第298星:ボーダーディスタンス
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。『グリット』は『投影武器』で、これまで使用・対峙してきた武器をイメージすることで、『エナジー』を使用しライン状にエネルギー体の武器を形成し生み出すことが出来る。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。『移転瞬印』で、触れた箇所にマーキングし、自身、又は触れた味方ごとそこへ高速移動できる能力で、連続使用も可能。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。『グリット』は『緩徐侵冷』で、時間の経過とともに一定空間内の温度が徐々に下げる事が出来る。北海道メンバーが活動できるマイナス50°で止めることも可能。
真白 冷那 【脱落】
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。『グリット』は『氷凍結』で、空気中の水分を凍結させたり、放ったりする。能力としては氷雪地帯において真価を発揮するため、但し雪との相性は良い。『エナジー』切れにより脱落した。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる万能系の『グリット』。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格だが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。『グリット』は『直進邁進猛進』で、進めば進むほど加速していく。但し加速しすぎると自分でも見えず、立ち止まると徐々に効力を失う。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
『氷柱結界』を破る際の攻撃により、大雑把にではあるが中部メンバーの位置は割れていた。
奇襲が最も効果的な手段ではあるが、完全に位置を把握しているわけではないため、それは難しいだろう。
そうなってくると、可能性が一番高いのは正面からぶつかり合うこと。
そうなった場合、状況はやや複雑になってくる。
織田野々がいる時点で、最終的な敗北は無いものの、その野々の戦闘がある程度制限されている状況を鑑みると、基本的な戦闘は沙月が担う事になる。
その沙月の戦闘能力は、決して低くは無い。遠距離タイプとは言え、矢に様々な効果を付加させられる万能な能力である。
しかし、万能性でいえば恐らく中部メンバーの長野 絵摩に分があるだろう。
絵に描いたものを具現化し、実物と化する能力はまさに万能。
更に自分なりのアレンジを加える事で、沙月と同じように様々な効果を付与することが出来ることも大きな要因となる。
遠距離戦に限っていえば沙月に分があるが、近接戦闘、もしくはそれに近い距離での戦闘になった場合、有利になるのは絵摩だろう。
「姿は見えん…が、気配は感じるな。問題は向こうが我に気付いておるかどうかだが…」
岩陰に隠れる…ことは無く、野々達は堂々と道中を歩いていた。
それは理由あってのことでは無く、単に姿を隠すようなコソコソとした行動を嫌う、傲岸不遜、唯我独尊、傍若無人な野々の性格の現れである。
カナエという野々さえも一目置く智将の存在があったからこそここまでそれ程その性格を表にしていなかったが、これが本来の織田野々の姿である。
「虫に鼠に虎、それから鳥だったか?どうやら絵摩とやらは動物を絵に描いて具現化するのを好む性格のようよな」
「それはあれでしょ?生物の方が動きもあって扱いやすいからでしょ?」
「ま、そうであろうな」
その野々に付き合うように、沙月はその背後をついていっていた。
「でもぶっちゃけ悔しいよね。私の能力、結構万能だと思ってたのに、正直彼女の方が万能性で勝ってるじゃない?」
「そうだな」
「もうちょっと否定しなさいよ。『そんなことないぞー』とかさ」
「そう言うことを期待する相手を間違っているぞ」
野々の言うことは最もだと思いつつも、納得のいかない沙月は不貞腐れたように唇を尖らせる。
その時、二人は同時に足を止めた。
「気付いたか?」
「勿論。でもヒトじゃないわよね」
二人は同時に自分達に近寄る気配に気が付いていた。
それも突然現れたかのような気配に、二人は直ぐにこれが絵摩の『グリット』による攻撃だと理解していた。
そして間も無くして、絵摩が具現化した生物が姿を表した。
地面を這いずるようにして現れたのは蛇。戯画らしく黒色を基調としながら、毒々しさを添えた紫を交えた色合いをしていた。
「うえぇ…蛇だぁ。私あの手の爬虫類は苦手なんだよなぁ…」
「言ってる場合か。数は少なくないぞ?行けるか?」
「どうだろ?とりあえず『付加』無しで数多めで放ってどうなるか、だね」
そう言うと沙月は無数の弓を創り出し、そして矢を構えた。
そして、迫り来る蛇に対して矢を放とうとした瞬間であった。
「えっ!?」
「む…」
野々と沙月の位置が横にズレた。
その直後に放たれた矢は当然目測が外れ、辺りはしたもののその大半は外れてしまっていた。
「…野々、今のって」
「間違いない。小鳥遊 結華の『グリット』だろうな」
●●●
「にゃは♪さすが結華さん!タイミングバッチリですよ〜」
自身で描いた双眼鏡を具現化し、その様子を見ていた絵摩は、隣で手を差し出し、自身の『グリット』を操っていた結華に話しかけた。
「ふふ、ここまでは目立ちませんでしたが、これでも私、愛知根拠地のエースですのよ?」
お嬢様らしい気品溢れる口調と声色で、結華が応える。
これが愛知根拠地、小鳥遊 結華の『グリット』、『境界延離』。
その効果は、自身の手にエナジーを集約させ、縦に引けば縦に、横に引けば横に、一定の距離空間がズレるという特異系にあたる能力である。
手のひらで囲っているのは、その対象を定めるため。そさはて今、その手の先には、野々と沙月の二人が映っていた。
恐るべくは、空間がズレることよりも、姿が見えない状況では全くタイミングが分からないうちに場所を移動させられていること。
対象を直接ズラすことは出来ず、効果となる範囲は狭く、また移動させられる距離も短いが、それでもコンビネーションによる攻撃を加えられる野々達からすれば脅威である事には間違いない。
その対象の一人が、精密な射撃を得意としているのであれば尚更である。
「アズキさんは、私がもっと素早く判断していれば救うことが出来た筈でした。その失態を、ここで返させて頂きますわ」
特異系にして異例のお嬢様『グリッター』が、野々と沙月の二人に牙を剥き出した。
●●●
「一定の距離空間がズレる、特異系能力…か。実際の戦闘でどう活かしてるのかは分からないけど、こういう場面ではちょっとめんどくさいなぁ」
弓で肩をトントンと叩きながら、沙月は「う〜ん」と考え込む。
「まぁ貴様との相性は最悪よな。どうする、我が一掃してやろうか?」
「そりゃいくらなんでも軽率に頼りすぎでしょ。カナエちゃんが言ってたのは、ここぞと言うところで使うって意味であって、無闇矢鱈に使ってもいいぞ〜ってわけじゃないからね。野々ちゃんも使うタイミングはここだとは思わないでしょ?」
「野々ちゃん言うな。野々様かせめてタメで言え。まぁその辺りは貴様の言う通りだ。こんなところで我の能力を使わなくてはならないようでは話にならんな」
蛇に囲まれて行く状況のなかでも、野々と沙月の両名は冷静であった。
「じゃあちょっともう一回任せてくれる?なんとかして見るから」
そう言うと沙月は再び大量の矢を携え、弓を上部へ構えた。
「あ、相手はすばしっこい蛇だし、数が数だから流石に全部射抜くのは無理だと思うんだけど、少数なら『グリット』無しでも対応できる?」
「戦闘補具で、『滅し斬り長谷部』は持っている」
「おっけ。じゃあ大丈夫だね!よっと!」
そして何の溜めもなく大量の矢を上空へ向けて放った。
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「んん〜?なんだなんだぁ?」
「矢を上に向けて放たれたようですが…」
その光景を、当然中部地方の二人も見ていた。
「もしかして、直接当たるのを避けて、飛来する形で当てるようにすることで、移動するタイミングをこっちに握らせて、ズラさせるのが狙いかな?」
「成る程。敢えて主導権を私に握らせて、能力の弱点を探ろうと言うわけですね。ですが、その手の経験も、乗り越えて来ておりますので」
結華は再び手を前に差し出し、矢が上空から降り注ぐタイミングを待った。
そして、矢が地面に向かって自由落下を始めた瞬間、結華は『境界延離』を発動した。
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「動いた」
沙月がそう呟くのと同時に、大量の矢が野々と沙月の周囲に降り注いだ。
ズレは推定15センチほど。
驚くほどの距離ではないが、蛇から照準をずらすには十分な距離ではあった。
放つ前に沙月の言った通り、矢は全ての蛇を射抜くことは出来ず、寧ろ刺さった個体は少数であった。
しかしそれは狙い通り。
沙月は地面に刺さった矢と蛇の位置を確認すると、真っ直ぐとある方向を指差した。
「野々、見つけた。この先真正面」
「分かった。我が行くから道を開けろ」
「はいよ〜」
そして沙月は、一本の矢を取り出し、どこを狙うでも無く適当に放った。
●●●
沙月が真っ直ぐ指を刺した方角。
それは、絵摩達が隠れていた場所であった。
「うっそ!なんでバレたの!?」
真っ直ぐ直進してくる野々の姿を捉えた絵摩が、この試合初めてその余裕のある表情を崩した。
「……恐らく、私の『グリット』を利用されました」
その状況において、結華は冷静に状況を分析していた。
「沙月さんの放った矢をズラそうとした時、彼女の矢が絵摩さんの戯画蛇より少し上空に右にずれていらっしゃいました。その事を違和感程度にしか感じなかった私は、能力を使って更に右にずらしました。しかし、それが罠だったんです」
「どういうこと?」
迫り来る野々を警戒しながら、絵摩がその理由を尋ねる。
「元々沙月さんが右に逸らされておいた矢が、確実に外れるように更に右にズラされた。それはつまり、お二人から見て、私達が正面から視認している、と教えてしまったようなものなのです」
「……いや〜頭の回転はやすぎでしょお…一回結華さんの『グリット』見ただけでそこまで考えつく?」
もはや驚くことしか出来ない絵摩に、結華も同意するように頷いた。
「や〜能力の対応力なら負けない自信があったけど、戦況での対応力は完敗だなぁ。にゃはは、やっぱ『グリッター』は『グリット』だけじゃないにゃ〜」
口調とは裏腹に悔しそうな表情を浮かべる絵摩の隣で、結華がゆっくりと立ち上がる。
「なんであれ、織田野々さんがここに来るのは時間の問題です。絵摩さんの蛇が時間を沙月さんの行動を制限しているうちに、何とか彼女の対応を……」
結華がそう呟いた時だった────バチバチバチバチッ!!
思わず耳と目を塞ぎたくなるような音と閃光が、一帯を包み込んだ。
※後書きです
ども、琥珀です
昨日の更新で、連続更新7日目を迎えました
正直8日目以降は未知の世界ですね多分
ヤバいのは執筆が追いついていない事
今週の金曜で連続更新はお休みになるので、そこまでは耐えようと思います
…いや継続する気概を見せろ、というお話でした
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も朝更新予定ですのでよろしくお願いします。




