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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
10章 ー開幕:『大輝戦』編ー
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第270星:新技②

斑鳩 朝陽(18)四等星

 千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。


市原 沙雪(28) 女医

千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、精神科にも通じている。適当に見えるが、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術も高く、一定範囲の味方を治癒する『グリット』を有する。


蓮水はすみ 寧花しずか(?)

千葉根拠地、訓練養成所の教官を務める女性。小柄でどこか幼さい外見をしているが、落ち着いた口調と大らかな雰囲気で生徒達を優しく導く。大和だけでなく、沙雪とも顔見知りで有り、相当顔の効く人物であるようだが…?

 昨夜の訓練が終わったあと、朝陽は咲夜から翌日にある人物のもとへ行けと伝えられていた。


 咲夜の口から出された人物があまりにも意外なため、思わず聞き返した程であったが、改めてそうであると伝えられ、言われるままにその場所を訪れていた。


 扉をノックすると、中からは「誰もいませ〜ん」と意地悪ながらもしっかりと返ってきた。


 扉を開け、()()()の中に入ると、当然そこには、市原 沙雪が気怠そうに椅子に座っていた。






●●●






「一応咲夜(アイツ)から話は聞いてるけど、いまアンタがやってる訓練についてアドバイスして欲しいんだって?」

「は、はい!!先生から沙雪先生にある技術を教わってきなさいと言われました!!」



 気怠そうにしながら尚且つ面倒臭そうな様子で尋ねる沙雪に、朝陽は困りながらもはっきりと答えた。



「人選ミスってるんじゃないの?私は戦闘員じゃないし、『グリット』も戦闘用のものじゃない。教えられる事なんて無いと思うんだけど?」



 沙雪の言い分はもっともで、沙雪の名前を出された時に朝陽も突然困惑した。


 しかし、あの咲夜が言うのだから何か意図があると考え、思い切って尋ねてきたのである。



「でも…先生のことなので、きっと何かあると思うんです。ですからお願いします。お話だけでも聞いて貰えませんか?」



 面倒臭げな沙雪に対し、真っ直ぐで真摯な目を向けられ、沙雪は折れたかのように頭をガシガシと掻いた。



「分かったわよ。とりあえず話を聞くだけね。力になれないと思ったら即断るから」

「…!はい!ありがとうございます!!」



 朝陽は嬉しそうに笑みを浮かべると、新たに身につけようとしている技について説明を始めた。






●●●






 根拠地の執務室では、珍しく大和が一人で作業を続けていた。


 黙々と資料に目を通し、ペンを走らせていると、ドアが開かれ、そこから咲夜が現れた。



「お帰り。彼女の搬送、お疲れ様」

「いえ。ただ見送ってきただけですから」



 咲夜は唯一根拠地から最高本場へと、真っ先に移送されることになった霧島 カンナの受け渡しのため、ポートへと出向いていた。


 『グリット』を封じる特殊な鎖と、厳重な拘束、そして常に咲夜が隣にいることもあってか、カンナは抵抗する素振りを一切見せなかった。



「移送に付き添う『グリッター』も相応の実力者が数名いまので、万が一のことが起きても問題なく解決出来るかと思います。ですが、何故彼女だけ真っ先に移送することになったのですか?」



 『軍』のすることはともかく、大和の判断に疑問を抱く事は滅多に無い咲夜であるが、この時ばかりは流石に気になったのか、大和に尋ねる。



「…そうだね。咲夜にもこの情報は共有しておくべきかな。ボクも昨日の夜知らされたことなんだけどね」



 そこで大和は、現在『レジスタンス』のトップ同士が衝突しあっている内容を話した。



「…そうですか。以前から『レジスタンス』の二代派閥のぶつかり合いは時間の問題だと伺っていましたが、ついに……」



 咲夜はどこか悲しそうな表情を浮かべるも、直ぐにハッとした様子で顔を上げた。



「もしや、『軍』はその戦いに介入を?」

「いや、護里さんのなかではその考えはないようだよ。と言うよりも不可能、と言った方が正しいかも知れない」



 何故、と咲夜は思うが、すぐにその理由が『軍』の上層部にあると理解し、小さく息を吐いた。


 それと同時に、改めて疑問が湧く。



「それでは何故彼女を?例えば争いを止めるための交渉人として使うのなら分かりますが、介入をするわけでは無いのなら、こんなに直ぐに移送する必要は無かったのでは?」

「そうだね、介入するしないに関して言えばその通りだ。けれど今回の騒動、穏健派であるとは言え、秘密裏に『レジスタンス』の片方のトップと繋がっている護里さんでさえ把握していなかった襲撃だった。そのトップが衝突しあってる現状とは言え、同じことが別の根拠地で起きないとは言い切れない」



 大和の説明に、咲夜は頭の中で情報を整理していきながらゆっくりと口を開く。



「…つまりは、過激派である彼女を尋問する目的でいち早く移送を?」

「ま、大きな言い方をすればそうなるだろうね。護里さんも基本的には穏便に済ませたいだろうけど、何せ今回の事件が事件だ。同じことが内容、従来よりは強く()()にあたるかもね」



 大和の言葉に、咲夜は僅かに複雑そうな表情を見せる。大和もそれに気付き、苦笑いを浮かべる。



「まぁあまり気分が良いことじゃ無いのは分かるよ。カンナ君にも『レジスタンス』に身を置く、自分なりの矜持があった。それが全て間違っているかと言えば答えはノーだろう。かつてとは言え、過去の『軍』の犯した過ちを経て彼女はその身を、心を焦がしたんだからね」



 大和は帽子を深く被り直し、そして温和な雰囲気から一転させ、どこか冷ややかなオーラを醸し出した。



「だけどこの世は綺麗事だけじゃ回らない、回せない。どれだけ平和を願おうと、どれだけ平穏を望もうと、その為にはそれを望まない者と対立しないといけない。時に冷酷に、時に残酷にね…」



 咲夜さえもゾッとするオーラ。戦士のそれとはまた異なったその雰囲気に、咲夜は思わず冷や汗を垂らしてしまう。



()からできる事は全てした。その上での護里さんの判断だ。あとは任せるしか無い」

「そう……ですね」



 そこで大和はそれまでの雰囲気を収め、いつもの温和な笑顔を浮かべると、怖がらせてしまったと思ったのか再び苦笑いで咲夜に答える。



「心配しなくても、護里さんは手段を選ばないような人じゃ無いよ。ただ、自分の部下達を守るために、でき得る限りの万全を期すために、彼女と話をするだけさ」



 大和の豹変ぶりに驚きはしたものの、その()()を知る咲夜も直ぐにいつもの様子へと戻っていく。



「…そうですね。他ならぬ護里さんですから。不要な疑問でしたね」



 最後に思わず()()()()大和の姿を思い出してしまい、僅かに胸を痛めた咲夜であったが、一先ず大和の言葉で自分を納得させ、この場を収めた。






●●●






「………貴方すごい事考えるのね」



 舞台は戻って根拠地医務室。


 朝陽は沙雪の協力を仰ごうと、今自分が修得しようとしている技について説明すると、沙雪は呆れ半分、驚き半分といった様子で机に頬杖をかいていた。



「え、そ、そうなんですか?」

「普通は考えつかないんじゃ無いの…?ていうかそういう発想に至ることが普通じゃ無いわ」



 素直な沙雪の言葉に朝陽はシュンとするが、一方で沙雪はニヤッと笑みを浮かべた。



「でも確かに面白いわ。これまで数々の『グリッター』を見てきたけど、そんな奴は一人もいなかったからね」



 朝陽はゆっくりと顔を上げた。そこには珍しく心底楽しそうな笑みを浮かべた沙雪が朝陽を見つめていた。



「良いと思うわよ。今までいなかった、という事は誰にも果たせなかったことって意味でもあるからね。挑戦してみなさいよ」



 自分の発想を好意的に受け止め、そして挑戦してみろという言葉は、沙雪の協力を得られることを意味していた。


 それに気が付き、朝陽は思わず笑顔を浮かべる。



「さてそうなるとアイツがコイツに教えさせようとしたのは()()なんだろうけど…そうなると正直私より適任がいるわ」

「え…?」



 思わぬ発言に朝陽がキョトンとしていると、入り口の扉からコンコンとドアを叩く音が聞こえて来た。



「あ〜悪いけどいま逆対応中だから後にしてくれる?」



 その人物に対し、沙雪は雑で嫌そうな返事を返すが、扉の前に立つ人物はそれを無視するかのように扉を開けた。



「あらあら〜。怪我人さんの容態を確認しに来ようと思ったのだけれど、邪魔だったみたいね〜?」



────ガタガタンッ!!



 その声…その人物の姿を見た瞬間、沙雪は椅子から転げ落ちた。



「沙雪さんッ!?」



 あまりの動揺っぷりに、朝陽は思わず振り返ってその人物を見る。


 そこに立っていたのは────



「あ、あれ!?蓮水先生!?」

「あらあら朝陽ちゃん久しぶり」



 朝陽達が幼少期の頃から訓練校の教官を務めていた、蓮水 寧花であった。



「ちょ、ちょうど良い。蓮水さんが私が今言った適任者の人だよ」



 ぶっ倒れて汚れた衣服を但しながら、沙雪は寧花の方を見ながら朝陽に伝えた。






●●●






「成る程〜事情は把握しました。確かにそれなら私が適任ですね」



 朝陽が事情を説明すると、寧花はこれを快く快諾してくれた。



「あ、ありがとうございます!また蓮水先生から教えて貰えるなんて嬉しいです!!」



 朝陽にとっては別の意味で感慨深い結果に収まり、感動も興奮ではち切れんばかりの笑顔を浮かべていた。


 寧花もそれを嬉しそうに見つめ頷いたあと、笑顔はそのまま、しかし謎の強い圧を放ちながら、グリン、と沙雪の方へと目を向けた。


 沙雪が思わず肩を揺らすと、寧花はそのまま沙雪にも言葉をかけた。



「それにしても来客に対して随分と乱暴な扱いをするのね〜。もし本当に重傷者だったらどうするのかしら?」

「い、いやそれは〜その〜…」



 あの傲慢で怠慢な沙雪がここまで怯える姿を初めて見る朝陽は、思わず両者を交互に見てしまう。



「もっと来る人は大切にするように。良いわね?」

「………はい」



 そう素直に答える沙雪を見て、朝陽は寧花が実は怖い人物なのでは無いかと小さく身震いしたのであった。

※本日の後書きはお休みです






本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜の朝を予定しておりますので宜しくお願いします!

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