第280星:前夜祭
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?
望生(16)
大和達の前に現れたメイド服姿の美少女。無表情ながら礼儀正しく、『大輝戦』のため最高本部へ訪れた大和達一行を迎えエスコートする。大和や咲夜、飛鳥には他者には見せない友人以上の表情を見せる。
『大輝戦』には前夜祭と言うものがある。
最高本部に集まってきた各地方の精鋭達を集めて開かれるパーティーのようなものだ。
同じ地方で仲を深めるのも良し。別の地方のメンバーと話し、探りを入れるのも良し。
あくまで交友を深めようという意図を目的としたものである。
「う…うぅ…わ、私こういうのはあまり着慣れないんですけど…これじゃないとホントにダメなの望生ちゃん」
「当然でございます朝陽様。前夜祭と言えど正式なパーティー。ドレスコードは必須に御座います」
その前夜祭に参加すべく、朝陽、そして夜宵の二人は望生達監修の元、本人達に見合うドレスのコーディネートをされていた。
望生が選んだ朝陽のドレスはAライン型のミモレ丈ドレス。
その色は朝陽の『天照す日輪』をイメージした金糸雀のドレスで、少し目立ちやすい色だちであったが、とてもよく似合っていた。
「う〜ヒラヒラしてる…なんだか恥ずかしいなぁ」
「ですがとてもお似合いで御座います。朝陽様に大変お似合いで御座いますよ」
鏡に映る自分の姿に頬を赤らめる朝陽に対し、望生は小さく笑みを浮かべて褒める。
「朝陽、着替え終わった?」
丁度着替え終えた瞬間、入り口のドアが開かれる。中に入ってきたのは、同じくドレスコードされた夜宵だ。
ショルダーが斜め掛けのマーメイドタイプのドレスに、片足には美脚を魅せるスリットの入った、ヴァイオレット柄のドレスを身に纏っていた。
元々スタイルの良い夜宵にはぴったりのコーデニングであった。
「あら、綺麗じゃない朝陽。よく似合ってるわよ」
「うぅ…そんな綺麗な格好してるお姉ちゃんに言われても自信つかないよぉ」
朝陽もスタイルは十分良いが、全体的なバランスで見ると夜宵はやはり良く目立つ。
普段はあまり気にしない凹凸の部分にも目がいってしまい、ますます自分のドレス姿に自信を失ってしまう。
「アッハハ。そうねぇ私も四年前いきなりドレスを着せられた時はドギマギしたわよ。でも、いざパーティーに行けばそんなこと忘れて楽しめるわよ」
「まぁ、夜宵様は以前にも『大輝戦』にご参加されていたんですね。それはとても素晴らしいです」
夜宵の過去を知らなかった望生が少し驚き感心した様子で思わず口をこぼす。
「アハハ…まぁ四年前は散々な結果だったけどね…って、もうこんな時間。ほら朝陽、行くわよ」
「あ、あ!待ってお姉ちゃん!まだ私、自信が!!」
戸惑った様子の朝陽を引っ張るようにして部屋から連れ出す夜宵達を、望生は「いってらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀をして送り出した。
それから間も無くして、再び入り口のドアが開かれる。入ってきたのは咲夜だった。
「二人はパーティーに行かれたようですね」
二人の姿がない事を確認すると、咲夜は部屋に用意されていた椅子に腰掛けた。
「はい。咲夜様は参加されなくて宜しかったのですか?」
望生は簡単に衣服の整理を済ませると、咲夜の隣に立った。
「良いのです。私はあまり人前に顔を出すべきではありませんから」
咲夜の言葉に、望生は少し悲しそうな顔を見せるが、その時、咲夜が指を刺していることに気がつく。
刺された指の先には、対面に置かれた誰も座っていない椅子がある。
もう一度咲夜の方を見ると、咲夜は小さく笑って頷いた。
「ここに案内してもらった時に約束したでしょう?少しお話ししましょうって」
「…それであれば、私は立ったままでも…」
「望生、家族の前ではそんな畏まったことはしないで?これはただの家族同士の会話なんですから」
家族。
そう言われたことに望生は嬉しさを隠すことが出来ず僅かに頬を赤らめ、やがてゆっくりと咲夜の対面の席に着いた。
「話したいことはたくさんあります。パーティーの時間はたっぷりありますし、お互い、たくさんお話ししましょう」
「…はい、咲夜様」
近くの大ホールが賑わい始める中、用意された一室では、静かに二人の会話が続いていった。
●●●
「うわぁ……人がたくさん!!」
集合場所となっていた大ホールには、既に大勢の人が集まり賑わっていた。
予想以上の人だかりに朝陽が驚いていると、夜宵はその横に立ち、一帯を見渡す。
「選抜メンバーは勿論のこと、『大輝戦』に関わるスタッフの他、こういった催しのためにお金を出してくれるスポンサーとかもお呼びしてるみたいだからね。最高本部の人達も参加してるだろうし、大人数にもなるわ」
夜宵の説明を聞いて、朝陽は改めて「ほぇ〜」と辺りを見渡した。
「食事は立食、飲み物も定期的に回ってくるから好きなのを飲むと良いわ。あ、でもお酒はダメよ。昔と違って成人してる年齢とはいえ、明日に残ってたら最悪よ」
「わ、分かってるし飲まないよ!!お酒弱いし……」
「アッハハ、そうだったわね。それじゃあ私は挨拶に回ってくるから、貴方も好きにしなさい」
夜宵はドリンクを持ったウェイトレスからドリンクを一つ受け取ると、ゆっくりと歩き出した。
「えぇ!?お姉ちゃん一緒にいてくれるんじゃないの!?」
まさかの別行動に驚いていると、夜宵はニコッと笑みを浮かべて答えた。
「それじゃあ折角の機会が勿体無いじゃない。滅多に会えない人達ばかりなんだから、自分の思うままの人達に話してきなさい。勿論、食事だけでも良いけどね」
そう言うと夜宵は、長いドレスのスリットから足を出しながら、パーティーの奥へと向かっていった。
「あうぅ…どうしよう…人と話すの苦手じゃないんだけど、こう言う畏まった場所とかだと緊張しちゃうんだよなぁ…」
朝陽が次にどうするか悩んでいると、先程とは別のウェイトレスがドリンクを持って近寄ってくる。
「宜しければドリンクはいかがですか?」
「ひぃえ!?あ、ああああの、いただきます!!」
朝陽らしからぬきょどり具合を自覚し、一度深呼吸してドリンクを受け取る。
その時、ウェイトレスが何かに気が付き、胸ポケットから何かを取り出す。
「お持ちでないようですので、宜しければこちらを」
そう言われて差し出されたのは、小型のイヤホンのような機器であった。
「えっと…これは?」
「簡単に言えば翻訳機のようなもので御座います。片耳分しかございませんが、それ一つで両耳の鼓膜を揺らす事が可能です。翻訳というのは各地方の方言などですね。貴方様は関東出身のお方のようでしたので、標準で設定させていただきました。これでどのお方とお話をされても、全て標準語として聞き取る事が可能で御座います」
朝陽は感心しながらもそれを耳に取り付けると、『ピー』という機械音のあとに、確かに両耳で話を拾っては標準語に聞こえるようになっていた。
「すごい……ありがとうございます!」
「いえ、こちらをお配りするのも仕事の一つですから。それでは…」
ウェイトレスは一礼した後、ドリンクを持ってその場を去っていった。
先程までは緊張していた朝陽だったが、今のウェイトレスとの会話と、この翻訳機のお陰で純粋に話してみたいという好奇心が湧き出し、ゆっくりとパーティーの奥へと歩みを進めていった。
中は更に落ち着いていたが人が多く、普段人はいても敷地の広い根拠地に慣れていた朝陽には少し眩暈がしてしまうほどであった。
そんな状況でも、朝陽はあることに気が付いていた。
「(…なんだろう…凄い色んな人に見られてる気がする…)」
人混みに隠れながらも確かに感じる気配に、朝陽は目を向けず感じ取ることにした。
「(……あ、私に視線を向けてるの、『グリッター』の人達だ…それも凄い実力者の人達ばかり…)」
これは寧花との修行の副産物であった。
『エナジー』を掌握した朝陽は、意識を凝らすことで人の気配だけでなく、僅かに漏れ出す『エナジー』も感じ取れるようになっていたのだ。
咲夜との訓練の中で磨かれていった感覚と相まって、その感知能力は相当に高まっていたのだ。
「(でも、これだけ多くの人に遠くから見られてるのに近寄ってこないな…私から行かないとダメなのかな…そもそもなんでこんなに注目されてるんだろう…)」
と、朝陽が考えていると、その気配の一つがすぐ近くまで迫ってきていることに気がつく。
「失礼、君はもしや千葉根拠地の斑鳩 朝陽さんではないかな?」
目の前に立っていたのは、凛々しくどこか力強さを感じさせる女性であった。
※本日の後書きもお休みとさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日の朝7時ごろを予定していますので宜しくお願いします。




