第279星:勝敗
各地方総司令官
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
興梠 叉武郎 (56)
北海道総司令官。厳正・冷淡な性格で、物事を淡々とこなす。『グリッター』をあくまで手駒として考えているが、それは自分の経験のもと、部下達を死なせないようにするため。直接指揮を下すことは無くなったが、様々な事態に対応できるマニュアルなどを作成している。
工藤 あやめ (45)
東北地方総司令官。元技術・科学班出身で、作戦を論理的に立てる。そのため、経験則に則ったやり方を主とする興梠や武田沢とは馬が合わない。但しこれまでに『メナス』を研究し続け、今の『軍』の基本戦闘スタイルの確立に貢献している点は両者共に認めており、戦術における先駆者と言える。
藤木咲 柚珠奈 (42)
中部総司令官。快活で明るく真っ直ぐな性格。元々前線で戦っていた『グリッター』で、『グリッター』に対しての理解がある。現場は指揮官達に任せているが、『グリッター』としての立場を経ての助言をするなど、総司令官として尊敬されている。
武田沢 銀次 (60)
近畿地方総司令官。頑固者で厳格。但し良くも悪くもをも意味し、自陣に非がないと思えば断固として守り抜く姿勢を貫く。北海道総司令官の興梠とは長い付き合いで、厳格なもの同士反りが合わず喧嘩ばかりしている。が、実際は互いにその力量は認め合っている。
桂木 捻 (35)
中国地方総司令官。捻くれ者で根性なし。基本的に護里の慧眼で選ばれる総司令官のなかで、唯一最高議会から選出されたいわゆるコネ出世。思考も差別の塊であり、単に情報を最高議会へ垂れ流してる傀儡だが、そういった待遇を受けているためか根拠地等は反骨心で溢れており、最もタフと言われている。
東條 龍一郎 (50)
四国地方総司令官。明朗快活で豪快な性格。決して揺らぐ事のない信念に、力強さと意志の強さを持つ。『グリッター』ではないものの、『戦闘補具』を使用し前線に立ち続け、かつては『人類最強』と言われていた。実績に裏付けされた言動に、心酔する者も多い。
鷹匠 悟 (35)
九州地方総司令官。大和に次ぐ若さと早さで出世した人物で、話の場をまとめたり和やかにしたりと、天性のカリスマ性を有する。絶望的な状況を打破する先見の明が鋭く、そこに目をつけた護里がいち早く抜擢した。本人もそれが一人でも多くの命を救えるのならと了承し、真剣にあたっている。
護里の口から出された言葉に、一同は表情を固める。
「『大輝戦』が始まるこの直前で…一番聞きたくない速報ね」
柚珠奈がため息混じりに溢すと、悟や大和といった若手の総司令官が同意するように頷く。
「戦況がハッキリしたのは寧ろ吉報じゃろうが。相手の出方を考えやすくなる」
「そもそもどのタイミングで言われようと良い時なんぞない。どんな時でもドンと構えとれ。総司令官だろうが」
対してベテラン勢いは流石の落ち着きがあり、踏んできた場数が違うことを知らしめていた。
「それで、決着の結果は?」
そのどちらの様子も見せない悟が、護里にその結果について尋ねた。
護里は大きくため息を吐いた後、ゆっくりとその結論を口に出した。
「…勝ったのは、過激派組織頭領、皇 イクサよ」
出てきた言葉に、表情に出さないよう努めていたものの、各総司令官は僅かに沈んだ顔を隠せなかった。
「……皇 イクサ、やはり戦闘力では分があったというわけですか」
イクサの勝利の報告に、悟が重い口を開く。
「それは誤解よ悟君。私がまだ現役だった頃、一度だけアンナちゃんの戦闘場面を見ることがあったけど、その実力はそこらの一等星にも劣らない強さがあったわ」
悟の言葉を柚珠奈が否定するが、叉武郎は「フンッ!」と鼻を鳴らす。
「神宮院が強いかどうかなんてことはどうでも良い。問題はイクサの次の行動じゃろうが」
「同感です。過激派を名乗るだけあって、皇 イクサの行動力は本物です。この勢いに乗じて根拠地…もしかしたら最高本部まで襲撃する可能性があります。直前ではありますが、『大輝戦』の開催についても、もう一度検討する必要があるのでは?」
叉武郎の言葉に、あやめも同意するようにして発言する。
それに反応したのは、大和であった。
「恐らくですけど、それは無いんじゃないでしょうか」
一同の視線が大和に向けられる。
「なぜそう思う。言うてみぃ」
問い詰めたのは銀次。なまじ小さくない規模の話であるが故に、その口調と目つきは厳しかった。
「護里さん、彼女達の衝突はここ一週間の出来事でしたよね?」
大和は一旦銀次達から目を離し、護里に尋ねる。
「そうね。タイムリーな情報だから間違いないわ」
「だとすれば、皇 イクサは神宮院 アンナと一週間ぶっ続けで戦い続けたことになります。そんなことが可能なのかどうかは置いておくにしても、相当に疲弊しているはずです」
大和の答えに、一人、また一人と納得したような様子で頷いていく。
「いくら彼女が行動力の化身といえど、それだけ疲弊した状態で『軍』に…ましてや最高本部に殴り込んでくることはないでしょう。聞いたところによれば、彼女は万全は期すタイプとのことですが、頭がキレるタイプでは無いそうですから」
「ふむ、確かに大和の言う通りかもしれませんな。そうなると開催すべきはまさに今、ということになります。無論、核根拠地には警戒する必要があると通達しておくべきですが」
大和の意見に賛同した龍一郎が、護里の方を見て提言する。
「そうね。万全を期す彼女だからこそ、攻め急ぐようなことはしないと思うわ。悟君の言う通り、開催するなら今しかないわ」
護里もそれに同意し、方針が定まりかけた時だった。
「理解できませんねぇ」
捻が再び前髪を弄りながら口を挟む。
「『大輝戦』って、要は『グリッター』のお祭りみたいなものでしょう?『レジスタンス』のトップがぶつかったとか、開催時期がどうとか言ってますけど、前提としてやらなくても良いんじゃないですか?」
「……なんじゃと?」
銀次が険しい目付きで捻を睨みつける。
「最高議会の皆様もやむを得なく開催するから、せめて実践形式にしようという恩情と思いやりで開催しているわけで、開催するリスクとデメリットが生まれたのなら開催しなければ良いじゃないですか。それをわざわざ……理解できませんね」
捻のこの発言で、各総司令官の目の色が変わる。
特に怒りの色を濃くしていた銀次が、捻に向かって何かを叫ぼうとした瞬間、それを遮ったのは叉武郎だった。
「まぁ奴の言うことも一理ある」
「叉武郎!?貴様、何を言っておる!!」
怒りの矛先を一気に変え、銀次は今にも掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。
「お前も知っとるだろうが銀次。『大輝戦』は十年と少し前は『大輝祭』と呼ばれていたことを。それこそ、色んな『グリッター』が自分の能力を煌びやかに見せるための場でしか無かった」
銀次の圧にも屈せず、叉武郎は淡々と事実と根拠の説明を続ける。
「最高司令官が護里さんになってから『大輝祭』は『大輝戦』となり、種目を通じて競い、切磋琢磨し合う形になった。それについては何も悪いとおもっちゃいませんよ」
叉武郎は「しかし…」と続ける。
「いまあの捻が言ったように、開催するリスクが生まれちまいました。果たして『大輝戦』がそのリスクを犯してまで開催すべきものなのか、納得のいく説明が欲しいところですな」
叉部郎は身を乗り出し、護里をまっすぐ見据える。
「貴方は最高司令官でこの最高本部を含め、日本という国を守る立場にある。それと同じように、儂も北海道総司令官としてその土地と人々を守る責務がある。開催することで儂等の故郷が脅かされるのであれば、護里さんには申し訳ないが、儂も開催には反対させていただきます」
叉武郎は護里に対して、臆することなく言い放った。
「私も叉武郎さんの考えに賛成です」
これに続いたのはあやめ。
抑揚のない口調さながら、こちらも護里にはっきりと自分の意見を伝えた。
「長い間続けられてきた『大輝戦』ではありますが、現実的にリスクがある現実を見なくてはなりません。護里さんが私達を常に思ってくれているのは誰もが知っています。だからこそ、ここは慎重を期して中止にすべきではないかと」
あやめも護里を嫌って中止を提言しているわけではない。寧ろその逆である。
自分が東北地方の面々を思っているように、誰よりも自分達を思っている護里を慮っての発言でもあった。
「そう……あやめちゃんも同じ考えなのね…でも……」
珍しく、と言うべきか、部下達の言葉には耳を傾け受け入れる護里は、この時直ぐには三人の言葉を受け入れようとしなかった。
何か思うところがあるのか、護里は葛藤しながら必死に答えを出そうとしていた。
そんな矢先にこれらに反論したのは大和であった。
「若輩者のボクが言うのも厚かましいですが、ボクは開催に賛成します」
大和がそう言うと、護里は驚いた様子で、あやめ、叉武郎、捻の三人は目を細めながら、他の面々はその内容を聞くためと、三者三様の様子で大和を見た。
「御三方のおっしゃる通り、リスクはあります。ですが、そう言ったリスクは、以前からあったものではないですか?」
「『レジスタンス』が攻め込んで来る可能性のことですか?しかしこれまでは抑止力と言われた神宮院 アンナがいて…」
「それでもボク達の根拠地は襲撃されました」
間髪入れずに返された大和の言葉に、反論しかけたあやめが押し黙る。
「確かにアンナさんが敗れたことで、『レジスタンス』の均衡は敗れて行動に移る可能性はあるかもしれません。けれど、そのリスクは『レジスタンス』だけじゃなく、『メナス』にも例えられる話です」
「あ〜、それは確かにそうだね!」
大和の話に関心を示すように、柚珠奈が少しだけ興味をのぞかせる。
「さっきも言ったように、皇 イクサが戦い終えたのは今さっきのことです。一週間長引いたからには、流石の彼女も満身創痍のはずです」
「ま、それはまず間違いなくそうだろうな。神宮院 アンナだって実力者なわけだから」
柚珠奈に続いて龍一郎も大和の話に乗り出してくる。
「その上で皆様にお聞きします。この場所は、精鋭集う最高本部です。いまここに集っているのは、各地で結果を残し続けた精鋭達です。実力者とはいえ、満身創痍の敵に立ち向かうことすら出来ない戦士達なのですか?」
大和の分かりやすい焚き付けに、全総司令官は分かりやすく反応した。
もう一押し。そう感じた大和はもう一つ、切り札を出した。
「それに、貴方達は自分の部下達が、この日のために努力してきたことを無視するんですか?」
この言葉が確実に決め手になった。
捻は別として、これまで開催に否定的であった叉武郎とあやめの二人は、明らかにその表情を変えたからだ。
「……ずるいですね。彼女達の努力という言葉を出されては、感情的にならざるを得ないではないですか」
先に降参発言したのはあやめ。
論述、倫理観が中心的な彼女が、感情的、という言葉を使うということは、実質敗北宣言に等しかった。
これであやめは開催に対し否定することはもうないだろう。
「ふん、どいつもこいつも、『グリッター』を甘やかしあって。あ奴らは戦闘に命を懸けた駒だぞ」
難関は叉武郎。
叉武郎は『グリッター』を手駒として考えている節があるため、この言葉だけでは押し切れない可能性があった。
それでも、大和はそこまで心配はしていなかった。
「……が、まぁその命を懸けている奴らが目指す一つの目標がここだ。それに報いてやるのは儂等の役目か」
叉武郎は厳正・冷淡な性格で、物事を淡々とこなす性格である……が、それは自分の経験のもと、部下達を死なせないようにするためであることを大和は理解していたからだ。
手駒と考えるのは、感情移入して判断を鈍らせないようにするため。
『グリッター』を想う気持ちは、ここにいる誰にも負けないものだろう。
「(じゃなきゃ、現役の司令官時代にマニュアルなんて作らないだろうからね)」
これで捻以外の全ての総司令官が賛同する形となり、捻もこれ以上の否定は意味がないと判断したのか、何も言わなかった。
そしてこの時をもって、新たな『大輝戦』は、開催を決定したのであった。
※本日の後書きはお休みです
※更新時間、次回は一時間程早いです
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は月曜日の『朝6時頃』の更新を予定しておりますので宜しくお願いします




