第290星: 先見の明
第一部:北海道 VS 中部 VS 近畿
◆北海道選抜メンバー
加我 真白
北海道根拠地のエース。あらゆる武器の達人で、『シュヴァリエ』の一人である戦国 巴に憧れている。
三雲 冴子
北海道根拠地の裏エース。実力と行動で引っ張るタイプの真白に対し、言葉と知略で味方を引っ張る根拠地の顔。
能代 雪
北海道の構成員の一人。物事に無頓着で、あまり意欲を見せないが、根拠地の面々は信頼しており、頼まれれば行動する。
真白 冷那
北海道根拠地構成員の一人。北海道地方は一つしかないため選ばれたが、それでも選ばれた自負はあり、同時に選ばれた責任感を持っている。
◆中部地方
矢巾 アズキ 【脱落】
静岡根拠地のエース。可憐でキュートであると自負する少女。実際それに見合うだけの外観もあり、それに実力も伴っているため人気は高い。『グリット』は『私を見つけて』で、サイズを1センチ程まで縮めることができる他、小さくなった分圧縮された攻撃を放てる。小柄になった時専用の『戦闘補具』、『可憐な翼』がある。近畿メンバー、織田野々の攻撃により脱落。
小鳥遊 結華
愛知根拠地のエース。極めて珍しい根拠地所属ながら実家暮らしという、育ちの良いお嬢様で純真無垢な人物。但しいつかはその家系を継ぐために、交渉などにおいては強かさを供える。
鍜名 剣美
新潟根拠地のエース。剣術の達人で、『現代の上杉謙信』とも言わせしめる程の実力を持つ。口数は少ないが仲間への理解は深く、また情にも厚いため、仲間のことを第一とする。
長野 絵摩
長野根拠地のエース。能天気ながら掴み所のない人物で、時に人をからかうお調子者。但し戦況を見極め、状況に応じた動きをするのが上手い。『グリット』は『具現絵化』で、描いた絵を実体化させる能力。精密に描けば描くほど精巧な作りの出来になる。
◆近畿地方
黒田 カナエ
兵庫根拠地きっての智将。近畿の平穏にこの人有りとまで言われ、近畿では犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている。
射武屋 沙月
奈良根拠地のエース。明るく前向きながら冷静で、矢の腕には自信がある。個性的なメンバーが揃う近畿メンバーを纏めるリーダーシップ性も備わっている。
真田 幸町
京都根拠地のエース。猪突猛進、直往邁進の恐れ知れずで真っ直ぐな性格。どんな敵にも真っ向から挑むため時に窮地を招くが、基本的に素直な性格のため、止まれと言われれば止まる。また、無闇に突っ込んでも勝てる実力も備わっている。
織田 野々
大阪根拠地のリーダー。傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人。自分こそが次に選ばれる『シュヴァリエ』と疑わない。基本的に京都根拠地とは犬猿の仲で、特にリーダー格である武田晴風とは仲が悪いものの、忠実で真っ直ぐな真田はそこまで嫌っていない。傲慢な性格ではあるが、それに見合う器は持っている。
あまりの一瞬の出来事に、フィールドの面々だけでなく、それを観ていた観客全員が騒然となる。
「せ、先生、今のは?」
目に見えなかった、というよりも、目に見えたが故に正体が掴めず、朝陽は思わず咲夜に尋ねていた。
「『グリット』であることは間違いありません。が、驚くところはそこではありませんよ、朝陽さん」
「…え?」
冷静に分析をする咲夜の言葉に、朝陽は眉を顰める。
「分かりませんか?今の中部メンバーの襲撃とその連携は完璧で見事なものでした。並大抵のものならば勿論、多少頭の切れる者であっても予測するのは不可能でしょう」
「そ、それは、確かに…」
昨日、前夜祭の前の復習の場においても、咲夜との会話の中でここまで綿密な連携を見せてくる可能性は話されなかった。
個々人の能力を中心に話し合っていたのもあるが、それ以上に初の顔合わせとなる場で、完璧な連携が生み出されることは無いだろうと考えていたからだ。
しかし、今の中部メンバーの連携は、完璧とまではいかずとも見事な連携であった。
個々の能力を理解し、活かし、そして仕掛ける。まるで長年戦い続けてきた仲間同士のような連携であった。
それを、近畿メンバーはいとも容易く一蹴してしまった。それは恐るべきことであるが……
「…あ、先生、もしかして今の一連の流れって…」
そこまで考えたところで、朝陽が咲夜の言わんとしている事に気がつく。
「分かりましたか、朝陽さん。本来なら実践することさえ難しい連携を見せたにも関わらず、近畿メンバーの黒田 カナエはその全てを予測し対応策を練っていたのです」
咲夜が言葉にした事で、ようやく事の異常性に気付いた関東メンバーが驚きの表情を浮かべる。
「まさか……そんなことが可能なのですか?」
「それを可能にしているのを目の当たりにしたからこそ、私も驚いているのですよ瑠河さん」
こちらを見ながら尋ねる瑠河に対し、咲夜は一切戦場から目を離さず答えた。
「恐らくですが…彼女の先見の明、先を読んで戦術を組み立てる力は私を凌駕しています。もしかすれば大和にさえ並ぶかもしれません」
朝陽と夜宵の二人は勿論、噂程度の知識しか大和と咲夜のことを知ら無い瑠河と真衣も、これには驚きの表情を浮かべた。
「『近畿の平穏にこの智将有り』とまで呼ばれるだけの事はあります。犬猿の仲である奈良や大阪の根拠地からも一目置かれている存在だとは聞いていましたが、まさかここまで頭がキレるとは…」
咲夜は他の面々とは違い、純粋に好奇心が湧いたような表情を浮かべているようであった。
「護進さんのように培ってきた経験による戦略、その経験を勤勉さで学び続けてきた大和、そのどちらにも属さない天性の智性。素晴らしいですね。将来はまず間違いなく優秀な指揮官になるでしょう」
フィールドでは、今の連携がいとも容易く崩されたことで動揺する中部メンバーの様子が見てとれた。
「(恐らく、最初に動かなかったのもわざと。カナエさんの噂を知る彼女達が動くのを見越して敢えて復習の場として見せかけて他のメンバーを誘導。そして読み越していた連携を引き出させて上手くいっていると思わせたところを叩く。まさに智将ですね)」
そして素直な賛辞を送った。それ程までに見事な統率力であったからだ。
「(ですが戦闘能力に関しては要改善ですね。先程の抱えられての移動を見るに、あまり実戦訓練は詰めていない様子。惜しい人材です)」
賛辞を送ったその後、咲夜はその裏でひっそりと減点を加えていた。
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────総司令官観客席
「あっちゃー!!アズサちゃんやられちゃったかぁ!!やっぱ黒田ちゃんは凄いわねぇ」
総司令官が横並びに座る観客席では、中部地方総司令官、藤木咲 柚珠奈が片手で顔を覆っていた。
「ふん、当然じゃ。ウチの自慢の智将じゃからな。1世代前にも屈指の智将がおったが、それにも引けはとらんわい」
普段は仏頂面の近畿地方総司令官、武田沢 銀次も、この時ばかりは薄く笑みを浮かべていた。
「…がしかし、今の連携は見事じゃった。良くぞあの短期間のなかであれだけの連携を作ったもんじゃ。普通ならもっと当たっていただろうが、相手が悪かったな」
銀次なりに中部地方を誉めたつもりであったが、最終的に自分達のことを褒めている形になり、柚珠奈は口を尖らせていた。
「どうもありがとうございますぅ〜。見ててくださいよ?ここからちゃぁんと巻き返してくれますから」
柚珠奈の言葉に、銀次は「そりゃ楽しみじゃわい」とだけ返し、一同は再びフィールドに目を向け直した。
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「おい、今ので良かったのか?」
「バッチリ!予測も完璧だったのでね!」
片手をプラプラとさせながら尋ねる野々に、カナエはグッジョブポーズを決める。
「全く。奥の手と言っておきながら初手から我の『グリット』を使わせるとはな。大胆不敵にも程があるぞ貴様」
口調こそ上からであったが、その口元は笑みを浮かべており、カナエの作戦を認めていることを示唆していた。
「敵を騙すにはまずは味方から、ってね!!さて、私の予測ではこの後一旦撤退する筈なんですが……お、よしよしこれも当たりです」
カナエの言う通り、アズキを落とされたことで奇襲に失敗した絵摩と結華は、戯画の鳥に乗ったまま一度後退した。
「それで、次はどうする?このままあの二人に合流されれば、流石に幸町がキツイと思うが?」
「ご安心を、既に沙月殿に援護に向かってもらっています」
辺りを見渡せば、確かに既に沙月の姿はどこにも無かった。
「全くいつの間に……こういう時貴様の『グリット』は便利だな。悟られないように戦況を動かせるのだから」
「褒め言葉として受け取りますよ」
カナエの『グリット』は『念通信』。
自身の『エナジー』を飛ばすことで、対象者の脳内に直接語りかけるものである。
しかしその真骨頂はそこではなく、自身の考えを理解できるように断片的に送り込むことも可能な点にある。
つまり、敢えて口に出すことで、さも作戦会議をしているように見せかけたり、わざと口に出すことで思い通りに行っていると思い込ませている間に、実際にはカナエの『テレパシー』によって、近畿メンバーの間では次の行動が共有されていたのである。
中部メンバーの行動は、全てがカナエの掌の上で動かされていたのである。
「(全く…認めたくはないが正直此奴が味方であって本当に良かった。敵に回ることはないとは言え、同じメンバーとして戦えばこうも頼もしいとわな。智将の存在、侮れず)」
味方さえ畏怖させていることにも気付かず、カナエは続け様に次の行動を予測し、更にその予測から考えられる予測までたてていた。
「うん、私の予測通りならこのタイミングで……」
カナエがそう呟いたその時であった。
カナエ、そして野々、それ以外の面々も、周囲の肌寒さを感じるようになっていたのだ。
「ムッフー!やっぱりそう来ますよね!!」
一同が困惑するなか、カナエだけがどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。
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────アズキがフォールアウトした直後
「…よし、悩むのはやめました!」
北海道の頭脳、三雲 冴子は両手をパンッと叩き、考えを決めた。
「ようやく動くのね。それで?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる真白は、冴子にプランを尋ねる。
「近畿の黒田カナエに戦略で挑んでも勝ち目はありません。ですから私達は私達らしく、いつも通り行きましょう」
それは聞きようによっては一種の敗北宣言にも聞こえるが、北海道メンバーは冴子がこれだけで弱音を吐くような人物ではないことを理解していた。
「いま見た中部メンバーの連携は見事でした。アレが私達に向けられていたら、もう少し手を焼いていたと思います」
「そう…ですね。守りに徹していれば破れたかもしれませんが、少なからず被害は受けていたと思います」
冴子の意見に、冷那が賛同する。
「それをカナエさんは見て対処するどころか、見る前から推測して対策を立てていた。もうそこまでいっちゃうと、私じゃ太刀打ち出来ませんよ、正直ね」
「それじゃ……どう、するの?」
か細く透き通るようなハスキーな声で、雪が冴子に尋ねる。
「だから言ったでしょう?私達は私達らしくってね!」
その言葉に、冴子、そしてエースであり相棒でもある真白がニヤリと笑みを浮かべた。
※後書きです
ども、琥珀です
ついに2021年最後の日ですね。
こんな日に私の作品なんかを目にしていらして宜しいのですか?と思いつつも、感謝しかありません。
中途半端なところではありますが、年内の更新はこれにて終了になります。
ここからはお知らせですが、年始明けの更新再開は、1月5日の水曜日、1月5日の水曜日を予定しております。
仕事の状況によっては7日になる可能性もありますので、予めご了承ください。
それでは、今年も本作を最後までお読みくださりありがとうございました!
来年も、本作品を琥珀もろとも宜しくお願い致します。
皆様、良いお年を!!




