第283星:前夜祭が終わり…
日は沈み、夜が訪ずれた
翌日の『大輝戦』に備え、前夜祭は終了
各自が事実へ戻る中、朝陽達も自室へと戻っていく
そこで朝陽達を出迎えたのは────
「お帰りなさいませ。前夜祭はいかがでございましたか?」
時刻は夜の九時ほど。
翌日に『大輝戦』を控えていることもあり、パーティーは二時間ほどで終わりを迎えていた。
そんなパーティー帰りの朝陽達を出迎えたのは、やはり望生であった。
「ドレスのままではお着苦しいでしょう。もとのお洋服と寝巻きをご用意しておりますので、お部屋の方へ」
既に準備は万端。どこまでも至れりつかさりの行動に、感謝を超えて申し訳なさが立ってきていた。
とはいえ、ここでは朝陽達は望生達のエスコートを受けるしかなかった。
「皆様ドレスでしたので、ご緊張されましたか?」
「最初のうちは。でも、たくさんの人と話していくうちにそれもほぐれていって、途中からは全然しなくなっちゃいました!」
朝陽の後ろでドレスを脱がしている望生が、珍しく小さく微笑んだ。
「うふふ、それは僥倖でございます。それこそ、主催者の護里さんの狙いなのですから」
「え…?」
ドレスの上着を脱がされながら、朝陽は望生の言葉に驚く。
「『大輝戦』は『グリッター』にとって大舞台。大なり小なり、緊張されてしまう方がいらっしゃいます。そのまま本番に臨まれますと、思うように自分の力を発揮できず、後悔の残る結果となってしまうのです」
「な、なるほど……前夜祭にはそんな意味が…」
必要なドレス部分は全て取り除いた望生は、ドレスを手に持ち一歩下がる。
「いかがでしょうか朝陽さま。いま、明日の本番に向けて緊張されていますか?」
鏡越しに映る望生の姿から一瞬目を逸らし、朝陽は少し考えた後答えた。
「正直緊張は今も少ししてます。でも……」
再び鏡越しに望生の姿を捉え、朝陽は続けてしっかりと答える。
「それ以上にちょっとワクワクしている自分がいます。あんなに人が良くて、それでいて強い人達が集まる舞台で、今の私がどれだけ戦えるのか。それが気になって!」
「フフ、素晴らしい回答でございます。それでは、朝陽さまは何も心配はございませんね」
ドレスを腕に乗せ、望生は一礼し、出口の方へ向かった。
「それでは、また明日の朝お迎えにあがります。何か必要なものがありましたらお申し付け下さい。それでは、良い夜を」
最後にもう一度一礼した後、望生は今度こそ部屋を後にした。
●●●
時刻は日付を跨ぐ頃にまでなっていた。
着替えをした後、疲れを残さないようにと直ぐに布団に入ったものの、朝陽は寝付けずにいた。
緊張だけではない。興奮にもにた高揚感。
今日出会い、笑顔で語り合った人達と、明日は敵同士になっているかもしれない。
にも関わらず、朝陽はそれを辛いと感じるよりも、ワクワクした感覚で受け止めていた。
────今の自分がどこまで通用するのか試したい
それは朝陽にとって初めての感覚であった。
これまで朝陽は、自分の力を仲間のために奮うことを当たり前としてきた。
力の覚醒も、その想いに応えて目覚めてくれた。
しかし今、数多の強敵と戦い、歴戦の勇姿に鍛えられた朝陽は、同じく自分以上の功績を上げてきたエース達とぶつかり合えることに、好奇心が湧いていた。
理由としては不純なのだろう。それでも、そう思わざるを得なかった。
「ダメダメ…もう寝ないと」
何度目になるかも分からない、自分を戒める言葉と共に、朝陽は何とか眠ろうと瞼を瞑る。
しかし、胸の奥から湧き出るアドレナリンが、朝陽の睡眠を妨害していた。
もういっそ眠るのを止めるかと諦めたかけとき、扉の外からノックする音が聞こえてきた。
時刻は深夜。そんな時間に訪ねてくる可能性がある人物といえば……
「朝陽、まだ起きてる?」
当然、姉である夜宵であった。
朝陽は布団から起き上がると、カーディガンを羽織り、そっと扉を開けた。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「ふふ、その様子だと、やっぱり寝れないみたいね?」
夜宵の言葉に、自分の動向が全て筒抜けであることを悟り、朝陽は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「えへへ、実はそうなんだ。だから寝るのを諦めようと思ってたところなんだけど…」
「実は私もなのよ。前回とは違う緊張感と高揚感があって…」
その言葉は朝陽にとっては予想外だった。
常に強く前を向き、味方を鼓舞してきた夜宵が、『大輝戦』という舞台とはいえ、緊張から眠れないとは考えられなかったからだ。
しかし、考えてみれば夜宵は四年前に『大輝戦』で苦渋を味わっている。
朝陽とは違う意味で緊張するのもやむを得ないだろうと考え直した。
そこで夜宵は頬を掻き、どこか照れた様子で朝陽に尋ねた。
「…せっかく部屋を用意してくれたけど…どう?今夜は久々に一緒に寝ない?」
●●●
布団は一人ようには大きすぎるほどのサイズであったため、二人が横並びに寝ても苦にならない広さは十分にあった。
「なんだか凄い久しぶりだね、お姉ちゃんと一緒に寝るの」
「それはそうよ。訓練校時代まで遡ることになるわよ」
朝陽達は幼い頃から訓練校で育てられ、鍛えられてきた。
但し歳が四つ離れていたことと、夜宵が比較的早くに『グリッター』として覚醒したこともあり、一緒だった決して時間は長くはなかった。
二人でこうして一緒に寝るのは、本当に久々になるだろう。
「……でも、一緒に寝た時のことはよく覚えてるなぁ。訓練校の訓練は厳しかったけど、蓮水先生はその中でもゆっくり優しく教えてくれて」
「そうそう、そんな話ばかりしてたわよね。なんだかちょっと悲しいけど、夢のある話なんて全く無くて…」
布団の中で朝陽達はクスクスと笑う。
「でも、そんな話でも、お姉ちゃんと一緒に話してる時は凄い楽しかったし、とても心地よかった」
「私も……そんな感覚があったから、訓練校を出てからもその想いに支えられて、そして今までの自分があったと思うわ」
両親のいない二人にとって、蓮水 寧花の存在や、訓練校という場所は家庭のようなものだった。
だからこそ、一緒に寝た時間は、共に過ごした時間は多く無かったが、二人にとっては十分すぎるほどの濃密な時であった。
「あの頃に戻りたいと思う時、ある?」
「う〜ん…ある、かも?でもそれ以上に今も充実してるし、それに、皆のために動ける今の方が、きっと自分らしさを出せてると思う。だから、思うことはあるけど、今が一番幸せかもしれないかな」
夜宵の問いに、朝陽は僅かに考えたあと、直ぐに答えた。
「そう。うん、私も同じ。根拠地に配属されて、辛い時期もあったけれど、司令官が来てからの日々は大変ながら充実してる日々が続いてる。戦う日々は変わらないけど、それでも、生きてるって感じられる」
そして夜宵も、朝陽の言葉に同意するように頷いた。
そのあとしばらくの間、二人の間には沈黙が続き、そしてそれからゆっくりと朝陽が口を開いた。
「ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃんが今日一緒に寝てくれなかったら、私きっと、明日全力を出せなかったと思う」
「ありがとうはこっちのセリフよ朝陽。実を言うと私も同じような理由で寝れなかったから」
朝陽の言葉に、夜宵もすぐに応える。
「でも貴方と昔話をして、昔のように一緒に寝て、元の自分に戻ったような感覚がするわ。だから…ありがとう、朝陽」
二人は布団に横になりながら見つめ合い、そして互いに笑みを浮かべた。
「明日、絶対に勝とうね、お姉ちゃん」
「当たり前よ。千葉根拠地の……いえ、関東の強さを見せ付けてやりましょう」
「うん!私達の全部をぶつけてあげようよ!!」
二人は力強い表情で意気込みを語りあった。
それで無駄な力を抜くことが出来たのか、間も無くして、静かな寝息だけが部屋の中から聞こえてきた…
※後書きです
ども、琥珀です
近代化はどんどん進み、書籍で例えるのなら電子書籍が普通になってきましたね
電子書籍はどこでも買えて、どこでも読める、非常に便利な機能だと思います。
ただ、やはり本というのは紙で読む事に味を感じるタイプで(食べるわけではないですよ?)、やはり紙媒体で買って読むと、不思議な満足感があるんですよね…
元来、本というものがそうであったから、そう感じるのかもしれませんね
まぁ私のこの小説は電子の類なんですけどね笑
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日の朝7時頃を目処に行いますので宜しくお願いします。




