第269星:新技
「そうですか。『レジスタンス』のトップ同士がついに衝突を……」
執務室内にある自身の机の上に設置されたモニターで、大和は最高司令官である護里と通信を行っていた。
『えぇ。各地域の総司令官達には伝えておいたから、貴方にも連絡を入れておいたわ』
「ありがとうございます。しかし、あまり良くないタイミングですね」
大和の言葉に、護里はガックリと項垂れる。
『ホントよもぅ…大事な《大輝戦》の前だっていうのに、配置やらなんなら色々と変え直さないといけないわ』
大和が思う以上に苦労している様子に、大和は苦笑いを返すことしかできない。
「そうですね。ですがその様子だと、その戦闘に『軍』が介入することは無いということですかね」
『そうね。勝者次第では情勢が大きく傾くだけに、私も出来れば手は打ちたかったけれど……』
護里の言葉はそこで止まったが、それだけで大和は護里の言わんとしていることを悟った。
つまりは『軍』の上層部が許可を出さなかったのだ。
その口調を見るに、恐らくダメなのを承知の上で一度許可を求めにいった様子も見られるが、失敗に終わったのだろう。
『これに関してはしょうがないわ。代わりに《大輝戦》の舞台になる最高本部の人員増強は認められたから、それで万が一に備えるしか無いわね』
「…それはつまり、『大輝戦』の最中に『レジスタンス』が攻め込んでくる可能性があると?」
大和と護里はそれぞれ重い表情で見つめ合う。
『あくまで可能性の話よ。ただ、万が一過激派の皇 アンナが勝利することがあれば、あり得ない話ではないわ』
大和は成る程、と頷いたあと、護里に尋ねる。
「ボクは『レジスタンス』のトップについてはあまり面識がないのですが、その皇 アンナという人物は噂通りの過激な人物なのですか?」
『恐らく噂以上よ。思い至ったら即行動。そして自分の思想…即ち『グリッター』の自由のためなら手段を選ばない非道さも持ち合わせているわ。それは貴方達の今回の件で良くわかるでしょ?』
大和は味方を爆弾に扱ったカンナのことを思い出し、確かにと頷く。
『頭の切れる人物ではないけれど、万事に備える程度の理性と、攻め時、引き時を見極める判断力、それに伴った直感力に優れてるわ』
「…なるほど。一組織を率いるカリスマ性は備えているわけですね」
『一番厄介なのは、それに実力が伴うことよ。うちの一等星にも引けを取らない実力差で、《シュヴァリエ》とも渡り合える可能性を持つ猛者なのよ』
「……それは頭を抱えますね。そんな奴が襲撃してきた日には、こちらも相応の戦力を割かないといけないですし、それに伴う配備も必要だ」
大和の言葉に、護里は改めて大きなため息をこぼした。
「ホントに嫌になるわ。争い争い。それで争いに備えて争いの用意をする。もううんざり」
戦いではなく言葉で。
これまで各国を渡り歩き、そして国同士の無益な争いを避けてきた護里からすれば、まさか自国でもこのような配慮をしなくてはならないとは思いも寄らなかっただろう。
いつものような温和さはあるものの、同時に疲れているような様子も見られた。
「……確かに『レジスタンス』のトップ同士の争いは悩みの種ですが…」
励ましになるか分からないものの、大和は一つの言葉を護里に届ける。
「そう言う意味で、『大輝戦』は護里さんにとって希望の花になるのではないでしょうか。全てを自分の子どものように思う貴方にとって、競い合う場とはいえ、彼女達の成長はなによりも嬉しいはず。だからこそ、その花を守るために、貴方は今尽力している…そう考えたら、少しは楽に成りませんか?」
モニター越しに護里は驚いた表情を浮かべた後、いつも浮かべている温和な笑顔を浮かべて深く頷いた。
『君の言う通りね。《大輝戦》は私にとって子どもの成長を見届ける場所。だからこそ、その場所を守るために私は動いている…うん、凄く納得できたわ』
護里にいつもの雰囲気が戻り、大和も小さく笑みを浮かべる。
『ありがとうね、大和君。貴方は本当に人の事を慮れる良い子だわ』
その言葉には、大和はわずかに抵抗を覚えたものの、苦笑いを浮かべつつ、「ありがとうございます」と小さく返した。
●●●
「わあっ!!」
その日の夜も、咲夜による朝陽の訓練は続けられていた。
基礎的な対人訓練はもちろん続けていたが、現在のメインはそこではなかった。
朝陽が偶発的に見出し、咲夜が思い描いた究極の技の習得。これに時間を費やしていた。
しかし、訓練の時間の殆どを割いても、現状それが上手くいく兆候は見られなかった。
「ひ、光を操るのがこんなに難しく感じたのは初めてです…」
疲労からか、両手を震わせながら見つめる朝陽に、咲夜は考え込みながら答える。
「これまでの貴方の話を聞くに、貴方が今まで扱って来た光は、『メナス』のレーザーの反射を除けば、自ら力を貸してくれていたのではないでしょうか?」
咲夜の言葉に、朝陽は確かに、と言った様子で頷いた。
「確かにそんな感じでした。前に私の中の人が声をかけてくれた時も、『光を操るんじゃなく、受け入れるだけで良い』って言われたので」
「……そういう意味では、その中の人とやらに話を伺いたいところですが…」
そう朝陽に問い詰めると、朝陽は困ったような表情を浮かべる。
「私も…もう一回しっかりと話したいとは思ってるんですが、今は何の反応もないんです」
「…つまり、向こうからは話しかけられても、こちらから声をかける事は出来ないと?」
咲夜の答えに、朝陽は首を横に振った。
「そういうわけじゃないと思います。ただ今は、なんというか…眠っているような感じがするんです」
「眠っている……それはやはり、【オリジン】との戦いが原因でですか?」
「はっきりとした理由は私にも分かりません…でも、あの戦闘の後、私がエナジー欠乏症になりかけていたのと同じかそれ以上にエネルギーを消費したのは間違いないと思います」
咲夜は再び深く考え込む。
「となると、貴方の中にいる人物の正体については別にしても、話を聞くのは難しそうですね」
「はい…でも、例え話を聞けたとしても、この技は自力で身につけないといけない気がするんです」
その言葉に根拠は無かったが、何故か朝陽はそう感じていた。
咲夜もそれには賛成なのか、コクリと頷いた。
「そうですね。今までの技と違い、コレは貴方自身が見出し、私の理想を体現しようとしている技。一緒に完成させましょう」
「…!はいっ!!」
朝陽は元気よく返事を返すと、再び光の操作に意識を集中し出した。
その前で、咲夜はその様子を眺めながら朝陽の『グリット』について考察していた。
「(『光を操る能力』…一見するとその力は私と類似していますが、『メナス』のレーザーを弾いたり、太陽光を利用したりと、その規模とレベルは私よりも遥かに優れている代物であることは間違いありません)」
咲夜は小さく自身の『グリット』を発動させ、白銀の光を小さく手に纏わせる。
「(威力、瞬間的な汎用性なら私の方が優っているかもしれませんが、彼女が完全に力を扱いこなせるようになれば、私の光さえ操れるようになるはず…寧ろ、光を対象とした攻撃等に対しては、既に応用技術まで身につけているように思います)」
これまでの戦闘データをもとに、咲夜は朝陽を評価していく。
「(一方で、自分自身が生み出した光りについては、エナジーの消耗が激しいこともあってか、最低限の出力しか出していないように思えます。光の矢や槍はあくまで少ない出力で放つ、又は留めていたもの。高出力の太陽光を利用した技は、太陽の光そのものを利用して放っているので、自身のエナジーだけを利用する技とはまた違います)」
考察を続けながら、咲夜は一つの仮説を立てていた。
「(これを鑑みるに、彼女の力は、自分自身のエナジーから生み出す光の操作を得意としていないのかも知れません。自分自身の光によって攻撃する私とは、そういった意味で対極とも呼べる力の扱いやも知れませんね…)」
そこまで考えたところで、再び朝陽の両腕で光が弾け、それに合わせて朝陽も尻餅をついてしまう。
「う〜ん……なんでなんだろう……」
朝陽自身も予想外に上手くいかないことに疑問を感じているのか、首を傾げていた。
「(この技を会得すれば、彼女は実力だけでいえば一気にこの根拠地のトップに躍り出る…ですが、この現状を見るにその道のりは遠そうですね…)」
時間をかければ何か解決策が浮かぶかも知れないが、二人には時間がなかった。
「(私とは対極とも呼べる光の操作…私の感覚を伝えても、恐らく朝陽さんにはプラスに働かないでしょう…光の操作を、もっと簡略化出来れば…)」
とその時、咲夜はふとある人物のことを思い浮かべた。
「…そうか、彼女の知恵と技術を借りれば…」
※後書きです
何を書きましょう、後書きの琥珀です。
そういえば先日二回目のワクチン接種してきました。
副作用は翌日の夜くらいに二時間だけ出てその後治りました。
熱は7.2度くらいで、別にそこまで体調を崩すこともなく…私の肉体は若くないってか?
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は金曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします!




