第287星:ルール説明
「そんじゃ、『大輝戦』第一部、始めるとしますかね」
九つの地域のうち、第一部となった北海道、中部、近畿の三地方がフィールドに残り、その他の全員が二階の観客ゾーンへと移動すると、平面であった場所は、岩のような造形物が無数に置かれ、本当のフィールドのようなものが模られていった。
そのフィールドの中央に、中年よりはやや若い男性が姿を現す。
その現れた男性に、フィールドに残った三地方の面々はもちろん、二階にいる全員がざわついた。
「今回は競技の内容が内容だからさ。バトル中の審判は俺、『シュヴァリエ』の京極 俊雅が務めさせていただきすよっと」
そこに立っていたのは、かつて千葉根拠地の窮地を救ってくれた戦国 巴、そして朝陽達は知らないがらも同じ実力を誇る、『グリッター』にとって最高位の勲章である『シュヴァリエ』の一人、京極 俊雅であった。
「オタク等も分かってるとは思うけど、これは殺し合いじゃない。危険だと判断した場合、ボクが仲裁に入る。その時、仲裁に入って守られた人は失格だ。フィールドから出て貰うよ」
俊雅は審判としての立ち回りを説明しながら、ついでと言わんばかりにこのバトルロワイヤルのルールについても説明していく。
その振る舞いは飄々とした性格でどこか軽薄そうだが、言葉の一つ一つがしっかりと伝わって来ており、また端的ながら的確なため、直ぐに頭に入ってくる。
「あぁあとこれも念のための確認。基本的に内容は相手が動かなくなるまでのバトルロワイヤル式。その判断はボクが下す。それからもう一つ」
俊雅は指を壁側に差しながら、グルリと一周まわす。
「フィールドの円状の隅には、幅10m程の溝がある。そこに落ちてもアウトだ。落ちると自動的に、二階に用意された観戦用ブースに飛ばされることになるからね」
そこまで説明されると、ひとりの女性が手を挙げる。
「質問、宜しいですかね」
「ういうい、今のうちに聞けることは聞いときなさい」
俊雅の応えに、質問者、兵庫根拠地所属の黒田 カナエは一礼してから質問を始める。
「フィールドから落下したら観戦用ブースに飛ばされるとの事でしたが、それはどういった原理なのでしょうか?今更落下程度の怪我で恐れるわけではないですが、その辺りが気になってしまいまして」
「んあぁ…細かい原理についてはボクも分からんよ。が、とりあえず護里さんの両隣を見てくれるかい」
言われるがままに全員がそちらを見ると、その隣には二人の人物が立っていた。
一人は朝陽達がよく知る人物、戦国 巴であった。
相変わらずクールな風貌で立ち振る舞っていたが、一瞬朝陽達と目があった瞬間だけ、その表情が和らいだ気がした。
そして、その反対に立つのは、巴とは真逆の様子を見せる女性であった。
緊張からなのかどこか挙動不審な様子を見せる女性は、よく見ればその全身を淡く発光させていた。
「あっちのオドオドした方の女性、彼女も『シュヴァリエ』だ。詳しい原理はさっきも言ったように分からねぇが、一定の空間を操って移動させる…つまりはワープをさせることが可能なんだよ」
「なるほど。つまり、フィールドの落下地点には、あちらの方の『グリット』、そのワープの入り口が設置されており、落下者はそのワープによって、観戦用ブースに飛ばされるわけですね」
「物分かりが良いねぇ。おじさんも助かっちゃうよ。まさにその通りで、あんな不安そうな顔してるけど、曲がりなりにも彼女も『シュヴァリエ』だ。そのまま落下するなんてことは万に一つもあり得ないから安心しなさい」
質問を終え理解したカナエは、再度一礼して後ろに下がった。
「ほかに質問のある人は?あぁ、次いでに説明しておくけど、基本的に制止はボクがすることになるけど、万が一間に合わない時には、もう一人の方の女の子が代わりに介入するからね。これも説明にはあったと思うけど頭に入れておいてちょうだいね」
もう一人の女性、つまりは巴が制止のために介入する可能性があるということである。
「なんというか…豪勢ですね。『大輝戦』とは言え、あの『シュヴァリエ』が三人も揃うなんて…」
朝陽が思わず呟くと、少し離れた位置から答えが返ってきた。
「それだけ、近年の『グリッター』は力をつけているということですよ」
視線を向けると、そこには先に二階へと上がっていた咲夜が立っていた。
上官である咲夜を前にし、慣れた朝陽と夜宵は反応が遅れるが、瑠河、真衣の二人はバッと姿勢を正した。
「楽にしてください。お二人は私の直属の部下ではありませんから」
普段の大和の言動に従っているからか、咲夜はいつもよりも物腰を柔らかくして瑠河と真衣に囁いた。
「一応栃木と埼玉の指揮官にご挨拶に伺ったのですが、どうやら観戦はされないそうです。いま直属ではないと申し上げましたが、実際の上官がいない以上、この場に限って皆さんの監督を務めさせて頂こうと思います。宜しいでしょうか?」
咲夜の言葉に、瑠河も真衣も反対する様子は一切なかった。
「むしろ光栄です。千葉根拠地の司令官、指揮官はとても素晴らしい方だと伺っていましたので」
「わ、わわ私も是非一度お目に掛かりたいと思ってましたぁ!!ありがとうございます!!」
必要以上に敬意を持たれ苦笑いを浮かべる咲夜であったが、一先ず了承を得られたということで受け入れる。
「それにしても…せっかく晴れ舞台なのに見に来ないだなんて…」
朝陽が小さくこぼすと、その隣で夜宵が「シッ!」と声を上げ、朝陽の口を塞ぐ。
自分が二人の上官を貶してしまう発言をしてしまった事に気が付き、朝陽はハッと我に帰る。
しかし、瑠河も真衣も怒った様子は一切見られなかった。
「ハハハ、そう思われても仕方あるまい。実際、本音を言うと私達自身も感じていることだからな」
「じ、じじ実は私達も、自分達の力だけで切り抜けてきたと思ってるところがありまして…えへ、えへへ」
二人は大して気にした様子もなく答えていたが、その本当の気持ちは朝陽と夜宵、特に夜宵には痛いほどに理解できていた。
自分も、今この場に立てているのは、大和と咲夜という優秀な司令官も指揮官が就任してくれたからこそだと思っている。
それは裏を返せば、二人が就任するよりも前の状況は、今の瑠河や真衣と同じような状況だったのだ。
その上で二人は選ばれ、この場に立っている。
夜宵は改めて、瑠河と真衣の二人に畏敬の念を抱かざる得なかった。
「見にくる事の良し悪しは別にしても、部下の成長と選ばれたことに誇りを感じていれば、自ずと足を運ぶというもの。それさえしない時点で、指揮官としての器の底が知れますね」
咲夜は笑顔であったが、どこか怒気の混じったような声色でつぶやいた。
「矢武雨 瑠河 二等星、道祖土 真衣 二等星、貴方達の本来の上司はこの場には居ません。ですから役不足かもしれませんが、私がしかと、貴方達の活躍を目に焼きつけます。出番となった時、心にわだかまりを残さず、全力を出してきてください」
咲夜の言葉に聞き慣れた朝陽と夜宵の二人は、笑顔で頷くだけであったが、指揮官としてのその佇まいと言動に圧倒された瑠河と真衣の二人は、驚きと感動に心を揺さぶられ、力強く「はいっ!!」と返事を返していた。
その良い返事に、咲夜は笑顔で頷くと、フィールドに目を向ける。
「さぁ、いよいよ第一部が開催されるようですよ。個々人は勿論、普段は共闘しない地域での連携にも目を光らせ、しむかりと頭に焼き付けるのです。良いですね」
「「「「はいっ!!!!」」」」
今度は朝陽と夜宵の二人も加わり、力強く返事を返した。
「じゃあ始めようか。各々各位置について。開始は3分後だ」
俊雅が手元のスイッチを押すと、巨大な三角形状のモニターが天井から現れ、そこで3分のカウントダウンが始まる。
それに合わせて各地方のメンバー達は、それぞれの初期位置へと移動。
そして大きく映し出されたカウントダウンの終わりを、今か今かと待ち続けた。
観客は朝陽達『グリッター』だけではない。
護里や各地方の総司令官達、そして一般開放されたことで単なる好奇心等から訪れている一般人も大勢いる。
普段は差別的な扱いをする彼らも、こう言う娯楽には興味が湧くのだろう。
そんな周囲の目を気にしてる最中、朝陽はあることに気が付いた。
「…あれ?」
「…?どうかしましたか、朝陽さん」
「はい、あの……」
────ビィィィィィィィ!!
朝陽が咲夜に尋ねる前に、3分が経過したことで大音量のブザーの音が鳴り響いた。
『大輝戦』、バトルロワイヤルの開始である。
※後書きです
ども、琥珀です
後書きとツイートでの宣言通り、31日まで連続投稿を遂行します
サンタさんが来ないならこちらから出向いてやれば良い←
…何か頭おかしくなってるんですかね私…
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も朝更新されますので宜しくお願いします!




