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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第265星:捕縛

 咲夜達がカンナ達を独房へと連れていると、そこへ大和が現れた。


 それも一人では無く、気絶させた男を一人背負った状況で。



「大和?何故ここへ…いえ、それよりもその男は…?」

「ん?あぁ、どうやら司令室に忍び込んでいたみたいでね。ボクを人質にして根拠地を乗っ取ろうとしていたみたいだから、ひっ捕らえてきたんだよ」



 にこやかに笑う大和に、咲夜や朝陽達は呆然とするしか無かった。


 しかし咲夜のそれは朝陽達とは違うようで、やや青ざめた表情で大和に詰め寄ると、小声で何かを囁いた。



「大和、まさか()()()使()()…?」



 咲夜が何の心配をしているのか直ぐに悟った大和は、苦笑いを浮かべながら首を横に振った。



「いやいや、そんなことをする程度じゃ無かったよ。()()()()()()()()()



 その言葉を聞いて安堵したのか、咲夜はホッと胸を撫で下ろした。


 そしてカンナ、渚をそれぞれ独房へ。


 無値は治療を続ける透子の側にいたいという要望に応じる形で、やや広い牢屋の中へと入れられた。



「やれやれ…必要のない設備だと思ってたこの独房を使うことになるとはね。あまり気分は良くないよ」



 独房からの帰り際、大和は心底辛そうな声色でつぶやく。



「胸を痛める必要はありませんよ大和。彼女達は根拠地を襲撃し、『レジスタンス』が起こそうとする行動の一環にしようとした。必要で当然の措置です」

「そ、そうです司令官!わ、私も正直()()()は好きじゃないですけど、こ、今回はキッチリとその意義を通しての使用だと思います!」



 大和を励ますように、二人は精一杯の声を掛けた。


 朝陽の場合は、少し恐怖心が混じっているようであったが、それは恐らく前任の塚間 義一による不当な処分による扱いがあったからだろう。


 不必要に踏み込むのは却って記憶を甦らせかねないと思い、大和はそこには触れず、励ましてくれた二人に「ありがとう」と返した。


 二人は小さく微笑んで頷いた後、朝陽が少し沈んだ表情で大和に尋ねた。



「あの、司令官…あの四人はどうなるんでしょうか?」



 大和は朝陽の表情を僅かに確認した後、自分の顔を見せないように前を向きながら話し始めた。



「そうだね…今回は少し稀なケースで、四人が全員、同じ処罰を下されることにはならないだろうね」



 独房の部屋から出た後、大和は至る所が崩壊した根拠地を見渡しながら話を続ける。



「今回の件で一番重い処罰が下されるのは、恐らくカンナ君だね。過去の経緯は分かったが、彼女はそれを以ってして『レジスタンス』に加入し、そして今回の作戦を牽引した。その罪は重い」



 朝陽は僅かに暗い表情を浮かべたが、この戦闘中での出来事を考えるとやむを得ないと思ったのか、何も言わなかった。



「逆に歪君…いや、渚君に関しては最も罪が軽くなる可能性が高い。過去の経緯を踏まえれば、罪を問われるべきは彼女では無く、ボク達『軍』の方だ。ボク達の預かり知る頃の話ではないとはいえ、その行いは許されざる行為だ。しっかりと取り調べられた上で判断されるだろうね」



 渚については予想よりも良い反応が返ってきたのか、朝陽の表情は僅かに明るくなった。



「難しいのは透子君と無値君の二人だな。彼女達はカンナ君と同じく『レジスタンス』の一員として今回の作戦に加担し、根拠地を襲撃した。この経過だけを見ればカンナ君と同じ罪状になるんだが…」



 大和の言葉に、説得と信頼を続けてきた朝陽は思うところがあるのか、何かを口にしようとした。


 しかし、その前に大和が自身の話を続けた。



「無値君、透子君の二人は過去の改竄が確認されている」



 その発言に、朝陽のみならず、咲夜も驚いた表情を浮かべていた。



「過去の改竄…って、一体…?」

「二人は孤児であり、それを『レジスタンス』に拾われたことで一員になった経緯がある…けれど実際は違う」



 咲夜と朝陽は顔を見合わせ、改めて大和の言葉の続きを待った。



「二人は孤児なんかじゃない。いや、正確には孤児になる筈じゃ無かったんだ」

「…?それは一体どういう……いえ、まさか…」



 隣で眉を顰める朝陽に対し、咲夜はいち早く大和の言葉の続きを理解し、不快そうな表情を浮かべた。



「彼女達のご両親は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 予め予想のついていた咲夜は目を閉じ、衝撃的な事実を知らされた朝陽は目を大きく見開き、瞳を揺らしながら動揺を見せていた。



「ご両親を…殺されていた?二人の、ですか?一体…どうして……」



 大和は帽子を深く被りなおし、一つため息を溢しながら説明を始めた。



「『グリッター』覚醒の有無については、最初の『グリッター』…まぁ、つまりは咲夜が生まれてから研究が続けられてきたこともあって、八割方生まれた瞬間に判断出来るようになっているのは知っているね?」



 大和の説明に、朝陽は小さく頷いた。



「あの二人も、同じように生まれた瞬間に『グリッター』に覚醒する素質を持っていることが判明していたんだ。それも高い確率でね」



 黙って大和の話を聞いていた朝陽であったが、やがてようやく朝陽も言わんとすることを悟った。



「もしかして…『レジスタンス』がお二人のご両親を殺めたのは…」



 大和はもう一度大きくため息を溢し、そして普段よりも暗い声色で答えた。



「彼女達二人を、『レジスタンス』に入れるためだろうね。少しでも戦力を増強するために」



 朝陽は悲しみの感情を覚えると同時に、怒りの感情に駆られていた。



「酷すぎます…渚さんの件といい二人の件といい、非道過ぎます。これの一体どこか『グリッター』の自由だって言うんですか!?これの一体何が『グリッター』のためになるって言うんですか!?」



 兎にも角にも怒りをぶつける朝陽を、大和がそっと嗜める。



「朝陽君の言うことに間違いは無いよ。ただひとつだけ言っておくと、『レジスタンス』という組織はこういった考えの持ち主だけでは無いんだよ」

「え?」



 これまでの光景と行動を見てきた朝陽は、大和の言葉に眉を顰める。



「どこの組織にもあることだろうけど、『レジスタンス』には二つの派閥がある。ボク達『軍』の中では、穏健派と過激派と呼ばれる二つの派閥だ」

「穏健派と…過激派…」



 繰り返す朝陽に、大和は頷く。



「穏健派はその名の通り、事を出来るだけ穏便に解決しようと考える派閥で、『グリッター』の自由と解放を掲げつつも、時に必要に応じて『軍』と協力さえすることがある。『軍』内外部での差別に耐えきれず去った者を受け入れることもあるみたいだね」



 朝陽は素直に感心していると、直ぐにハッとした様子を浮かべる。



「じゃ、じゃあ、今回の襲撃は…」

「まぁまず間違いなく過激派による仕業だろうね。穏健派は少しずつ人々からの理解を得ていこうとしているのに対し、過激派はそもそも命を懸けている『グリッター』が蔑まれている今この現状に対し憤りを感じ、すぐさま行動に移す傾向にある」



 それは朝陽もすぐに想像ができた。


 カンナ、無値、透子、そして渚の中に存在する歪の人格はいずれも代償なりと憎しみに駆られて行動していたからだ。



「まぁ簡単に言うと、人類は『メナス』と拮抗した戦いが出来ているから、戦うのが当然なのだと『グリッター』を蔑む。なら、『グリッター』が必要な状況、即ち『軍』を壊滅させ、人々が再び『メナス』の脅威に晒されれば復権出来る。そんな考えの集団だよ」

「そ、そんなのおかしいです!!私達はその人々を守るために戦っているのに、その人達を危険に晒すだなんて!!」



 朝陽は改めて過激派の考えに反対し、怒りの言葉を放つが、大和はどこか冷静で冷淡だった。



「…まぁ現に『軍』の上層部が差別を黙認しているのは事実。それを一度壊すという思想自体は一つの考え方としては面白いけどね」

「大和」



 険しい顔付きをしていた大和を、咲夜の一言が現実に引き戻した。



「…やぁ、ごめん。ボクもここまでの襲撃で少し疲れているみたいだね」



 深く帽子を被り、その表情を隠しながら、大和は歩みを進めていった。


 その後ろ姿を心配そうに見つめながらも、咲夜は朝陽の方へ振り返り、声をかけた。



「今回の件のここからの事務などの始末は、私達で片付けます。貴方は三咲さん達を出迎えたあと、夜宵さん達に付き添いなさい」

「…分かりました」



 この戦いによる精神的ショックは大きかったのか、朝陽の声に元気は無かった。


 咲夜は僅かに悩んだ末に、ソッと朝陽の肩に手を置いた。



「彼女達がこの後どうなるかは、私でさえ預かり知りません。それでも、貴方の言葉が渚さんを取り戻し、透子さんと無値さんに希望を持たせた。なら貴方には、それを実行するという新しい使命が出来たのです。そんな貴方が下を向いていてはいけません。想いを口にしたのなら、上を向いて、使命を果たしなさい。良いですね」

「…はい!!」



 透子、無値、そして渚の三人を朝陽が救ったと言う事実は変わらない。


 その事を改めて伝え、咲夜は朝陽に自信をつけさせた。


 少し元気を取り戻した朝陽は、咲夜に言われた通りに三咲達の出迎えに向かおうとするが、再度咲夜に呼び止められる。



「あぁ朝陽さん。明日の夜八時ごろ、訓練庭まで来てください。重要な話がありますので」

「…?はい、わかりました!」



 重要な話であれば今ここで、と思ったが、後回しにするのには何か訳があると思った朝陽は、素直にそれを了承し、今度こその場を後にした。


 大和は先に行き、その場にただ一人残った咲夜は、廊下の窓から根拠地、否、それより更に遠くの景色を見ながら小さく呟いた。



「『大輝戦』まで()()()()…間に合うでしょうか…」

※後書きは本日お休みとなります


本日もお読みいただきありがとうございます!

次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします!

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