第335星:陸津波
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
言うまでもないことであるが、朝陽達が戦っているのは陸地…それも、最高本部という施設のなかである。
しかし、朝陽と真衣の目の前に起きているものは、間違いなく津波であった。
唯一の違いがあるとすれば、迫ってきているのは水ではなく、陸地であること。
「喰らうさ〜!!これが私達の最強の技!!」
「『陸津波』さ〜!!」
陸津波を繰り出した二人は、槍とそれを纏う風を利用し、波に乗るようにして二人に迫っていた。
「あわわわわ!!なんですかこれぇ!!!!」
大きな音と視界を塞ぐような迫り来る巨大な陸波に、真衣は完全にパニックになっていた。
それとは対照的に、朝陽は驚きこそしていたが冷静だった。
「(これは…ナミさんの『液状化』の『グリット』で地面を液状化、ミナさんの『硬化』の『グリット』で半分固形化させてる!!それが津波に見えるんだ!!)」
二人の繰り出した技を冷静に分析し、直ぐに対応に移った。
「波に攻撃して、逃げ道を作れれば…『光の弾丸』!!」
朝陽は槍から光の弾丸を放つが、弾丸は波のような見た目に反して、朝陽の光をまるで硬質化した物体のように弾き返した。
「無駄さ〜!!攻撃すればするほど、この波は硬くなるさ〜!!」
「攻撃を受けなければまた波になる!!逃げ道はないさ〜!!」
『ダイラタンシー』という名の、ある混合物による性質がある。
これは、遅い刺激には液体のように振る舞い、速い刺激に対しては固体のような抵抗力を発揮する性質のことを指す。
ナミとミナの二人が生み出したこの巨大な津波は、二人の絶妙な『グリット』のバランスによって、この『ダイラタンシー流体』を疑似的に作り出していた。
ナミの言うように、攻撃をすれば波は硬化し、ただ退避するだけでは波に飲み込まれる、まさに二人にとっての最強の技であった。
「ど、どどどどどうしますか朝陽さん!!」
動揺して朝陽の肩に手を置きアワアワとする真衣に対し、朝陽は変わらず冷静だった。
「こうします!真衣さん暴れないで下さいね!!」
「…え?わひゃあああああああぁぁぁぁ……!!」
朝陽は自身の能力である飛翔で陸波をかわし、隣に立つ真衣は『フリューゲル』に引っ掛け、空中へと逃した。
「わわ!!私空を飛んでる!?」
「荒っぽいやり方でごめんなさい。でも、あの陸波を避けるためにはこれしか直ぐに思いつかなくて」
戦闘補具空を飛んでいる事に興奮している真衣に、朝陽は申し訳なさそうに笑いながら答える。
「やは〜!!飛ぶなんてずるいさ〜!!」
「なは〜!!飛ぶなんて卑怯さ〜!!」
波が収まったところで、二人はプンスコ怒った様子で下から叫んでいた。
「いや、これは私の失態だな。事前情報に飛翔可能という情報はあった。飛んで逃げる可能性を考慮しなかった私が悪い」
固まったあとの陸地に盾子達が合流し、叫ぶ二人に謝罪する。
「でもでも!!じゃあどうするさぁ!!『メナス』達も飛ぶけど、誘導すれば当たったから状況が違うさ〜!!」
「朝陽ちゃんはとっても賢いから、ちょっとやそっと弄っただけじゃ当たらないさ〜!!」
怒ってるのか褒めているのか分からない言葉を吐き出しながら、ナミとミナの二人が盾子に詰め寄る。
「そうだな。これが二人の最強の技とは聞かされていたが、対『メナス』でも同じ状況はあった筈だ。その時はどういう対応を?」
盾子に問われ、二人は目を見合わせたあとに二人で答えた。
「そりゃ…仲間が上手く誘導したり…」
「飛んだところを先回りして飛んでいた仲間が叩き落としてくれたりしたさ〜」
二人の答えに、盾子はふむふむと頷く。
「ならばそれが答えだ。ここには沖縄根拠地の仲間はいないが…代わりになる仲間はいるだろう?」
盾子の言葉に直ぐにピンときた二人は、笑顔でハッとした表情を浮かべ、何度も頷いた。
「私の『エスクード』で彼女を地面に叩き落とす。一度の形成ではかわされるだろうから、誘導するような形にはなるだろうが、それでも当たる確率は大きく上がるはずだ」
次の作戦を伝えた後、盾子は「それと…」と付け加える。
「今度はもう少し高波に出来るか?向こうに飛翔能力がある以上、地面まで落とすのは並大抵のことでは達成出来ない。だが、地面近くまでの誘導なら出来るはずだ」
「分かったさ〜!!」
「任せるさ〜!!」
盾子の指示に、二人は自信満々に答えた。
「アズサ、君は二人の動向を読み取ってくれ」
「良いけど…反撃してくるかな?」
「反撃じゃ無くても構わない。あの飛翔が『グリット』によるものなら、君なら次の動きを読み取れるはずだ」
首を傾げていたアズサの疑問に、盾子は即座に回答してアズサを納得させた。
「さぁ、まだ私達の攻めの番だ。期待の新星を追い詰めていこうじゃないか」
どこか楽しそうな笑みを浮かべながら、盾子は朝陽達の方へと手を向けた。
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「…!来る!真衣さん!一旦離れたところへ下ろしますね!!」
「えぇ!?そ、それじゃあ朝陽さんがわあぁぁぁぁぁ…!!」
真衣の答えを聞く前に、朝陽は『フリューゲル』を操り真衣を自身から引き離した。
その直後、朝陽の死角を突くように、飛翔した朝陽よりも更に高い位置に盾子の盾が形成され、朝陽に襲い掛かる。
朝陽は並外れた反射神経でこれを回避するが、その先には再び盾が形成されていた。
ただ回避するだけで無く、身を捩って最小限の動きを繰り出すことで、朝陽は次々と迫る盾子の盾を避けていった。
「(行く先行く先に盾が…!私の飛ぶ時に使う『エナジー』で、動きを読まれてるんだ!)」
自分を的確に追い詰める盾子の攻撃に、朝陽は状況を冷静に分析した。
「(反撃して、牽制をかける…?ううん、多分半端な攻撃じゃ牽制にならないし、そもそも牽制じゃ盾子さんに防がれちゃう!)」
思考を続けながらも迫り来る盾をかわしながら、朝陽は考えをまとめる。
「(このまま攻撃をかわし続けて、距離を詰める!!)」
そうしてまた一つ、盾子の作り出した壁をくぐり抜けた時であった。
朝陽の直ぐそばに、またあの巨大な津波が迫っていた。
「デカい…いや、高い!?」
その波は、先程よりも横幅は無かったものの、その分高く盛りあがっていた。
目的を朝陽を飲み込むだけに決め、そう調整したのだろう。
「なら、狭まった横に……!!」
すぐさま朝陽は横に回避しようとするが、それを読んでいた盾子は、既に朝陽の周囲、そして頭上に盾を形成し、塞ぎ込むように囲っていた。
唯一逃げ場があるのは下のみ。しかし、下に逃げたところで迫ってくる陸波を避けることは出来ない。
「ここまで完全に動きを誘導されるなんて…ッ!!」
恐るべくは盾子の盾の形成速度と、思った位置に形成する絶妙な技術。
ここまで全て回避したことで、その誘導から逃れていたと考えていた朝陽は、それを見越して誘導されていた事に気付き、そして感動していた。
「これが『大輝戦』…これが、選抜メンバー!!」
その言葉を最後に、朝陽はナミとミナによる、『陸津波・高』に飲み込まれていった。
「あ、朝陽さぁん!!」
朝陽の『フリューゲル』によって、だいぶ離れた位置まで逃されていた真衣は、『陸津波』の影響を受けずに済んでいた。
しかし、仲間を置いて自分だけ助かってしまったという状況に恥じ、そして動揺し、目元には涙さえ浮かべていた。
「やっぱり…やっぱり私なんかじゃダメだったんだ…私一人じゃ、何にも出来ないんだ…」
真衣の悪癖とも言える、ネガティブな思考が、真衣の頭の中を染め上げようとした時だった。
『────真衣さんのお力が必要です。私に力を貸してください!!』
俯きかけていた顔が、ピタリと止まる。
『──── 彼女達は私達の力を必要としているからな』
弱気になっていた自分の心に、これまで掛けられてきたメンバーからの言葉の数々が、真衣の闘志に火をつけていく。
『──── 大丈夫です!真衣さんの事、信頼してます!』
そして真衣はバッと顔を上げた。
「弱気になってる場合じゃない!!私を信頼してくれた朝陽さんはまだ脱落してない!」
その目には一瞬見られた弱気な色は一切なく、自分を信じて遠ざけてくれた事への信頼に応えるための強い瞳へと変わっていた。
朝陽達にとっては本心で伝えて当然の言葉が、真衣の心を奮い立たせていた。
「脱落と表示されてないなら、朝陽さんはまだ無事なはず。なら、朝陽さんを飲み込んだ波さえどうにか出来れば救出できるはず…でも…」
決意のこもった瞳は、僅かに揺らいだ。
「私一人でどうやって……」
再び決意が揺らいだ時、キィン!という音とともに、真衣の周囲を漂う、自分を救ってくれた『フリューゲル』が浮遊している事に気が付いた。
「あ……もしかして……」
真衣は『フリューゲル』に対して、僅かに動くように念じる。
すると『フリューゲル』は、その意志に応えるように動いた。
「朝陽さんの『フリューゲル』が……」
その時、真衣は朝陽が最後に自分に言った時の言葉を思い出す。
『──── そのまま『フリューゲル』をお預けします!!』
「あの時に…」
そして、朝陽の狙いが、ただ真衣を逃すためではないことを理解し、真衣はゆっくりと立ち上がった。
「これなら…出来ます!!朝陽さん、待ってて下さい!!」
そう言うと、真衣は懐から再び球体を取り出した。
しかしその球体は先程までとは違い、どこかデコボコしつつ、そして、曲がりくねった翼のようなものが取り付けられていた。
「私が必ず助け出します!!この、『硬歪翼球』を使って!!」
※後書きです
ども、琥珀です。
とても悲しい事が起きました…
なんと使って一年も使ってないデスクトップパソコンが逝きました…
急いで搬送するものの、果たして直るのか…
データが飛んだら大変なことになります…
具体的には私が叫びます…
お願い、無事に帰って来て…マイパソコン…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします。




