第304星:第一部戦終了
激闘の末、フィールド天井に設置されたモニターには、鍜名 剣美のフィールドアウトの文字が表示されていた。
「ハッ…ハッ…ハッ!やっとこさ…押し出せたわ…」
「フハハ。そこで勝ったと言わない辺り、戦士らしいな真白とやら」
北海道メンバーと近畿メンバーで一時的な同盟を組もうと提案され、真白達がそれを了承した時、カナエはある作戦を立てていた。
それが、剣美を倒すことでは無く、場外へ押し出すというものであった。
当初、真白はこの作戦に懐疑的だった。何故なら剣美の抜刀中は居合。即ちその場に留まることで真価を発揮する技であるためである。
激しく動くタイプならばまだしも、その場から動かない相手に場外を狙うのは、得策では無いのでは無いかと思っていた。
「それは逆ですよ真白さん。動かない相手だからこそ、力押しが通用するんです。どんな強力な攻撃も、当たらなければ意味がない。そう言った意味で、彼女は全ての攻撃を受け止める。だからこそ、この作戦が効果的なんですよ!!」
カナエにそう力説され、真白と冴子は確かに…と納得した。
鋭く早い太刀捌きに翻弄されていたが、剣美自身は技を繰り出す時も殆ど動く事はない。
故に、強力な技を当てる事は十分可能なのだという簡単な事実を、その時理解したのであった。
どちらがその隙を作り出すかは状況次第となっていたが、沙月が止めをさすパターンは始めから計算されていた事であった。
「(剣美さんの意識を私達に向けておいて、本命の射撃を視界から外す。基本的な戦術だけど、だからこそ見逃してしまうような手口。絡め手だけじゃない。こういう全ての可能性と手口を模索して戦略を導き出す。これが智将、黒田 カナエ…)」
一時的にとは言え、味方となったカナエは頼もしかった。
ほんの僅かしか見せていない『グリット』と、冴子との連携を計算に入れ、その上で戦力を増強し、いまこの場で最強であった剣美に勝利した。
戦士としては真っ向からの勝利では無いために悔しさはあったが、それ以上に、勝利に執着するカナエの戦術眼に感服していた。
「さて…」
剣美を倒し終えた野々は、一息ついたタイミングで真白達の方を振り返る。
「無事『戦神』は倒した事だし、これで同盟は終了だな。ハッキリ言って貴様と組んで戦うのは気分が高揚したぞ、北海道エース、加我 真白。これが『メナス』との戦いであれば、同盟継続による結束は固かったな」
口調こそ不遜で上からであったが、真白はこの短時間の間で、これが野々なりに賞賛しての言葉であることを理解していた。
「人数は同じ3対3。条件は五分だ。やりあうか?」
野々の言葉に、真白はハァ…と息を吐いた後、苦笑いを浮かべた。
「やるも何も、貴方達、最初からこれが狙いだったでしょ?」
そう言って真白が見せたのは、ボロボロと崩れていく『グリット』で創生した双剣であった。
「私の連続的な投影、そして攻撃の距離を取るための冴子の高速移動。一見すれば平等な同盟戦線も、こうして見れば目的は明白、私達の『エナジー』切れだったわけだ」
そう、真白の剣が崩れたのは、単に耐久度の限界を迎えたのでは無く、純粋に『エナジー』切れにより形状を保つことが出来なくなったからであった。
その後ろでは、これまで剣美との戦いで必要に応じで高速移動で二人を守っていた冴子が、息を切らしている様子が見て取れた。
「あ〜クソ。作戦を聞かされた時に気が付いてればなぁ。オタクの参謀殿は、最初からこれを計算に入れてた訳でしょ?」
「まぁそうだな。だが苦肉の策であったのも事実だ。何せ『戦神』となった剣美の実力が想像以上だったからな」
野々はトントンと自身の武器で肩を叩きながら答える。
「剣美を倒し、尚且つ北海道メンバーも追い込む。同じメンバーとして思うのもどうかと思うが、あの智将が本当に身内で良かったと思うよ」
「私は心底敵であることが憎くて仕方ないわよ」
真白はハァとため息を溢し、バタンとその場に倒れ込むと、そのまま顔だけ冴子の方へ向ける。
「どう思う冴子〜」
「どう思うも何も…認めるしか無いですよこれは…私達に有利な環境も薄れてますし」
冴子の言う環境とは気温のこと。
先程までは極寒の地であったフィールドは、気付けば大幅にその温度を上げていた。
その理由も明白。マイナス50度の世界を維持していた雪の『エナジー』が切れたからである。
「あ〜嵌められた。共通の敵を倒すのに利用されて、更にはエナジーを消費するための時間稼ぎもされた。ここまでやられるともう清々しいわ」
そこまで真白が口にしたところで、どこに居たのかも分からない俊雅が現れる。
「どうする嬢ちゃん達。一応まだ判定は付けてないけど」
俊雅の言葉を聞き、真白と冴子は二人で頷き合い、『降参』と告げた。
その瞬間、天井に吊るされたモニターに真白達の敗北の文字が表示され、その後、近畿選抜の勝利の文字が写された。
「言っておくが…」
勝利が確定した後、野々は倒れ込む真白に近寄り声をかける。
「貴様らは強かった。本来の強みである調和の取れた連携で勝負をしていたら、決着の行方は分からん勝ったさ」
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分が最強と野々は信じて疑わない。
「また敵として戦うことがあれば今度も勝利を収めて見せよう。だが、剣美やカナエ同様、貴様らが味方である事を嬉しく思うよ」
だからこそ、客観的な側面で真白達北海道選抜の強さを認め、そして讃えた。
「ハハ、最後まで見せつけてくれちゃって。完敗よ。明日も勝ちなさいよね」
「当たり前だ。我に叶うやつなどいないからな」
野々と真白は互いに笑みを浮かべ、そして握手をかわした。
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「第一部は近畿選抜の勝利……私達の根拠地も凄いって思ってたんですけど、全国にはあんなレベルの人達が居るんですね…」
「何を他人事のように…貴方もその選抜に選ばれているんですからね」
「うぅ…今更ながら場違いな気がしてきました…」
弱気な朝陽に喝を入れようとするも、『グリッター』になって間もない朝陽に、緊張するなと言う方が無理だと思い直し、肩を優しく叩くに留まった。
「あの…先生から見て第一部の戦いは如何でしたか?」
朝陽に尋ねられると、ふと夜宵達周囲のメンバーからも同じような視線を向けられていることに気が付く。
「そうですね……全体を通して見れば、各々の地域はそれぞれの強みを活かして戦えていたのでは無いかと思います。中部地方で言えば、万能性に優れた絵摩さんの能力を中心に奇襲を掛けたのは、結果的にアズキさんが脱落という形にはなりましたが、間違いでは無かったと思いますし」
確かに立ち上がりが静かな状況で、不意をつくような奇襲は効果的であったと朝陽達も感じていた。
それも、無理な特効では無く、予め組み上げていた連携を活かしての襲撃。もしあの襲撃が決まっていれば、勝者は違っていたかもしれない。
「ですが、総括して言えば、この戦いは終始近畿選抜の…もっと言えば黒田 カナエさんの手のひらの上であったと言えるでしょう」
「カナエさんの…ですか?ですが何度か考え込むような様子がありましたけど…」
「それは全て、勝利を前提にして、どれだけ余力を残して勝つかを考えていたからです」
咲夜の放った言葉に、一同が驚きの表情を浮かべたまま固まる。
「北海道選抜がいつも通り、自分達に優位な環境を創り出すことは想定内と言った様子でした。つまりそれをどう自分達に活かすかを考えていたのでしょう。まぁ流石に剣美さんの実力は想像以上だったようですが」
確かに、北海道選抜がフィールドを支配した時も冷静だったカナエが、唯一悩ませた表情を見せたのはその時のみであった。
それだけ、各地域のメンバーの能力を頭に入れ、様々なパターンを計算していたということだろう。
「その剣美さんですが、最終的には北海道選抜メンバーの体力を削るために利用され、その目論見通り、北海道選抜はまともに戦う力を残すことが出来ず敗れました。カナエさんは、想像外のことさえ自身のプランに書き換えてしまったわけです。『近畿の平穏にこの人有り』という謳い文句は伊達ではないことを証明した試合でしたね」
咲夜の総括を聞き、改めて関東メンバーは第一部のメンバー、そして黒田 カナエの凄さに感銘を受けていた。
「ですが、カナエさんの計画が予定通りに進んだのは、その計画通りの強さを他の地域のメンバーが発揮したからに他なりません。実力を出せず悔しい思いをした方もいるでしょうが、それが『大輝戦』という舞台です。結果はどうであれ、死力を尽くした素晴らしい試合でした。この戦いは、必ず彼女達の成長に繋がるでしょう」
咲夜の言葉に意を唱えるものは誰一人おらず、気付けば一人、また一人と拍手を始めていった。
気付けば普段は差別の対象としか見ない一般客でさえ、拍手に混ざっていた。
その中でただ一人、咲夜だけはもう一つ、朝陽達に話さなかった事を気にかけていた。
「(カナエさんの功績はもう一つ。それは、幸町さんを除くほぼ全員の『エナジー』を温存したこと。これが果たして明日にどう影響するか…)」
※本日の後書きはお休みさせていただきます




