第272星:プログラム②
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
蓮水 寧花(?)
千葉根拠地、訓練養成所の教官を務める女性。小柄でどこか幼さい外見をしているが、落ち着いた口調と大らかな雰囲気で生徒達を優しく導く。大和だけでなく、沙雪とも顔見知りで有り、相当顔の効く人物であるようだが…?
「聞きましたか?朝陽さん、今日から個別訓練だそうですよ」
「みたいだねぇ〜。まぁ『大輝戦』の選抜メンバーだし〜、それに向けて調整してるのかもね〜」
夕暮れ前の訓練にて、もはやお馴染みとなった組手の休憩の合間に、梓月と華の二人が話をする。
訓練は通常通り行ってはいるが、先日の戦いの傷と疲労を考慮して、その内容は比較的軽いものになっていた。
「でもでも〜、確か朝陽ちゃんって、指揮官に弟子入りしたんだよね〜?」
「まぁ、本人に確認は取っていませんが、動きのキレや戦場での発想は指揮官に似たものを感じましたね。恐らく間違いないかと」
人差し指を頬にあて首を傾げる華に、梓月は肯定的に答える。
「でもでも〜指揮官いまアソコにいるよね〜?でも朝陽ちゃんはここにいない〜…なんかおかしくなぁい〜?」
「……言われてみれば確かに……」
訓練場には、華の言う通り訓練を見つめる咲夜の姿があった。
そうなると、確かに華の言った言葉には矛盾が生じてしまっていた。
「個別訓練なんて言うから、てっきり咲夜さんとマンツーマンで話すのかなと思ってたけど〜、これを見た感じそうじゃ無さそうだよね〜」
「そうですね…では個別訓練は一体誰が……」
と、二人が考え込んでいると、ふと、目の前には一人の人物が立っていた。
「お二人とも随分と長い休憩を取られているようですね」
笑顔ながら圧を放っている咲夜だ。
華と梓月の二人は冷や汗を掻きながら言葉に詰まっていると、咲夜はニッコリと笑みを浮かべた。
「もう十分休息は取られたでしょう。折角ですから私がお二人の組手の相手をしましょう。遠慮はいりませんよ」
完全にやらかしたと思った二人は、助けを求めて周囲を見るが、全員が一斉に目を逸らした。
「(((ごめん、二人とも。指揮官とは組手したくない)))」
誰一人声にはしなかったが、二人にはハッキリとその心の声が聞こえてきた。
「さぁ、訓練終了まであと30分。実りのある時間としましょう」
「あは…あはは〜…」
「お、お手柔らかにお願いします…」
二人は観念して、咲夜から直接指導を受けることを決めた。
その後、訓練所では二人の荒れた息が途絶えることはなかったと言う……
●●●
梓月達が咲夜との特別訓練を受けている最中、朝陽は寧花によって用意された椅子でジッと結跏趺坐の姿勢を保っていた。
一見すると微動だにしていないように見えるが────
「はい、ダメです♪」
「いたぁ!?」
────パァン!!と朝陽の両肩が強く叩かれる。
「エナジーの乱れがかなり見られます。それでは『グリット』をプログラム化する技術は身に付きません」
ヒリヒリと痛む肩をさすりながら涙目でこちらを見る朝陽に、寧花は普段の温和な笑みに謎の圧を込めて指摘する。
「良いですか朝陽さん。普段やっている作業をオートマチック化するということは、それまで意識してやっていた工程を全て自動で行う、即ち自身の『グリット』とを完全に掌握しなくてはならないのです。その為には『エナジー』を淀みなく操れる技術が必要なんです。これはその為の訓練なのですよ?」
「は、はい、分かってます!!でもこれ、すっごい難しくて…」
────パァン!!
「いたぁ!?」
思わぬタイミングで喝を入れられ、朝陽は再び声を上げてしまう。
「弱音を吐かない」
「は、はい…」
幼少期に教わった時とは全く異なる厳しい指導に、朝陽は困惑しながらも頷く。
「すぐに出来なくて当然です。『グリット』の掌握は、レベルで例えれば一等星が会得する技術なのですから」
「うぅ…そうなんですけど…」
朝陽が焦るのは無理もなかった。
朝陽と夜宵が出場する『大輝戦』まであと八日。
先日の『レジスタンス』との戦いで、純粋な実力差を見せつけられ、朝陽は更なる成長と力が必要だと痛感していた。
ましてや『大輝戦』はその年の各地方で最高成績を出した者が選ばれ競い合う場。
本来なら『グリッター』として覚醒して間もない朝陽が選ばれる筈のないモノなのである。
しかし、姉である夜宵や、師匠である咲夜、そして恩人である大和の説得を受け、朝陽は『大輝戦』に出場する決意を決めた。
その為に咲夜に弟子入りし、そして寧花へ弟子入りしたのである。
しかし、『グリッター』にとっての集大成、そこで認められれば『シュヴァリエ』への道も開かれるという大舞台という事実が、朝陽を焦らせていた。
その内心を見抜いた寧花が、先程までの圧をフッと無くし、これまで朝陽に向けてきた様な温かな笑みを向けた。
「朝陽さん、焦る気持ちは分かります。ですが貴方がいま覚えようとしている技は、それだけ上級レベルの代物であり、それをモノにするためにも高等技術が必要なんです。本来なら『グリット』でさえ覚醒して半年程の貴方が直ぐに習得はおろか、それに関する訓練を行うことすら早すぎるくらいなんです」
「わ、分かってます!これが今の私には未分不相応な技だったことくらい!それでも!……それでも……」
焦る以上に悔しい表情を見せる朝陽に、寧花は笑顔で息を一つ吐くと、スッと朝陽の横に座り込む。
「朝陽さん、私は沙雪さんと咲夜さんからこの話を受けた時、最初はお断りするつもりでいました」
「えっ!?」
思わぬ発言に、朝陽は驚きの表情を寧花に向ける。
「貴方の成長は聞いています。貴方の真っ直ぐで純粋な性格は良く知っています。貴方ならいずれ私の教えを乞わなくても、自分自身の力でプログラム化の技術を覚えることが出来たでしょう」
寧花は「そう言った意味で…」と続ける。
「先程も言ったように、ご自身でも理解されているように、この技術を覚えるには早すぎると思いました。そしてその技術を必要とするその技も、貴方には早すぎるのでは無いかと思いました」
寧花は朝陽から目を逸らし、根拠地の奥に見える海の方角、しかしそれとは違うどこかを見つめる遠い目つきで語り続けた。
「未分不相応の過剰な力は、時にその力に溺れ、身を堕とします。私は、力を手にしたことで、これまでとは全く異なる、まるで別人のようになってしまった人を何人も見てきました」
遠くを見つめる寧花の目はどこか悲しそうで、そして哀愁が漂っていた。
「力を律するには、それを諌める強い心が必要です。でなければ力に溺れ、力で物事を解決しようとし、やがて全ての支配を求めるようになります。それはとても恐ろしく、そして享受させる者として何としても避けなくてはならないことです」
見ればその目付きは変わり、後悔とどこか力強い眼差しへと成っていた。
「蓮水先生は……私が力に溺れると思ってらっしゃるんですか?」
恐る恐る尋ねると、寧花はニコッと笑みを浮かべ、首を横に振った。
「いいえ、思っていません。これっぽっちも。さっきも言ったように、貴方はどこまでも真っ直ぐで純粋です。そして純粋でありながら、確固たる信念を持っています。それは分かりますね?」
「……他人のために戦い、多くの人を守るために力を使うこと」
その答えに、寧花は満点だと言わんばかりの表情で頷いた。
「その信念があるからこそ、私は貴方にこの技術を享受しようと決めたのです。貴方なら、力をものにしようと溺れることはないと確信したからです」
朝陽が嬉しそうに笑みを浮かべるなか、寧花は更に話を続ける。
「そして何より、同じく苦渋を味わい、そして失敗と挫折を繰り返しながらプログラムの技術を手にした沙雪さんが、朝陽さんにその技術を教えてほしいと頼み込んできました。それは即ち、貴方ならその技術をモノにできると見込んだと判断したからです」
朝陽は笑顔の表情から僅かな驚きの表情を浮かべた。
「(そうだ……沙雪先生は初めから私がプログラムの技術を取得することに反対しなかった。それどころか蓮水先生に頼み込んでくれて……)」
「分かりましたか?貴方は多くの人から期待されているのです。貴方なら出来ると信頼されているんです」
改めて、朝陽はいまの自分がどれだけ多くの人に支えられているのかを実感させられていた。
それが、弱気になりつつあった自分の心を再び奮い立たせてくれていた。
「無論、引き受けたからには『大輝戦』までの会得は目指します。ですが焦りは禁物です。咲夜さんも、沙雪さんも、このプログラム化の技術の習得を願いつつも、必ずしも今直ぐだと思ってはいないはずです」
寧花の言葉に、朝陽はしっかりと頷く。
「焦らずしっかりと、出来ることからしていきましょう。良いですね?」
「はい!!」
完全に気持ちを取り戻した朝陽は、力強い返事とともに、再び寧花の指導の元、訓練を再開したのであった。
※後書きです
ども、琥珀です。
超インドアな時間を過ごすことの多い私ですが、実は球技とかの運動は結構好きです。
バレーボールやバスケットボール、バドミントン(は球技なのかな?)とかは特に好きですね
最近だとボーリングに行ってきたんですが思いの外楽しくて、今日(投稿日から見ると昨日ですね)も行ってきたのですが、まぁ間違いなく筋肉痛になりますね。
一回カーブかけようとして指がグキッ!ってなりましたしね
執筆できなくなったらごめんなさい←
本日もお読みいただきありがとうございました!!次回の更新は金曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします!!




