第293星:利害一致
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。『グリット』は『緩徐侵冷』で、時間の経過とともに一定空間内の温度が徐々に下がっていく。北海道根拠地メンバーが十分に活動できるマイナス50°で止めることも可能。
真白 冷那
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。『グリット』は『念通信』で、自身のエナジーを飛ばして脳内に語りかけるものだが、それだけに留まらず、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。『グリット』は放った弓に様々な効果を付与する『付乗の矢』で、局面を打開する爆破や、壁を貫く高速の矢など、様々な場面に対応できる。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格。どんな敵にも真っ向から挑むため時に窮地を招くが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
「北海道メンバーに襲撃をかけます」
近畿メンバーと距離を置きつつも警戒を続けていた剣美が、残った中部メンバーに次の行動を伝える。
「そう、なりますわよね。ですが…」
「恐らくこの行動パターンは読まれている…と言うよりも誘導されているでしょうね。それは私も分かっています」
岩陰に隠れ、付近の様子を伺いながらも、剣美は説明を続けた。
「それでも動かざるを得ません。一つはこのままでは北海道メンバーだけが有利な状況を作られてしまうこと。そしてもう一つは、北海道メンバーを攻撃することで利害を一致させることが出来るからです」
「……つまり、先程まで敵同士だった近畿メンバーを、一旦味方にすると言う事です〜?」
絵摩が尋ねると、剣美はゆっくりと頷いた。
「近畿メンバーもこのまま北海道メンバーの行動を放っておくわけには行かないでしょう。かといって、私達と戦ってどちらかが勝利してから対処するのでは遅すぎる。思い通りに動かされるのは癪ですが、今回はやむを得ません」
他のメンバーも同じ思いなのか、複雑な表情を浮かべながらも剣美が言うなら、と頷いた。
「恐らく共同戦線を張れるのは、北海道メンバーの雪さんを倒すまでの間。ですがそこさえ崩れれば、条件はほぼ五分です。あとは皆さんのサポートを受けながら、私が真正面からねじ伏せます」
剣美がやや気負っているように感じながらも、中部選抜のなかでも一際実力者として知られる彼女に意見するものはおらず、一先ず同意する。
「織田野々さんの『グリット』で襲撃する可能性も考えていましたが、どうやらその気配はありません。ですので、私達が先に襲撃を仕掛けます。絵摩さん、『鼠花火』の準備を。それから一気に接近するための動物もお願いします」
「了解です〜。『鼠花火』はちと準備してなかったんで、少しだけ時間を下さいな」
そう言うと絵摩は巻物を取り出し、シュルッと紐を解き開く。
そして何も描かれていない白紙の巻物に、素早い速度で絵を描き、筆を走らせていく。
ものすごい速さで描かれていながらその筆捌きは繊細で、あっという間に十匹程のネズミの姿をした絵が完成して行った。
「ほい完成〜。動物はどのようかものが宜しいですか?」
「気付かれずに接近するのは難しいでしょうし、バラバラに奇襲をかけても意味がありません。素早く、そして全員が一斉に乗れる動物が理想ですが…」
「そんなら、此奴で決まりですな!!」
今度は別の巻物を取り出すと、絵摩はシュルリと再びその紐を解き、巻物を開いた。
そこに描かれていた絵は……
●●●
「…動いた!」
近畿メンバーで最も視野の良い沙月が、中部メンバーの動きを捉えていた。
「ホントに先に動くんだ。こっちの出方を伺うと思ったわ」
先手を取り出した中部メンバーの動きに、沙月は僅かに驚いた様子を見せた。
「彼女一人ならそれもあり得たかもしれませんが、他の二人は寒さに耐性があるわけではありませんからね。それに向こうもこっちが動くのを待っているのは分かっていたでしょうし、利害を一致させた上で一緒に動くのなら早い方が良いと踏んだのでしょう」
「人を動かすのが本当に上手いやつよな、貴様は」
良い意味でも悪い意味でも使われた言葉に、カナエはニヤッと笑みを浮かべるだけであった。
「…中部メンバーが移動して数秒経ちました!私達もこれに続きます!攻撃の初手は沙月さんの矢で!炎や爆発系の『付乗の矢』はいけますよね?」
「勿論。氷を溶かしてやるわよ」
無論、北海道メンバーが張ってる氷の結界がそう簡単に破れるものでは無いことは理解していたが、それでも自身と味方を鼓舞すべく、沙月は自信げに答えた。
「助かります!では行きますよ!」
間も無くして、中部地方も移動を始めた。
●●●
「……来るね」
その気配を真っ先に感じ取ったのは、北海道のエース、真白であった。
氷の中からも感じ取れる気配に、真白は膝立ちの姿勢からゆっくりと立ち上がった。
「真白、何も直ぐに迎え撃たなくても良いんですよ?『氷柱結界』だってこの気温なら直ぐには壊れません。それを待ってからでも…」
「冴子らしくないじゃん。貴方だって分かってるでしょ?それだとリスクの方が高くなるって」
心配そうに見つめる冴子の視線に、真白はにっこり笑って応えた。
「破られてから対処するのと、守りながら戦うんじゃ状況が違う。それに、『氷柱結界』の中でも冷那なら援護できる。それなら、私が前に出て時間を稼ぐ方が良いに決まってる」
真白は既に覚悟を決めていた。冴子もそれが一番良い作戦であることは理解していた。
しかし、自分達だけが安全な場所にいて、真白一人だけが危険を承知の上で身を投じさせるのは、どうしても気が引けた。
「そんな目をしなさんなって冴子。こんな言い方したらアレだけど、いつものことじゃない。私が前に出て、貴方がそれをサポートする。貴方が後ろにいるから、私は安心して前に進める」
腰に手を当てて自信げに立つ真白の姿に、冴子は苦笑いを浮かべながらも、いつものように思う頼もしさを改めて実感していた。
「だから、大丈夫。絶対成功させる」
冴子は諦めではなく信頼的な意味で、今度こそ真白の言葉に頷いた。
「冷那、私の分だけ氷を溶かしてくれる?」
冷那もやや躊躇いながらも、手を差し伸ばし、真白が通れるだけの穴を氷壁に開けた。
「じゃ、みんなサポートは宜しくね」
まるで軽く散歩に行くだけのような足取りで氷の中から出る真白を、北海道メンバーは全力での支援を誓い見送った。
「……距離は遠くない。というか人じゃない気配がするね」
氷の外に出てすぐに、真白は複数の気配に気が付く。
「片方は走っての移動…数は分かんないけど、もう片方の動きを探ってる感じがするから、こっちが近畿メンバー…だとするともう片方が中部メンバーだと思うんだけど…」
目を閉じ神経を集中させ、更に気配を探るが、その眉間のシワは深くなるばかりであった。
「(人じゃない気配が近付いてくるのに加えて…なんだろう、中部メンバーの移動速度が人のそれじゃない気がする…)」
その正体を突き止めてる時間は無かった。
何故なら、真白が気にかけていたもう一つの気配、人じゃない気配の方が、既に目の前まで迫っていたからだ。
「あれは……ネズミ?」
一瞬ではあったが、岩陰に隠れながら移動する物体の姿を、真白は見逃さなかった。
「細かい動きで私の意識を割いてからの奇襲狙いってわけ?甘いわよ!!」
そう叫ぶや否や、真白は何も持っていない状態で右手を突き出し、更には左手で何かを引くような動作を見せる。
それと同時に、パッと真白の手が輝き、その後光が線上にドンドン象られていき、やがて線で出来たスリンガー形状へと変貌していった。
これが北海道根拠地エース、加我 真白の『グリット』、『投影武器』。
これまで使用・対峙してきた武器をイメージすることで、『エナジー』を使用しライン状にエネルギー体の武器を形成し生み出すことが出来る、万能な能力である。
「……」
スリンガーに装填された小型の矢は計十本。それを直ぐに放つことなく、僅かに腕を移動させていきながら、ジッと狙いと時を定める。
そして…
「シッ!!」
スリンガーに収められていた矢が一斉に放たれると、矢は不規則な軌道を描きながらも、岩陰に隠れていた個体含め全てのネズミに命中していた。
「甘いわよ。私は近接戦闘が得意なだけの女じゃ……」
上手く相手の作戦を封じ込めたと思ったのも束の間。
真白が撃ち抜いたネズミは、瞬間的に膨張し、そして爆裂。
更に爆裂したネズミからは、無数の火花が不規則に真白達目掛けて迫ってきていた。
「んにゃろ!こっちが本命か!!」
火花の数はネズミの数など比にならない、無数の火花が迫る中で、真白の頭は即座に働いていた。
まず可能性として捨てたのは全てを打ち落とすこと。
先程は見事なスリンガーによる射撃技術を見せたが、射撃が本職ではない真白が補える数の火花ではない。
そこで真白が創り出した武器は槍だった。
但しただの槍ではない。長さ5メートルもある超大身槍であった。
「そぉらそらそらそらそらそらぁ!!」
真白はその槍を豪快に…ではなく繊細に操っていた。否、豪快かつ繊細に操っていた。
一見すればただ振り回しているだけ。しかし実際は、振る角度、タイミング、そして距離、その全てを見極め奮っていた。
そして、ネズミ花火のように高速で移動しながら向かってくる火花を、見事全て捌き切ったのであった。
「ふふん、これでも私、憧れは戦国 巴さんだからね。その本人を前にして、不甲斐ない戦いっぷりはできないでしょっ!!」
戦場の巨大な槍を構え、そして真白は北海道根拠地のエース足るその存在間を見せしめた。
※後書きです
ども、琥珀です
すいません、寝坊しました…
琥珀製お年玉連続更新3日目になります。
私の仕事は祝日関係なしに出勤なので、正直年を越したっていう感覚があまり無いのですよ…
なので寧ろSNSを見てた方が年を越したことを実感させてくれますね
……そんなわけで、赤文字で表示されるお年玉、下さっても良いんですよ?←
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も更新予定ですのでよろしくお願いします。




