第267星:不足感
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
翌日の夜。
約束通り、朝陽は咲夜に呼び出されて訓練庭へと向かうと、そこには既に咲夜の姿があった。
「す、すいません、遅くなりました!」
「構いません。キッチリ時間通りです」
そう言って微笑む咲夜の姿は、月明かりに照らされ、それが色白い肌と漆黒の長い髪と調和し、普段よりも美しく感じられた。
まるで御伽噺の物語で描かれるお姫様のように艶やかで、神々しい姿に、思わず朝陽は目を奪われる。
「それでお話の内容ですが…」
「あ、は、はい!!」
ハッと我に帰った朝陽は、思わず大声で返事を返してしまう。
それを訝しげそうに見るも、気にしないことにしたのか、咲夜は話を続ける。
「今回の襲撃と『カルネマッサ』の襲来で忘れているかも知れませんが、貴方と夜宵さんが出場する『大輝戦』まであと十日を切りました」
「あ……そ、そうでした…」
咲夜が見抜いていた通り、朝陽の頭からは完全に『大輝戦』のことが抜け落ちていた。
しかしそれも無理もない話で、朝陽は昨日の戦いで再度エナジー欠乏症に陥る寸前までエナジーが枯渇していたのだ。
エナジーが切れるというのは、普通の人間で言えば通常の体力から更に体力を奪われるようなもの。
その疲労度は図り知れない。
だからこそ咲夜は、冷静に、且つ訓練を行える最低限の時間をとるために、翌日の夜と時間を定めたのだ。
「私の弟子入りをしてからのここまでの期間で、貴方は予想以上に成長しています。ですが、想像していたよりは物足りない」
「…え?」
ショックを受けたわけではない。
いくら弟子入りして訓練を受けたとはいえ、一ヶ月も経っていない。
それで満足されては朝陽の成長もそこまでということになってしまうからだ。
それでも疑問の声を上げたのは、咲夜の言い回しが気になったからだ。
「えっと……それはつまり?」
「貴方は身体能力…所謂戦闘経験の蓄積による技術は大幅に磨かれました。間接的ではありますが、『グリット』の指導も施したこともあり、扱うタイミングや、発動までのラグを減らすなど、能力についても扱いこなしつつあると思います。しかし……」
咲夜は手を顎に当て考え込む。
「私のイメージの中では、まだまだもっと、貴方の力は輝くと思うのです」
「輝く……ですか?それは物理的に、ではないですよね?」
朝陽の答えに、咲夜は頷く。
「勿論違います。エナジーの総量や力の扱い方は、これからも研鑽を続けていけば更に磨きが掛かるでしょう。ですが、『光を操る』という、言ってしまえばこの世の全ての輝きを操る程のスペックを持ち合わせていることを踏まえれば、更にもう一段階上のステップに、今の貴方でも進めると思っているのですが……」
「もう一段階上の…ステップ……」
朝陽も一緒になって考えるが、咲夜の思い至らないことに、朝陽の考えが及ぶはずもなく、沈黙は僅かに続いた。
「私は『大輝戦』を直接目にするのはこれが初ですが、過去の映像等を見ると、出場する戦士達は選抜に選ばれるだけあってどなたも手練ればかりです。今の貴方が過去の戦士達と比べて格段に劣っているわけではありませんが、今一つ物足りない…」
痒いところに手が届かない、そんな感覚を覚えているのか、咲夜は珍しく悔しそうな感情を露わにしながら、指の爪を噛んでいた。
そして、半ば無意識に朝陽を卑下にしていたことに気付き、ハッとする。
「…すいません、本人を前にして言う発言ではありませんでした…」
「い、いえ!先生がそう仰るのなら、私はまだまだ物足りないってことだと思うので!!」
その言葉は嘘ではなく、朝陽は咲夜の言葉は正しいと感じており、同時に咲夜の言葉は素直に受け入れると決めていた。
だからこそ、咲夜も思い至らない点について、必死に考えていた。
そこでふと、朝陽は一つのことに思い至った。
「あの、先生の言う物足りなさ、というのは、私の能力の汎用性の高さにあるのではないでしょうか?」
「汎用性の高さ…ですか?ですが、それは寧ろ貴方の強みであると思いますが?」
咲夜は眉を顰めて否定的に捉えるが、朝陽は一先ず話を続けた。
「私も弱みであるとは思いません。近中遠、どの戦闘においても対応できる私の能力の汎用性の高さは強みだと思います」
朝陽は「ただ…」と続ける。
「こういった力の応用は、先生なら容易く出来る芸当です。僭越ながら先生が、私の『グリット』を自分の上位互換だと仰って下さるのであれば、もっと高いレベル事がこなせるのではないでしょうか?」
朝陽の意見に、咲夜は成る程、と頷く。
「つまり、貴方の能力を活かした、貴方自身の強みが感じられないことに、私は物足りなさを感じていると言うことですね」
咲夜の解釈に、今度は朝陽が頷いた。
「確かにそれはあるかも知れません。私より強大な力を持つ可能性を有しながら、今やっていることは私の能力の延長線上のようなもの…」
朝陽の言葉を聞いた後、咲夜は再び考え込む。
「確かに貴方自身の個性となるような力の使い方は必要だと思います。しかし、その為に何を教えれば良いのか、何に焦点を当てれば良いのか……」
悩む咲夜の前で、朝陽は一つピンときた事があった。
「あの、先生…個性、になるのか分かりませんけど、一つだけ思いついたものがあるんです」
「へぇ…今、私には何も案がありません。是非見せてください」
咲夜に言われ、朝陽は頷くと『天照す日輪』を発動。
まだ完全回復していない状態ではあるが、発動するくらいならば問題はなかった。
光のオーラに包まれた朝陽は、あの時、無値によって感覚を無くされた時に使用した技を行使した。
無くなった感覚を、自身の光のエナジーで補う感覚。それを左手で再現して見せたのだ。
しかし……
「あ、あれっ!?」
その時、予想外のことが起きた。
発動した技と原理は同じはず。にも関わらず、その効果は全く異なっていた。
具体的に言えば、朝陽の左手が光そのものに変質したのだ。
「わっ!?」
光は直ぐに弾けると、朝陽の手は元に戻っていた。
「あ、あれぇ…?同じようにやった筈なのに、何だか全然違う…」
困惑する朝陽を他所に、咲夜は驚愕した表情を浮かべていた。
「今のは…まさか…」
そんな咲夜の様子に気が付いた朝陽は、首を傾げながら咲夜に声をかける。
「…あの、先生?どうかしたんですか?」
しかしその声に気が付いていないのか、咲夜は三度考え込むようにして顔だけ俯かせる。
「今のは間違いなく……ですがそんなことが……いえ、もしそれが可能だとしたら…」
ブツブツと呟く咲夜からの答えを待っていると、やがて神妙な面持ちでようやく咲夜が顔を上げた。
「朝陽さん、今の技は今言った貴方の個性そのものになり得る技です」
「え!?今のがですか!?」
朝陽にとってはその凌ぎで思いついた技であったが故に、驚きは小さくなかった。
「はい、今のが、です。それどころか、もし今の技が私の予想通りなのだとしたら…」
咲夜はどこか喜ぶような、それでいてどこか恐れているような表情で朝陽に語りかけた。
「朝陽さん、貴方は現存するどの『グリッター』さえ超越する存在になれるかも知れません」
暫くポカンとした表情を浮かべた後、やがて朝陽はゆっくりとその表情を驚かせていく。
「え、えぇ!?わ、私がですか!?」
慌てふためく朝陽を宥めるように、咲夜は朝陽の肩に手を置く。
しかし、その表情はどこか興奮しているようにも見えた。
「嘘ではありません。もし私の想像通り能力を極めれば、『シュヴァリエ』は勿論、私でさえ優に超える力を手に入れられます!!」
やはり興奮しているのか、その声は普段の咲夜らしからないトーンの高いものであった。
「ほ、本当に私が……」
最強と呼ばれる咲夜にそこまで言われ、流石の朝陽もそれを実感しつつあった。
「ですが、今の様子を見るに、制御は至難の業のようです。更に『大輝戦』まではあと九日。私でさえどう教えたら良いかハッキリ分かりません。訓練は今まで以上に過酷になるでしょう。それについてこれますか?」
「はいっ!!」
朝陽の返事は間髪入れずのものであり、そして覚悟に満ちたものであった?
咲夜もこれに頷き返した。
この日から、咲夜と朝陽の血の滲むような訓練が再開された。
※後書きです
ども、琥珀です
私は超インドアなのですが、先日友人とボーリングにいったあと、まさかの筋肉痛です。
昔は何ゲームやっても疲れてる程度だったのに、まさか8ゲームでボロボロになるとは…
これからはもう少し運動しようと思った、きっとしたないであろう琥珀でした。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は月曜日の朝に更新予定しておりますので宜しくお願いします!
※コロナワクチン接種の翌日のため、体調によってはお休みさせていただく可能性があります、ご了承下さい。




