第276星:出発
そして、その日はついに訪れた。
今日は『大輝戦』当日。
根拠地には朝陽と夜宵、そしてその付き添いとして大和、咲夜を乗せた船が待機していた。
「じゃあ三咲君、椿君、暫く根拠地のことは頼んだよ。伝えた通り、今日中には指揮官代理と、代替戦闘員が配属されるはずだから、その出迎えだけ頼む」
「承りました。しっかりと務めは果たします。お任せ下さい」
「朝陽ちゃ〜ん、夜宵ちゃ〜ん、頑張ってね〜」
大和の言葉に三咲が応じ、椿は二人にヒラヒラ〜と手を振りながら見送った。
当然この場にはその二人だけではない。
『グリッター』メンバーを始めとし、沙雪、科学班、技術班、他構成員と、総出で見送りに来ていた。
「頑張って下さいね夜宵さん!!」
「応援してますよ朝陽さん!!」
既に船の上にいるにも関わらず声援は鳴り止まず、朝陽と夜宵は照れながらもそれに答え続けた。
その裏で、咲夜は寧花に近寄り、一つの確認をしていた。
「私に代わって、朝陽さんへの急なご指導ありがとうございました。彼女にとっても良い刺激になったのではないかと思います」
「ウフフ。久しぶりに朝陽ちゃんに教えられたから、私も嬉しかったしwin-winよ」
お互いに笑みを浮かべ笑い合ったあと、咲夜は真剣な面持ちで寧花に尋ねた。
「……それで、修行の成果は?」
これに合わせるように寧花も神妙な面持ちになり、朝陽を一瞥した後答えた。
「残念ながら未完成…というのが正直なところです」
「……そう、ですか。この『大輝戦』という舞台ではうってつけの場になると思ったのですが…」
寧花から返ってきた答えに、咲夜は僅かに落ち込んだ表情を見せた。
しかし寧花は、それに続けるようにして続けた。
「未完成…ではあるけれど、実は発動自体は可能なのです」
「えっ!?」
続けて発せられた言葉に、咲夜は思わず顔を上げる。
「未完成だと言ったのは、持続がまだほとんど出来ないこと、そして使用時のリスクが大きすぎることが問題だからなのです」
「リスク…ですか?」
咲夜が聞き返すと、寧花は頷く。
「発動は確かに可能になりました。『エナジー』を完全にコントロール出来るようになってからの彼女の成長には驚かされました。一番の難所であるはずのプログラミングの技術を、まさかたった一日で取得してしまうものですから。ふふ、日頃の訓練れの直向きさの賜物ですね」
「……そうですか、朝陽さんが…」
その言葉に咲夜は思わず笑みを浮かべると、寧花はそれにつられるようにして笑った。
「ふふっ!貴方に次いでの最短記録ですね。流石貴方の弟子です」
寧花からプログラミングの技術を最短で取得していた人物、咲夜は、照れた様子を見せながらも、周りの声援に応え続ける朝陽を誇らしく見つめた。
「さて、リスクに話を戻しますね。彼女は確かに『グリット』のプログラミングを習得し、技の発動や『エナジー』のコントロールをオートマチック化することが出来るようになりました」
寧花はこの先が重要だと言わんばかりに、神妙な面持ちで続ける。
「けれど彼女の新技は、それだけでは制御できないジャジャ馬だったのです」
「ジャジャ馬……と言うと?」
「彼女の理想通りに技を発動しようとすると、『エナジー』だけでなく、本来はその状態を保っているはずの骨や細胞まで対象にしてしまう、ということです」
寧花は落ち着いた口調で伝えていたが、応対する咲夜は驚きの表情を隠さずにいた。
「その事にすぐに気付き使用は停止。念のため沙雪さんにも診てもらいましたが一先ず問題はありませんでした」
「……そのことを朝陽さんは?」
「勿論理解していると思います」
これまでとは違い、咲夜は憐憫の目を朝陽に向けた。
無理もない話で、朝陽はその技を習得するために『大輝戦』までの貴重な期間を割いてきた。
しかし、寧花から聞く限り、結果としてそれは無駄に終わってしまったのだ。
朝陽も心中は穏やかでは無いだろう。
「では…『大輝戦』での使用は…」
「ですからいくつか制約を設けました」
朝陽以上に落ち込んだ様子の咲夜の言葉を遮るように、寧花は指を一本立てた。
「制約…ですか?」
「そうです。一つは原則使用しないこと。これは当然のことですね。現状は下手をすれば身を滅ぼしかねない技ですから」
寧花はもう一本指を立て、「そして二つ目」と続けた。
「使用は短時間、数秒のみ。そして三つ目と併せてになりますが、部分的のみ使用可能とする、の三つです」
「…それは裏を返せば、短時間での使用で見れば、朝陽さんの技は完成しているということですか?」
咲夜の問いに、寧花は「いえいえ」と首を横に振った。
「さっきも言った通り、朝陽さんの技は未完成です。いま申し上げた制約も、口上では簡単にしていますが、実際はもっと厳重に厳しくしています。それこそ、『悪厄災』と直接戦闘を行うレベルの状況でない限りは使用は許可できないと言う認知でお願いします」
そこまで…と咲夜は一瞬思ったものの、先程寧花に聞かされた反動を聞かされれば納得するしか無かった。
「この先、時間をかけていけば、彼女の技は完成するかもしれません。そうなれば、貴方のみならず、【オリジン】でさえ太刀打ちできない存在になり得るかも知れません」
寧花は朝陽にもしたように、咲夜にも「けれど…」と念を押す。
「それはまだ先の話です。今無茶をすれば、それも全て無に変わる話です。それを止めるのは、本当の師である貴方の役目です」
「…はい。肝に銘じておきます」
咲夜の答えに、寧花は満足気に頷いた。
「私に出来ることは全てしました。彼女のこれからを導けるのは貴方だけです。頑張って下さいね、咲夜さん」
「…ありがとうございます。蓮水さんの彼女への享受と、朝陽さんの努力を無駄にしないよう、私も尽力します」
咲夜は頭を下げ、寧花は頷くと、ゆっくりと咲夜から離れていった。
咲夜も頭を上げたのち、ゆっくりと船に乗り込んだ。
胸の奥に残る一抹の不安を感じ朝陽の方を見るが、当の本人は見送りしてくれる根拠地の面々に手や声を笑顔で返していた。
そこへ、同じく船に乗り込んできた大和が近寄る。
「浮かない表情だね。その様子だと朝陽君の修行の成果は芳しく無かったかな?」
大和だからこそ、ではなく、自分が見てすぐにわかるほどに表情に出ていた事に気が付き、直ぐに取り繕う。
しかし、大和にだけは気を許し、寧花から受けた説明をそのまま話した。
「…そうか。とてつもない潜在能力を秘めてるが故に、それを制御するのもまた楽じゃないってことか…」
「そう、ですね……あの、大和」
咲夜は取り繕ったばかりの表情を崩し、不安げな顔で大和に尋ねた。
「私は、気がはやった教えをしてしまったのでしょうか」
「……どうしてそう思うんだい?」
大和の問いに、咲夜は鎮痛な面持ちで答える。
「私は……彼女が一瞬見せた技に魅了され、完成された姿を見たいと思いました。何故ならそれは、似通った力を持つ私でも到達できない領域だからです」
咲夜は「しかし……」と続ける。
「結果として、私が彼女に推奨した技は、扱い方を間違えれば彼女自身が傷付き、最悪の場合再起不能にもなり得る諸刃の剣となってしまいました。私は、私が思い描いた理想を体現するために、彼女を実験台に使ってしまったのではないでしょうか」
「それは違うよ、断じてね」
懺悔するような咲夜の言葉を、大和は切って捨てた。
「確かに結論だけを見ればそう感じるかもしれない。けれどその技を見出し、そして自分のものにしようと心に決め、あらゆる訓練に取り組んできたのは朝陽君自身だ。違うかい?」
「それは!!でも……」
納得がいかず不安にかられる咲夜に、大和は言葉を投げかけ続ける。
「寧花さんからリスクの話を聞かされた時、いや、もしかしたら当の本人はそれよりももっと早く、その技のリスクに気付いていたかもしれない。けれど、それでも直向きに習得に力を注いだのは、自分を信じてくれている人の存在が居たから。だから迷わずに取り組むことができた。だから迷わずに進むことができた。それは寧花さんもそうだし、何より君自身のこともそうだ」
「……!!」
続けられた大和の言葉に、ようやく咲夜の顔が上がる。
「だから君がすることは後悔じゃない。信じ、そして時に止めてあげることだ。それが師である君の役割。そう寧花さんからも聞いただろう?」
「…はい」
咲夜は小さく呟き、小さく頷いた。
「なら前をむくんだ。そして彼女を支えるんだ。彼女を想うのならば、自分の取った行動が正しかったと証明するしかない。それが出来るのは朝陽君であり、君なんだから」
「はい」
今度は先程よりも強く、そして深く頷いた。
そしてそれと同時に、船の汽笛がボーッと強く鳴った。出航の合図だ。
「それじゃあ皆さん、行ってきます!!」
「やれる限りの事は尽くしてくるわ!!応援宜しくね!!」
朝陽と夜宵の二人は見えなくなるまで根拠地の面々に手を振り続け、大和と咲夜の二人はその様子を最後まで見届けた…
※後書きです
ども、琥珀です
最近ちょっと頭にきてしまうことがありまして、しかも実はまだ解決しておらず、元々メンタルが弱い私は、それはもう不安やらドキドキするやらで何も手につかず
言い訳がましいですが、小説すら書けませんでした…お恥ずかしい…
非があることを謝罪し、また協力し合いましょうと申し出たにも関わらず、それに対しての応対は無く…
いち早く解決できる日を望みます…
本日もお読みいただきましてありがとうございます。
次回の更新は月曜日の朝になりますので宜しくお願いします。
更新は通常通り7時を予定しております。




