第291星:北海道の世界へ
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。
真白 冷那
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格。どんな敵にも真っ向から挑むため時に窮地を招くが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
辺りの気温が急速に下がりつつあることに、フィールドの面々は直ぐに気付いていた。
現在はやや肌寒いと感じる程度ではあるが、時間の経過と共にますますその気温は下がっていた。
「これは北海道メンバーの能代 雪さんの『グリット』、『緩徐侵冷』ですね」
既に吐く息が白くなりつつあるなかで、カナエが即座に状況を分析する。
「確か……一定範囲内の空間の気温を下げる『グリット』だったか?今のところそこまで支障はないが…何か問題が?」
「えぇ、大アリです。実はこの組み合わせになった時に一番懸念してた問題です」
カナエはおよそ問題があるとは思えないような笑みを浮かべながら答える。
「彼女の『グリット』で下げられる気温はマイナス50度前後。その気になれば彼女は人間が活動できるギリギリまで気温を下げることが出来るわけですが…」
「だがその気温まで下げるには相応の時間が必要な筈。5分やそこらで出来るものではなかろう」
野々の答えに、カナエは「仰る通り!」と言いながら指をパチンと鳴らす。
「それがまぁ問題①としましょう。つまり、時間との勝負ということです」
「ならこうして話している時間が勿体無いと思うがな。それで、他の問題は?」
「今回の選抜メンバーのなかで、私達が一番冷気に慣れてない、ということです」
指を一本立てて答えるカナエの言葉に、野々は「成る程」と頷きながら、内身舌打ちしていた。
「マイナス50度は滅多にありえませんが、北海道地方はマイナス気温の中でも生活している程ですし、中部メンバーで一番厄介な剣美さんは新潟根拠地なので、多少なりとも寒さに耐性があります」
「だからと言って我等とて戦えんわけではないだろう。『グリッター』であればマイナス50度の気温であろうと活動は出来る」
チッチッチッ、とカナエは舌を鳴らしながら説明を続ける。
「確かに活動はできます。ですが確実に動きは鈍る上に、慣れていない環境だとスタミナは勿論、思考にも影響します。普段ならば問題ないかも知れませんが、ここは『大輝戦』。その一瞬の鈍りが命取りです。実際は死にはしませんけどね」
カナエからの説明を受け、野々は「ふむ…」と呟きながら己の腕を見る。
まだ違和感を感じるほどでは無いが、手からの温もりはほとんど感じない程に気温は下がっていた。
体感的には既にマイナスに入りつつあるあるだろう。
確かに今以上に気温が下がり続ければ、自分の動きに支障が出るのはまず間違いないだろう。
「それで、どうすると言うのだ。この気温を下げてる輩、つまりは根本を断つのか?」
「いやいや、それはまだ先の手にしましょう。向こうの智将の冴子さんはそれに備えてるでしょうし、自分達の優位な状況になるまで万全の防御策を練ってるはず。そうなると崩すのはちと面倒ですから」
野々は「成る程」と納得しながら、恐らく北海道メンバーがいるであろう方向を親指でクイッと指を刺す。
「我の『グリット』なら一気に叩き潰せるのでは?」
「確かに可能でしょうね。たださっきも言ったように、防御策はしっかりと講じているはず。野々さんの『グリット』はシンプルで強力な分、負担も大きい。出来るだけ奥の手として残しておきたいのですよ。既に一回使ってますしね」
「使ったと言っても一回、それも片手だ。もう一回同じことをするくらいわけないぞ」
「同じことをするだけじゃ崩せませんよ」
野々の提案を、カナエはバッサリ切り捨てた。
「さっきは不意を突いたのでさっきの規模で足りましたが、今度は完全に待ち構えている状態です。そうなれば、いくら野々さんの『グリット』と言えど、そうですね、出力的に半分は必要になってきます。その後も必要になるかも知れないことを考慮すると、半分は流石にキツいでしょ?」
「…あぁ、まぁ確かにな」
ここで意地を出すほど、野々は愚かでは無かった。
「それで、じゃあどうするのだ?このまま指を咥えて有利な状況を作り出されるのを待つわけではあるまい?」
「勿論です!なぁに簡単なことですよ!」
カナエは今度は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、作戦の基盤を口にした。
「お互いの利点を照らし合わせて、攻略し易くすれば良い話です」
●●●
「よし、予想通り、こっちに攻め込んでくる様子はないですね」
冴子は辺りを警戒しつつ、攻め込まれる様子がないことに一先ず安堵する。
その周囲には、半円状の氷の壁が張られていた。
これが白石 冷那の『グリット』、『氷凍結』で、大気中の水分や自信の『エナジー』を返還させ、氷を現出させる能力である。
シンプルながら、北海道という気温の低い地域では相性が良く、一瞬の間から繰り出される冷気を利用した攻撃が特徴である。
しかし、今回は舞台が東京であるため、通常より冷気の放出や氷結への時間を懸念していたが、そこで強力な助っ人となるのが、能代 雪である。
周囲の気温を下げる『グリット』を持つ雪によって、自信の得意な環境を生み出せることが出来るため、この舞台にあっても冷那は100%の力を発揮することが出来るのである。
「でも、あの黒田カナエがこのまま私達に有利になる状況を放っておくと思う?」
「思いません。恐らくは何らかの形で阻止してくる筈です。ですから、私達のすべき事はその阻止する形を減らすようにすることです」
気温はマイナスに入るも、真白達が寒そうにする様子は見られない。
「冷那の『グリット』で周囲の守りを固めつつ、この作戦の肝である雪を守るために三方を警戒する。それだけでまずは時間は稼げるはずです」
「能力発動中は動けないのが弱点ですからね。気温も下がりつつありますし、私の『氷柱結界』も少しは持つはずです」
その要とされている雪は、氷の結界の中心部分で目を閉じ、祈るような姿勢で意識を集中していた。
「使用中は雪さんの意識もそちらに集中させないといけませんし、防御は万全とは言え気は抜けません。私達が優位を取れるまで…おおよそ15分。持ち堪えましょう」
周囲を警戒しながら、冴子は全員に喚起を呼びかける。
「具体的にどんな攻撃が考えられるの?」
「一つは近畿メンバーの沙月さんによる矢を使った攻撃です。彼女の『グリット』、『付乗の矢』は、爆撃から射抜きまで様々な効果を付加して矢を放つことが出来ます。動けない私達はカッコウの的になるでしょう」
真白は警戒は怠らないまま、冴子の方を見る。
「それって大丈夫なの?冷那の『氷柱結界』は結構硬いけど、爆撃とかそういう熱には強くないでしょ?」
「そう…ですね。その時に雪さんの『グリット』でどれだけ気温が下がっているかにもよりますが、もし連射出来るようなら持って5分かと」
「その時点でアウトじゃん。直ぐに攻め込まれたらまずいんじゃない?」
「そう上手くは事は進みません」
真白と冷那の不安を、冴子は即座に否定した。
「矢巾アズキさんがフォールアウトした時、僅かですが織田野々さんの『グリット』らしきものを確認しました。カナエさんが私と似たような考えを持っているのだとしたら、敢えて相手が有利と思わせる状況を作らせて不意を突いたはず。その為には、まず有利な不利を作るための誘導が必要なんです」
冴子の説明に、真白も冷那も首を傾げる。
「つまり……どういうこと?」
真白が尋ね返すと、冴子はある方向を指差した。
「今も続いてる衝突音。これは多分、剣美さんと幸町さんが戦っている状況。そして奇襲をかけたのは恐らく中部メンバー。となれば、有利な不利を作るための誘導というのは撤退を意味します」
「……追い込まれてるフリをするってこと?」
真白が至った結論に、冴子は頷く。
「それで上手く誘い込まれた中部メンバーは、不意を突かれアズキさんが脱落した。そのもう一個の仕込みが幸町さんです」
「幸町さんも、ですか?」
冷那が困惑気味に尋ねるも、冴子は間髪入れずに頷いた。
「幸町さんが剣美さんと対峙する事で、自分達は追い込まれていると思わせたんです。そうすることでしか対処出来ない状況だ、と思わせて」
真白はここまで説明されてようやく納得したように頷いた。
「…はぁ…どれもこれもが仕込みってわけね…そこまで頭が回らないわよ普通」
「そこまで考えが回るのが普通なのが黒田カナエという人物なのです。ですが、その戦略が今は私達にとって良い方に巡っています」
「…どういうこと?」
ようやく理解したことが更に複雑になり、真白は再び眉を顰める。
「いまぶつかり合ってる幸町さんと剣美さんはどちらも実力者です。ですが、単純な戦闘力では剣美さんの方が高いと思われます。ですから必然的に、近畿メンバーのうち一人は増援に回らないといけません。更に、黒田カナエさん自身の戦闘能力は高くないので、単独で行動することはありません」
「……つまり、今この時点では、近畿メンバーと中部メンバーの動きを把握できている、ということですか?」
冷那の言葉に、冴子はその通りだと頷いた。
「恐らく近畿メンバーも中部メンバーも、一旦合流を目指すはず。その後の動きは、確証はないですが、この二つの地域での消耗線は避けたいはず。つまり…」
「利害を一致させて、私達を巻き込もうと言うわけね。全く、面倒なことをしてくれるわ」
真白が思わずこぼした言葉に、冴子はクスリと笑みを浮かべた。
「だから言ったじゃないですか。そう上手くことは進みません、って」
現状を把握し、最善の一手を模索する智将、冴子は、来たる時に備え知識をフル回転で振り絞っていた。
※後書きです
ども、琥珀です。
新年明けましておめでとうございます。
年が明けてから4日も経ってしまいました。
当初は5日の更新予定でしたが、1日早めて更新させていただきました。
お年玉は残念ながら届きませんでしたが、私からのお年玉ということで(?)、来週の金曜日まで連続更新を行いたいと思います。
今回は土日を含んで実施しようと思いますので、ぜひ激闘の『大輝戦』第一部をお楽しみください。
それでは、今年も琥珀と本作を宜しくお願い致します。




