知的で落ち着いた雰囲気であったものが、獣のような鋭い目付きになり、纏うオーラは闇を具現化したかのように不気味であった。
「(一体どうしたと言うのだ!?その力の解放は、妹を救うためでは無かったのか!?)」
その葛藤を、瑠河は口にして問いかけることは出来なかった。
それすら躊躇うほどに、夜宵の放つ圧は近寄り難いものであったからだ。
「さぁ……行くわよ……」
発せられた声も、夜宵であって夜宵でない。瑠河はそう感じ得ざるを得なかった。
※後書きです
ども、琥珀です。
PCが壊れ、今週の更新はお休みさせていただく予定でしたが、励みのお言葉をいただき、気持ちを新たにして本日から投稿を再開させていただくことにしました。
プロットが全て消えてしまったため、主としてこの『大輝戦』後の行く先を考え直さないといけないのですが、まだ時間はあるため、しっかりと練り直そうと思います。
作品の質が更に落ちてしまう可能性がございますが、宜しければ改めてお付き合い下さいませ。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします。




