第294星:真白 対 剣美
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。『グリット』は『緩徐侵冷』で、時間の経過とともに一定空間内の温度が徐々に下がっていく。北海道根拠地メンバーが十分に活動できるマイナス50°で止めることも可能。
真白 冷那
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格。どんな敵にも真っ向から挑むため時に窮地を招くが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
「…『鼠花火』、全部打ち落とすとかマジですか〜」
自身が描いたある動物の背に乗りながら、絵摩は攻撃が全て塞がれた事に驚く。
しかし、同じくその動物の背に乗っている剣美は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「ふっ…貴方の『鼠花火』は炸裂すると同時にその10倍の数の火花で攻撃を仕掛ける技。貴方が放ったネズミの数は10匹。つまり火花は100に及ぶ筈ですが…その全てを薙ぎ払うとは、流石、と称賛すべきでしょう」
剣美にとって、味方である強者と刃を交えることが良い事であると思っているわけではない。
しかし、自分自身を更に高められる実力者と相間見えることが出来る事に高揚感を覚えていることは、もはや隠すことのできない事実であった。
「(新潟根拠地のエースと慕われ、中部地方最強と呼ばれるようになり、気付かないうちに私は猛者を求めていたのでしょうか。元来、味方であるはずの『軍』のメンバーに…)」
先程、幸町と競り合った際にも同様の高揚感を覚えていた剣美は、自身の身の丈にはおよそあっていない長い太刀をジッと見つめ、そしてこう思った。
「(……もっと競ってみたい)」
それはこれまで剣美が感じたことのない感覚であった。
仲間のために、人々のためにと奮ってきたこの剣。それが今、剣美は味方に向けようとしているにも関わらず、『メナス』との戦いの中では得られなかった興奮を感じていた。
「(剣美さんが笑ってらっしゃる…鉄面皮で寡黙な方だと聞いてましたのに…)」
その様子を、結華は珍しそうに見つめていた。
中部地方における鍜名 剣美と言えば、比類なき剣術の達人であり寡黙。
新潟根拠地においては、仲間への理解が深く、また情にも熱い人物として知られている。
故に、誰もが敬う女性として尊敬の念を抱かれていたが、今はそれとは違う、戦士としての本能が刺激されつつあった。
そして、その時はやってきた。
絵摩が用意していた下書きの虎に乗ってきた中部メンバーが、真白達の前に姿を現したのだ。
「絵に描いたような虎…なるほど、それが長野 絵摩さんの
『具現絵化』ってやつですか」
来ることが分かっていながら、真白はこれに真正面から対峙した。
隠れて奇襲をかけても、剣美相手には意味がないことを理解していたからだ。
「貴方のそれも…武器をライン状に形成する万能の能力、『投影武器』ですか。先程は見事な腕前でした」
剣美は虎から降りると、真白の腕を心の底から素直に賞賛した。
「『現代の上杉謙信』とまで呼ばれる貴方に褒められるなんて光栄だわ。それじゃ、そのまま一気に事を運ばせて貰おうかしら」
「残念ながら、そこまではさせません」
お互いに余計な言葉は不要と言わんばかりに、臨戦体制に入る。
真白は右手に剣、左手に盾を形成。剣美は長い太刀で居合の構えを取る。
距離は5メートル程。ジリジリと距離を詰め、互いの間合いに入るのを待つ。
そして、間合いの制空圏に先に触れたのは、剣美の方であった。
「毘沙門抜刀・神速」
間合いに入った瞬間、剣美はリーチの長い太刀を高速で抜き差しし、目にも止まらぬ速さで居合切りを連続して繰り出していく。
しかし、真白はこれにしっかりと対応していた。
同じく近接戦闘の達人である真白は、自身の動体視力で見極められた太刀はかわし、反応しきれない攻撃は盾で防ぐことで、これに対応していたのだ。
この神業とも言える動きと速さの攻防が繰り広げられる中で、剣美・真白の両名は笑っていた。
互いに常に相手するのは『メナス』。
時に味方を相手にすることがあっても、それは軽い組手程度。
しかし今、両名は初めて対人をして全力でぶつかり合える、力を出し合える喜びを感じていた。
ギィン!ギィン!と互いの刃が交わる金属音が、フィールド内に響き渡る。
その洗礼された動きと、ぶつかり合う時に散る火花が、観る人を魅了していた。
「(魅了……そう、この時はそう感じさせるのでしょうね。でもそれが、時間の経過とともに恐怖へと変わる…私の時と同じように)」
その光景を、咲夜はどこか鎮痛な面持ちで眺めていた。
咲夜が百年前、【オリジン】と最後の戦いを終えたあと、『グリッター』は差別だけでなく、恐怖を覚えられるようになった。
今は見惚れさせているこの光景も、いつかは恐怖に変わってしまうのだろうか。
どうしても、咲夜はそういった悲観的な目でこの戦いを見てしまっていた。
その間にも真白・剣美の戦いは続いていた。そしてその差が徐々に現れつつあった。
「クッ…!!」
押され始めたのは真白の方であった。
盾と剣で巧みに攻撃を捌いていた真白であったが、それでは捌き切れなくなったのか、一歩、一歩と下がるようにして回避を始めた。
しかし、元よりリーチの長い剣美の太刀から逃れることは叶わず、徐々に、しかし確実に苦戦する様子が見てとれた。
「これが『現代の上杉謙信』の攻撃か!こりゃ凄いわ!」
それでも真白の口元には笑みが浮かんでいた。それは強者と戦える喜びからだろうか。
「じゃあ防御は止め!私ももっと攻めに出る!」
否、次の手を打ち、この不利な局面を打開するためであった。
左手の盾を解除すると、次の瞬間、一瞬にして右手のものと同じ剣へと変化させた。
「いっくぞーッ!!!!」
「…!!」
両手で攻めに転じた事が功を奏し、押されていた真白が再び五分にまで持ち込んでいた。
「(私の『神速』についてくるだけで無く、押し込むべく攻めに回る。素晴らしい力量ですね!!)」
両者の攻撃速度は全くの互角。いや、両手で攻めに回った分、手数で寧ろ真白が押し返しつつあった。
「(私一人では万が一があったかも知れない…けれどこれはチーム戦です)」
押し返したかのように見えた状況で、剣美の背後では、絵摩が素早く巻物に絵を描いていた。
そして描き終えた巻物から出てきたのは、無数のキツツキであった。
「まぁ今回削るのは木じゃなくて氷だけどね〜んまっ!まずは軽く表面に傷をつけてもらうって感じで!」
絵摩の合図とともに、十匹以上はいるであろうキツツキが一斉に氷の結界へと飛び立っていく。
「クッ!」
「行かせませんよ。私との戦いを楽しみましょう」
真白がカバーに向かおうとするものの、剣美の鋭い攻撃がそれを許さない。
その間に、絵摩のキツツキは冷那の『氷柱結界』に辿り着いており、そして今にも啄み削りはじめようとしていた。
その瞬間、円状であった結界から、無数の氷の突起が現れ、氷を囲っていた絵摩のキツツキを全て貫いていった。
「ありゃ!?」
絵摩が驚いた様子を見せると、氷の中にいた冷那がニッと不敵な笑みを浮かべる。
「舐めないで貰える?氷は出すだけじゃなくて少しくらいなら形状を操ることも出来るのよ」
と説明した冷那であったが、実際は異なる。
いま冷那が行ったのは、『氷柱結界』より外部の水分を氷結化させて突起物を作り出したのである。
他者から見ると確かに結界の形状を操って氷の突起を出したかのように見えるが、仕掛け自体は異なっていた。
そう見せかけたのは、そういった柔軟性があると思わせた方が、より強く警戒してくれると踏んでの事である。
「となると物理的に削るのはダメか…触れずに攻撃できるものか、それとも……」
そして冷那の思惑通り、絵摩が攻撃手段について悩んだことで、描く筆が止まっていた。
「(よし、これで時間は稼げ……)」
────ドォン!!
そう思ったのも束の間。
今の絵摩の攻撃とは全く異なる方向から、突如として爆発が起こった。
幸いにも十分に強化を重ねていた『氷柱結界』が崩れることは無かったが、予想だにしていなかった攻撃とタイミングに、冷那は驚きを隠さずにいた。
一方で、今の攻撃だけで襲撃者を特定したのは、冴子であった。
「来たわね、近畿メンバーが」
その冴子の視線の先では、矢をこちらに向けて構える沙月の姿があった。
そしてもう一方、真白と剣美の戦いに横入りする者がいた。それは────
「とぉりゃああああああ!!京都根拠地、真田 幸町推参!!文字通り推して参りますよ!!!!」
剣美、真白、そして幸町。
近接戦闘に覚えのある三人が揃い、勢力も全てが揃った。
北海道、近畿、中部の三地域による三つ巴戦は、いよいよ佳境にはいりだしたのであった。
※後書きです
ども、琥珀です
ネズミ花火ってやったことありますか?
蚊取り線香みたいにグルッと巻かれた花火に火をつけると、グルグルグルッ!と高速回転しながら火花を噴く花火なんですが、最後は爆発するんですよね。
昔はああ言ったちょっとスリルのある花火が沢山あったものですが、最近はそういった事情に厳しく、シンプルな花火のみになってしまいましたね。
安全のためとは言え、少し寂しく感じる琥珀でした。
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も朝更新予定ですのでよろしくお願いします。
赤文字のお年玉も、待ってます…笑




