第274星:変更
『大輝戦』まで残り三日となったある日。
最高本部では今回行われる競技について、幹部や最高議会が集まって話し合いが行われていた。
否、行われる筈であった。
「どういうことですか!?今更競技の内容を変えるなんて…!!」
最高議会の面々がホログラフによる参加であるなか、実身で会議に参加していた護里が強く机を叩き立ち上がった。
『まぁ落ち着きたまえ護里君』
「これが落ち着いていられますか!!既に本部では各競技に向けての設置を進め、各本部には競技の詳細を送ってしまった後なのですよ!?それを、こんな直前になって変えるなんて……」
『座りたまえ早乙女 護里最高司令官』
普段よりも強めの口調で諭され、護里は悔しそうにしながらもゆっくり席に着いた。
「……理由と、詳細をお聞かせ願えますか?」
一先ず(表面上は)落ち着いた様子を見せる護里に、ホログラフに映し出された最高議会員の一人が答える。
『うむ。これまで《大輝戦》は《グリッター》の見せ場、晴れ舞台としてその役割を担って来た。そこで優れた能力を我々に見せつけ、見込みがあると判断すれば最高本部での異動や、それに見合った等星への昇格を行って来た』
「(最高本部への異動は自分達の身を守るためでしょうが…)」
心の中で思った言葉を、護里はどうにか喉元までで堪え、話の続きを待つ。
『しかし、だ。昨今になり、新たな《悪厄災》、《エデン》の出現、そして一世代前の《悪厄災》、《アイドス・キュエネ》の生存が確認された』
ここまでの発言でおかしいことは何もない。何もないからこそ、何故先程の結論に至ったのかが気になっていた。
『そして何より、もはや空想上の存在だと言われていた【オリジン】が復活したことが判明してしまった!!これは由々しき事態である』
「(その復活に際して最後まで後手に回った結果が事態を悪化させていることにこの期に及んで気付いてないのね)」
心の中で再び悪態をつきながら、護里は必死に言葉を堪え、結論を待つ。
『そこでだ、これから先、《グリッター》には煌びやかな場ではなく、実力を示してもらいたいと思ったのだよ』
「……実力を示す…?」
最高議会の男はホログラフ越しに頷く。
『つまりは求められてるのは力!!力と知性を身につけ、そして桁違いの強さを誇る《悪厄災》達に立ち向かえる実力があることを証明して貰いたいのだ!!』
そこまで話されて、ようやく護里も議会の面々の言わんとすることを理解した。
つまり彼らは不安なのだ。
並の『グリッター』では歯が立たない『悪態を』が二体も存在する上に、通常の個体でさえ最近は強化されている。
加えて人類にとっての恐怖の象徴とされている【オリジン】が生きていると証明されては、身の保身ばかり考えている彼らにとっては不安で仕方ないだろう。
護里にとっては呆れるほか無かった…が、その為にこれまでと違う取り組みをすべきという点においては、ある意味で正しいとも感じた。
「……成る程、お話は分かりました。それで、競技の内容をどのように変えられるおつもりで?」
その言葉を待っていたと言わんばかりの笑みに、護里がいらだとした様子を見せるも、一先ず我慢する。
『実力を証明する舞台…即ちバトルロワイヤルだ!!』
「…は?」
護里は思わず気の抜けたような声を出してしまう。
「バトル…ロワイヤル?」
『そうだ!これまでは的当てや知的勝負などをやってきたが、より実戦的に!!より実力をハッキリとさせるための舞台とするのだ!!』
的当て…と言うのは恐らく対『メナス』の動きを想定したシミュレーション戦闘項目のことだろう。
そして知的勝負というのは、選抜複数名でチームを組ませ、あらゆる場面、場所、状況を想定して局面を打開するバーチャル訓練を指しているのだろう。
これらをそのようにしか言い表せない時点で、全くその趣旨を理解できてないことが分かる発言だった。
「それでは身内同士の争い合いになってしまいます!何よりバトルトーナメントと言うことは実際に戦闘を行うということ!状況によっては各本部や根拠地に影響を及ぼすことになります!『グリッター』を代表する最高司令官としてはとても認められません!」
ここで拒絶しても無駄なことは分かっていた。
ここにこうして集まっている時点で、既に結論は出ているのだから。
それでも、『グリッター』を守る立場として、例えどんな状況であっても言葉と意志を発せなくてはならない。
『残念だがこれは決定事項だ護里君。既に舞台の再改修も始まっている。最高司令官と言えど、我々の最終決断を覆すには至らないのだよ』
分かってはいた。
分かってはいたが口惜しく、そして無力な自分を、ただただ呪うことしか護里には出来なかった。
●●●
会議終了後、護里は誰も居ないのを確認しながら不機嫌な様子を一切見せず廊下を歩いていた。
とその時、よく知る顔の一人と廊下の十字路ですれ違った。
「おぉ!!護里さんじゃないですかい!!」
それは豪快で野太い声。その声色だけで、護里はその声の主の正体をすぐに理解した。
「あらあら、桐生君じゃない!」
それまで鬱憤溜まった表情を一変させ、視線の先にいる人物を見つけると、護里はパッと笑みを浮かべた。
すぐそばまで歩み寄ると、桐生と呼ばれた男性は苦笑いを浮かべていた。
「はっはっはっ、今の俺を君付けで呼ぶのは護里さんくらいですな!」
「当たり前じゃない。司令官であろうと『シュヴァリエ』であっても、私の大事な娘、息子よ」
そう言われてやはり苦笑いを浮かべるのは、最高の称号である『シュヴァリエ』、そのなかでも最強と謳われる桐生 宗一郎であった。
身長は2m近くあるだろうか。
白いローブ越しにも分かるほど、筋骨隆々とした肉体に、顔に見られる微々たる傷々に、蓄えた髭などが、存在感と威圧感、そして豪快さが見てとれた。
「ガハハ!護里さんには本当に敵わんな!護里さんも元気そう……でも無さそうな感じですな」
そして宗一郎は直ぐに護里の変化に気付いていた。
「あらあらまぁ…流石に『貴方達』には分かってしまうかしらね」
「ガハハ!今のは儂等じゃなくとも分かるような顔をしとりましたぜ。何せあの温和な護里さんから笑顔が消えてたんですからな!」
そこまではっきりと表情に出ていたことに反省しながら、そこまで分かっているのならと、護里は大きくため息をこぼすと、その理由を説明した。
その話を宗一郎は真剣な面持ちで聞いた後、僅かに考えた後に護里に自分の考えを答えを返した。
「わしゃいつでも護里さんの味方でおるつもりなんで、護里さんの考えにはどこまでもついていくつもりでおりやす」
宗一郎はそう述べたあと、「しかし…」と続ける。
「あくまで儂個人の考えを述べさせていただくなら、今回の『大輝戦』を実戦形式にするっちゅう考えは有りだと思っとりやす」
「…その理由は?」
護里は怒る素振りは一切見せず、純粋な疑問として尋ねた。
「ハッキリと言ってしまえば最近の若いモンはぬるすぎますわ。言葉や志は立派でも、それにと心と体と技がついてきとらん。これは『メナス』が進化しつつある現状において、由々しき事態であると思いやす」
「……成る程。つまり『大輝戦』という舞台を戦場へと変えて、若手の有望株で傷付け合わせて刺激を与えようと言うのね?」
護里の鋭い返しに、しかし宗一郎は僅かにたじろぐだけで怖気づくことはなかった。
「そぉ怒らんで下さい。護里さんが儂達のことをどれだけ思ってくれてるのかは儂らがよぉく分かっとります。そんな護里だからこそ信じてついてきたわけですから」
宗一郎は「しかし…」と続ける。
「護里だけで全員守れるわけじゃありやせん。『メナス』が強く、そして『悪厄災』が生きてるに、【オリジン】が存在しているとなれば尚更です」
「それは……」
それは護里も分かっていたことであった。
現状『メナス』の勢力を鑑みれば、『軍』側の現存の勢力だけでは心許ない。
『シュヴァリエ』という自信自慢の戦士がいるとは言え、向こうには伝説とさえ言われていた【オリジン】が存在している。
その【オリジン】が存在しているとなれば、いかなる手段を講じても、万全と言えない。
千葉根拠地から送られたデータを見るとそう感じ得ざるを得ない。
そう言った意味で、個々の戦力を上げるために、そしてそれを奮起するために、最高本部と宗一郎の言うことは正しいだろう。
その場で葛藤を重ね、護里は諦めたようにため息を溢した。
「分かったわよ。確かに、自分の身を守ってもらうための経験として、そしてお手本として、今回の実戦形式は役に立つかもしれないわ」
観念した様子の護里に対し、宗一郎は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「すいやせん、護里さん。儂何かが余計な口出しをしてしまって」
「いいのよ。貴方なりに皆のことを考えての意見なのはちゃんと分かってるわ」
護里はそれで会話はお終いと言わんばかりに、笑顔を向けたあとその場を去っていった。
「自分の中で折り合いをつけられたわ。ありがとうね、宗一郎君」
最後に残した一言を聞いて、宗一郎は深く頭を下げた。
※後書きです
ども、琥珀です
12月からなのですが、更新の時間が変更されるかも知れません。
まず最初に、次回の更新、水曜日は朝の6時に更新予定ですので宜しくお願いします。
以降は、水・金は今まで通り朝の7時に更新予定ですが、月曜のみ、朝の5〜6時の更新になるかも知れません。
遅くなるわけではないので、お読みいただいている皆様にはご不便はおかけしないかと思いますが、念のためご報告させていただきます
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本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は【水曜日の朝6時】を予定しておりますので宜しくお願いします。




