第295星:三つ巴
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。『グリット』は『緩徐侵冷』で、時間の経過とともに一定空間内の温度が徐々に下がっていく。北海道根拠地メンバーが十分に活動できるマイナス50°で止めることも可能。
真白 冷那
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格。どんな敵にも真っ向から挑むため時に窮地を招くが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
その速度は、およそ人間が、否、『グリッター』でさえも出せる速度を超えていた。
高速でぶつかり合う真白と剣美の刃の間を、まるで猛獣が通り過ぎたかのように何かが押し通った。
その衝撃は凄まじく、刃をぶつけ合っていた両名がその場から後ずさってしまうほどであった。
「いったあぁぁ……何今の衝撃…私の『投影武器』も砕けちゃったし…」
両手をプラプラとさせながら、真白は通り去っていった何かの方を見る。
見れば剣美もそちらを見ているが、こちらはその正体を突き止めているようであった。
「目にも止まらぬ加速力に、それを上乗せした攻撃。今のが貴方の『グリット』、『直進邁進猛進』ですか」
剣美の視線の先には、何故か横ステップを高速で踏んでいる幸町の姿があった。
「はい!その通りです!!」
横ステップを踏みながら答えるという奇妙な光景ながら、剣美の言う通り、その場に立っていた幸町がその問いに肯定する。
「(『直進邁進猛進』…確か、前進すればする程加速していく『グリット』、だっけ?それで、そっか、止まると徐々にその効力が失われるから、横ステップを踏むことで、溜めた加速を留めてるんだ)」
二人のやり取りの間に情報の整理がついた真白は、一先ず冷静さを取り戻す。
「カナエさんの指示でお二人のお相手をさせていただく事になりました!!宜しくお願いします!!」
どこまでも真っ直ぐで素直な性格なのか、幸町はカナエから伝えられた作戦をそのまんま口にしていた。
「時間を稼ぎに来た…っていう意味じゃないよね」
「勿論です!!申し訳ありませんが、お二人には私に倒されていただきます!!」
真白の言葉にまたしてもハッキリと答える幸町に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ふふっ、面白いです。常人なら加速するだけで留まらせてしまうであろう能力を、加速の勢いを攻撃に回すとは。お陰で危うく私の愛刀、『多聞天』を手放すところでした」
剣美は『グリット』の特性を読み解くだけでなく、それを活かした攻撃方法にも気が付いていた。
「(…これが鍜名剣美。戦闘に関しては私の何倍も勘が鋭い。純粋な戦闘力なら、この三地方の中でも一番強い)」
三竦み状況の中で、幸町を観察する剣美を真白は観察していた。
「(さっきは初見だから双剣で対応できた。でも一回見られた今、次は間違いなく対応して来るはず)」
消え去った双剣を握っていた手を見つめながら、真白はグッと手を握りしめる。
「(私にもまだ攻撃パターンはある。けど、さっきの片手剣と盾じゃ対応できなかったみたいに、場合によっては通じないものもある。ケースバイケースとはいえ、出す武器と組み合わせには気を付けないと)」
無論、真白幸町にも警戒していた。
進めば進むほど加速する能力。そしてそこから生み出される衝撃は、真白の創り出した武器を破壊し、剣美の刃さえも弾く。
無限に加速する能力は、雪とは別の意味で時間をかけたら不味いのは目に見えていた。
「(さっきの攻撃を見るに、やっぱりどっちのメンバーも雪を狙ってるのは間違いなさそう。冷那が対応しつつ、最悪冴子が何とか対応するにしても、あの人数差じゃいずれ捌ききれなくなる。その前に、この状況を打破しないと)」
三者の思惑は違えど、動き出すタイミングは同じであった。
剣美が居合の姿勢のまま前進し、それをみて幸町も一気に加速。
そしてそれに続くように真白も両手に剣を創造させ、もう一つの三つ巴の戦いが繰り広げられた。
●●●
真白という前衛を失った北海道メンバーは、様々な場所から攻撃を仕掛けられていた。
どこからとも無く放たれる矢、様々な生物に描かれた動物達による襲撃など、攻撃方法は様々であった。
冷那が内部から氷柱で迎撃を試みたり、近づく生物を凍らせたりと対応を続けるが、その負担は生半可ではなかった。
「はっ…はぁ…はぁ…ッ!!」
額からは少なくない汗が滴り、息は細かく乱れていた。
「(まずいですね。敵の攻撃が想像以上に激しい。『氷柱結界』を維持したまま迎撃まで任せていては、冷那が数分と持たなくなってしまう。早いうちに次の手を打たなくてはいけませんが…)」
と考えつつ、真白は次の一手を既に考えていた。
しかし、タイミングが重要となるこの作戦は、現状のタイミングで行使すれば、単なる逃げの一手にしかならない。
沙月や絵摩による攻撃で消耗はしているものの、冷那が耐え続けているお陰で、既に気温はマイナス15度を超えている。
常人なら寒さに震え、シバリングで身体を暖める反面、大幅な体力消耗を起こしているだろう。
しかし、相手が常人ならぬ『グリッター』ではそれでは足りない。
最低でもマイナス30度の冷気は必要になるだろう。
気温が下がれば下がるほど、雪の『緩徐侵冷』による気温の低下も加速する。
求められる時間はあと少し。
しかし、何とか粘りたい北海道メンバーに対し、攻撃は激しさを増すばかりであった。
矢や戯画による攻撃を冷那が迎撃するも、数で劣る分、攻撃の直撃は増えていた。
「ご、ごめん冴子さん。これ、あんま長く持たないかも…!」
ここまで気丈に振る舞ってきた冷那も、自身の限界を図り、見栄を張らず冴子に報告する。
「…分かりました。仕方ありません、ここは私の『グリット』で…」
「だから、最低目安のマイナス30度まで粘って見せる!!その後は…任せたよ」
冷那の言わんとしていることを理解し、冴子は何かを言いかけるが、冷那の目から放たれる覚悟の圧を感じとり、口を塞いだ。
「……分かり、ましたッ」
ギリッ…と歯を食いしばり、冴子も覚悟を決めた。
●●●
「……?」
「どうした、沙月」
違和感を感じ取った沙月の表情の変化を、野々は見逃さなかった。
「いや……あの結界、もうちょっとで壊せそうな感じがあったんですが、ここにきて急に持ち直したような感覚が…」
「…ふむ」
野々はジッと氷の結界の方を見る。
内部の様子はハッキリとは見えなかったが、その中から伝わってくる雰囲気から、野々は薄らとその理由を察していた。
「気を付けろよ沙月」
「え?」
突然の言葉に、沙月は野々の方を見る。
「どういう結論に至ったかは知らんが、あの結界を張ってる者の気配。あれは死を覚悟した者と同じ者のソレだ」
沙月は視線を野々から結界へと移し、感じていた違和感の正体を掴んだ。
「基本貴殿に任せろと言うカナエの指示に従うが、ああいった手合いのものは最後に何をしてくるか分からん。身に危険が迫れば、我は独断で動く。良いな」
「そんな隙は与えない。弱ってるのは事実なんだから、そんな隙を与える間も無く仕留めれば良いだけよ」
これまでも油断があったわけではない。
しかし、改めて野々の言葉を受け、沙月は完全に狩人の目へと変化していった。
「一弓入輝・『火ノ矢』!!」
放たれた矢は真っ直ぐと氷の壁へと飛び、突き刺さるや否や、大量の火を噴いた。
その火が冷那の『氷柱結界』を破る事は無かったが、その表面は溶け出しており、当初よりも明らかに効果を発揮しているのが見てとれた。
「攻めるなら、いま!!」
次いで沙月は矢を一本では無く、無数に取り出し、矢に構えた。
沙月の矢は自身の『エナジー』によって生み出されるものであるため、『エナジー』が尽きない限りは無尽蔵に生み出すことが出来る。
但し、生み出す事に加えて、効果を付与するため、その消費量は凄まじい。
それが故に、ここまでは攻め時を図るために、敢えて単調な攻撃を繰り返していた。
しかし、守り抜きたい冷那と、攻め抜きたい沙月との粘り合いは、中部メンバー側の攻撃も相まって、沙月達に軍杯があがった。
そして、ここが好機と判断した沙月は、その大量の矢を一斉に放った。
「一弓入輝・『火ノ嵐』!!」
大量の矢は、キレイな放物線を描きながら冷那の『氷柱結界』目掛けて降り注いで行った。
仕掛けるタイミングを合わせると考えていたのか、それと同時に大量のネズミが『氷柱結界』に纏わり付き、そして爆発。爆炎を撒き散らしていった。
思わず耳を塞ぎたくなるほどの爆発音。
そして、辺りに吹き荒れる爆煙により、一時的に冷那達の姿は見えなくなっていた。
姿が見えるまで警戒は怠らない。沙月は矢を構えたまま暫く様子を観察し、一度深呼吸をしようとした。
その時、自分の呼吸に違和感を覚える。吸った鼻の中で、息が凍ったのだ。
更に周囲の光景に異変が生じた。舞台の中であるにも関わらず、雪が降り注ぎ始めたのだ。
「……やられたね」
カナエが小さくそう呟いた。それは、北海道メンバー白石冷那が、決死の覚悟で実行した作戦。
覚悟が知性を上回った事象であった────
※後書きです
ども、琥珀です
琥珀製お年玉連続更新…5日目、ですかね?
皆様の仕事もはじまりかけた頃でしょうか?
流石にもう新年どうこう、といった日々は過ぎた気がしますね。
あとはもう寒さに耐える日々です。
子供の頃はどちらでもなかったんですが、大人になると夏の方が好きだな…と感じるようになりました。
まぁ冬の寒さの中に温もりを見つけるのも乙なものですけどね。
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も更新予定ですのでよろしくお願いします。
お正月気分が抜けたとか言いながら、赤文字のお年玉はまだ期待してます笑




