第330星:視線の先
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。『グリット』は光を操る『天照らす日輪』。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?『グリット』は闇を操る『闇夜の月輪』。
矢武雨 瑠河 (24)
栃木根拠地の大隊長を務める大黒柱。生真面目だが状況に応じて思考を変える柔軟性も併せ持つ。以前千葉根拠地の夜宵と共闘したことがあるため、二人に面識がある。弓術の達人で、『グリット』は弓と矢にエナジーを加え、加えた量により矢が分裂する、『放発射抜』。
道祖土 真衣 (22)
埼玉根拠地のエース。腰の低い人物で、実績を残しながらも謙虚な姿勢を崩さない。逆を言えば自分に自信を持てない性格。
◆中国地方
百目鬼 大河
鳥取根拠地のエース。身長が2m近くあり好戦的な性格ではあるが、局面を見極める冷静さも兼ね備える。戦闘の荒々しさから、『荒波鬼』の異名を持つ。『グリット』は『硬化』で、『メナス』の攻撃も凌ぐ硬度を誇る。同じ鳥取根拠地である駿河とは仲が良い上連携力がある。
安鬼 駿河
鳥取根拠地の戦略担当。人の深層心理を理解するのが上手く、要は空気を読むのが得意。言葉巧みに味方の士気をあげたりまとめ上げたりする。『グリット』は『引用率糸』で、10本の指それぞれから目的に応じた糸を放つもの。これを駆使し、『メナス』の動きを鈍らせ、大河が倒す連携が鳥取根拠地の強み。
大心地 安奈
広島根拠地のエース。非常に穏やかでふわふわした性格の女性。庇護欲に狩られるような雰囲気を纏っており、駿河達とは別の意味で士気を上げるのが得意。
渦巻 カリナ
山口根拠地のエース。刺々しい口調とサバサバした雰囲気、好戦的な様子が特徴の女性。独断行動に走るように見えて、その実、自身の能力を活かすための動きをするのが得意。『グリット』は、『螺旋形状』で、触れたモノ、もしくは一定の範囲内の物質を螺旋状に捻じ曲げる。触れてなくても操れるため、気付けば拘束されているケースも多い。
◆九州沖縄地方
仙波 盾子
鹿児島根拠地のエース。『メナス』を倒した功績ではなく、味方を幾度と救ってきた功績で選ばれた特異な例で『守護神』の二つ名を持つ。凛々しく毅然とした態度を取るが、頑固ではなく、柔軟な思考も併せ持つ。『グリット』は『守護壁』で、線上に盾を展開する。その盾は非常に堅固でありながら展開も素早く、絶対防御とも評される。
才波 アズサ
福岡根拠地のエース。寡黙でやや覇気に欠ける口調なのが特徴的だが、自分の役割をしっかりと果たす程度の自覚と覚悟を持っている。『死中に活路』で、相手の攻撃が当たる場所が淡く輝いて見えるようになる。あまり前線へは飛び込まないが、この効果を活かした戦闘も得意とする。
与那覇 ナミ・ミナ
沖縄根拠地の双子のエース。見慣れた人でも間違える程そっくりな双子で、息もぴったし。時々交互にセリフを呟くこともあるため、思考も全く同じなのではと言われる。『グリット』はナミが『液状化』、ミナが『硬化』。連携もずば抜けており、タッグで右に出るものはいない。沖縄人らしく明るく前向き。
「ふわぁ…二人ともとても凄いですぅ!!こ、これ、私達の出番はあるんでしょうか…」
両陣営で白熱した戦いを繰り広げる朝陽と夜宵を見て、真衣は驚き半分、困惑半分と言った様子でその光景を見ていた。
その様子を、同じような感覚で見ていた瑠河が苦笑いを浮かべながら答える。
「確かにあの二人は別格だな。現状、皮肉にも第二部と同じような戦い振りになっているのは否めない。先程の朝陽の発言とは真逆の展開に、な」
朝陽が望んだのは、チームとしての実力を示す事。
しかし実際は、両陣営がこの関東選抜に狙いを定めているために、その思惑通りにはいかずにいた。
東京選抜は自ら個人で挑む形になってしまっていたが、朝陽達は思いがけず個々人での戦いを強いられる状況を作り出されていた。
中国・九州選抜が意識的にそれを狙っていたわけでは無い。
寧ろ中国選抜の面々は、九州選抜と戦闘を行なっている朝陽に狙いを定めていた。
能力の相性を考慮した事で、結果として夜宵が対応することになったが、それがこの状況を引き起こしたと言えるだろう。
「だが真衣、私達の…自分の力を過小評価してはいけない。戦況は第二部と似ていても、状況はそれとはまるで違うのだからな」
「…?えっと…?」
瑠河の言葉の意図を理解できず、真衣は首を傾げる。
「私達の出番は必ず来るという事だよ。何故なら、東京選抜の面々とは違い、彼女達は私達の力を必要としているからな」
ニッと瑠河に笑みを向けられると、少しずつ意味を理解していった真衣が、同じく笑顔を浮かべて頷いた。
「私達の能力はサポートに向いている。今は二人がそのタイミングを測ってくれている筈だ。その時が来たら、私達も一気に加勢するぞ、真衣」
「は、はい!!」
先程までは戦闘に対し臆していた真衣が、再び戦場に目を向け直した。
そして瑠河も、その時を今かいまかと待ち続けていた…
●●●
「(盾子さんのガードの厚さは想像以上。真正面から打ち崩すのは相当難しそう。これを打開するためには…私から意識を逸らさせないとダメだ)」
再度距離を取り直した朝陽は、これまでの攻防を頭の中でまとめ、状況を打破するための方法を考えていた。
「(盾子さんの凄いところは、強度もそうだけど、その反応速度。どれだけ素早い攻撃をしても、まるで先読みしてるかのように盾を形成してくる。多分これは、経験の差が出てる…)」
最初の攻防でそれを理解していた朝陽は、敢えて真正面から挑んだが、その理由がこれであった。
攻撃速度の速い『ゲジョス』や、多角的な攻撃を可能とする『フリューゲル』を用いても、盾子の鉄壁の守りを崩すことは叶わなかった。
だからこその真っ向勝負を仕掛けたものの、それも防がれ、更には誘い込まれていた事にも気付いていた。
「(『閃光の貫穿』でも貫き切れないとなると…やっぱり私一人じゃ厳しい。意識を逸らしてくれる仲間が必要。それに相応しいのは…)」
距離を保っていた朝陽は、ゆっくりと視線を後方に位置する瑠河達の方へ向けられていた。
その視線の先にいたのは…
●●●
「(大河さんの『硬質化』を破るには、やっぱり通常の闇だけじゃダメね。形状化させた攻撃を仕掛けないとダメージにならない)」
夜宵は「けれど…」と考えながら、その周囲を囲う面々に目を向ける。
「(どちらか一方にしか性質を変えられない状況で、彼女達はそれを見抜いた上で巧みに連携してくる。守りに徹してれば向こうは何も出来ないけれど、それは私も同じ)」
既に二種の闇を行使して、その効果を確かめていた夜宵は、それをどう活かすかを考えていた。
「(『闇夜の月輪』であの技を試すのも良いけど、時間が掛かる上に、エナジーの消費が激しい…なら…)」
一人で全てには対処できない。
鼻からそのつもりではあったが、改めてそれを実感した夜宵は、そっと自分の後方に位置する真衣達に視線を向けた。
その視線の先にいたのは…
●●●
「お、朝陽君達は一旦撤退したか。さて、どうするつもりかな?」
観客席で眺めていた大和が、朝陽と夜宵の二人の行動を興味深そうに見つめる。
「二人とも個人で各地域を打破出来るとは思っていなかったでしょうし、するつもりも無かった筈です。ここで一度距離を取ったと言うことは…」
「チームで打開するための情報収集は終わった、ってことだね」
咲夜の考えていたことと同じことを考えていた大和が、その言葉に続くようにして答えた。
「初めに真正面から対峙する事になった時、朝陽さんと夜宵さんの二人はそれぞれの相性を見極めて相手を決めた筈です。その時から、先ずは情報と実際の能力の照らし合わせをする事は決めていた事なのでしょう」
「そうだろうね。前衛を張るタイプじゃない夜宵君がその役割を担うのは少しリスクがあったけど、新しい力の使い方を駆使してその役割を果たしたみたいだしね」
夜宵にその力の使い方を教えた張本人は、笑顔で頷く。
「でも朝陽君は多分自分で倒せるかどうか試みていたよね。修行の成果を試したかったのかな?」
先程の戦闘を見て、大和が唯一違和感を感じた点を口にすると、咲夜は小さく息を吐いて答えた。
「恐らくは。まぁ半ば無意識でやっていた事でしょうから何とも言えませんが、褒められたことではありませんね」
「でもそれも、結果として盾子君の盾の強度を知ることにも繋がったし、一人で打開出来ないこともちゃんと理解した。実戦経験の少ない朝陽君にとっては良いことだったんじゃないかな」
大和の言葉に、咲夜も否定することはできなかったのであろう、複雑な表情を浮かべていた。
「まぁ確かにその通りではあるかもしれません。【オリジン】との戦闘では独断で突っ走ってしまうこともありましたし、そういった意味ではある意味で成長の証ではあると思います」
朝陽の行動を誉めつつ、咲夜は「しかし…」と続ける。
「結果として危うく脱落しかけたのも事実ですし、何より寧花さんと約束したはずの技を早速使用しました。これは厳重注意ですね」
師匠としての矜持か、咲夜からは笑みを浮かべながらも怒りの圧が放たれていた。
「ははは…厳しいね…っと、どうやら動き出しは決まったみたいだ。本当の戦いはここからだね」
大和の言葉に咲夜は頷き、二人は再びフィールドへと目を向けて行った。
●●●
「どうだった、二人とも」
予定通り戻ってきた朝陽と夜宵を迎え入れ、瑠河が二人に尋ねた。
「盾子さんの『エスクード』は情報通り…いえ、それ以上でした。でもそれよりも、あの全方位に形成できる展開速度を何とかしないとダメだと思います。盾を囮にしたナミさんとミナさんの連携も厄介でしたし、攻撃を読むアズサさんの『グリット』との相性も抜群でした」
朝陽の報告に瑠河が一つ頷くと、今度は夜宵の方へと目を向ける。
「私の方も朝陽と同じで予想以上ね。『荒破鬼』なんて呼ばれてるからどんなジャジャ馬かと思えば、戦況をしっかりと見極めて、味方と連動して動いてくるわ。それに私の能力の性質をすぐに見極めて、即席とは思えない連携も仕掛けてくるし、個人よりもチーム力が予想以上ってとこかしら」
夜宵の報告にも頷き、瑠河は改めて二人を見る。
「それで?どう戦う?」
瑠河に尋ねられるも、二人の考えは既に纏まっていた。
「私の方には、真衣さんの力を貸してほしいです」
「は、はいぃ!?私ですか!?」
真っ先に名前を呼ばれ、真衣は自分を指差しながら驚く。
「九州メンバーの連携を打開して、中枢である盾子さんの盾を破るためには、盾子さんの意識を割かないとダメなんです。それには、真衣さんの『グリット』が必要です。私に力を貸してください!!」
朝陽の言葉に「あうあう」と困惑しながらも、真衣は小さく頷いた。
「私の方は瑠河に力を貸してもらいたかったから丁度良かったわ。闇の性質を使い分けるよりは、片方に集中したかったの。瑠河、貴方の力を貸してくれるかしら」
「勿論だとも。作戦を聞かせて貰おうか」
朝陽達は二手に分かれ、それぞれ合流した二人に自分達の作戦を伝える。
真衣は作戦を聞かされ、驚き、再び慌てた様子ながらも、しっかりと頷き、瑠河は興味深そうに何度も頷き、夜宵の作戦に賛同した。
「よし、両者共に作戦はまとまったようだ。今度は私達が関東選抜の力を見せつけてやろうじゃないか」
そして、瑠河の言葉を皮切りに、朝陽達は二手に別れ、再び両地域に戦いを挑んでいった。
※本日も後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




