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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
307/481

第273星:夜宵の葛藤

国舘 大和(24)

 千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。


斑鳩夜宵(22)三等星

千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?

 『大輝戦』まで残り七日となった日の夜。


 既に訓練の時間は終わり、訓練場に人の気配はほとんどなかった。


 にも関わらず、斑鳩 夜宵はそこに立っていた。


 月の光が雲で隠された真っ暗な訓練場(空間)のなかで、夜宵は気配はおろか、姿さえ朧げに見えるような形で立ち尽くしていた。



「……うん。思った通り、これは使える…あとはこれをどう応用させていくか…」



 よく見れば、夜宵の周囲には黒いモヤのようなものが広がっており、どこか意志を持っているかのようにウネウネと動いていた。



「もう訓練終了の時間はとっくに過ぎているよ?あまり夜更かしし過ぎるのは感心しないな」



 と、その場に立ち尽くす夜宵に、一人の人物が声をかける。


 根拠地司令官、国舘 大和だ。



「司令官…!?あ、すいません、今はまだ近づかないで下さい。万が一ということがあります」



 夜宵の言葉に、大和は分かっていると言わんばかりに頷き、その場で待機した。


 夜宵の周囲で蠢いていた黒いモヤは、みるみるうちに夜宵のもとへ集まり、その姿を消していった。


 それを見届けてから、大和はゆっくりと夜宵に近づいていった。



「こんな遅い時間に一人で訓練か。さっきはああ言ったけど、精が出るね」

「そんな…でも『大輝戦』まであと七日。私にとっては二度目の舞台で、二度の失態は許されない場でもありますから」



 夜宵は口元こそ笑っていたが、その目はどこか鋭かった。


 その様子を、大和は注意深く観察しながらも、こちらも笑みを崩さず続けた。



「そんなに気負わなくても良い…と言うのは無理な話かな。それでも前にも言ったけれど、今の君なら正真正銘『大輝戦』でも力を発揮できる。意気込むのは良いけど、力み過ぎちゃダメだよ」

「……そうですね。今度こそ、と少し気を張り過ぎていたかもしれません」



 大和の言葉に、夜宵はようやく脱力した様子を見せた。



「それにしても今のは面白い技だ。闇夜に紛れて満遍なく自信の『(グリット)』を展開させたのか」



 大和から発せられた言葉に、夜宵は目を開いて驚く。


 大和が今の夜宵の技を見たのは、恐らく今が初のはず。にも関わらず、大和はその技の性質を一瞬で見抜いてしまったからだ。



「そうすることで君の闇を利用した攻撃はどこからでも出来ることになるね。闇で飲み込むだけだったこれまでとは大きく異なる性質の技だ」

「……驚きました。いえ、流石司令官、というべきなのでしょうか?」



 忌憚のない素直な言葉を述べるも、大和はさして表情を変化させることなく続ける。



「これでもこの根拠地を束ねる司令官だからね。全員の『グリッター』の性質は理解してるし、()()()()()()()()()()()()()()は色々と考えて憶測を立てているよ」



 夜宵は大和に全面の信頼を置いている。しかし時折今のように全てを見透かしているような発言が見られ、萎縮してしまうことがあった。



「朝陽君とは真逆、謂わば夜を操る力、『闇夜の空間(ラオム・ナハト)』っていったところかな?」

「……本当に全て見透かされているのですね。仰る通り、闇夜の空間の闇を操る、空間系の技です」

「うん、強力で恐ろしくて良い技だ。けれど発動条件が相当難しそうだね?」



 そこまで見抜くか、と夜宵は浮かべていた笑みの口角が僅かにひくつく。



「……仰る通り、この技を発動するためには、最低限今に近い暗さが必要です。しかし『大輝戦』は定められた舞台で行う、謂わば闘技場。こんなに薄暗い空間になることはまずないでしょう」

「まぁそうだろうね。各地方から集まった精鋭達を見るために、見やすい環境は整えるだろうし、『軍』の活動の一環として、その戦力を見てもらうために、『大輝戦』は最高本部が一般開放される数少ない機会だ。今みたいな状況になることはまずないだろうね」



 大和は夜宵の言葉を否定しなかった。


 下手な否定は、余計な希望を持たせてしまうことになるため、ハッキリと告げる方が夜宵のためになると思ったからだ。



「そう……ですよね。でも、それでも……無駄なことなんだとしても…私はッ…!!」

「いやいや、無駄なんかじゃないよ」



 思い詰めた様子で何かを訴えようとする夜宵の言葉を、大和は軽い口調で遮る。



「君のその技が、それを覚えるに至るまでの過程が、どこでどう役に立つかは分からない。技自体の出番が無くとも、積んできた鍛錬は必ず君の糧となるさ」



 遮ってまで自分を思いやった言葉を投げかけてくれた大和に対し、夜宵は僅かに憑き物が落ちたような表情を見せるが、直ぐにその顔に暗い影を落とす。



「正直にいって、朝陽が指揮官に弟子入りして…いえ、それよりももっと前、朝陽が『グリッター』に覚醒してからドンドンと成長をしていく姿を見続けて、私は焦ってました」



 夜宵の溢した本音を、大和は今度は遮ることなく清聴する。



「『大輝戦』出場に関して悩んでいる朝陽に対して、私は『一人じゃない』と、妹を支えると伝えました」



 夜宵は思い詰めた表情のまま続ける。



「でも実際は、逆なのかもしれません。『グリッター』としても、リーダーとしても成長した朝陽に、私がしてあげられることは何もないのかも知れない。私じゃ、朝陽の力にはなれないかも知れない。そう思うと、焦って…不安になってしまうんです」



 夜宵が抱えている不安、そして焦燥感は確かにそう感じ得ざるを得ない内容であった。


 大和が来る前、そして朝陽が『グリッター』に覚醒する前までは、半ば押しつけられる形ではありながらも、夜宵は根拠地の『グリッター』の中心人物であった。


 しかし、今やそれは朝陽が担う立場となりつつある。


 無論、朝陽にはまだまだ足りないものが多くある。特に実戦経験や『グリッター』としての在り方(矜持)なんかは、夜宵の方が遥かに理解し優れているだろう。


 しかし、それ以上に朝陽の成長には大和でさえ目を見張るものがあった。


 実力はもちろんのこと、人としての成長、そして己を曲げない信念と、どごでも真っ直ぐな想い。


 それらが今の朝陽を支え続け、そして成長を促して来ていた。


 自分の信念を貫くためならば、時に手段を選ばない。


 例えば、ロシアとの交流でのヴィルヴァーラへの一方的な信頼。


 例えば、咲夜の過去を知り、自分の更なる成長のために弟子入りを志願する。


 これらはひとえに朝陽の思いの強さと確固たる信念があるからこその行動と言えるだろう。


 そしてその行動は、当然周りを惹きつける魅了する。


 これまで中心的立場であった夜宵からすれば、自分のポジションを奪われ焦るのも無理のない話ではあった。



「……確かに、朝陽君の成長は目を見張るものがあるね。司令官としても、彼女の存在が頼もしいと思っているのは事実だよ」

「……」



 大和の言葉に、夜宵は悔しそうな表情で俯いた。



「けれども夜宵君。君が朝陽君にかけた言葉は、力の強さや彼女の在り方だけで変わってしまうものなのかい?」

「…え?」



 続いて問われた大和の言葉に、俯いていた顔が上を向く。



「確かに朝陽君の根拠地での在り方は大きく変わった。ほれでも、その力の強さだけじゃ立場なんて変わらない。これまで君が今いる仲間達のために戦い中心となって束ねて来た過去は不変のものなんだよ」

「それは……でも……」



 夜宵には朝陽の姿が余程眩しく見えているのか、その表情は晴れなかった。



「一番大事なのは、夜宵君、君自身が朝陽君への想いを歪めてしまわないことだ」

「私自信の想い…」

「朝陽君は強くなった。そして『グリッター』としても欠かせない人物になった。じゃあ夜宵君、君は彼女を、妹を支えることを止めるのかい?」

「…!それはあり得ません!朝陽はいつまでも私の大切な妹で……あ……」



 そこまで問い詰められ、夜宵は大和が伝えようとしていることを理解したようだった。



「君にとって大切なのは、中心人物でいることじゃないはずだ。朝陽君がどれだけ成長しようと、強くなろうと、彼女の姉であることには変わりないはずだ。そうだろう?」



 大和の問いに、夜宵は深く頷いた。



「知ってると思うけど、ボクにも妹がいる。突拍子のない破天荒なところはあるけど、朝陽くんと同じで純粋で、それでいてとてつもない実力を兼ね備えた自慢の妹だ。それこそ、ボクなんかいなくても独り立ち出来るくらいね」



 大和は「それでも…」と続ける。



「ボクは彼女の兄であることを、飛鳥を想うことを止めようとすることは一度もなかった。それはどれだけ成長しようとも、飛鳥がボクの妹であることに変わりはないからだ。君にとっての朝陽君もそうだろう?」

「……はい」



 観念…とはまた違うだろうが、夜宵は大和の言葉を受け入れ頷いた。



「ならやるべきこと、為すべきことは何も変わらない。君は姉として、朝陽君のことを支えてあげるんだ。これは、実力云々の話じゃない。姉として…家族としての話なんだ」



 最後の大和の言葉を聞き、自分の中で反芻させ、そして夜宵は笑顔を浮かべながら大和の方を見た。



「ありがとうございます司令官!なんだか自分の中で迷いが吹っ切れた気がします!私にとって一番大切な場所は、朝陽の家族(あね)であること、ですね」



 そう答える夜宵の目は力強く明るいモノとなっており、大和は嬉しそうに頷いた。


 とそこで、大和は思い出したかのように、手のひらにポンと拳を乗せた。



「そうそう。さっきの技のことだけど…確かにその環境が()()にできることはないかもしれないけど、作ることはできるかもよ?」



 と意味深な言葉を夜宵に告げた…

※本日の後書きはお休みとさせていただきます






本日もお読みいただきありがとうございました。


次回の更新は月曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願い致します。

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