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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
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第284星:真夜中の呼び出し

国舘 大和(24)

 千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。


射手島 一羽(27)

東京本部に所属する一等星『グリッター』。実力とカリスマ、豊富な経験を買われ、かつての飛鳥、現在は天城、スフィアの指導教官となる。豪快でガサツな言動を取るが、実際には天城やスフィアの細かな心の機微に気付きケアする教官の鏡。

「こんな時間に誰からメッセージかと思えば……貴方でしたか、射手島さん」



 夜宵が朝陽の部屋を訪ねるより少し前、大和は自室のパソコンに届いたメールに目を通し、呼び出された場所へと訪れていた。


 そこに居たのは、以前最高本部に訪れた際にも会った、射手島 一羽(かずは)であった。



「おう。こんな時間に呼び出しちまって悪かったな」



 あいも変わらず女性とは思えない豪快な口調に、染め上げられた長い金髪、白を基調とした服を黒くコーティングした軍服に片目には黒い眼帯。


 その圧倒的な存在感には、大和も気圧されてしまうほどであった。



「それで、話というのは?」

「あぁ、時間も時間だ。手短に済ますか」



 この時、大和は僅かながら違和感を感じていた。



「(何か変だな。こういう時、いつもの一羽さんなら『つれねぇなぁ!!酒の一杯くらい付き合えよ!!』とでも言いそうなのに…)」



 その違和感の正体を突き止める間も無く、一羽は早速話を始めた。



「まず結論から言うぞ。お前に送られた『大輝戦』のリスト、東京本部選抜が一人不足してただろう」

「えぇ、確かに。ただそれはミーティングの時に、選考中で明日、まぁつまりは当日発表すると聞かされてますが?」



 そこまでは予想通りだったのか、一羽は数度頷いた。そして、大和も想像していなかった答えを口にした。



「その最後の一人な、天城だ」

「……天城?唯我 天城ですか?」



 聞き返す大和の言葉に、一羽は再び頷いた。



「それは……おめでとうございますという言葉を送れば良いのですか?」



 もちろん一羽がそんな言葉を求めているわけではないことは分かっていた。


 しかし、全く状況が分からないなかで大和が出せる言葉はこれしかなかった。


 案の定、一羽は暗い面持ちで顔を横に振った。



「アイツな、いま私の部下じゃねぇんだ」



 衝撃的な発言は連続して続けられた。流石の大和も動揺を隠せない。



「それは……何か不祥事でも?」

「んなこたぁ……いや、正直なところ分からねぇ」



 一羽は否定しようとしたが、『アウトロー』を捕獲する任務で自身が失態を犯したことを思い返し、言葉に詰まる。



「とにかく、アイツは今私の部下じゃ無くなった。それだけは事実だ」

「貴方の部下じゃ無くなった……なら、天城はいま誰の部下に?」



 一羽は腕を組み、露骨に不満そうな表情を浮かべて答えた。



「最高本部の一等星、田所 (あざみ)っていう女だ。()()()()()

「……名目上は?」



 含みのある言い方に、大和はしっかりと反応する。



「こいつはな、言っちまえば傀儡なんだよ。お偉いさんが仕立て上げた人形のような奴なんだ。実力なんざ碌なもんじゃねぇ」

「……そんな人に天城が?」



 大和はその薊という人物を、総司令官でいう捻のような人物であると想定した。


 実際、最高議会が仕立て上げた人物であるという共有点がある時点で、同じと言っても差し支えないだろう。



「問題はその薊が誰の傀儡かってことなんだが…お前、月影 天星って知ってるよな」



 その人物の名前に、大和の眉が僅かに反応する。


 以前出会った時に、咲夜を探している事に気付いてから、『軍』の最高議会の中で今、大和が最も警戒している人物だからだ。



「…もちろんです」

「薊はな、そいつの傀儡なんだよ」



 大和の眉がますます顰められていく。



「つまり、月影 天星が、天城を?」

「目的はわからねぇ。私もいきなり担当を外されたからな。だが……」



 一羽はそこで一旦言葉を止め、何かを思い出すかのように目を瞑り、そして再び口を開いた。



「薊に預けられてから、天城は別人みたいになっちまった。いや、性格だけでいうなら、力だけを求めていた頃に戻っちまった、っていう方が正しいか」



 大和は天城の訓練過程については特に情報を入手していない。


 それは、一羽が教官である限り心配する必要はなかったからだ。


 更に一羽の口ぶりから察するに、恐らく天城は良い方向に成長していたように思える。



「前と決定的に違うのは、力を求めながら、これまでとは比べものにならない実力を持ってるってことだ」

「……聞くだけなら良い事にも思えますが…そうじゃないんでしょうね」



 大和の返答に、一羽は深く頷いた。



「アイツがいずれ実力を身につけることは、ポテンシャルからも分かってた。だがそれだけの力を身に付けるにはまだ心が伴って無かった。だから私は時間をかけてその心を鍛え培えていこうと思ってた」

「心の伴わない力はただの暴力にしかなり得ないですからね」



 一羽の言わんとしていることを理解した大和は先んじて答える。



「ところが、だ。(アタシ)が突然担当を外されてから数ヶ月、アイツはとんでもない実力を身につけていた。私の知る天城とは全く異なる雰囲気を纏いながらな」

「…気になる情報が盛りだくさんですが……」



 大和は顎に手を当て考え込む。



「ボクが数ヶ月前に一羽さん達に会った時、彼は『グリッター』としても実力をとっても、正直半人前でした。それこそ『大輝戦』なんて遠い夢のような」

「そうだな。あの時はほんとに半人前だった」

「それで今は一流だと?」



 大和の問い返しに、一羽は僅かに考え込んだあと、首を振った。



()()()()、一流じゃねぇよ。力が伴っても、心が歪んじまっちゃな」

「……裏を返せば、実力だけは『大輝戦』でも通用すると?」



 更に問い詰める大和の言葉に、一羽は直ぐに答えなかったが、やがてゆっくりとため息とともに答えた。



「そうだな。ハッキリ言ってかなり強え。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()



 一羽の言葉に、大和は流石に耳を疑った。



「天城が…一等星に勝った?」

「…あぁ、嘘じゃねぇ。何故ならその立ち会いをさせられたのは私だったからな」



 偽の情報を掴まされた可能性も模索したが、続けられた一羽の言葉に、その可能性も消滅した。


 そこまでの状況となれば、もはや信じる他無いだろう。



「でも、一体どうやって…」

「…いや、さっきも言ったがポテンシャルは秘めてた。だからそれを解放してやる訓練方法さえ積めば、強くなるだけなら可能だったんだよ。あそこまで化けるとは思わなかったがな。大体、お前んとこにも似たような奴がいるだろうが」



 一羽は指を差しながら問い詰めると、大和は直ぐにその人物に行き当たる。



「…朝陽君ですか。でも彼女は今貴方が言ったような天城とは違います。彼女も確かにポテンシャルは秘めてました。力を解放できなかったのも確かに心が不安定だったからです」



 大和は「でも…」と続ける。



「彼女の心の芯はいつだってブレなかった。仲間のため、人々のため、その為に力を行使するという心の芯は固まっていた。だからこそ今までの活躍があるし、今の成長があるんです」

「…ま、そうだろうよ。お前が見る奴は大概そういうやつだからな。咲夜も、望生も、(たける)もな。確かにそいつとはまた事情が違うわな」



 相当に天城の件がショックだったのか、一羽には、外見ほど以前にまで見られた勢いや圧は感じられなかった。



「(こんなにショボくれてる一羽さんを見るのは初めてだな…)」



 そこでふと、大和は一つ思い出す。



「一羽さん、スフィアはどうなったんですか?」

「…スフィアか。アイツはまだ私の部下だよ。一度実戦に連れてって以来、何度も連れ出してるから、アイツもアイツで成長してる」



 もしかしたら、の可能性も考えていたが、一先ずスフィアのことに関しては安堵する。



「ただ、アイツも天城が居なくなって、そして変わっちまったことがショックだったみたいでな。最近は……ちょっと塞ぎ込みがちになっちまったんだよ」



 しかしそれも束の間。一羽から続けて出された言葉によって大和も頭を抱える。



「情けねぇ話だぜ全くよ。部下を奪われ、もう一人の部下のことも救ってやれねぇ。私はなんて無力なんだろうな」



 スフィアだけではない。一羽も相当に参っているようであった。


 しかし、大和はショックを受けながらも、同情だけでこの場を収めるような事はしなかった。



「泣き言を言うなんて貴方らしく無い」

「…あぁ?」



 大和の言葉に、一羽は力無く、しかしゆっくりと顔を上げた。



「かつての貴方は死を恐れず、暴れまわっていたのでしょう?まさに『戦鬼』という二つ名にふさわしいほどに」

「いつの話だよ、そりゃ」

「確かに今は良い意味で鳴りを潜めているのかもしれません。けれど、部下が落ち込んでいるから自分も落ち込む。それは鳴りを潜めたんじゃ無い。腑抜けって言うんだ」



 腑抜け。その言葉に一羽の目に僅かに火が灯る。



「天城のことは確かにショックかもしれない。けれど、もっと長い間一緒にいたスフィアはもっとショックを受けているはず。それを貴方はただ眺めているだけですか。それで、貴方はまだ上官を名乗れるんですか」

「…何が言いたい」



 大和は僅かに放たれる一羽の圧に押される事なく、寧ろ押し返す勢いで答えた。



「天城を失い消失感に苛まれながらも、スフィアは貴方についてきてる。なら、それを支え、彼女自身に向き合わせるくらいの事はしてやれよ。アンタは彼女の教官なんだろうが!!」

「……」



 励ましでは無く叱責。しかも目上の人物に対して。


 通常なら罰責モノである。しかし一羽は怒るどころか笑みを浮かべていた。



「フフッ……ハハハハ!!相変わらずクソ生意気なガキだなテメェは!!」



 その姿は、かつての一羽そのものであった。



「だが、ああお前の言う通りだ。部下を盗られたのは私が情けないから。そんな過ちを二度も繰り返すわけにはいかねぇよな」

「えぇそうですよ。盗られたのなら取り返せば良い。天城の教官にふさわしのは自分だと認めさせてやれば良いんです」



 いつもの一羽に戻ったことを感じ取った大和は、こちらも笑みを浮かべる。



「まさかお前に教えられるとはな。何か腹が立つなおい」

「ふふ、弟子が師匠から学ぶように、師匠もまた弟子から学ぶもんですよ」



 大和の言葉に、一羽は「ハッ!」と鼻で笑う。



「すっかり目が覚めたよ。とりあえずいま私が知ってる天城の情報は話した。また何かあれば伝えてやるよ。私はとりあえず、明日からスフィアのことをしっかりと見てやるとするよ」



 そう言って一羽はその場を去ろうとし、そして一度立ち止まる。



「けどもし、アイツと出逢ったら一言声をかけてやってくれ。スフィアは天城と同じくらいお前にも気を許してるからよ。頼んだ」

「ええ、承りました」



 大和の返事を聞くと、一羽は満足そうに頷き、今度こそその場から去っていった。


 それを見送ったあと、大和は小さく息をこぼし、そして一言こぼした。



「盗み聞きは良く無いぞ、()()

※本日の後書きはお休みとさせていただきます







本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします。

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