第281星:前夜祭②
ついに開幕した『大輝戦』
その前夜祭が開かれ、選抜メンバーである朝陽達も当然招かれる
そこで朝陽達は様々な地域の選抜メンバーと仲を深めていき…
「失礼、私は鹿児島根拠地から選抜していただいた、仙波 盾胡という。挨拶が後になってしまって申し訳ない」
近づいて来た女性は礼儀正しく、自分の非礼を詫びた後、握手を求め手を差し出して来た。
耳につけられたイヤホンが翻訳しているからか、口の動きに対してやや声が遅れて入ってくる違和感はあったものの、確かに会話に困ることは無かった。
「あ、えっと、仰る通り、千葉根拠地の斑鳩 朝陽です!宜しくお願いします!」
朝陽もこの握手に快く応じる。
そして手を握った瞬間、そこから感じ取った強い『エナジー』に思わず手からバッと顔を上げてしまう。
「(この人…とっても強い。千葉根拠地の人達と比べても…)」
しかしその反応は向こうも同じであったのか、しばし朝陽の事を凝視していた。
「……成る程、噂には聞いていたが、どうやら嘘の内容では無かったようだ」
手を離すと、盾胡は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「う、噂、ですか?」
気になる発言をしていたために、朝陽は思わず尋ねる。
「そう。今回、関東の千葉根拠地に期待の新星が現れたと聞いていてね。まぁその程度であればよく聞く話ではあるのだが、何と『大輝戦』にまで選ばれたと言うじゃないか。新星がいきなりこの舞台へ上がってくるということは並大抵の者じゃ無いと思っていたが、いま納得したよ」
盾胡の説明に、朝陽は内身驚きを隠せずにいた。
これまで戦いに生き残ることに精一杯であり、そして自分にできる事をただこなして来ただけのつもりであったために、まさか外部でそんな噂が立っているとは知りもしなかったからである。
「しかし……誠に申し訳ないんだが、私は君の名前と顔は初めて見る。期待の新星と言えど、それまでにどこかで一度くらいは顔を合わせてもおかしくないと思うんだが……」
「あ、えっとそれは多分、私が『グリッター』として『グリット』に覚醒したのが、ここ半年くらいだから、だと思います」
朝陽の答えに、今度は盾胡が大きく目を見開き驚いた様子を見せた。
「……驚いた。期待の新星どころじゃない。君は新人でもあったのか」
「えっと…まぁ…そうなります、かね?」
千葉根拠地がなまじ比較的ベテラン勢が多いためか、その辺の実感はあまり無い朝陽は半端な返事を返してしまう。
「成る程…いや、恐ろしいのはその半年でこの『大輝戦』に選ばれるほどの実力と成果をあげたことか。本当に素晴らしい素質を持っているようだ」
「あ、それは違います!」
これまでの事は全て聞き入れていた朝陽だったが、いま盾胡が口にした事は即座に否定した。
「私が『大輝戦』に選ばれたのは、根拠地の皆さんがいたからです。力を合わせて、手を取り合って、協力しあって、生き抜いて来たからこそ、得られた結果なんです。今回は私が新人だから選ばれたと感じてますけど、私以外の人が選ばれてもおかしくは無かったと思います。だから、私だけの力で選ばれたわけじゃありません」
毅然として言い放つその姿勢に、盾胡は少し驚きつつも感心したように頷いた。
「実力だけじゃなく、他者を慮る心も持っているのか。益々君という人物に畏敬の念を抱かざるを得ないな」
実直に誉められた事で朝陽は頬を赤らめるが、盾胡が裏表のない人物である事はこの一瞬でわかったため、素直にその言葉を受け入れる。
「千葉根拠地の斑鳩 朝陽。この名前、しっかりと覚えさせて貰うよ。本番で相見えることがあれば、宜しく頼む」
盾胡は最後にそう告げると、朝陽の側から去り、また別の人との会話を始めた。
再び一人になった朝陽は、先ほど握手を交わした手をジッと見つめていた。
「(女性なのに、芯があって力強かった。それに『エナジー』も乱れる事なくしっかりと留められてた。あんな人が、選抜メンバーにはたくさんいるんだ…)」
改めて、朝陽は周囲を見渡す。
向けられていた視線に対して一瞬だけ目を向けると、やはり会場の中には明らかに来客とは違う雰囲気を纏った人物達があちこちに散在していた。
「これが、『大輝戦』…各地方から選ばれた選抜メンバーなんだ…」
朝陽から緊張の色は既に抜け落ちていた。
それよりももっとメンバー達と会話して知り合いたい。そういった好奇心が強くなっていた。
気付けば、朝陽は足を前に運び、視線を向けていた人物の方へと歩みを進めていた……
●●●
一方で夜宵は、選抜に選ばれたメンバーリストを見た時に、どうしても挨拶をしたかった人物を探していた。
声をかけられればある程度適当に対応しつつ、その人物を探し続けた。
間も無くして、その人物が夜宵の目に入って来た。
「矢武雨さん」
夜宵が探していたのは、栃木根拠地から選抜された矢武雨 瑠河であった。
「おお!貴方はいつぞや増援に来て下さった千葉根拠地の」
夜宵と瑠河の出会いは、『悪厄災』、『アイドス・キュエネ』が出現した時のこと。
『アイドス・キュエネ』が作り出した『幻影メナス』により、栃木根拠地が囮に使われた時に夜宵が増援に向かったのである。
「久方振りだ。こんな形でまた会えるなんて嬉しいよ」
「私もです。でも私は、あの時の共闘の時から、今年の選抜メンバーには貴方は必ず選ばれると思っていましたよ」
「ハハハハ!!そう持ち上げてくれるな斑鳩夜宵」
瑠河は謙遜していたが、夜宵の言葉は心の底からの本音であった。
相手はそれこそ作り出された幻影であったが、『メナス』を模倣した動きに対して、瑠河の放つ矢は一度も外れなかった。
彼女が口にする『発放必中』という言葉は、意思表明ではなく事実から生み出された言葉なのである。
「私もあの共闘で千葉根拠地の強さというものを見せてもらったよ。個人ではなく和で発揮する強さ。美しく見事だった。それでも、その中で君の強さと統率力は際立っていた。選ばれて嬉しいよ」
瑠河は片手を差し出し、夜宵もそれに応じる形で手を出し握手を交わした。
「そういえば、関東の選抜リストに同じ苗字の者がいたが、まさか…」
「…!はい、私の妹です」
自分が褒められた時よりも嬉しそうな顔をして、夜宵は答えた。
「…驚いたな、まさか姉妹揃って選抜メンバーに選ばれるとは。しかも聞くところによると、もしや君の妹は、最近覚醒したばかりの者では?」
夜宵はこの問いにも頷いた。
「益々驚きだな。まさか半年で選抜メンバー入りするとは。これは歴代最短記録なのではないか?」
そこで瑠河は手に持っていたグラスの飲み物を一口飲み、一息入れる。
「しかし、『大輝戦』勢いだけで戦い抜ける場所ではないぞ?今年はバトルロワイヤル、そうなれば尚更だ」
味方ではあるが、だからこそ頼りになる仲間を求める。
そんな瑠河の当然の想いに、夜宵は笑みを崩すことなく答えた。
「心配ありません。彼女は私より強いです」
自信気に答える夜宵の言葉に、瑠河に嬉しそうにしながらも、尚も懐疑的に応えた。
「それは身内贔屓ではなく?」
「共闘した時の私の言葉だと受け取っていただければ」
握手をする手に力が入り、瑠河は更に笑みを浮かべた。
「それならばなんの問題もないな。安心して背中を預けられるよ」
夜宵の戦いぶりを知っている瑠河はその言葉を疑うことなく信じた。
「さて、選抜は各地方四名ずつ。私と夜宵君、そして朝陽君となると、関東選抜はあと一人になるんだが、夜宵君、面識は?」
「残念ながらありませんね。選抜に選ばれるくらいなので名前くらいは、と思っていましたが、名前にも見覚えはないです」
「ふむ、となると朝陽君にも期待は出来ないか。私達でさえ面識のない人物だ。覚醒して間もない彼女が知っている可能性は低いだろう」
そうですね、と夜宵も頷く。
「出来れば顔合わせはしておきたいものだが…果たしてこの場に来ているだろうか…」
二人は最後の一人を探すべく、ゆっくりとパーティーの奥へと歩みを進めていく。
※後書きです
ども、琥珀です
体調崩しました
冬になったからでしょうかね…
とりあえず風邪薬飲んで寝ようと思います…
本日もお読みいただきありがとうございます
次回は金曜日の朝7時を予定しておりますので宜しくお願い致します




