第334星:放発射抜
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。『グリット』は『加速投球』で、投擲した物体が跳ね返り続けるほど加速していく能力。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
瑠河の『グリット』、『放発射抜』は、一定間隔で分裂させ、放った矢を命中させるものである。
しかし実は、瑠河にはもう一つ、この『グリット』で操ることのできる効果がある。
それは、分裂させる速度である。
いま、瑠河が放った矢は三本。しかし、その矢が分裂速度はバラバラであった。
一本と二本目が放って間も無くして分裂を始めたのに対し、真ん中遅れて跳ぶ三本目は他よりも遅れて分裂を始め、分裂した矢は纏まりながらも不規則な形をしていった。
形としては、V。例えるなら、鳥が群れをなしている時の『Vの字編成』に近いだろう。
「なんだぁ!?鳥の群れみたいなのが近付いてきてんぞ!?」
最初にそれを確認したのは、一番前に立つ大河。
目の前から見ると最早本物の鳥の群れにしか見えないその光景に、思わず驚いた声を出す。
「あの形…もしや矢の分裂速度を調整出来る…とか?これは初めて知る情報ですね〜」
「ゆっくりと解説してる場合ではありませんわ!大河さんは良いとして、私達は早く回避を!」
安奈が声に出して回避する事を訴えるのと同時に、カリナが前に出て大河の横に並び立った。
「避けるなんて洒落せぇぜ!!私の力で全部捻じ曲げてやんよ!!」
カリナは手を前にかざし、迫り来る瑠河の放った矢の群れを、『螺旋形状』で捻じ曲げ、軌道を変えていった。
「…私の『グリット』の効果は射った瞬間のモノが対象として発動されてな。残念ながら分裂する矢の方角を変える事は出来ないんだ。まぁつまりは…」
瑠河がカリナの攻撃を受けた矢を見つめながら、自身の『グリット』について説明していく。
「いくら矢の軌道を曲げても、新たに分裂する矢は、放った方角のまま分裂していく事になるんだが…」
次の瞬間、再び分裂した矢が、カリナの手によって曲げられた矢とぶつかり合い、不規則な動きを取りながらも、再び大河達の方へと軌道を修正していった。
その動きはまるで、本物の渡鳥の群れのようであった。
「いくら軌道を曲げられようと、倍の数が元の軌道を辿っていれば、軌道ももとに戻る。それをより効率よく行うために、先頭と後方の二つに分けて放ったからな」
瑠河の技である『大鳥群の矢』は、渡鳥の習性を応用した技である。
カリナの『グリット』等に対しても有効ではあるが、通常は『メナス』が遠距離戦に切り替えた際に使用される。
瑠河の矢自体は、普通のものと変わらないため、そのままでは『メナス』のレーザーを撃ち抜く事は出来ない。
そこで瑠河が考えたのが、量で押し切る事。
しかし、真正面から撃ち抜こうとしても、レーザーの質で劣る矢が消し去られてしまうのは分かりきっていた。
そこで試行の末に編み出されたのが、この技である。
渡鳥の群れには先頭に立つリーダーが存在する。
その役割は、先頭を飛ぶ鳥がいることで、後続の鳥が前のエネルギーを節約する事が出来るためと言われている。
つまりは、先頭を行く鳥は、他の鳥の道標・指標となっているのである。
瑠河のこの技は、先頭を二つにする事で陣形の指針を保ち、後続に一つの矢を付け加える事で、陣形の安定さと堅固さを増した攻撃となる。
「マジかよ!?ならもう一回…!!」
「もう間に合いません!!回避を!!」
既に矢はカリナ達の目前まで迫っており、カリナの『グリット』は愚か、回避も既に間に合わない距離であった。
「ちっ…おい、私の後ろに隠れてろ」
そう言うと大河はカリナを鷲掴みにし、自分の後ろに放り投げ、自信はグッと耐えるための防御の姿勢を取る。
「ちょっ!おいっ!?」
カリナが何かをする時間は残されておらず、次の瞬間、大河とカリナを飲み込むようにして、大量の矢が二人に襲い掛かった。
「大河!!」
「カリナさん!!」
すぐさま攻撃を避けていた駿河と安奈の二人は、矢で姿が見えなくなった二人の名前を叫ぶ。
物凄い勢いで過ぎ去った矢の嵐のあとには、襲い掛かる前の姿勢で微動だにしていない大河の姿と、やむを得ず大河を盾にして無傷のカリナの姿があった。
駿河と安奈の二人は直ぐに二人の元へ駆け寄る。
「二人ともご無事で……!!」
通過前と変化がない状況を見て、安奈が安堵の声をあげるが、二人の前に立った瞬間、息を呑んだ。
カリナこそ傷一つ無かったものの、流石にあの大量の矢は受け止めきれなかったのか、大河の身体には少量の傷と出血が起きていた。
「だ、大丈夫ですか大河さん!!」
安奈が声をかけるが、大河はプッ!と口の中に溜まった血を吐き出し、痛がるどころか笑みを浮かべていた。
「こんなん屁でもねぇよ。腹に穴ぁ開けられたことだってあるんだ。それに比べたらこのくらい傷のうちにも入らねぇ」
大河の言う通り、本人は出来た傷を気にする様子は見られない。
怪我も硬化の質が高いために薄く切った程度で、矢でありながら刺さった様子はひとつもない。
「とりあえず大丈夫そうで安心です。でも正直舐めてたね。矢を分裂させるだけの能力だと思ったら、あんな使い方があったなんてね」
「あぁ、今のは私達の慢心が招いた失態だな。そんでアイツの磨き上げてきた技術の賜物だ。これはその代償だろ」
傷のついた手をグッパッとしながら、大河は素直に自分が油断していたと認める。
「あれが技の一つなんだとしたら、他にも型があるかも知れねぇ。早めに距離を詰めといた方が良いかもな」
「ですね。近づけば分裂して増える矢は減ります。もう一人の夜宵さんの『グリット』は警戒が必要ですが、接近戦が大河の持ち味ですし、攻めに出ましょう」
大河と駿河の案に安奈も賛同の意を示し、大河に身を守られたカリナも、この時は黙って頷いた。
そして、二度目の攻撃が来る前に仕掛けようと、中国メンバーが動き出そうとした時だった。
「「「「!?」」」」
全員の影から闇の触手が現れ、それぞれの動きを封じるようにして巻きついていた。
「これは……夜宵さんの闇!?でもいつの間に!?」
直ぐにその攻撃の正体に気付くも、仕掛けられたタイミングには全く気付く事が出来ず、流石の駿河も困惑していた。
しかし、同じく闇に拘束された大河だけは、この光景に冷静な様子を見せていた。
「……あの大群の矢か…」
そして、夜宵が攻撃を仕掛けていたタイミングの正体を直ぐに理解した。
「正解。流石は選抜メンバーだけあって、戦闘能力だけじゃないわね」
そこには、夜宵が悠々と中国メンバーの前に姿を現していた。
「私の力は『闇』を操る事。その定義は自身が生み出すものだけに限らず、影や物質も含まれる。だから…」
「大量の矢の群れの下に出来た影を利用して、そこに自身の『グリット』を忍び込ませ、私の影に入り込ませた訳か。そんな使い方出来るとはな。これも予想外だぜ」
ググッと力を込めるも、簡単には拘束は解けず、大河は心の中で舌打ちする。
「…私も正直、自分の力がこんな風に使えるなんて知らなかったわ」
夜宵が口にした事に、中国メンバーの一同は驚きと困惑が入り混じったような表情を浮かべていた。
「私も、自分が生み出した闇しか操れないと思ってたから、こんな汎用性があるとは思ってなかった。けれど…」
夜宵は目を閉じ、あの日の夜の出来事を思い返す。
「この技は…いえ、この使い方は私の司令官が教え導いてくれたモノ。あの人が居なかったら、私はこの力の本来の半分も発揮する事は出来なかった」
夜宵は「だから…」と呟きながら、閉じていた瞼を開ける。
「その恩に報いるためにも、私は絶対に負けないわ。貴方達に勝ってみせる」
グッと拳を握りしめ、夜宵は強い決意の瞳を大河達に向けた。
「ハッ!!何を聞かされてるのかと思えば身内の惚気かよ!!負けられねぇのは私達も同じだ!!」
改めてググッと全身に力を入れるが、夜宵の闇の触手はビクともしなかった。
「(物理的な質量でどうこうできる能力じゃねぇってことか!!カリナなら曲げられるかも知れねぇが…)」
「(さっきとは状況が違う!!下手に捻じ曲げれば、触手ごと仲間を曲げかねない!!やるのなら最後の手段にしてくれ!!)」
言葉にはせず、アイコンタクトで意思を伝え合い、どうにか拘束を外そうとするが、やはり夜宵の闇はビクともしなかった。
「さぁ…一気に行くわよ」
そして、いよいよ夜宵が攻撃態勢に入ろうという時であった。
────ゴゴゴゴゴ……
思わずバランスを崩してしまう程の揺れが、夜宵達の戦うフィールドに起きていた。
その震源を確認すべく、全員が視線をそちらに向けると、そこでは、陸地にも関わらず、巨大な津波が起きていた。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします。




